2024.10.10
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――今回は「フィードバックの受け止め方」について、荒木さまにおうかがいしていきます。荒木さまのVoicyで、「常にフィードバックに晒され続けている」とおっしゃられていましたが、周りからの意見を受け止める際に、意識されていることはありますか?
荒木博行氏(以下、荒木):自分のメンタルコンディションをちゃんと把握することが大事だと思っています。メンタルの調子が悪い時にネガティブなフィードバックを食らっちゃうと、拒絶したり、「否定された」という方向へいってしまうので、フィードバックを受ける時の自分のメンタル状況は大事にしたほうがいいと思います。
自分の中での相対的なものとして、あまり自己肯定感が高くない時とか、思わしくないことが何件か続いちゃったりすると、人間は「自分ってダメな存在なんだ」と思ってしまう。そういう脆い時にフィードバックを正面から受け止めちゃうと、あまりろくなことにならないですね。
――ご自身のメンタルコンディションは、どうやって判断されているんですか?
荒木:これは大事なテーマだと思うんですが、フィードバックを受ける時に「内省」は不可欠な概念だと思うんです。だから、自分自身の状況は、自問自答によってなんとなくわかるようになった気はします。内省の結果として、今は調子がいいのか・調子がよくないのかを、できるだけ言語化できるようにはなってきました。
「今は(メンタルが)落ちついているから、先日やったセミナーのみんなのフィードバックをこのタイミングで見てみようかな」とかね。
――自分のメンタルの調子に合わせてフィードバックを受け取ることで、「自分はダメなんだ」と打ちのめされずに済むんですね。
荒木:そうそう。僕はすごく痛感したんですが、これは子育てでも同じです。子どもに小言を言っても、「なんかうるせえな」というノイズぐらいにしか聞こえてこないので、基本的には受け付けないんですよ。ただ、相手が心が開いている状態の時に投げ込むと、ものすごく効果があるんですよね。
例えば、息子と一緒にお風呂入ってる時はすごく心が開いている状態なので、そういう時に「先日のあれだけどさ」と言うと聞いてくれる。だけど極端な話、朝急いで学校行こうとしてる時に「おい、ちょっと待て。先日のあの件……」なんて言っても、聞く人はいないじゃないですか。
フィードバックする側が、相手の心が開いてるか・閉じてるかをちゃんと見極めるのが大事なのと同様に、受ける側も「自分は開いてます」というサインを出すことによって、相手がフィードバックしやすくするわけです。
「なんかプレゼンうまくいかなかったけど、私のプレゼンがうまくなるやり方はないですか?」って自分からフィードバックを求めるのも、「開いてます」というポーズになる。そうすると、相手はなにか(フィードバック)を出してくれる。
これは逆もしかりですね。弱ってる時に(フィードバックを)もらうと食らうから、「今は受け入れられません」というのもちゃんと出したほうがいいと思います。「ちょっと今はマジで考えられないので、1人で内省します。また後日フィードバックください」みたいな。
――フィードバックをもらう時のコンディションをきちんと相手に表明することは、自分にとっても相手にとっても大事ですね。
荒木:フィードバックを受け止める時の最大のポイントは、「自己」という存在と「自分」という存在を分けることなんです。「自己」という感情を持った生き物を、「自分」という理性を持った存在が、遠くから見ているという感覚なんですよね。
ネガティブなフィードバックが「自己」に直撃しちゃうと暴走します。だから、それをちゃんと「自分」がプロテクトしてあげる。すごく比喩的な表現をしているわけなんですが、自分自身が今の自己の状況をちゃんと把握する。
自分が自己を応援できる状況だったら、ちょっと(フィードバックで心に)食らっても、「でも大丈夫だよ」という内省的なコミュニケーションができたりします。この「自己」と「自分」の関係性をちゃんと作るのは、先ほど言ったように内省でしかできないんですよね。内省の正体は何かというと「自問自答」です。
これは誰もが経験があると思います。物を書く、プレゼンする、TwitterやFacebookに投稿するとか何でもいいんですが、自分の評価と他者評価がずれる時があるじゃないですか。
「すごくいいものができた」と自分では思ってるんだけど、ぜんぜんリアクションや「いいね」が付かないとか。そうなった時に、だんだんと評価権が他者になっちゃう瞬間がありますよね。それがけっこう危険なんですよ。
――なるほど。他者の評価が自分の評価のすべてになってしまって、自分の評価軸がなくなってしまうんですね。
荒木:そうそう。「自己」と「自分」と「他者」の中で、「自分」が不在になっちゃうんです。「『いいね』がぜんぜん付かなかった。すなわち自分は価値がない」という状態になっちゃうので、危険なんです。
荒木:世の中に何かを生み出したり、発信していく時には、自分自身が信じられるかどうかが大事なんですよ。極端に言えば、自分が「良い」と言っていればいいじゃないか、という状態になれるかどうかが大事なポイントです。
インスタとかに「最高のものができた」と投稿した時に、他者が「いいね」しようが、コメントを入れようが、ゼロだろうが関係ねーわ、という状態になれたらいいですよね。でも、なかなかそうはなれない。なぜかというと、内省が足りてないんだと思います。
僕も文章や本を書いたり、毎週コラムを寄稿していて、フィードバックはダイレクトになってます。「ページビューがどうだ」とか、あったりするじゃないですか。でも、それに一喜一憂していたら、はっきり言って(メンタルが)持たないですよ。なぜかというと、(数字や他者の評価は)コントロールできないからです。
なんで読まれているのか、わからないコンテンツもいっぱいあるじゃないですか。もちろん、良くて読まれる・読まれないというのも変数としてあるんですが、意味のわからないところで読まれたり・読まれなかったりすることもありますよね。そこに評価を委ねちゃうと、本当にきついですよ。
「本当にこれは傑作だ」と言ってその通りになった時は(快感が)大きいですが、他者の評価は二次的なものであり、一番信頼に値するのは自分自身の評価です。まずはそこを育んだ上で、他者の評価を参考にするという構図にできるかどうかです。
参考情報じゃなくて、他者の評価そのものがすべてになっちゃうと、評価権を世の中に委ねちゃっているんですよ。これは危険です。
――ちなみに、内省や自問自答はどのように行えばよいのでしょうか。
荒木:言語化できるものじゃないので、これはすごく難しいんです。内面として湧き上がってきた言葉なのか、もしくは世の中におもねって「こういうすれば評価されるかな」という邪な気持ちとか、内面にもいろいろありますよね。
でも、何かを世に問う時とか、人前で話す時とかもそうなんですが、本当に自分の腹の底から出た言葉なのか、それとも浮ついた気持ちがあったのか、最後の部分でどこか踏み切れないものがあったのかは、自分にしかわからないんです。
「納期が来ているから仕方ないな」と、自分の中でぜんぜん評価できない文章だとしても、やむにやまれず割りきって出す仕事もあると思いますし、「完璧、傑作である。今の自分の能力でこれ以上のものは出せん」というかたちでやる仕事とでは、だいぶ違いますよね。だからもう、それは自分にしかわからないんですよ。
――「他人の評価が、自分の本当の評価だと思ってしまっている」というのはドキッとするところがありました。そうならないためにも、やはり内省は大事ですね。
荒木:Voicyの放送でも言ったんですが、100件のうち99件がポジティブなコメントでも、ものすごくネガティブな1件のコメントに足を引っ張られたりするじゃないですか。人間はそういうことが気になっちゃう存在だから、「そんなこと気にするな」と言ったって、心にはひっかかりますよね。
――1件のネガティブなコメントに引きずられると、ポジティブなコメントには目が行かなくなってしまいますよね。
荒木:そうなんですよね。だから、ちゃんと自分の意識をコントロールして、「所詮1パーセントの話だよね」ということがわかるかどうかは、その時のメンタル状態によって左右されるんです。
荒木:本当に落ち込んでいる時だと、「(ネガティブなコメントは)1パーセントである」ということを忘れて、過敏に反応しちゃう。「ああ、もう私はダメなんだ。人前に立つべき存在ではない」「物を書いてはならないのだ」という過敏な反応をしてしまうのは、人間だからそうなるのだと思います。
逆に言うと、(自分のメンタルが落ち込んでいる時は)サインを出す。だからフィードバックの際も、「もし深刻な話があるんだったら、あらためての機会で」という会話ができればいいと思います。それはやっぱりメタ認知というか、遠くから見ることにつながると思います。本当に、ダメな時はダメですからね。
言い方を間違えると傲慢にも聞こえたり、「他者の評価を軽んじるのか」という話にもなってしまいかねないんですが、多くの人はどっちかというと他者の評価がまともに直撃し過ぎであると感じているんです。
――確かに、他者に言われた意見をすべて「批判」として受け止めてしまったり、真正面から受け止めすぎて傷付いて、落ち込んでしまう方は多いと思います。だからこそ「自分が良ければいい」と思えたら、振り回されたり、変に落ち込むことも減りそうですね。
荒木:本当にそうなんですよ。正直言うと、僕だって内心ではそんなふうに思いきれていないんですよ。(心を守るために)「思おうとしている」というのが正しいですね。
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