2024.10.10
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中村直太氏(以下、中村):この点も目から鱗だったんですが、もう1つ。今回のご講演の中では触れられてなかったんですが、本の中で「悩みは必ずしも悪ではない」とおっしゃっていて、その点もちょっと詳しく教えていただきたいなと思います。
樺沢紫苑氏(以下、樺沢):わかりやすく言うと、悩みというのは“陸上のハードル”みたいなものですよね。100メートルのハードルって、ハードルがあるから見ていておもしろいわけでしょ。ポンポンと飛び越えていくわけだからね。
それと同じで、みなさんにハードルがあった場合、つまずいてしまったら「イテテテ」ってなるけど、うまく飛び越えてポンポンといけたら気持ちいいじゃないですか。
それと同じで、悩みを乗り越えられないで「あー……」ってなってたらつらいですけど、その悩みをうまく乗り越えたら、「できるじゃん」「なんか成長したかも」ってなりますよね。だから、悩みというのはハードルにしかすぎないんですね。
あるいは「壁」と考えてもいいかな。乗り越えられないとつらいけど、乗り越えられたら成長しちゃう。それが自分の自信にもなるじゃないですか。だから、悩みは単なる壁やハードルです。壁自体に良いも悪いもないんですね。
中村:なるほど、悩みは単なる壁だと。
樺沢:そこで乗り越えられないで落ち込んじゃうのか、なんとか乗り越えて自信をつけていくのかは、自分自身の行動によって良いものにも悪いものにもなりますよね。
中村:ありがとうございます。どうしても悩みって、「悪だ」と思い込んじゃうところがありますけど。
樺沢:チャンスです。
中村:壁であり、チャンスであると(笑)。
樺沢:「チャーンス!」って思わないといけない(笑)。悩みがあったら、自己成長のチャンスだと思ったらいいですね。
中村:悩みと向き合うに当たっては、その切り替えもすごく大事ですね。ありがとうございます。
中村:この本には、悩みの対処法がこれでもかってぐらい詰まっているわけですが、『言語化の魔力』というタイトルに持ってこられたように、やはり言葉がすごく大事だということなんですけれども。
樺沢:裏話なんですけど、実は最初は『悩みを解決できない人が9割』というタイトルで本を書いてたんですね。さっき言った5,000問(YouTubeに投稿した動画数)、当時は4,000問だったけど、4,000問の悩みを1冊で解消できる本ということで、いろんな悩み解消法を解説してたんですよ。
8割ぐらい書いた時点でふと思ったんですが、「あれ? これって一言で言うと『言語化』じゃん」と。悩みの解消法って、ほとんどが言語化だったんですね。
言語化じゃないやつは、睡眠・運動・朝散歩のように、生活習慣を整えるものが一部入ってはいるんですけども、それ以外はほぼ全部言語化じゃんということになって。
さっき言ったガス抜きもそうだし、ポジティブなことを言うとか、「視座の転換」も言葉で転換してますから。そうすると、全部言語化なんですよ。言語化でほとんどの悩みが解消できるねっていうことに気づいたので、『言語化の魔力』というタイトルを思いついたんですね。
あと、ちょっと裏話もありまして。書きながら突然思いついたんですよ。いろいろ「なんだこれ、どうしようかな」とか思って、突然『言語化の魔力』というのが思いついたので、編集者の人に言ったんですね。でも、なんか『メモの魔力』と似てるからやだなとか思ったんだけど。
中村:(笑)。
樺沢:編集者の人に言ったら、「『メモの魔力』はうちの会社から出てますので、すごくいいかもしれませんね」って言ったんですよ(笑)。そういえば『メモの魔力』は幻冬舎だったって、あとから言われて気づいたという裏話があります。
中村:そういう偶然もあったんですね(笑)。ありがとうございます。
中村:悩みの解消には言語化がとにかく大事だということなんですが、本の中でも言語化は2つに分けていて、「話す」と「書く」だったと思うんですね。同じ言語化でも、この「話す」と「書く」に違いとか優劣ってあるんでしょうか。
樺沢:「話す」というのは相手がいないとできない。「書く」というのは1人でできます。相手がいて(人に話すことによって)オキシトシンが出るので、ストレスを発散する方法としては話すほうがいいですね。
だけど「誰かに相談しましょうよ」と言っても、「相談する人がいません」ってみなさんおっしゃるので、その場合は自分が思ってることをノートにわーっと書き出す。(これを)「殴り書き法」って言うんです。
殴り書きみたいなものでも代用することはできますが、できれば人と対面で話して、「こういうことで困ってるんだよね」ということを30分でも言えば、そっちのほうが効果が大きいかなと思いますね。
中村:ありがとうございます。できれば話す。ただ、1人でもできるっていうのはすごく重要ですよね。
樺沢:みなさん必ず「話せる人がいません」「友だちがいません」っていうことをおっしゃるので、その場合は書くことで代用もできます。
中村:そういうことなんですね。じゃあ、「話す」と「書く」のいずれかで対処していくということですね。ありがとうございます。
中村:あと、お話の中で「ネガティブな言葉を減らして、ポジティブな言葉を増やす」ということをおっしゃっていただいて、ぜひやっていきたいなと思ったんですが、それを意識する以外に、なにかポジティブな言葉を増やしていくような良い方法ってありますか?
樺沢:良い方法は、ネガティブな言葉を言いそうな時に、それをポジティブに置き換えることです。だから、「もうダメだ」って言いそうになった時には「まだまだできる」っていうふうに(ポジティブな言葉に言い換える)。
ネガティブな言葉を言いそうになった時に、それを「ポジティブな言葉で置き換えられないかな?」って言ってみるんですね。それを何回かやっていると、けっこう上手に(言葉の置き換えが)できるようになってくるんですよ。
ネガティブな言葉を吐いた瞬間に、一気に気分がネガティブなほうに引っ張られてしまうので、まずはそれを言わないようにする。でも言わないのは難しいから、ポジティブなことを言っちゃえばいいんですね。「大丈夫、大丈夫」っていうのでもいいですしね。
そのへんは『言語化の魔力』の本に、いろんな言葉が例文のように書いてあるから、自分の気に入った言葉をお守りのように持っておいて。つらいと思った時に「いや、つらいのはチャンスだ」とか、自分の言葉を作ってもいいですし、そういう言葉を作ってほしいなと思います。
樺沢:あと、本には書いてないんだけど、ポジティブなことに注目するものとしては「ポジティブフィードバック」っていうのがすごくいいですね。例えば、みなさんのお子さんでもいいし、会社の部下でもいいんだけど、できているところを言ってあげるということですね。
「この資料、すごくきれいに書けてて良かったよ。すごくまとまってたよ」とか。みなさんのお子さんでしたら、「今日は宿題が早く終わったね」とか。
褒めるっていうよりも、事実だけを言うのがポジティブフィードバックのコツですね。その人がやっていて、うまくいっている点やがんばっている点とかを、結果じゃなく事実として言ってあげる。
それをいつも言うようにすると、その人のポジティブなところを観察するトレーニングになるんですね。それは、自分自身の中のポジティブを観察するトレーニングになります。
わかりやすく言うと、その逆が悪口です。人の悪口を言うっていうのは、人の欠点を探す練習をしてることなんです。結果として、「なんて自分はダメなんだ」というところをたくさん発見してしまうので、悪口が多い人は自己肯定感が下がるし、ポジティブフィードバックを練習すると自己肯定感が上がりますね。
中村:自分に対しても周りに対しても、ふだんからポジティブな言葉を投げかけていく。そのために観察をするということですね。ありがとうございます。
中村:たぶん今日聞かれてるみなさんって、ご自身が悩んでいるということもあると思うんですが、一方で職場で悩みの相談を受ける側の立場の人も多いと思うんですよね。なので、その観点で考えた時に、最初のハードルって「悩みを打ち明けてもらえる自分であること」だと思うんですが、悩みの相談をしてもらえるために意識できることって何でしょうか?
樺沢:そこはけっこう難しいところではあるんですが、基本的に、ふだんからくだらないことを話せる関係性ってことが重要ですね。くだらないことも話せないのに、深刻なことが話せるのかというと無理なんですよね。なので、雑談はすごく重要じゃないかなと思ってます。いろんなことを話せる関係性ですね。
若い人はけっこう飲みニケーションとか嫌いだけど、我々のような50歳以上のビジネスマンや経営者に聞くと、「飲みニケーションは絶対に必要だな」と、みなさんおっしゃいますね。
やはり仕事してる最中って忙しいし、「これを教えてください」と言っても、「ちょっと今は忙しいから」ってなっちゃうんです。だけど飲みニケーションの場で、「こういう時はどうするんですかね?」って言ったら、「こういう時はこういうふうにして、こうやってやるんだよ」って教えてもらえると思うんですね(笑)。
飲んだ席とかで、「ちょっと今、こういうので困ってるんですよ」って言ったら、「それはこういうふうにやったほうがいいよ」と、自然と相談できることもあるので。
樺沢:コーヒーを飲みながらの普通の雑談でもいいんですが、飲みニケーションなんかもうまく使いながら、いろんなことを話せる関係性をふだんから作っておくことが重要ですね。「なんでもいいから相談に来ていいよ」と言っていても、ふだんの関係性がなければ困った時に相談には行かないですね。
中村:そのとおりですよね。最近は飲みニケーションって減っているけれども、非公式な場みたいなものを意図的に企業が用意して、例えばクラブ活動であったり、横のつながりを作っていく動きもあるので、そんなのもうまく使えるといいですよね。
樺沢:いいことですね。やはりコミュニティとか遊びとか、そういうのがいいんですよね。毎日を楽しむ人の考え方ということで、私は「まいたの」っていう言葉を作ってるんですが、「毎日をもっと楽しもう」ってね。
みなさん「友だちがいない」って言うけど、趣味サークルの仲間とかって、けっこう自由に話せたりするじゃないですか。会社の人に上司の悪口を言うと広がっちゃうかもしれないから、言えないじゃないですか(笑)。知らない人だったら言えたりするので、ガス抜きになったりする。だから、趣味サークルとかはすごくおすすめですね。
中村:なるほど。では、横のつながり・斜めのつながり、そしてふだんからの土台作りや土壌作りというか、そんなものが大事ですね。ありがとうございます。
中村:ちょっと視点を変えて、今度は自分が悩みを打ち明ける側になった場合、相手って誰でもいいような気がしないんですよね。そうなった時に、良き相談者ってどんな観点で選んだらいいと思いますでしょうか?
樺沢:私の友だちというか、親友の定義っていうのがあるんですが、本当に困った時に相談できる人が真の友だちですね。そういう人が何人いるかというと、せいぜい1人か2人でしょう。普通の人は3人以上はいないと思いますけどね。
だから、心の友っていうのかな。ふだんから困った時に話したり、ざっくばらんにいろんなことを言えるような友だちが1人か2人ぐらいいると、すごくいいんですね。本当に困った時にも相談できるのでね。
実際問題として、相談できる人ってそんなに多くはないです。10人とかは絶対にいないですね。相手の相談を聞いてあげる、相手の悩みを聞いてあげているからこそ、自分が困った時に聞いてもらえるっていう関係性、相補性が生まれてきます。
なので、友情がある人に対して、自分が「困った時は相談に乗るよ」と言ってるような人が、相談できる人だと思います。
中村:そんなに多くいなくていいと聞いて、ちょっと安心しましたね(笑)。
樺沢:できれば1人いればいいですね。0人だとつらいのですけれども、1人いればいいです。
中村:「0人」と聞いて、ChatGPTは相談相手としてはどうですか?
樺沢:感情がないのでね。(その代わり)言ったことを、ほかの人に言いふらす心配もないので(笑)。
中村:学習はすれど、発信はしないですからね(笑)。
樺沢:この間ChatGPTで「ほかの人はどんな質問をしてるんですか?」って投げたら、「それはお答えできません」って言われましたからね(笑)。
中村:ちゃんと(プライバシーを)守ってるんですね。いい相談相手ですね(笑)。ありがとうございます。
中村:みなさんにもアンケートをいっぱい入れていただいてるので、もう少ししたら(質疑応答に)移っていきたいなと思います。悩みの専門家ということで、8年間で10万件ぐらいのご質問を受けているとおっしゃっていました。
樺沢:それぐらいだと思いますけど、もっと多いかもしれないです。もう多すぎて数えられないんですね。で、質問はほとんど同じものがたくさんきます。
中村:我々全員が共有している大きな出来事としては、やはり冒頭でもコロナ(の話が)あったと思うんですが、コロナ前、コロナ中、コロナ後で分けてみた時に、悩みの変化の感じる点ってあるんでしょうか?
樺沢:悩みの変化もあるんですけど、コロナ中におきましては、私のYouTubeの再生回数が倍ぐらいに増えましたのでね(笑)。
だから、「コロナ禍の不安を取り除く方法」という動画を上げると、たちまち10万回再生されたりしたので、みんなやはり不安だし心配だったんでしょうね。でも(視聴者が)そういう動画なんかを見ることで、少し安心するということがありましたね。
「友だちと会えないのでストレスがたまります」とか、当然コロナにそういう関する質問はたくさん来てましたね。
中村:じゃあ、質的な変化というよりも、やはり量的に増えたなという。
樺沢:量的な変化が倍ぐらいになったイメージですね。今は少し落ち着いてきてますけど、コロナ後というか、「まだ対応できません」「マスクを外したくありません」「まだ外に出るのが怖いです」とか、そういうのもまだありますね。
中村:ありがとうございます。ビジネスの悩みに少しだけ近づきながら、最後にアンケートにいきたいなと思います。
中村:今は4月なので、異動とか昇進とか、新しい環境・状況になった人が多いタイミングだと思うんですが、うまくこの環境に適応していくためにできること(を教えてください)。悩まれる方も多いと思うんですよね。
樺沢:基本的に人間というのは変化に弱いですね。生物全部そうなんだけど、同じことを同じように繰り返す、縄張りから外に出たくないっていうのが生物の本能なので。なので、引っ越しとか転勤ってまったく違う環境に行くんだけども、生物学的には絶対にないことなんですよね。だから、不安に思うのは当然です。
それを減らす方法は、1つは情報。正しい情報をたくさん得ることで安心が得られますね。コロナの時とかもそうでしょう。怪しい情報をたくさん得ちゃうと不安になるけど、正しい情報を得ると安心できる。だから引き継ぎとか、先任者から転勤先の情報をよく聞くってことが、とてもいいことなんじゃないかなと思いますね。
例えば「新しく札幌支社に転勤します」といった場合、前任者からいろんな細かいことまでよく聞いておく。重要なのは「キーマン」ですね。その中で問題児っぽい人とか、あるいは長老みたいな人とか、お局みたいな人とかがいると思うんだけど(笑)。「この人を押さえとけば、けっこううまくいきますよ」という人が何人かいると思うので。
単に職場を引き継ぐ、業務を引き継ぐのはみんなやってると思うんだけど、人間関係にはそういう情報が重要なんです。そういうところをよく引き継がれたらいいんじゃないかなと思いますけどね。
もしくは今だとSNSでつながれるわけだから、(転勤先などに)行って問題が起こったら、先任者の人に「あの人にちょっと困ってるんですけど」って相談したら、「あの人はこういう人だから、こういうふうにしたらうまくいくよ」って教えてもらえるかもしれないですよね。そういうのをうまく活用してほしいと思います。
キーマンって、けっこういいキーワードですよ。職場の中には必ずキーマンが何人かいるので、そこを押さえるとほかの人もそれに従うんですね。
中村:「情報」と「キーマン」ですね。ありがとうございます。
中村:あと、テレワークで心も体も不安定になった時。自分もそうだし、自分のメンバーもそういうことがあると思うんですが、そういう時の有効なケアというか(があれば教えてください)。
樺沢:そうですね。心身が不安定になってからケアしても遅いんじゃないかなと思いますけど、会議の最初の5分とかで雑談を入れるといいんですね。今だと、Zoomのブレイクアウトルームで3人とか4人とかで会話できるじゃないですか。
そこで「最近あった楽しかったことを、1人1分ずつ言ってください」とかね。今だと春休みが明けたから、「じゃあ、春休み中の楽しかった思い出をみんな1個ずつ言ってください」とか、そんなことを5分ぐらい入れると和みますね。心理学的にも、これがすごく癒やしの効果があると言われているんですね。
仕事の内容だけをやるのではなく、仕事とまったく無関係な雑談を話せば話すほど、気分転換効果が高いんですって。だから、仕事とまったく無関係なことを話すのが、実はコミュニケーションであり、癒やしになっているということですね。でも、だいたいZoomって、関係ないことを言ったらなんか雰囲気が悪いじゃないですか。
中村:(笑)。なりがちですね。
樺沢:「余計なことを言ってんじゃないよ。そんなことを言ったら(会議が)遅くなるじゃないか」ってね。だから、そこがちょっとやりづらいところなので、まずはみなさんに「雑談すると癒やしになるよ」ということを基本的に周知してほしいですね。
樺沢:みなさん職場でも「雑談とか時間のムダ」と思っている人もいると思うんだけど、そうじゃないんですね。それを軽視しているから、今はけっこういろんな職場でも、コミュニケーションの問題やメンタル不全の問題が起こってきているんじゃないかなと思いますね。
中村:リーダーとしては、「なぜその雑談が必要なのか」「なんでやっているのか」ということまで含めて伝えていけると良さそうですね。
樺沢:そうですね。ネットで調べると、そういう根拠とかもけっこう出てますので。海外の『ハーバード・ビジネス・レビュー』の研究でもいろいろあったりするので、そういうのを根拠として、「こういうのもあるから、テレワークや会議の最初に、我々もちょっと雑談を採り入れたほうがいいんじゃないの?」と言う。
根拠を示さないとみんな賛同してくれないので、「『ハーバード・ビジネス・レビュー』には出ていたんです」ということを言うと、「あ、そうですか」と言ってみんなやってくれるかもしれないですね。
中村:樺沢さんの本も、けっこう科学的な根拠を引っ張って書かれていますものね。
樺沢:そうですね、できるだけ。人間って、科学の根拠で納得する人と、感情・共感で納得する人の2パターンに分かれるんですね。
男性の場合は理論派のほうが多くて、女性の場合は共感派の人が多いので、両方の人を意識して書いてます。だから科学的根拠も入れるし、私の昔のエピソードとか、患者さんが苦労をした話とかが入ったりするのは、そういう理由ですね。
中村:そういうことなんですね。わかりやすくも、しっかりと根拠があるという印象を受けました。ありがとうございます。
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