2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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財前英司氏(以下、財前):じゃあ、また最初の前提のところへ行きますが、大前提の4つ目で「読むことで得た『知識』『視点』を『知肉』にするのが最終目標」と書いてあります。これも、本書の49ページから抜粋したものなんですけれども。
知肉の「知」が「知る」という、佐々木さんが考えられた造語なんですが、読むことの最終的な目標が「知肉」を育てることだと書いてあります。ご説明いただいたように、知識や視点を獲得するだけだと、ただの情報の集まりになってしまう。そこから「概念」を掴むことが、本書の中でも一番のポイントになってくると思っています。
佐々木さんは、それを動物の「ゾウ」で説明されているんですね。つまり、バラバラな個別の情報だと意味がなくて、概念として捉えないとダメだよと。「じゃあ、その概念って一体何?」というところについても、しっかり説明が書かれています。概念とは「さまざまな情報や視点を順番にまとめていって、1つの物語や全体像にしたもの」とされていますが、この「概念」について補足で説明をしていただいてもよろしいですか?
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):そうですね。さっき、江戸時代の末期に山がはげ山になっていた話をしたと思います。その延長線上で、僕は山登りが好きで、1,000メートルとか1,500メートルぐらいの日本の低い山によく登山に行くんですよ。
広大な杉林があんまり手入れされてなくて、中は荒れていて倒木がいっぱいあったりとか、間伐もされてないので低いひょろひょろとした杉ばかりが増えてしまって、けっこう惨憺たる状況なんですよ。
それを見て、「日本の山ってなんでこうなっているんだろう?」と考えるわけです。これは過去にいろんな本を読んできたんです。日本の森や自然とか、あるいは自然観とか。
佐々木:1つの情報として、日本はけっこう国土が広い。よく司馬遼太郎さんの本には、「極東の小さな島国が」と出てくるんだけど、「小さな」と言っている割には人口は世界11位だし。広さで言うと、例えば北海道をヨーロッパのノルウェーとか北欧のあたりに置くと、九州の端のほうはスペインぐらいまで行くんです。つまり、国としては国土の面積もむちゃくちゃでかいんですよ。
ただし6〜7割が森や山地ぐらいの比率で、大半は住めないんですね。それだけ自然が多いところである。だから、森林面積で言うと世界屈指であるというイメージが、まずは頭の中に1つある。「日本は広いけど山だらけの国である」という、これが概念なんですよね。
また別の概念で、江戸時代の農業についての本を前に1冊読んでいて。農業は専門家でもないし、詳しくないので大半のことは忘れちゃったんだけど、そこから1つの概念だけ覚えているのは、実は江戸時代には農業は持続可能ではなかったということ。
実際に今でも、「江戸時代に戻ろう」と言う人がいるじゃないですか。「あの時代はサステナビリティがあった」とか、人間のトイレの肥溜めから作物を作って、それを食べてまた肥溜めから戻すとか、「循環されていて江戸時代は非常に美しいエコシステムだった」と書かれているんだけど、実際にはそうではなかった。
人口はどんどん増えるけど田んぼが足りないので、新田開発を一生懸命やった。でも、新田開発をやって人が増えると今度はまた燃料が足りなくなるので、里山はすべて切り払われて全部炭にされていた。
実際に今、山に行ってみると、江戸時代の人が見たらよだれを垂らして喜ぶだろうなというくらいの木がたくさんあって、葉っぱも枝も落ちているんですよね。この江戸時代のイメージもひとつの概念です。その他にも本にはいろいろ書いてあったんだけど、僕の中の概念としては、江戸時代の農業には持続性はなくて、浮世絵の背景のように山が全部裸になっていたという話がある。
佐々木:もう1個情報としてあるのは、なんであんなに杉林が多いのかということです。これも何かで読んだんですが、本のタイトルは忘れました。戦後の日本は住宅難で、みんなが戦争から引き揚げてきても、焼け野原になって東京なんかに住むところはない。
戦後の復興期のヨーロッパなんかもそうだったんだけど、普通だったら住むところがないから、公営住宅をたくさん建てるんです。ところが日本が終戦直後何をやったかというと、「傾斜生産方式」です。
要するに、財政難だから住宅とかにお金を掛けている余裕がないので、製鉄業などの重工業にガーっとお金をかけて経済を盛り上げることによって、なんとか日本を立て直そうと当時の日本政府は考えた。住宅政策はまったく何もしなかった。その代わり、「みなさんは自力で家を建ててください」と。
そのためには材木が必要で、じゃあ杉を植えようということで、農水省が補助金を出しまくって全国に杉を植えまくった。こういう概念も私の頭の中にあります。
さっき言ったように、日本の山はすごく緑が多いわけですよ。放っておくとどんどんつるが生えて広がって、つるだらけの山になってしまう。それがさらに進むと、最後にはだんだんバランスが取れて、東北の山の中にあるブナ林みたいな美しい森になっていく。
『日本の美林』という本に書いてあったという記憶がありますが、そこまで戻っていくには100年くらいかかる。日本の自然の林がどういうものであるかとか、実は過去2,000年の日本の歴史の中で、山がほとんど裸になったことは3回くらいある。それが起きたのは平安時代と戦国時代と、江戸時代の末期ぐらいです。なぜかというと、人口が増える度に山を切っていたからなんですよね。
佐々木:何の本で読んだか忘れたし、家に帰ってパソコンを見ればメモはあるんだけど、頭の中に短い概念だけがたくさん保存されている。これはメモではなくて、本に書かれていたことの意味を抽出して、頭にも覚えられるぐらいにしたものなんです。それが「概念」。
今話した5つくらいの概念を全部集めると、日本の森に対しての時間的、空間的な世界観が見えてくるんですね。日本の森は杉林だらけで、なんであんなにつる草が生い茂ったのかについての全体像がふわーっとわかるようになるんですね。それが「世界観」です。
じゃあ、その世界観を元に、これから我々は日本の森をどうすればいいのかを考えなきゃいけない。その時に材料になるのが世界観であり、人と話す時にいろんなアイデアを出したり、あるいはこういうトークイベントで議論したりする時に、自分の中で「そうだ。日本の森はこうしなきゃ」という考えが浮かんでくる。それが「知肉」だという話なんです。
人と議論したりトークしたり、あるいは成果物を作ったり、本を書くでもいいんだけど、世界観に基づいて最後に落とし込むのが知肉にするということなんですよね。わかりましたでしょうか。
財前:僕は理解できましたが、みなさんはどうでしょうか。これも佐々木さんの本には書いているんですが、何で読んだかは忘れちゃっても、「こうだった」ということは概念として覚えている。情報や知識はパソコンにちゃんと保管してあるから、それを見れば出典はわかる。だから、メモリーを残したら忘れちゃっていいんですよね。
佐々木:そうですね。
財前:概念として頭の中にあるから、それらをつなぎ合わせることで、いくらでも話が広がっていく。
佐々木:そうですね。頭の中に32バイトくらいの短い情報しかない概念がいっぱい入っているので、「日本の森」というテーマを与えられた時にそれを引っ張り出して、「森と言うとこういう本もあるんだよ」「これも読んだ、あれも読んだ、こういう記事も読んだな」というのがワーッと頭の中に浮かんできて、「森ってこういう感じなんだね」という全体像が見えてくる。
実際にそれを原稿にする時にはそれだけじゃ書けないので、パソコンに保存されているメモアプリから、「あの本には何て書いてあったんだっけ?」と、本のタイトルを探し出す。もう一回原典にあたる作業はあるんですけど、基本的な作り方はそうです。
財前:なるほど、すごくよくわかりました。概念の捉え方はわかったんですが、そもそも『日本の美林』という本を読んだり、手に取って見つけ出すことって好奇心がキッカケなのでしょうか? 普通に生きていたら『日本の美林』という本には出会わないじゃないですか。
佐々木:そうですか? 森林に関心のある人たちの間ではけっこう名著です。
財前:そうなんですね(笑)。失礼しました。
佐々木:たぶん、関心としては山登りをするという前提があって、森や自然に興味があるんですよね。あと、Twitterやいろんなブログを読んだり、SNSを横断的に見ていると、本を紹介している人がいっぱいいるじゃないですか。
そういうところで「ああ、おもしろそうな本を紹介している人がいるな」とわかって、自分が森に関心があるというところにつながると、「買ってみるか」と。本の情報は、そういう日頃の情報収集から流入してくる情報の1つですね。
財前:なるほど。具体的な本の読み方や選び方も、本書に書いてありますよね。
佐々木:そうですね。漫画を紹介している人がネットに多いので、漫画とかは異様に読んでいます。
財前:この話は今日はするつもりがなかったんですが、読むことそのものが難しい本ってありますよね。書籍の中では『罪と罰』のお話も書かれてましたが、みんな『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』とか、ドストエフスキーってなんとなく聞いたことあるけど、実は読んだことある人ってほとんどいなかったりします。
トルストイとかもなんとなく知っているかもしれないですが、読んだことはない。そういう難しい本をどうやって読むんだ、ということも具体的な方法で(本書には)書かれています。
佐々木:そうですね。簡単に言うと、別に原典に直接あたらなくてもいいので、まずは入門書や漫画版を読みましょう。『罪と罰』は1冊になっている漫画版があって、これはけっこう読みやすくていいです。あと、『罪と罰』の理念だけをモチーフにした、19世紀ロシアではなく日本を舞台にした漫画があって。
財前:ありますね。
佐々木:あれは非常に素晴らしい内容です。そういうのを読んでいます。
財前:僕なんかは小市民なので、例えば資格試験の参考書とかついつい分厚くてたくさん解説や問題が載っているお得感があるやつを買いがちだったりするんです。でもそれより、薄くてわかりやすいものを何冊か読んで反復するほうが、理解が深まったりします。
佐々木:実は、今回の本で名著の入り口として一番すすめているのは、NHKでやっている『100分de名著』という番組です。
財前:確かに、あの番組はわかりやすい。
佐々木:伊集院光さんとかが出ているやつ。あれ、実はNHKオンデマンドで100円くらいで見れるんですよね。本にもなっているので、本で読むのもありだし。
財前:本にもなっていますね。1冊で全4回分の放送内容が掲載されています。
佐々木:こんなに薄いですからね。100ページくらいしかないけど、それを読むと難解な名著もすごくわかる。
財前:私も『カラマーゾフの兄弟』を『100分de名著』の本で読みました。亀山(郁夫)さんという有名なロシア文学者の方が説明されていて、わかりやすかった。
佐々木:ドストエフスキーの翻訳をされている専門家ですね。
財前:概念の捉え方について、すごくよくわかりました。今までの時間は本書に書かれていることをベースに質問させていただきましたが、残りの時間は情報や概念や世界観について、もうちょっと深掘りして聞いていきたいなと思っています。
財前:どんな情報を選んで、どういう情報源に当たれば良いのかをみなさんも知りたいと思うんです。ただ、実際にこれだけたくさんの情報が集まっていたら、何を読まないで・何を収集しないかはけっこう難しいですよね。
ビジネスや人生の上でも同じことが言えるのではないかと。つまり、「何がやりたいか」よりも「何をやらないか」が大事になってくるかと思うんですが、「やらない」ことについては、どうお考えですか?
佐々木:Twitterとかをやっていると、いろんな記事がいろんな人に紹介されていて、特に多いのがTogetterとかのまとめだったり、一番多いのが炎上もの。「誰それがこういうことを言って炎上した」「芸能人が不倫してて炎上した」とか、あの手の話はゴシップですよね。
純粋に暇潰しであって、読んでも得るものがないのでなるべく見ないようにしています。あと、人が人を罵倒しているのが、“バトル”みたいになっていたりするじゃないですか。そういうものも、読んでも何も得るものがないのでなるべく見ない。
別に見てもいいんだけど、そういうのを見ちゃうと人間性の暗黒面に引きずり込まれるというか、そういうものばかりに関心を持つようになってしまうと良くない気がする。人間、なるべくダークサイドに落ちないように生きているほうがいいと思うので、あまりネガティブなものは読まないようにするのは、けっこう重要な心がけじゃないかなと思います。
財前:あと、自己啓発本についても著書に書かれていましたよね。
佐々木:そうですね。実用書とか自己啓発、ビジネス書って定義が広いので、どこまでカテゴリーの中に入れるのかというのもあるんだけど、ある社会学者の人が「自己啓発はユンケルみたいなもんだ」と言っていて。
財前:栄養剤ですね(笑)。
佐々木:要するに、書いてあることはだいたい同じなんですよ。有名な自己啓発はけっこう読んだことあるんですが、どれを見ても「トイレを掃除しろ」「靴を磨け」とか書いてあるわけですよね。
結局、日常生活では仕事をしてみんな忙しい。「このままではダメだ。何とかしなきゃ」という時に、自己啓発本を読んで「よし。俺の目指している方向は間違っていなかった」と確認する。それはまさに、ドリンク剤を飲んで「よし。明日からがんばろう」と言っているのとまったく同じであるから、書いてあることがどの書籍でも同じである必要がある。
新しいことが書いてあるとみんながついて行けなくなるので、「先月読んだ本とまったく同じことが書いてある」ぐらいのほうがいいわけですよ。だから、ユンケルは常にユンケルであり続けてほしいという飲んでいる側の希望もあるし、いつ飲んでも元気が出るというね。
別にドリンク剤を否定するわけじゃないし、ユンケルだって飲めばいいんだけど、自己啓発は所詮そんなものなので、「ユンケルだけ飲んでいればなんとかなる」と思うのは間違いですよね。たまには飲んでもいいけど、日常の健康的な食事をすることや、睡眠と運動をすることのほうがそれ以上に大事だという、基本的な軸はブレないようにしたいなと。
財前:対症療法より体質改善をやっていく読み方とか、そういう情報の取り方が大事なんじゃないかということですかね。「何をやらないか」ということは、さっきおっしゃったように、ダークサイドやネガティブに陥る情報にはできるだけ接しないほうがいいということですね。
佐々木:よくあるんだけど、陰謀論系のもとには近寄らないほうがよくて。どういう用語を使っているのが陰謀論かというと、「真実」「正体」というワードはけっこう要注意ですね。
最近で言うと「ディープステート」と書いてあるものは、絶対に近寄らないほうがいい。ディープステートというのは、「プーチンは光の戦士」みたいなことを言っている人たちがよく使うワードなんだけど、陰謀論ワードにはなるべく近寄らないこと。
気を付けたほうがいいのは、テレビ・新聞の世代の年配の人。1980年代から1990年代半ばぐらいまでに自分の情報収集のベースができちゃった人はそうなんですが、テレビ・新聞の世代って、メディアに載っていることはだいたい正しいとみんな思っちゃっているんですよね。
実際に新聞やテレビって、言われているほど嘘ばっかり書かれているわけじゃなくて、9割5分は正しいわけですよ。たまに間違いはある。そのノリでネットの情報やYouTubeとかを見ちゃうと、つい全ての情報を信じてしまう。
頭の中に「メディアは真実である」という刷り込みがあるから信じやすくなっているので、新聞・テレビはある程度信じても構わないけど、「ネットに転がっている情報は半分嘘だと思う」ぐらいの心構えは持っていたほうがいいと思います。
財前:能動的に集める「プル型情報」と、受動的に受け取る「プッシュ型情報」ということですかね。そこについても本書で詳しく説明を書いていらっしゃるので、またご覧いただければと思います。
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