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メンタルヘルスの専門家と考える アフターコロナの中で「社員がやめない会社」をつくる方法(全3記事)

精神疾患の患者の数は、たった3年で1.5倍に “病んで退職する社員”を減らす、2つのアプローチ

株式会社mogが開催する「Hello!career well-being!プロジェクト」のイベントに、「ウェルビーイングのスタンダードを創る」というビジョンを掲げる株式会社メンタルヘルステクノロジーズ代表の刀禰真之介氏が登壇。リモートワークの普及に伴い、社内のコミュニケーション不足などからメンタルの不調を訴える社員が増え、対応を迫られた企業も。アフターコロナの中で社員のメンタルをケアしながら、「社員がやめない会社」をつくるための方法を同氏が解説しました。

医者になった弟と約束した「将来一緒に何か仕事しよう」

刀禰真之介氏(以下、刀禰):みなさん、はじめまして。メンタルヘルステクノロジーズの刀禰と申します。思ったより人事系の方のご質問が多かったですね。最初はもう少し普通の働いている方々が多いのかなと思っていたんですが、両方用意したので、まずいくつかいただいた質問から、最初にちょっとご説明させていただきます。

後半ではメンタルについて。ここで言うメンタルって、たぶん統合失調症とかそういうことではなく、適応障害や鬱のことだと理解をしております。そういったところの人事部門じゃない方々でしたり、あと今日から取り入れる方法も含めて、共有できればなと思います。

まず簡単に当社のご説明だけさせていただきますと、当社は昨年3月に東証マザーズ、今はグロースと呼びますけれども、そちらに上場している、メンタルヘルスを中心に企業向けにサービスを展開している会社でございます。

私のキャリアを少しご説明すると、ここに書いてあるとおりでヘルスケアをやっているんですけども、僕自身は医師とかそういうバックグラウンドではなく、いわゆるコンサルティングや、投資銀行、ファンドにいた人間です。

そういった人間が、なぜヘルスケアに参入してきたかというと、私は今年44歳になるんですが、2000年前後の大学生の時に、弟がいきなり「医学部に行く」と言い始めて、賢い弟はそこからすぐ東大をやめて医者になったんです。

そういった中で、僕は当時もうデロイト(デロイト・トーマツ・コンサルティング)に行くことが決まっていたんですが、将来一緒に何か仕事しようという、1つ漠然とした約束を弟としていたんです。

過労による入院をきっかけに、会社を辞めて創業

実はそんなことをすっかり忘れていて、金融マンライフをファンドにいた時とかも含めて、楽しんでいたというか、そういった生活をしていたんです。当時は月間数百時間ぐらい働くのがけっこう普通でした。今でも投資銀行だと普通かもしれませんけども、僕は体を壊してしまって、いったんHCU、いわゆるICUの一歩手前ですね。そこで入院するぐらいひどい状態になってしまいました。

そこで弟が当時勤めていた病院に搬送されて、今は五体満足で生活できるようになったんですけども、その時に、「そういえば大学生の時、弟とそんな約束をしたな」ということを思い出しました。

「あの時の約束、覚えてる?」と弟に聞くと、「当然覚えている」という話をするので、それであればそろそろ始めなければいけないなというところで、それがだいたい2010年の7月、8月のことでした。そこから会社を辞めて2011年3月に創業しました。

そして、なんでヘルスケアの中でもメンタルヘルスに着目して、ビジネスを展開するようになったかというと、最初からメンタルヘルスに着目していたわけではないんですね。スタートとしては僕も、もともと金融とか投資ファンドにいたので、ビジネスを展開していくのであれば、お医者さんのデータベースが非常に重要になってくるということで、データベース化をしていこうと、ビジネスとしてスタートしました。

そういったかたちでいろいろ考えていくと、みなさんも想像してもらえばと思いますが、今だいぶお医者さんの接待とかで減っちゃいましたけども、製薬メーカーがお客さんになりやすいというところがありまして、当時もそういったかたちで営業していたんです。

社員がメンタルを病んで退職してしまった経験

2014年ですね。製薬メーカーの情報改ざん問題が社会的な課題になって、新しいサービスはいったん全部取り消しになって、ちょっと私の会社も立ち行かなくなりそうになったので、ゼロベースで考えなきゃいけないところが、2015年の春ぐらいに来ました。

当時いろいろ採用検討とか、けっこう実験的に使っていた6、7個の製薬メーカーも、一斉に全部ストップになったので、もう変えざるを得なかったんです。そういったお医者さんのデータベースを集めていこうとすると、もう1つシンプルにできるのは、医師の転職かなということで、キャリア支援、HRをやっていこうと、2015年の春ぐらいに決断したんです。

弟夫婦は2人ともドクターなんですけど、そんな話をすると、弟の奥さんから、「それならお兄さん、私、産業医をやりたいんですよね」と言われたところからすべてがスタートしています。

当時僕は上場審査の仕事もしていたので、産業医と聞いても、健康診断を見る人なのかなというイメージだったんですけども、よくよく調査していったり調べていくと、このあとご説明するような環境変化があったというところが1点目。

もう1つは、そういった医師向けのサービスの他に、当時システム開発の仕事をしていたんですけども、当社のエンジニアの社員も残念ながらメンタルを病んで、退職していってしまったという経験が僕にもあって、いきなり音信不通になりそうだったので、「パソコンを回収しに行かなきゃ」ぐらいのモチベーションで、彼の家に行ったんです。

「どうしたの?」と聞くと、「実は仕事で鬱になってしまったわけじゃなく、ちょっと家族との関係に悩んでいて、精神科に通っていました」と。「それで薬の効きが悪いので、もう一度先生に見てもらったら、『薬を替えましょう』という処方、診断を受けて、新しい薬にしたんですけど、今度はとてもじゃないけど立てなくなりました。すいません」と言って、それで彼は退職していってしまったんです。

そもそも病まないようにするのは「産業保険」の分野

この話を受けて衝撃的だったので、「それってうちの社員がヤブ医者に遭っていない?」と。精神科医である義理の妹に聞くと、けっこう明らかに「何を言っているんですか。それは普通の処方ですね」みたいな話なんですね。そうか、我々一般人が思う普通感と先生方の普通感って、だいぶ乖離があるなということを知ったのが1点目。

もう1つが、「じゃあそもそも病まないようにするにはどうしたらいいの?」と聞くと、実は妹を含む精神科のほとんどの先生が、「ちょっとそれはわからない」みたいな話だったんですね。いろいろ調べていくと、あくまでメンタルヘルスを病まない予防とか、病むロジックみたいなところでいくと、これは産業保険の分野なんだなと理解しました。そういったことが2~3ヶ月の調査でわかってきたので、2016年に子会社Avenirを設立、そして昨年無事上場できたといったかたちです。

グループ会社としては明照会という、東海エリアで産業保険を展開する会社さんが、当社にグループインしているのと、ヘルスケアDX、こちらでは昨年から準備して、今年から渋谷で、メンタルクリニックなんかの運営支援をしています。

産業保険に強い、いわゆる企業の人事さんも気軽に相談できるクリニックを作っていこうというところから、こんなかたちのメンタルヘルスを中心に、社会課題を解決していこうというのを、今我々のビジネスの軸としています。

そういった我々のビジョンの中でいくと、さっきのウェルビーイングプロジェクト、キャリアウェルビーイング、いいなと思ったんですけども。「ウェルビーイングのスタンダードを創る」が僕らのビジョンで、ここに書いてあるとおり、現役世代向けのメンタルヘルスケアサービスを作っていこうということです。

こういった気分で毎日過ごせたらモチベーション高くやっていけるはずなので、こういったセルフモチベートが保てるような環境づくりを、まず我々としては、専門的には産業保険という言い方になるんですけれども、そういったサービスを展開している会社になります。

健康診断やストレスチェックで、社員が健康になるわけではない

簡単にご説明すると、「産業医クラウド」という産業医の先生だけじゃなく、産業保健師や事務、コンサルタントといった人的なリソースの役務提供型のサービスと、あとはストレスチェックなんかはみなさんご存知だと思うんですけど、それだけじゃなくて、さまざまな効率化や、予防するようなクラウドツールを、企業さんに提供していて、6月末時点でグループ全体では1800社以上をお客さまとしています。

ヤフーさんなんか特にここ数年間にかなり一緒に、「どこでもオフィス」みたいなこともしながら、大企業の中でかなり先進的な取り組みをやられている会社さんなんかも、バックグラウンドで支援させていただいているというところです。

少し直近の大きな流れだけご説明すると、だいたい我々は、お問い合わせをいただく9割は、産業医を交代したいというニーズか、もしくはメンタルヘルス対策をやりたいというものです。

世の中で何が起こっているかというと、左に書いてあるような健康診断とかストレスチェック。みなさんの所属している会社さんでも、やっているのではないでしょうか。50名未満だったらストレスチェックはやっていないかもしれませんけども、これはいわゆる法令なんですね。労働安全衛生法という法律に基づいて、左側のことをやっているんですけど。

それをやったからといって社員が病まないとか、健康になるということはあり得ないんですね。普通に考えれば健康診断を受けて、健康になるわけじゃないですよね。実際そこで悪いところを治しに行くアプローチをしない限り治らない。

我々は、組織に対して「課題解決型運用」と称して、休職者の適切な対応とか、あとはヘルスケアリテラシーをどう上げていくか。メンタルヘルス予防をどうやっていくかということを、サポートさせていただいています。

精神疾患の患者の数は、コロナ禍の3年で1.5倍に

そういったことをやろうとすると、人事さんと連携しながら、一緒になって課題解決をしていく産業医の先生が必要なので、そういった先生のアサイメントからスタートするというのが、我々がやらせていただいたところで、大手さんになると、よりプロジェクトマネジメント的な、どういったかたちで休職率を下げていきましょうみたいな話も、よくさせていただいています。

世の中全体の動きも共有させていただきますと、これは2002年、実は私が社会人になった年なんですけれども、鬱病とか適応障害、てんかんとか統合失調症も合わせての精神疾患の患者の人数が、だいたい260万人弱ぐらいだったんですね。

一方で今からだいたい6年前の2017年は419万人。15年かけて1.6倍になったんですが、直近2020年、これはコロナになった年ですね。これは615万人。たった3年で1.5倍になった。

今日も少し話があるんですけども、ちょうどこの時期、若い女性の自殺問題とかが一瞬フィーチャーされました。ただ、人数は増えたんですけども、ここの2020年だけが増えたかというとそんなことはなくて。

我々メンタルクリニックを運営していたり、あとは企業向けのメンタルヘルスサービスを展開していると、明らかに2020年より今のほうが、非常にメンタルによる退職なんかも増えております。

ただ、615万人でも人口の5パーセントぐらいになります。もう企業を経営する、人事や組織運営をする立場からすると、100人いたら5人いるということなので、100人に(メンタルを病む人が)1人もいないという組織を作ることはほぼ不可能ということを前提に、組織設計とかこういった産業保健という専門的な分野をやられたほうがいいんじゃないかなというのは、ポジショントークではなく、本気でそう思っております。

組織のウェルビーイングが求められるフェーズに

その他でいくと、人的資本経営とか健康経営という文脈も、我々の大きなトレンドとしてはあります。今までは人を「辞めたら採用すればいいよ」と、一部まだそう思っている企業も少なくないんですけども。

いわゆるウェルビーイングキャリアとありましたけれども、より今いる人たちに、そういったウェルビーイングをどうやって実現していくかが、求められてきているフェーズに、今ようやく入り始めたかなというところです。

健康経営もどんどん増えていますよという話になるので、こういった大きなトレンドに今いるということです。

あとは公的機関のメンタルヘルス対策プロジェクトなんかも、我々は一応やり始めていて、この資料自体は昨年のイベントの時の絵なんですけども。学校の先生が非常に大変だというのは、なんとなくみなさんもイメージつくんじゃないかなと思うんですけども。

プレスリリースレベルでいうと、先月から神戸の教育委員会のメンタルヘルス対策なんかもやり始めているので、我々としてはより本質的なメンタルヘルス対策、どうやって休職率を減らして、ちゃんとした環境を作っていけるかということを、ビジネスの生業にしています。

メンタルヘルス対策の2つのアプローチ

じゃあ、実際何をすればいいかという話になってくるんですけども、メンタルヘルス対策は大きく2つのアプローチがあると言われています。1つが人的介入による組織アプローチ。我々がやってるのはこの左側になるんですけども、もちろん個人アプローチも認知療法を用いた個人療法もけっこう重要なんですけども。

我々の考えは、今はメインは左なんですけども「どっちもやれば」という発想でメンタルクリニックだったり、今はリワークみたいなものも含めて、サービスメニューの中に揃えていっています。ビジネス的には我々は左から入っているんですけれども、右もやり始めているので、どっちが正しいというわけじゃなく、どっちもやらなきゃいけないという話になるかと思います。

今日お話しするのは、特に左側の話になってくるかなと思います。実際我々がそのメンタルヘルスの対策において何をやっているかというと、基本的には2つになります。

1つは、我々がやっているメンタルヘルス対策というのは、「休職の仕組み化」という表現で呼んでいるんですけど、いわゆる復職プログラムの設計ですね。そして運用に乗せるということをやっています。

このプログラム自体を設計していないと、復職させることがゴールになったり、ほとんどのケースの場合、再休職に入っちゃうとか、復職しても体調が安定しないという社員さんが増えていくんじゃないかなと思うので、あくまで再休職しないように、復職後しっかり活躍していただくことをゴールに、こういったプログラムを設計します。

復職までのメンタルの「ステージ」の考え方

考え方としてはこちらに書いてあるとおりで、今日参加されているみなさんは、おそらく問題なく仕事ができるメンタル、ステージ4というメンタルなんじゃないかなと想像するわけなんですけども、鬱でこもってしまうような社員さんは、ステージ1ですね。

重要な概念がいくつかあるんですけども、まず、あいだに回復期と呼ばれているところには、2と3という概念があります。外を歩けるけど仕事ができない。仕事はできるけど体調が不安定といったところですね。

本人が復職したいというと、ステージ2ステージ3、どちらでも復職可と出ます。ステージ4で必ず戻ってくればまったく問題ないんですけど、あんまりそういうことがないのでここらへんがポイントになってきます。

会社としてどこまで線引きしますか。ステージ2は置いておいて、ステージ3は本当に許容しますか? しませんか? とか、そういう線引きをしっかり設計して、復職時にしっかり、じゃあここの合格ラインを1つ合格したら復職できるねと。そしたらある程度ステージ3でもOKですよと。

そのかわりフォローアップでこういうことを設計していかないと、高確率で崩れてきますというのもわかっていますので、ここをしっかり作り込むということをやっています。

ちなみに、このステージ2やステージ3で無理すると、またステージ1に行ってしまう。しかも一直線に回復せずに、ジグザグしながら回復していくので、このあたりをちゃんと心得ているかというのが、この設計のポイントになります。こういったことを実践しながら、まずこれを理解している産業医の先生がアサインメントしているというのが、我々がやっていることです。

ストレスマネジメントの「仕組み」作り

もう1つが予防ですね。そもそも病む人を減らすというアプローチです。これはもう奇をてらったことをやるわけじゃなく、検索したら出てきます。4つのケアという厚労省が推奨しているやり方があります。しかし概念しか説明されていないので、これも我々としては、エビデンスレベルにまでなっていないんですけども、ある程度数字の根拠も出しながらやっています。

この後「セルフケア」「ラインによるケア」という、この2つについて、お話しできればなと思うんですけども、これはいわゆるストレスマネジメントになります。

私も今、100人超の会社にいるんですけども、末端の社員のメンタルの状況なんて、正直言うとわからないんです。今日は管理職とかそういった方も、少しいらっしゃる感じなんですけども、ある程度自分の健康は、自分で守ってもらわなきゃいけないというところだったり、先ほどステージの話があったと思うんですけれども、ステージ3の時に、手を挙げてもらえるかという仕組みづくりが、けっこう重要だったりします。

セルフケア、ラインによるケア、ストレスマネジメントと、産業保険スタッフによるケア、これは社員さんが相談したいと思われるような産業医や保健師さんにしないと、ほぼ機能しないので、これをしっかり作り込んでいくということです。

あとはどうしても人事や会社を通じて、産業医に相談したくないという人が一定数いらっしゃいますので、いわゆるホットライン的なものをしっかり設計しましょうという、事業場外資源によるケア。これをしっかり設計して運用するということをやってます。

一番機能しやすいのは「職場環境改善」

「そんなこと知っているよ」という一部の方もいらっしゃるかもしれません。こちらは我々の顧問の先生が出しているものなんですけれども、先ほどの4つのケアも基本的に機能するものとしないものが、実は出ていたりします。一番機能しないのがラインケアですね。一番機能しやすいのが職場環境改善。ここでいう職場環境は、信頼できる産業医のアサインメントだったり、保健師のアサインメント。

あとはセルフケアですね。そちらが非常に多いんですけども、多くの組織ではラインケアの研修ばっかり行われているので、このあたり自分の健康は自分で守るみたいな発想を、いかに組織に落とし込んでいくかが、重要だったりします。

そういった活動を地道にすれば、我々といたしましては改善しないことは実はあまりなくて、だいたいやっていなかったりするので。こちらは2,000人ぐらいのIT会社さんで、5パーセント以上、年間100人以上休んでいたケースですけれども。

こういった組織も、半年、1年ではすぐ結果が出ないんですけども、2〜3年かけて平均よりはだいぶ良くなります。平均を目指しましょうというのは、まず我々の1つの目標軸であるんですけども、平均よりはある程度良くなるというのが、どこの組織にも出ていることかなというところです。これでいくつかの質問に回答できたんじゃないかなと思います。

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