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なぜメンタルは弱くなるのか? ~本当のこころの強さとは~(全3記事)

「まだがんばれる」で仕事を乗り越えても、うつ状態は再燃する 疲労や不安を感じた時に、やってしまいがちな“NG行動”

コロナ禍になり早2年が経過し、新たな生活様式が浸透しつつある一方で、コミュニケーションの希薄化により孤独感や生きづらさを感じる人は増えています。そこで本イベントでは、陸上自衛隊初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験し、約300件以上の自殺や事故にかかわってこられた下園壮太氏が、メンタルヘルスに関する悩みに答えました。本記事では、コロナ禍で増加した「メンタル不調」に有効な解決策を語っています。

なぜかわからないけど疲れる……その主な原因は「場合感情労働」

下園壮太氏(以下、下園):なぜかわからないけど疲労が蓄積していることを「ステルス疲労」というんですが、頭脳労働でも肉体労働でもなく、一番大きいのが現代人の「場合感情労働」です。お仕事は一応8時間労働までとか、残業も決まりがあるんですが、私たちの「感情」については、休みもどれだけでも働かせてます。

いろんな情報社会の中で、どんどん感情が刺激されます。感情が刺激されると、端的に言うと心臓がドキドキし始めるんです。それだけで疲れますよ。その時には、体にも緊張が走りますよね。そして、ずーっと頭で考えます。

そうすると、疲労がどんどん高まる。でもわけがわからないので、単なる疲労だけじゃなくて、3段階になるにしたがってうつっぽい精神症状のほうに流れていくと思ってください。ここまでは、コロナ前にもずっとあったことだと思ってください。

もう1個、コロナでその感情がさらに刺激されたことと、この環境の変化が非常に大きかったんだなと思います。それは「ライフイベント」といって、環境の変化です。いろんなことが書いてありますが、ここに書いてある点数は、それを乗り越えるのにどれぐらいしんどかったかという、アンケートによる平均値だと思ってください。

平均値をとる作業ができて、このグラフができた時に、また100人ぐらいの人たちにこのグラフ表を見せてました。「さぁ、みなさん。ここ1年間で、この表であったものにチェックをつけて、その点数を足してみてください。それが今のあなたの疲労度です」と。さらに、その人たちの1年間後を追いかけたんですよ。

そうすると、1年目に足した点数が150点以下だった人は、2年目に30パーセントの人が心身のトラブルを抱えました。150点から300点の人は50パーセント、300点以上の人は80パーセントの人が、翌年にはいろんな変化があって心身のトラブルになったんです。

つらいことだけじゃなくて、個人的な成功や、「子どもが生まれる」「(子どもが)独立する」とか、これはアメリカ(でとったデータ)なので「クリスマス」とか、楽しいことも私たちのエネルギーを使うと思ってください。

コロナ禍の「自粛」とは、すなわち「我慢」すること

下園:さぁ、コロナです。「家族の増加」というのは、家族(の人数)が増えたというよりも、ステイホームでぎゅーっと家の中に人が増えたということでカウントしました。コロナでありそうなものをばーっとカウントしただけで、286個あります。

もしそこに、転校や上司とのトラブルとか、コロナで誰かがお亡くなりになったとか、病気になったとか、あるいは入学・卒業がが重なった、借金が重なったりすると、軽く300点以上になると思ってください。

今お話ししたように、蓄積疲労値は非常にわかりにくいんですが、蓄積疲労が進む中でうつ的性格を刺激する4つの痛いところは、(スライドの)黄色い4つの痛いところ(過剰な無力感・過剰な自責感・過剰な疲労感・過剰な不安・焦り・後悔)です。対人恐怖も含めますが、うつの精神症状を非常に刺激するような環境が、実はいっぱいあったんです。

まず「不安」ですが、コロナの不安は生命直結の不安です。(仕事で)プレゼンができるか・できないかの不安とは、レベルが違うんです。だから、私たちは本当にいろんなことを考えます。コロナに対してもいろいろ(対策を)やるけど、本当に何がいいのかはわからない。

最終的には振り回される感じがあるし、マスクする・しないによってコロナが人からうつされるので、怒りや対人恐怖がずっとありました。そして、コロナになった人はすごく自責があって、「会社にすごく迷惑をかける」「もしかしたら、俺が誰かの(コロナの)原因になってるんじゃないかな」というようなことがありました。

さらに疲労というのは、例えばマラソンでも持続的に走っていると大したことないんですが、走って・止まって、走って・止まって……というストップアンドゴーを繰り返すと、大変疲れる。さらにこれ(コロナ禍)が2年続いていますし、この間にも自粛がいっぱいありましたよね。自粛とはいったい何かというと「我慢」なんです。

我慢もエネルギーをむちゃくちゃ使うと思ってください。だから(私たちはコロナ禍で)負担感・疲労感を非常に深めていきました。だんだんうつっぽくなって、うつや自殺が記憶化されると、PTSD的な苦しみが増加していく。

コロナ禍の自粛で、「ストレス解消法」を封印されていた

下園:実はコロナが出た2年前の3月ぐらいには、私は「この環境、やばいですよ」ということをいろんなところで言ってました。

ところが、リモートワークで楽な部分もあったり、だんだんコロナ自体にも慣れてくるんですよね。世の中の動きもだいたい読めるようになったので、今、ストレスがあると、まさに自覚しにくい「ステルス疲労」に晒されてるんだと思ってください。

緑の線が、「蓄積疲労の3段階モデル」の3段階・2段階・1段階となっています。そして日本中の人のエネルギー度の平均値を見てみると、(コロナ禍が)1年経った去年の3月ぐらいから、もう2段階にいました。(日本人の)半分ぐらいがすでにちょっとうつっぽくて、それがだんだん低下してきた。

不安への慣れもありますが、いずれにしても、疲労がたまってきていることを自覚していかなければならないと思ってください。今回のストレスを絶対に甘く見てはいけないと思ってます。不安や環境の変化、イライラ、我慢などで疲労が蓄積しているが気づきにくい。

そしてもう1個重要なのが、ストレス解消が制限されることは非常に大きいです。上島竜兵さんがお亡くなりになったことには、おそらくいろんな要因が関わってるとは思いますが、伝え聞くところによると、1週間のうち7日間は「竜兵会」で若手と一緒にわいわい言いながら飲み明かしたり、楽しい時間を持つことがストレス解消法だったと聞いています。それが、一切できなくなった。

“コップ”があって、そこにストレスが入ってくるんです。解消する作業があれば、なかなかコップは溢れないものなんですが、私たちはここ2年間、ストレス解消法を封殺されました。そして世の中には、楽しいことをすることに罪悪感を感じるような雰囲気さえありました。だから、楽しみやストレス解消ができなかったんです。

1人でパソコンを見つめ、雑談もできない「孤独感」

下園:それともう1個は「無力感」なんですが、無力感というのは自信の低下です。自分自身の能力だけじゃなくて、人と交流する・人と助け合うとか、「人と私はつながっている」と感じることも、自信をすごく補強するものなんです。

ところが都会に住む方々なんかは、1人でずーっとコンピューターを見ている。雑談もできない、交流ができないとなった時に、無力感の1つでもある「孤独感」を感じてしまったところがあります。

それと、攻撃性のある社会の雰囲気の中で、自責感と罪悪感も刺激されやすかった。そして、ずっと継続する不安感。そうすると(蓄積疲労の度合いは)2段階になってくる。2段階になってくると、今度はイライラが実際の人間関係も悪化させてくる。

そして、マスクをしていたり、リモートなので、どうしても相手の本音がわからない。どんどん悪循環に陥っていく状態にあったんじゃないかなと思います。

じゃあ、そういう今の状態をどうすればいいか? という話なんですが、まずみなさんにお願いしたいのが、いろんなトラブルがあるでしょう。心身のトラブルもあるし、仕事上のトラブルもあるし、気力が湧かないとか、不安が強いとか。

そういう時に、私たちは問題解決でソリューションを求めますよね。「自分の性格を鍛えよう」「心を強くしよう」「能力を鍛えよう」「事象に対して対処しよう」とか、要するにトラブルバスターしようとか、環境に働きかけようとか、いろいろあるでしょう。

みなさんが1段階だったら、別にそれでオッケーです。ところが、もしみなさんが2段階になっていて、疲労うつから偏った思考や感じ方に陥っていたり、あるいは身体的な苦痛から「あの人に対してなんかイライラしてる」とか、やたら不安になっているとか。

やたら自責を感じて、やたら自信がなくなって、表面的な人間関係のトラブルや仕事上のトラブルが出てきている時に、自分の性格やこの問題をどういうふうに解決するか。この問題解決の視点は、みなさんに「新たな努力」を強いるわけですよ。

「まだがんばれる」という思考が、疲労うつを深めていく

下園:「うつ状態の人にがんばれって言っちゃだめ」というのがありますが、自分自身、あるいは同僚に対する問題解決は「がんばれ」と言うことなんです。「まだがんばれる部分もあるから」とがんばったら、疲労うつを深めて、結果偏った思考や感じ方を深める。トラブルは一旦は収まった感じがしても、また再燃するというサイクルになります。

ここは表層なんです。じゃあ、どうすればいいか。本質を見極めてください。だったら、まずは休めばいいんです。ただ、休むといってもなかなか難しいのが、不安と不眠があるとずっと休めない感じがあるんです。なので、抗不安薬や睡眠薬といったものをうまく使うとよいでしょう。

そして、今日は(テーマが)疲労からのうつなんですが、それ以外にもうつ状態になるのは、例えばお薬のせいとか、他の身体的な病気のせいとかいろいろなのがありますから、受診をして、お医者さんの力や医療の力を借りるのはとてもいいことです。

そして休むためには、通勤が長かったらそれだけでもだめだし、あるいは専業主婦の方や家事が大変な方が、家にいて「休んでいます」と言っても、それは大変エネルギーを使うわけなんです。仕事も含めて、トータルでエネルギーを使わないような環境を調整することが「三大対処」だと思ってください。

今日は時間がないので詳しく説明できませんが、休養のポイントは睡眠です。睡眠については、みなさんもよく理解してないところがあるので、こういうデータをご紹介しましょう。洞穴に人間を入れて観察すると、だいたい8時間15分寝るそうです。だから、だいたいそれぐらいが(睡眠時間の)デフォルトだと思ってください。

(実験対象の)人間に、休みなく2週間なんらかの作業をやってもらいました。するとだんだん疲れてきて、パフォーマンスが落ちてきました。そうしたら、今度は6時間睡眠で同じことをやってもらいます。パフォーマンスがだいぶ落ちてきましたよ。

じゃあどれぐらい落ちてきたのかというと、その人たちを2日間徹夜させた時と同じぐらいまで落ちてきたんです。もう、本当に落ちてますよね。ところがこの時(2日)とこの時(6時間睡眠)は、ぜんぜん違うんです。

「うつっぽいな」と感じたら、まずは1〜2時間多く寝る

下園:「2日間徹夜した」と自分でわかっている時は、自分のパフォーマンスも低下した認識があるんです。ところが6時間睡眠の人は、「私は寝ている」と勘違いしてるので、徹夜した時と同じパフォーマンスしか出ないのに「私はいつもと変わらないパフォーマンスをあげています」と、自分は普通だと思ってるんです。

なので、「ちょっとうつっぽいな」「なんかおかしいな」と思ったら、とにかくいつもよりも1~2時間(多く)寝る。昼寝でもなんでもいいので寝るように心がけると、いろんなことが改善していきます。うつっぽい人には「9時間寝てください」とお願いしていますね。

とはいえ、精神科じゃなくてもいろんなお薬は出してくれるんですが、やっぱり精神科・心療内科はハードル高かったり、会社に(環境調整を)お願いするのも難しいな……と思う。その時は、もうみなさん自身の思考がだいぶ偏っている可能性があって、自分の軸がずれていることがあるんです。「何を大切にするか」が十分に客観的じゃないことがあるので、相談をして軸を戻す必要があります。

人はけっこう相談するんですよ。平成27年のデータで、「相談する人がいる?」と聞いたら、けっこういたんですね。なにかがあった時に相談したか? と聞いたら、(78パーセントの人が)「した」。そして、(実際に相談して)楽になったかと聞いたら、90パーセントが(「はい」と答えています)。やっぱり「相談する」というのは、みんな良いツールだって思ってるんです。

ですが、「うつ状態になって、死にたいと思っても相談しなかった」が、73パーセント。「自殺未遂をした時」も、51パーセントが相談してないんですね。なぜか。

うつ状態になったら、対人恐怖や不安とかから、「相談したら悪いことが起こるんじゃないか」「相談したら、自分の無能さがわかって会社からクビを切られるんじゃないか」「相談してもわかってもらえないんじゃないかな」というように、すごくネガティブに考えてしまうので、必要な相談ができないと思ってください。

「相談先」を作るのはバーチャルではなく、なるべくリアルで

下園:さぁ、そこでみなさんに今日のアドバイスです。ぜひ「相談先」を育てておいてほしいんです。例えば、自分が知らない間に2段階、3段階になって、うつになって、すごく思考が偏って別人化します。だから、自分1人では気がつきにくいんです。

特に理系とか頭のいい人ほど、自分の判断を正しいと思っちゃうんですよ。「俺はこの問題があるからこうなってるんだ」と理解してるんですが、それがすでにズレてるんです。

さらに、対人恐怖や自信の低下、自責の念・不安が強くなって、相談しづらくなってくるんです。こういう部分があるので、日頃から、うつになっても相談できる人にアタリをつけて、その人間関係を育てておいてほしいんです。家族でも同僚でも、友人でも先輩でもカウンセラーでも。

この時にいくつかポイントがあって、遠いバーチャルでのお付き合いよりも、やっぱり生身のほうが情報量が多いんですね。「私をちゃんとわかってくれる」「助けてくれる」という実感を持つには、生身のほうがすごく強いです。

コロナになってからすぐリモートになって、私も仕事はほとんどリモートなんですが、似たような予定があるとさっぱり記憶に残ってないんですよね。その人の人物像も、ほとんど入ってこないんです。もちろんカウンセラーとしてやる時には、その人に集中して内面情報をたくさん聞くので、カウンセリングはまだ成立するんですけども。

普通のお付き合いの中では、自分の力になって孤立感を癒してくれる感じは(あまりなく)、バーチャルよりも生身。コロナもだいぶ収束し始めているので、ぜひそういう意識で、もう一回交流を復活させてほしいです。

うつ状態になった時、支えてくれるのは「生身」の人間

その時に、単に「一緒にサッカーをやった」「ゲームをやった」だけじゃなくて、例えば「フェミニズムについてどう思う?」「フリーランスについてどう思う?」とか、いろんな価値基準を知っておかないと(相談できる関係性は構築できません)。

特に、この「うつっぽい」ということについての価値基準を知っておかないと、果たして自分がその人に相談していいのかどうか? というのがわからないです。親しいと思って、自分のことをわかってくれると思って胸を開いていったのに、「お前の努力が足りないからだ」ということを言われたら、すごく傷つきますよね。

このチャンネルは1人だけではなくて、複数のチャンネルを持ってください。デコボコはあってもけっこうです。「ここがダメでもこっち」「このテーマについてはこっち」「今はこの場所だから近くの人」みたいに、いくつかのチャンネルを育てておく。

現代社会は、1人で生きてネットとつながればなんとかなると思ってるかもしれませんが、うつっぽくなった時に本当に支えてくれる感じがあるのは、やっぱり生身の人間です。そして、生身の人間としっかり相談するから、みなさんが心が強くなる対応ができる。相談先を持つことで、心が強くなる。

自分だけでやるというのは、本当に浅い心の強さですよ。いろんなツールを使って、しぶとく自分の健康を守ったり、目標を達成する力を鍛えるのが本当の心の強さだと思っています。それでは私からのプレゼンはこれで終わりにして、質問を受けたいと思います。

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