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カンヌはどう進化した? 変わりゆくクリエイティブの意義(全3記事)

故ケネディ元大統領の幻のスピーチを再現 カンヌグランプリが投げかけた「問題提起」

2018年7月13日、株式会社ホールハートにて、「カンヌはどう進化した? 変わりゆくクリエイティブの意義」が開催されました。世界最大級のクリエイティブの賞である、カンヌライオンズ。今年は大手広告代理店が不参加を発表したり、120以上の部門が廃止される一方で、SDGsが新設部門として加わるなど、大きな変化がありました。事業会社、コンサルティング、クリエイティブの専門家らがそれぞれの視点から、クリエイティブに求められているものの本質について語ります。本パートでは、審査員たちがカンヌの入賞作品を紹介しながら、審査基準や社会へのメッセージを読み解きます。

データを活用して強力なクリエイティブを作り出す

西村真理子氏(以下、西村):では、続きましてアクセンチュアの望月さんにお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

望月良太氏(以下、望月):アクセンチュア インタラクティブの望月と申します。よろしくお願いします。

(会場拍手)

簡単に自己紹介させていただきますと、「コンサル10年・広告10年」という言い方をしていまして。実は新卒でアクセンチュアに入って10年間、コンサルティングやシステムの開発をしてまいりました。

2006年に電通へ転職して、インタラクティブ、インテグレーション、それからプロモーション局を経て、昨年の10月に出戻ってまいりました。

アクセンチュアは出戻りがけっこう許される会社で、今はアクセンチュア インタラクティブというところにおりますので、ここの説明を少しだけさせてもらいたいと思います。

アクセンチュアの名前を知っている方はいらっしゃるかと思います。一応世界最大級のコンサルティング会社で、現在全世界45万9千人の従業員がおります。日本の社員も今年1万人を超えました。

僕が入ったときは(従業員が)1,000人弱くらいだったのですが、どうやって人を増やしたんだろうなというくらいの勢いです。「アクセンチュアデジタル」という名前を聞いたことがあるかもしれないですけれども、いわゆる電通デジタルさん、博報堂デジタルさんは違う法人格、会社なんですが、アクセンチュアデジタルはアクセンチュアという会社内の一組織です。デジタル局のようなイメージです。

さらにそのデジタルの中に、「アクセンチュア インタラクティブ」というブランドがあるという、わかりにくい構造です。もしアクセンチュア インタラクティブにお声がけいただくときは、会社ではありませんので、アクセンチュアに(連絡を)お願いいたします。

手前味噌で恐縮ですが、アクセンチュア インタラクティブ自体も、全世界で共通した組織・ブランドでして、Ad Ageさんで、3年連続で世界最大のデジタルエージェンシーであると評価されました。

今回、私はCreative Dataというところの審査をさせていただきました。Creative Dataはいわゆるデータやテクノロジーを活用して、いかに強力なクリエイティブやアイデアを作り出すことができるかを審査する部門です。

AI を使って偉人の自画像を作成

望月:(スライドを指して)次のページにいっていただきまして、みなさん、これはご存知ですか? 2016年のグランプリ受賞作で「The Next Rembrand」ですね。こういったものが、この1、2年グランプリを獲っています。

西村:これ(について)一応補足するとAIが描いたもの、ですよね。

望月:そうですね。レンブラントの作品をAIでディープラーニングして、それを基にして彼のタッチや描き方を習得させて、3Dプリンターを使って、自画像を没後370年くらい経って作ったというやつですね。

現在カンヌのトレンドとして、偉人を復活させるというアイデアがありますが、まさにその先駆になったものではないかなと思います。今回は審査員が10人でした。今年のカンヌの特徴として、審査員がダイバーシティをけっこう配慮していて、まず(審査員の)男女比率を同じにしていました。

それから、これまで審査員が出ていなかった国からも、審査員が出ていました。Creative Dataも男女5人5人でした。見ていただくとわかるとおり、おそらく他の部門と比べると、いわゆる広告代理店やエージェンシー出身者がわりと少ないのではないかと思っています。New York TimesやMasterCardの方も審査員メンバーにいらっしゃいました。

西村:望月さん、もしご存知だったら教えてほしいんですけれど、昨年もこういう、検索もあればメディアもあればコンサルもあれば、というようなバリエーションだったんですか?

望月:昨年はわからないですけれど……。

西村:了解です。

望月:2年前の……3年前かな? 当時の審査員のお話を聞いたときは、わりとそういう(バリエーションの)傾向があるのではないかとは言っていました。

西村:わかりました。ありがとうございます。

Dataという単なる成分を使って、ビジネスゴールを達成

望月:(スライドを指して)これは審査員室ですね。カンヌに行く前は、みんな地下室に閉じ込められて、3~4日間は太陽が見られないと聞いていたんですが、実際はオーシャンビューで、けっこうよかったです。ただ、すごく部屋がせまくて。そんなところで(審査を)やっていました。

次はCreative Dataとは結局なんだということですよね。「Dataの定義とはそもそもなに?」という話や、「Dataを使ったCreativeの活用とはいったいなに?」というのが、人によってもすごく違うし、結局なんでもDataになり得るし、「Dataを使わないキャンペーンやアイデアなんてあるの?」という話もあると思うんですね。

そのクライテリアはどんなものなのかというところについて、Havasのグローバルディレクターのマークという審査員が最初に説明しました。Dataそれ自体は単なる成分、ingredient(成分)だと。

(データは)成分に過ぎなくて、それを使ってどうやってアイデアを作り、ビジネスゴールを達成できたかが重要なんだと。一方で、キャンペーンにおいて、そのDataが存在しなかったら、作品がまったく成立しないと言えるというのが、この部門におけるクライテリアでした。

ですので、「このキャンペーン、すごくいいよね」「このアイデア、すごくいいよね」と言っていても、Data活用ができていないから、メダルが獲れなかったりして。そういうので評価されないというのは、一見すると手段と目的が逆になってしまうような、難しい側面を持った部門なのかなとも思いました。

そのため、みんな口癖が「It's cool! But……」というような。「I love this one,but……」というような、そういう「But」がつくようなところがけっこうありました。

日本の作品はこじんまりしている?

望月:このあと、審査の過程を少しプラスでお話しようと思ったんですが、たまたまAdverTimesで寄稿したCreative Dataライオンの審査に関する記事が出ましたので、詳しくはそちらをご覧いただいて、私のここでの説明は軽くにさせていただこうと思います。

先ほど小助川さんは2,400本も審査をしたと仰っていましたが、Creative Dataでは5分の1でした。総エントリーが516本で、ユニークで数えると300強でしたね。

ですので、1エントリーあたり1.7ぐらい出しているという状況ですね。プレ審査は日本で行いました。投票方法は審査員は全員一緒で、パソコンで投票する形でした。

6月18日PMと書いています。ここからはカンヌの初日です。このタイミングで516本のうち半分ぐらいが落ちていました。なので、プレ審査の段階で半分は落ちてしまって、そのあとは、もう復活の手段は一切ありません。話にも上らないというところです。

ロングリストを見て、この240本に関してはCaseFilmを観ながら、ひたすらvoting(投票)なんですね。これを1日ぐらいずっとやっていて、審査員もだんだんフラストレーションが溜まってくる。しゃべりたいんだけれど、しゃべっていると時間が経ってしまって進まないので、ひたすらvoteをして、ショートリストについては240votingして、そこでの採点でだいたい60本ぐらいに絞られました。

ここからやっとディスカッションがスタートになって、みんなもうしゃべれなかったうっぷんを爆発させるような感じでした。最後にブロンズ以上のメダリストが26本決まったというところです。

今回、日本のエントリーは少なく、のべ13本でした。そのうち、ショートリストに残ったのが1本。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、それがブロンズを獲ったMAKE IT METALという作品でした。

西村:(エントリーが)一番多かった国はどこらへんですか?

望月:アメリカですね。アメリカ、オーストラリア、ブラジルがやっぱり圧倒的に多くて。とくにブラジルやオーストラリアは、わりと国の文化的な許容背景が大きいというか。キャンペーンでもけっこう無茶なことができるのが特長ですよね。社会的な責任といったものもあるかもしれませんけれども、日本はどうしてもこじんまりという傾向にあると思います。

ジョン・F・ケネディ元大統領のスピーチを蘇らせた「JFK Unsilenced」

望月:グランプリの作品を見ていただきたいので、「JFK Unsilenced」をお願いします。

これはジョン・F・ケネディ元大統領が1963年に暗殺されたときに、当日行うはずだったスピーチを、過去に行ったスピーチやインタビューから音声ユニットデータを抽出し、そのデータをもとにして彼自身の声で再現したというものですね。この作品がどうしてグランプリになったのかを噛み砕いていきたいと思います。

そもそもグランプリに関しては、どの部門も一緒だと思いますが、ただすごいキャンペーンやすごいビジネスリザルトというよりは、その作品が業界、インダストリーに対する新しい提言になっているか。新しいメッセージを出しているかということが、非常に重要視されるんですね。

そのため、キャンペーンやビジネスリザルトという点では、このあとに出てくるゴールド作品の方が勝っているかもしれません。新しいメッセージを何か投げかけているのかという視点でこちらが選ばれています。

音声技術の進化と高い実用性を評価

望月:評価された点は大きく3つあり、1つ目が音声再生技術の進化。これは、かなり粗い録音データを片っ端から集めてきて、バックノイズのクレンジングなどを経て、自然でスムーズな音声再生技術を確立したという技術の進歩が1つ。

2つ目が、社会で貢献できる実用性というところで、このテクノロジーは、ALS患者への適応が進んでいます。昔のアイスバケツチャレンジなどで覚えているかもしれませんが、ALSとは、だんだん筋肉が弛緩して動けなくなったり、話せなくなってしまう病気ですが、ALS患者をサポートするのにこのテクノロジーが活用されています。

最初に見ていただいた歴史上の人物をデジタルテクノロジーの力で復活させるという点では、「The Next Rembrandt」に近いものがありますが、JFKについてはその技術がすでに社会に貢献できているというレベルが評価されています。

亡くした肉親や独裁者の声を聞いたときにどう感じるか

望月:もう一方の話で、エシカルクエスチョンズという、倫理的問題を非常にディスカッションしました。失われた声の再現は技術の発展によって可能になりました。ケネディ大統領は完全に歴史的な偉人になっているので、このテクノロジーを活用した取り組みにあまり違和感はなかったと思います。

これが果たして、例えば他界した自分の肉親の場合だったらどうなのかと。うれしい人と、気味が悪いという人もいると思うんですよね。ちなみに、うれしい人はどのくらいいますか? 例えば、自分のご両親かわかりませんが、亡くなられた肉親に、この技術によってその声で自分に話しかけてもらったとき、うれしいと思う方は?

(会場挙手)

望月:ちらほら(いますね)。では、気味が悪いと思われる方?

(会場挙手)

西村:半々のようですね。

望月:半々ぐらいですね。僕も少し気味が悪いかもしれないと思ったタイプです。それから、歴史的に望ましくない人もいると思うんですね。人というか、例えば独裁者などに関しても、このテクノロジーを活用できてしまいます。

技術でなんでもできるけれど、それをどこで線引きするのかというところを、この作品が投げかけているのではないかという点も評価されて、最後はグランプリに決定いたしました。

西村:おもしろい。ある意味、問題提起をするために、これをグランプリにしたということなんですか?

望月:それはありますね。問題提起というか、新しいカンバセーションを業界内に起こせるかというところは1つあったと思います。

ALS患者が失った肉声を取り戻した「Project Revoice」

望月:ちなみに「JFK Unsilenced」というのは、TIMEというイギリスの雑誌のキャンペーンだったんですが、審査員の中にはNew York Timesがいるんですね。

西村:ははは(笑)。

望月:編集者というか、広告の担当者がいて、「別にこれはジャーナリズムではないんだけど」というような話でかなりディスカッションしたことが、今回は審査員のレイヤーの広さを実感できおもしろかったです。

それで、これはちなみにゴールドですね。すべてを細かくはご説明しませんが、この「Project Revoice」という作品については、実は先ほど話をした、アイスバケツチャレンジの共同提案者のパットさんという人が、3年前は自分の声でしゃべれていたのに、実は今、症状が進行してしまい、自分の声でしゃべれなくなった。

ただ、目の動きなどで……いわゆるSpeech to Text (音声認識)で声を出すことができるんですが、今はそれがどうしてもロボットボイスになってしまいます。それを、これと同じテクノロジーを使うことによって、彼の昔のインタビューなどから声を拾ってきて、彼がSpeech to Textで話すと、自分の声でコミュニケーションできるというものです。これはグランプリ・フォーグッドを取った作品ですね。

遺伝子調査で嗜好の謎を解く「GENE PROJECT CASE STUDY」

望月:もうひとつは、この「GENE PROJECT CASE STUDY」。これも確か別の部門でメダルを獲ったと思います。「マーマイト」(Marmite ビール酵母)は知っていますか? 「ベジマイト」(Vegemite ビール酵母)など、いわゆるオーストリアやイギリスでよく食べられている、ちょっとクセのある……。

西村:ジャムのような?

望月:そう、ジャムのようなもの。あれは好き嫌いがすごく分かれるんですが、それが好きか嫌いかは、実はDNAに依存しているのではないかとこのメーカーが考え始めて、一応科学的な調査をして、そうなのだと。

ですから、GENE PROJECT CASE STUDYとは、「あなたのDNAがマーマイトが好きか嫌いかを判別しましょう」というテストキットを作って、それを配布して一大議論をしたというか、みんなが「なんで俺はマーマイトが好きなんだろう?」、もしくは「嫌いなんだろう?」というモヤモヤした感情を利用した大キャンペーンで成功したんですね。

ただ、実は審査の際に、JFKとこの作品と、もう1つのGoogleの作品とでもめました。これは確かにビジネスケースとしてもおもしろいし、キャンペーンとしても大掛かりでおもしろいのですが、グランプリのメッセージ性があるかどうかというところで、「うーん」という話になりました。

西村:はい、ありがとうございます、望月さん。

(会場拍手)

でも、今のお話を聞いていると、たまたま私がもともといた会社がクリエイティブの会社であるというのもあるかもしれませんが、クリエイターのアイデアというよりも、ちゃんとファクトとしてのデータが必要になっていたり。

それから、先ほどの小助川さんのトゥルーストーリーのように、事実に基づくようなところで、もちろんそれがあった上でのクリエイティブジャンプのようになってきているのかと思いました。

ソーシャルメディアの仕掛け人、尾上永晃氏が見たカンヌ

西村:では尾上さん、お願いできますでしょうか?

尾上永晃氏(以下、尾上):よろしくお願いします。

西村:お願いします。

尾上:ソーシャル&インフルエンサー部門とは何なのかというところで、最初は自己紹介から。こんな感じでやっています。

(会場笑)

尾上:なんの肩書きもなく平社員なんですけれど、写真だけは偉そうな感じで。

西村:ステキです。

尾上:ありがとうございます(笑)。過去に関わったもので言うと、「10分どん兵衛」というものや、「GREEN NAME」といって、グリーンラベルのショップで、入力した自分の名前の中にあるグリーンな部分をアニメーションに生成してくれるというような広告などですね。それから、エスティマという車のキャンペーンであったり。

あとは集英社の『ONE PIECE』で、京都全体を使った体験のようなものをやりました。料亭を作り変えて、実際に料理を作ったり、いろんなことを10ヶ所ぐらいでやって、20万人ぐらいの人が来てくれました。

また、池上線というローカル線があって、去年はそこを1日だけ無料にすることで人をめちゃくちゃ来させるという、わりとざっくりしたものをやったところ、すごい量の人が来て、五反田駅では入場規制がかかってしまったり。意外と無料にするだけでこんなにみんなが来るんだなと(思ったりしました)。これは最近やったCMです。

西村:やばいっすねぇ(笑)。

尾上:そういった感じのものですね。

誕生したばかりの新ジャンル「ソーシャル&インフルエンサー部門」とは

尾上:いろいろやっている人間ですが、わりとこうした部門でした。この部門はソーシャルメディアとインフルエンサーを使ったキャンペーンの賞なのかと思っていたら、実際にはどういうものだったのかということが、審査を追っていくごとにどんどんわかっていったんですね。

新しいジャンルだったので、最初はよくわからなかったんですが、この中で、超象徴的だった1シーンを今日はお話しすることで、だいたいこんなジャンルだったと言えればいいかなと思っています。

西村:ありがとうございます。

望月:一応(スライドの)審査員は上がアメリカ系、下がアメリカ以外系という感じで。

西村:ははは(笑)。

尾上:左の人がフランスで、この2人目の人はブラジルの国民的インフルエンサーという。

西村:へぇ〜。

尾上:ブロガーみたいな人がいたり。真ん中の人は、オーストラリアの起業家かなにかで、「カンヌはもう産業的には終わっている」ということをけっこう言うような。

西村:ははは(笑)。

尾上:そういった、イケてる感じの人だったりします。一応リストを。先ほどみなさんがおっしゃっていましたように、2,000(本)から始まって、1,500、200と減って、審査はだいたい6日間ですが、最後の2日間は夜中1時までやる、という感じでした。

この作品はLIKEかLOVEかJEALOUSか?

尾上:それで、褒め方なんですよ。褒め方として、審査員向けに「こういうのを褒めろ」と言われたのが、グランプリは文化を変えるもの。ゴールドは産業を変えるもの。シルバーはその間ぐらい。ブロンズは業界に対して「こういうのがいいよね」とベットしていきたい方向というような感じになっていた。

それで「理由を褒めるな」というのは何かと言うと、先ほどの『HOPE』のように、いろんな問題があるんですが、問題にほだされると、意外とくだらないものが落っこちてしまっているというか。問題は問題であって、それはもう発生しているんだから、そこに対して何をやったかということを褒めようと。

それから、審査の基準で、1点から9点までつけていくんですが、9点は「JEALOUS」で、真ん中が「LOVE」、下は「LIKE」といった感じでやろうというような。

西村:すみません、他の審査員はこの指標とはまた違いますよね? 一緒?

尾上:たぶんこれは、別だと思います。

西村:おもしろい。

小助川雅人氏(以下、小助川):1から9というのはわりと一緒なんです。

尾上:わかりやすいなぁと。

小助川:例えば、1から3は問題外で、4から6は検討しましょう。そして、7から9が絶対に残すと言われていて、わりとそういう見方をされている。

西村:その指標がすごくかわいいというか、エモーショナルな感じの指標だなと。

尾上:そうですね、けっこう審査員長が審査員慣れしている人で、どうやら伝説のような人らしくて。ですから、こうしたものが上手かったんだろうと思います。

また、「今、人がいる場所に投票するな」というのは、今みんながワーッとなっているところより、「未来的にこっちに行くといいよね」というところを投票しようとしたり。

「Social is People」な視点からのメッセージがあるかどうか

尾上:それから、「ソーシャル部門」と言っても、ソーシャルメディアにいるやつだけを相手にすると小さいよね、というようなことを言っていました。そして、最初に言っていたのが「Social is People」ということでした。

これはどういうことかと言いますと、みなさん全員がソーシャルメディアを使っているということは、すなわちみなさんはもうソーシャル人間になっていて、ソーシャルメディアの先にいるのは人間ですから、人間を相手にして、人間がどう動いたか、人間の感情がどうなったかを見ていこうというのが最初の指針でした。

そして、ソーシャルメディアは「ただのメディア」ではなくて、もはやカルチャーになっていると。いろんなカルチャーがいろんな場所にありますと。だから、ただ「それを活用した」「インフルエンサーを活用した」ということではなく、ちゃんとそこにいる人たちのことをわかっていて、そこで適切なメッセージやコンテンツを届けているかということを大事にしようという話がありました。

ロンドンっ子の愚痴と誇りを積み上げた「Nothing Beats a Londoner」

尾上:これが象徴的だった議論です。(スライドを指して)これはグランプリとなったNIKEの「Nothing Beats a Londoner」というものです。2分ぐらいのケースフィルムを見ていただければと思います。

かなり、いろんな人向けのブランドを作ったんですね。その先がキャンペーンです。これはロンドン中のインフルエンサーからそうでもない人まで、いろんな人たちを集めて、「俺ら、ロンドンでスポーツするなんてめちゃくちゃ最悪だけど、がんばっているんだ」というフィルムをいっぱい作ったという感じになっています。

最初に有名なSkeptaという人のアカウントでやり、次の人にパス、次の人にパスというように、どんどんみんなのアカウントに徐々にアップしていったというものです。YouTubeなどで話題になったところで、いろんなステッカー施策や、アドや、Tシャツが作れますよというように、いろんなことをやっていました。

これはアドですね。スワイプアップすると、ここでこうやって出てくるぞというものを配信していったという感じです。これは映像自体がすごくおもしろいので、みなさんもまずは見てもらうといいですね。これがグランプリです。

隠された裏技が拡散していく「More Than A Game」

尾上:これが次の、FIFAの「More Than A Game」というものです。

必殺技というか、裏技を隠しておいて、みんなが見抜き始める。

そうすると、こういう「やってみた動画」のようなものがアップされて、同じテーマの曲を作ったり、スニーカーを作ったり。それで、プロにも「やってみろ」とけしかけたんですね。プロにその技ができたら、ゲームの中のそのプレイヤーもその技ができるようになるようにしていった。

そうすると、ネイマールやいろんなファンが「お前もやれ」とけしかけていって、徐々にアンロックされていくというキャンペーンです。これがすごく話題になりました。

スーパーボウルにぶつけて話題となった『クロコダイル・ダンディー』続編

尾上:はい、これで次に行っていただいてもよろしいでしょうか。

これは3つ目で、スーパーボウルのときにやったアメリカのキャンペーンです。『クロコダイル・ダンディー』というオーストラリアですごく人気の映画があって、その続編が始まるよというティザー広告を打ったというものですね。

『クロコダイル・ダンディー』の息子が主人公の新しい映画をやるというのを、スーパーボウルの前に公開したんです。徐々にいろんな有名人たちも出るという紹介を始めて、みんなが盛り上がり始め、直前になると、さらにすごい人たちが出てくると。

それで、スーパーボウル当日にこのCMが流れたんですが、実はこれはダンディーの広告ではなくて、オーストラリア観光局の広告でしたという、ツーリズムのアドだったんですね。

出てくる人全員がオーストラリアの人だったということも、ものすごく話題になって、アメリカ中の全部の人が知っているという感じになったキャンペーンです。

(映像終了)

上から降りるダンディーVS下から登るNIKEとFIFA

尾上:このように3つありました。NIKEとFIFAがグランプリにいくかどうかというときに、ダンディーはそうではないというのがありました。ゴールドの中から決めるんですが、その中でもこれらは圧倒的に票をとったものです。

どうしてかと言うと、これは僕らが審査してようやくわかってきたことなんですが、ダンディーがやったことは、ティザーで「有名な作品の続編が出ます」という着火ですね。

その後、オンラインで補完していって、スーパーボウルというみんながすごく見ているところで「ジャジャーン! 実はこうでした」というネタバラシをやるという、けっこう、上からと言うとあれなんですが、有名なもので引っ張っていくという構造でやっていた。

それ以外の残り2つは次で。FIFAがやったのは、逆に下から始まるんです。最初に裏技を投下しましたね。それで、ユーザーが発見しました。そこから、ユーザーの中で広まったあとに、靴や別のジャンルのものでEl Tornado(裏技の名前)を話題にするコミュニティの拡大をして。

それがさらにサッカーの選手などでできるようになって、サッカーの選手が実際にやったらゲームの中でも使えるようになるというように、リアルと結合していって、最終的にカルチャー化して、いろんなところがパクるようになっていくというように、下からどんどん積み上げていくという作り方です。

NIKEもまさに同じで、これがどのように始まったかと言うと、クリエイティブディレクターたちが街中に出て、NIKEはどうやらビッグブランドで、ロンドンの地元っ子たちには関係ないと思われていると。かつ、ロンドンっ子たちは、スポーツがけっこう好きで、ロンドンでスポーツするのは最低だけれど、みんながんばっている自分たちを誇らしく思っているということがわかった。

それを、スポーツに挑んでいるインフルエンサーからそうではない人まで募って、彼らを応援するムービーをそれぞれ作ったんですね。それがインサイトの発見のところまでです。

インフルエンサーは、ヒカキンのファンとはじめしゃちょーのファンがちょっと違うように、それぞれコミュニティが違うんですよ。それを徐々にリレー方式でオープンにしていくことで、コミュニティを連鎖させていって。

そのあと、「スワイプアップすると出るよ」というような広告でプッシュして、「なんかいろいろ起きているぞ」ということをわからせる。そこでようやく動画がオープンになって、ワーッと話題になっていくと。

それでついに「カルチャーとの融合」するという(作り方でした)。ロンドンっ子はこの広告がみんな好きみたいでした。ですから、構造はすごく似ているんですね。

グランプリが絞られた決め手

尾上:ここで、ダンディーはいかにうまくスーパーボウルを盛り上げるかというところにばかり終始していたのに対して、先ほど言ったように、NIKEとFIFAは、ゲームカルチャーなのか、ロンドンカルチャーなのかをかなりちゃんと見ていて、その目線で一緒に登っていったという感じですね。企業が「並走する」と言っていました。

その中で、NIKEとFIFAで言うと、NIKEのほうがインサイトもコピー・表現も強い。かつ、インサイト的に世界共通というところもあると思うんですよね。なんとなく、自分の国を嫌いでありながら好きになるといったところがあったりして、そこがよかった。

それから、映像の表現が珍しく、このやり方だからできたのではないかというところで、圧倒的なグランプリという感じでした。

トップダウン型かビルドアップ型か

尾上:それで、これはどういうことなんだろうと話していったときに、これまではやっぱり、基本的にトップダウン型で、メジャーな何かが出てきて、メジャーな場所でボーンと推すようなものが多かったのに対して、これは小さいところからバーッと始まって、大きなものを作り上げて行くというような、ビルドアップ型なんです。

どこで何をやるかというのは、いわゆるマス広告のようなものです。「テレビで誰々が出て何かをやります」ではなくて、「このカルチャーのこの人たちとこういう文化を作り上げるんだ」という、この場所に入っていくやり方のようなところについて、ソーシャル&インフルエンサーがけっこう褒めるべきなのではないかということが、ようやく最終的にわかってきたところだったりします。

日本でもこうしたものにチャレンジしていたりはするのですが、なかなかまだ難しかったりするなと思いますね。

西村:いいですね。グレーアウトしている中で(笑)。

尾上:予算がいっぱいあるならトップダウンでもぜんぜんいいと思いますよ。数億円ある場合、マス広告はぜんぜん強いので。ただ、今後のトレンドとしては、すごく低予算だったら、意外とビルドアップ型のほうがいいというのがあるかなと思います。

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