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副業・フリーランスのための会計入門(全2記事)

税理士と顧問契約するフリーランスが大切にしているもの 「自分で会計ソフト」と「税理士依頼」を判断する基準

解禁する企業が増えたことで副業をする会社員が増加し、フリーランス化する会社員も増えています。しかし、会社員が副業やフリーランスとして活動する際に問題になるのが、健康保険や年金、確定申告などの「お金」のことです。 今回は、『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』の著者で、インフルエンサー税理士としてYouTubeやTwitterでお金に関する情報発信を続ける大河内薫氏に、副業やフリーランスを始める人に向けた「お金」の基礎知識をうかがいました。前編では、「会社員」と「フリーランス」の違いや納税額に大きく影響する「経費」についてお聞きしました。

芸能人志望で日芸に進むも、断念して税理士資格を取得

ーー大河内さんは日本大学芸術学部を卒業して税理士になられていますが、その経緯についてお聞きかせいただけますか。

大河内薫氏(以下、大河内):日本大学芸術学部に入ったのは「芸術を志していたから」になります。大学入学を機に名古屋から東京に出てきましたが、芸能人になりたかったんですね。大学もそういう勉強ができたらいいなと、日本大学芸術学部の演劇学科演技コースに進みました。そこで4年間学びつつ、オーディションを受け、舞台に出て、という時間を過ごしました。

でも、「いや、無理だな」と。けっこう諦めが早かったんですよね。卒業してもやることがないし、名古屋に尻尾巻いて帰るのもかっこ悪いし。じゃあ、「東京に残るなら人より稼ぐぐらいはしよう」と思って、何か難関国家資格を取ろうと考えたんです。

その時に、「弁護士」「司法書士」「会計士」「税理士」の4つを並べて、働きながら取れそうなのが税理士しかなかったんですよ。だから税理士みたいな(笑)。消去法で税理士だったんですよね。

ーー会社員をしながら勉強をして、税理士資格を取られた。

大河内:芸術を志していたので、会計の知識も税金の知識もゼロでしたが、「人の3倍やればいけるだろう」という根性論で、勉強の時間だけはものすごく掛けましたね。

YouTubeやTwitterでお金に関する情報を発信するワケ

ーー芸術学部を出て税理士になったという経歴も多くの税理士の方と異なりますし、YouTubeやTwitterでお金に関する情報発信をされる税理士の方も珍しいのではないでしょうか。

大河内:そもそものきっかけは、フリーランスとか確定申告する人向けの1冊目の本(『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』)を出した時に、「税金のどんなところがわかりませんか?」みたいなリサーチをしたんですね。

会社がぜんぶやってくれる会社員が税金のことをわからないのはしょうがないところがあります。でも、フリーランスの人たちなら「ある程度知識があるかな」と期待していましたが、ぜんぜんなかったわけです。「なんでこうなったんだろう?」と思うと、遡るとやっぱり「教育だな」と思ったんですね。

これまで何も税金に関する教育を受けていないんだから、確定申告をする立場の人たちでも知らないのはしょうがないかなと。「じゃあ、そっちに向けて情報を発信している人はいるの?」と言うと、これがまたいないわけです。じゃあ誰かがやらなきゃとなって、僕がやってみた感じですね。

2016年に会社(株式会社ArtBiz)を作り、2017年に税理士事務所(ArtBiz税理士事務所)を作って、マーケティングの一環としてTwitterをやっていたんですけど、そのTwitterでお金の知識について発信し始めたら、それがバズって本につながった。その後、YouTubeや今では音声メディアも始めています。

税理士はお金を払って情報を取りに来てくれた人にだけじゃべる職業ですけど、そちらに向けてではなく、無料でいいからとりあえず税金について知らない人たちに向けて発信しようと。それが本になって今のお金の授業にもつながっている感じですね。

「会社員」と「フリーランス」の違い

ーーここからは、これから副業やフリーランスとして活動しようと考える会社員の方に向けた会計の基礎的なお話を伺いたいと思いますが、「会社員」と「フリーランス」にはどのような違いがあるのでしょうか。

大河内:ざっくり比べると、フリーランスは会社員の人よりも信用力が落ちてしまうと思います。まだ社会全体が、「会社員のほうがリスクがないよね」「毎月給料もらえるでしょ?」と思っているからなんですよね。だから、フリーランスは住宅を借りづらかったり、住宅ローンも組みづらいところがあります。

逆の視点で言えば、このあたりがフリーランスも会社員もあまり変わらなくなったら、社会全体がフリーランスを受け入れたというものさしになる気がしますね。ちょっとずつ変わってきていますが、まだまだかなという印象はあります。

社会保障制度についても、フリーランスのほうが厳しいと思います。年金1つとっても、会社員は厚生年金に入れますが、フリーランスは国民全員が入る国民年金だけで厚生年金には入れません。

一方で、人生や社会を生き抜く力はたぶんフリーランスのほうが強い。会社員はどうしても「自分の会社は潰れない」と思うんですよね。潰れる会社がいっぱいあるのに、自分の会社は潰れないと思っている。でも、会社は突然潰れるんですよね。その時に路頭に迷う。

フリーランスはいろんな仕事を受けているので、突然職を失って路頭に迷うのと比較すると、その後の生き抜く力は強いと思います。サバイバルゲーム化した社会の中では、フリーランスのほうが強かったり、実はリスクが少なくなっていくかもしれないと感じますね。

だから、「副業でどっちもやる」というのがやっぱり合理的で強いと思います。

フリーランス化の一番のハードル「確定申告」

大変だけど、ちゃんとやるとあとが楽になる「確定申告」ーー実際に会社員がフリーランスになると、どういった点が変わるのでしょうか。

大河内:一番わかりやすいのは、会社員は給料をもらう時にいろいろなものが天引きをされます。「健康保険」「年金」「所得税」「住民税」、そして「雇用保険」の5つが給料から引かれますが、フリーランスになると雇用保険以外の4つを自分で処理しないといけないのが一番大きく変わることです。

もう1つは今「雇用保険以外」と言いましたが、雇用保険がなくなるので、フリーランスでは、例えば仕事中に怪我をしても誰も保障してくれません。そのように、会社員の場合は会社が責任を持ってくれるものがたくさんありますが、それらがすべてなくなります。

売上を自分で取らないといけないのは当然ですけど、税金、会計、社会保障に関してもぜんぶ自分でやらないといけなくなる。会社のありがたさに気づくところだと思います(笑)。

何より、フリーランスになる際の一番のハードルは確定申告です。会社員時代の年末調整がなくなり、翌年の3月15日に自分の税金の状態や、売上、利益を税務所に報告する確定申告がやっぱり大変です。

今脅しのように「会社に天引きされていたものはぜんぶ自分でやらないといけない」と言ったんですけど。「確定申告」は「所得税の確定申告」で、健康保険や年金、住民税の手続きはしないんですけど、この確定申告がすべての基軸と言いますか、確定申告をすればその情報が自治体に回ります。

会社を辞めるとすぐに保険や年金などの手続きをしないといけませんが、手続き後は所得税の確定申告さえすれば、収入情報をもとに請求が来て払うだけになります。なので確定申告をちゃんとやると、あとが随分楽になりますね。

納税額に大きく影響する「経費」

ーーその確定申告を行うためには、領収書等の経費をちゃんとつけていくことが大切になります。

大河内:そうですね。経費の概念が会社員とフリーランスではまったく違います。会社員の経費は、会社が払って立て替える経費精算ですけど、フリーランスは自分の仕事に関係する支出です。経費が多ければ多いほど利益が減って、そのまま自分の税金が減る。

この経費をいかに見落とさず、法律の範囲内で適正に増やせるかで、税金の金額がだいぶ変わってきます。

「どこをどう経費にできるか」という学びが、自分の税金を減らして手取りを増やします。ここをしっかりやっているか、適当にやっているかで、売上や利益は同じなのに、手元に残るお金がぜんぜん違うということが起こります。

なので、まずは確定申告がどういうもので、それに向けて何をすべきかは絶対に知る必要があります。それを学ぶ時に、「先輩フリーランスの言葉」をあまり参考にしないほうがいいと思います。先輩フリーランスは間違っていることも言いますから(笑)。やっぱり税理士のブログや本などの確かな情報で学ぶことが大切だと思います。

「自分で会計ソフト」と「税理士依頼」を判断する基準

ーーその経費をまとめる手段ですが、「無料のソフトで入力する」、「有料のソフトで入力する」、そして「税理士に依頼する」の3つがあるという認識で合っていますか?

大河内:Excelでまとめている人もいるでしょうし、例えば「弥生会計」とか「マネーフォワード」「freee」の有料ソフトでまとめている人もいるでしょうし、あとは税理士がまとめると。確かに大きくその3種類な気がしますね。

でも、フリーランスとしてしっかりやっていくなら、有料の会計ソフトで自分できちんとまとめるか、税理士にお願いするかの2択のほうが、結果的にはいいと思います。

ーー経費をまとめる方法が3種類あるとして、肌感でけっこうですが、どれくらいの比率に分かれるのでしょうか? 売上や事業規模によっても変わるかも知れませんが、どういう人が何を選択するという特徴はありますか?

大河内:言い方が悪いんですけど、会計ソフトにお金を掛けていない人は、ちょっと舐めていると言いますか、「適当でいいでしょ」と思っているところがある気がします。やはり無料のソフトは避けたいですね。もちろん簿記の知識が完璧で「Excelでぜんぶ集計できますよ」という人はいいと思いますが、そういう人は少ないので。

有料のソフトを使って「時間を買う」感覚ですよね。もっと時間を買うなら、税理士を使う。ただ、フリーランスだと税理士に頼む人のほうが少ない印象はあります。

ちなみに有料のソフトか税理士かは、サービス内容に対していくら払うかなので、事業規模はあまり関係ありません。税理士がやってくれる内容を聞き、例えば月1万5,000円だとして、「1万5,000円でその内容なら安い」と思う人は税理士と契約します。

高いと判断して、「時間がかかっても自分で月々980円のソフトでやります」という選択もあります。サービスとしてその金額を払ってでもやってほしいかどうかがすべてだと思います。売上が300万円と1,000万円でも関係ない。1,000万円でもお金を払いたくない人は払わないだろうし、300万円でも時間が欲しい人は払うので。

肌感にはなりますが、税理士を使って時間を大切にする人のほうが、伸びる感覚はありますね。会計は税理士に任せて事業に集中するほうが合理的ですからね。そういう人のほうが伸びる気がします。

大したお金じゃないと言ったら失礼ですけど、そこをケチケチするということは自分の時間の価値が低いということなので。自分の時間の価値がわかっている人は、時間を買ってスケールする感じがします。

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