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堀田秀吾氏 インタビュー(全2記事)

人間は「とにかく意志が弱い」から、一番楽な道を選ぶ 周りに流されず、最適な「決断」をするための環境づくり

どんな場面でも「決断」は多大なストレスを伴うものです。優柔不断でなかなか決められない……という人でも、時には重要な決断を強いられる場面があります。迷いやネガティブな気持ちに惑わされず、より良い決断をするためにどんなことを心がければよいのでしょうか。そこで今回は『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』著者の堀田秀吾氏に、優柔不断の原因や、決断をスムーズに行うためのノウハウをうかがいました。

「決断できる人」と「決断できない人」の違い

ーー『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』を上梓されている堀田様に、今回は最良の意思決定を行うためのポイントをお訊きします。本日はよろしくお願いいたします。

堀田秀吾氏(以下、堀田):よろしくお願いします。実はこの本こそ、突然の決断で生まれた本なんですよ。別の本の打ち合わせをしていた時に、編集者さんに「こんなのを思いついたのでどうですか?」と言ったら、「そっちをやりましょうよ」という話になったんです。

その日のうちに企画書をまとめて、2日後ぐらいに企画会議を通してもらって、3〜4ヶ月後に本になっていた。これこそ、決断力がものを言った本なんですよね。

ーーすごいスピード感ですね。

堀田:サンクチュアリの中では最速で決まった企画らしいですね。今は10刷までいったので、世間で求められている考え方なんだなと、自分でもびっくりしてますね。

ーー「決断力」については多くの方が悩んでいるところだと思うので、ぜひノウハウをお訊きできればと思います。まず大前提として、「考えすぎてしまって決断ができない人」と「すぐに意思決定できる人」の違いはどこにあるんでしょうか?

堀田:「直感」と「直観」の違いです。直感は、いわゆるインスピレーションですよね。この直感と共に、最近の研究で言われているのが「直観」。英語で言うと「intuition」です。

インスピレーションの「直感」は誰にでも起こるもので、突然降って湧いてくるものです。もう1つの「直観」は、いろいろな経験や知識とか、自分の中で培われたものを土台に瞬間的に判断する能力なんですよ。

一番わかりやすい例が、将棋の棋士は「ここがベストじゃ!」って判断して打つじゃないですか。あれは彼らの経験があるからで、ド素人じゃできないわけですよ。直観力というのは、実はビジネスでも大切なんですよね。

「説明はできないけどこうなんだよ」「こうあるべきなんだよ」という直観力を持っているのが、すぐに決断できる人です。直観力というのは、とにかくすぐに決断をさせてくれるし、しかも正しい。与えられた状況によって、最も正しいものを瞬間的に判断させる力です。なので、まずは直観力を育てていくことが1つです。

自分なりのルーティンを持つと、すぐに決断しやすくなる

堀田:もう1つ。直観力とは関係ないところで、決めるためのルーティンを持っているかどうかがすごく大事なんですよね。本の中にも書いたんですが、初めての店だと何のメニューを食べようか迷うじゃないですか。「これもおいしそう、あれもおいしそう」と迷った結果、変なものを頼んで失敗するんですよ。

僕はいつもシェフのおすすめか、その店が有名になったメニューしか頼まないと決めています。オーソドックスなものは、絶対にハズレがないと踏んでいるので。だけどみんな、悩んだ挙げ句に変化球をして失敗するんですよね。あとは僕の本で紹介しているように、コイン投げで決めちゃうとかね。こういう、決めるためのルーティンを持っていると決断は早いですね。

あと、情報を集めすぎちゃう人はなかなか決められないですね。情報が多すぎると判断に迷うというのは、ダイクスターハウス(オランダのラドバウド大学の心理学者)の研究でも言われていました。考えれば考えるほど判断を誤るんですね。

「情報を集めなきゃいけない」というのは、不安からくる気持ちです。でも、情報があったほうが安心するというのは思い込みでしかないんです。「不安だから決められない」という側面もあると思うんですが、不安との付き合い方と自分の中でのルールを持っている人は判断が早いと思います。

情報量が多すぎると、つい優柔不断になってしまう

ーー情報過多で決断できない時には、どういう判断基準で物事を決めたらいいんでしょうか?

堀田:どの軸が大事なのか、優先順位をつけることが大事だと言われています。例えばわかりやすいのが、さっきのダイクスターハウスの実験(中古車を4台用意し、このうち1台だけある「お買い得」の車を、与えられた情報を基に当てられるかどうか)です。

12の情報を与えられた時に、「じっくり考える時間を与えられたチーム」と「考える時間が与えられなかったチーム」は同じ情報量だったのですが、情報も時間も与えられたチーム当たりの車を選んだ確率は25パーセント。車は4台しかないわけだから、偶然とあまり変わらない確率だったわけです。

それに対して、時間を与えられなかったチームは60パーセントの割合で当たりの車を選べた。これはまさに、今言ったことを実証している実験だと思うんですね。どういうふうに(選ぶ車を)決めたかと言ったら、例えば「燃費と走行距離だけは押さえておこう」とか、自分の中で一番重要視する要素を基準に考えたんです。

時間がないからこそ、優先順位を決めたらそれが正しい判断につながったということです。「これは情報が多すぎる。じゃあ、自分は3つぐらいの判断基準に絞ろう」とか、自分の中でルールを決めるためのメタルールを持っていると、決断が早いですよね。だからこそ、僕の本を読んでほしいなって思います(笑)。

ーーぜひぜひ(笑)。

堀田:冗談ですが(笑)。それから、さっき言った「直観」が一番大事だけど、直観は一朝一夕には育たないところがあって。これは理化学研究所が脳科学の立場から力を入れて研究しているんですが、将棋の棋士がどういうふうに直観を働かせているかという研究で、これは本当におもしろいと思いますね。世界に打って出られる、日本発の研究だと思います。

ーーそれだけ、「決断」について悩んでいる方がいらっしゃるんですね。

「人間の意思決定は、かなりの割合で自分自身の意思ではない」

堀田:それから僕の場合は、この判断が何年後にどういう影響を及ぼしているかを考えるんですよ。例えば、目の前にある唐揚げを食べようか・食べないかという場合に、今これを食べないことを2年後に後悔しているか? とかね(笑)。ちょっとした判断だったら「2年後には絶対に後悔しないだろうな」と、数年後の自分の視点を考えるとすぐに判断できます。

「考えないためのルール」を絶対に用意しておいたほうがいいと思います。心理学の世界では、「人間の意思決定は、かなりの割合で自分自身の意思ではない」というのが常識になっているんですよ。結局は自分が置かれた環境において、一番妥協できる方法でしか意思決定しないということです。

人間がどれだけ意思決定を環境に委ねているか。わかりやすい例として、ファストフードレストランが椅子を硬くして座りにくくしているのは、回転効率を良くするためですよね。あれは、環境として座りにくくなっているから、客も「なんか長居したくないな」と思って、出ていっちゃうわけですよ。そういう意思決定をさせるような環境を作り出しているということです。

同じように、公園のベンチではホームレスが寝ちゃうじゃないですか。これは、寝られる環境があるから寝るんですよね。寝られない環境、例えばベンチを手すりで区切ってしまえば寝られなくなるじゃないですか。そうするとホームレスは寝なくなります。ベンチの環境が、彼らの「寝る」という意思決定を阻害しているわけです。

「人間はとにかく意思が弱い」

堀田:環境が人間の意思決定をかなり決定していることを利用すれば、意思の弱さも環境でコントロールできます。タバコを吸おうか吸うまいかも、吸えるような場所が用意されていたら吸っちゃうけど、吸えない場所になったら「吸わない」という意思決定をするわけです。つまり、自分が決定するための環境を整えると早いかなと思いますね。

おもしろいのが、「家に帰るとついついだらだらソファで寝ちゃう」と言っていた知り合いが、「寝る」という意思決定ができないようにソファを捨てちゃったんですよね。

ーーすごい。物理的にできない環境にしたんですね。

堀田:そうそう。結局、人は物理環境に大きく依存するんです。環境をうまく整えていける人は、やっぱり決断できる人ですよね。人間はとにかく意志が弱いんですよ。与えられた環境で一番楽な方向に行きたいと思うので、そうしないための方法を逆算していくというのが1つの考え方です。

あとは、感謝の気持ちを持つようにするのもけっこう大切なのかなと思いますね。失敗した時に感謝すべきものは何か? と考えると、だいぶ色の塗り替えが行われるんですよね。「ここでこんな失敗があったけど、あの人が手伝ってくれたことはすごく良かったな」とか。

悪かった中でも、良いところを見つけて感謝していく。感謝の気持ちを持つかどうかで、寿命にも関わってくるらしいですよ(笑)。

学生時代、強制的に勉強する環境を作った堀田氏

堀田:さっき言った、ソファを捨てちゃう知り合いなんて究極です。あの人の話を聞いたらおもしろくてね、嫌なことがあっても「これはなにか神がくれたチャンスなんだろう」というふうに、感謝をしながら次の行動に移すと言っていましたね。

ーーソファを捨てるのはなかなか難しいかもしれないですが、すごいですね。

堀田:心理学の観点からも、(環境が意思決定を決めることを)理論としては知っていたけど、実践する人は初めて見ました(笑)。

『絶対忘れない勉強法』という本の中でも書いていますが、僕自身も意志が弱い人間でものすごく多動なので、いろんなことに関心がいっちゃうんですよ。でも(学生時代に)勉強はしなきゃいけなかった。

親父がDIY大好き人間だったので、赤ちゃんがよく座っているような、机を椅子を紐で縛った一体型のやつを作ってもらって、机から抜けられないようにしたんですね。そうしたら、トイレに行くのも、抜け出すのにもいちいち机の上に登らなきゃいけないから面倒くさくて、そこから動かず何時間でも勉強するようになりました(笑)。

ーーすごすぎる……。なかなか真似するのは難しいかもしれませんが、環境が人の意思決定を大きく左右することがわかりました。

周りの意見に左右されて、自分で意思決定ができない

ーー続いての質問なんですが、周りの意見に流されて自分の意思決定ができないことに対して、すごくモヤモヤしてしまうんです。人の意見に左右されず、決断するためにはどうしたら良いんでしょうか?

堀田:まず、僕はいつも「集団の意思が正しいとは限らない」とゼミ生に言っています。得てして集団の意思は間違った方向に進みがちだというのは、心理学の世界でも言われているんですよね。

例えばわかりやすい例が、アメリカのカルト集団。ジャングルの中で生活していたんですが、集団のリーダーが自決するという判断をしたら、みんなが真似して何百人も死んでしまったんです。それって、明らかに間違った意思決定じゃないですか。模範となるリーダーや周りがそうするからそうしちゃった、という部分もあるし。

声の大きい人の意見が通りやすいとか、集団の意思決定が正しい方向に進むとは限らないということを、まずは自分の頭の中に入れれば、疑いの目を持つことができるじゃないですか。「この意思決定で本当に正しいんだろうか?」と。

あと、自分の意見に自信が持てなくて言えないタイプの人。これは有名な心理学の意思決定の実験ですが、1人でも自分の意見と同じ人がいると、自分の意見に自信を持てるんですね。少数派だからって言えないわけじゃなくて、1人でも味方がいればいいんですよ。

誰かが「そうだよね」と言ってくれるだけで、だいぶ自分の意見に自信が持てるじゃないですか。とにかく味方を見つけて、自分の意見に自信を持っていくのも1つの手ですね。あと、最初に意見を言っちゃうのもけっこう大事です。あとのみんなは最初の意見に同調しがちということもありますし、自分の好感度も上がる。

自然界に「完全なもの」は存在しない

堀田:それから意思決定ができない理由として、こだわりが強すぎる人っていますよね。「こだわり」と「意地」の違いもあると思うんですが、本当の意味で大事なこだわりはあるとは思うけど、意地は要らないものですよね(笑)。本当は動かなきゃいけないのもわかっているけど、意地になって決断できない人もいます。

完璧主義にも2つあります。不安だからちゃんとやっていきたい人と、本当に完璧じゃないとすまない人。前者はちょっと強迫症的で、完璧すぎる、真面目すぎる人は決められない人が多いです。

自然界って、めちゃめちゃファジーなところがあるじゃないですか。実は人間って、100パーセント完全なものには恐怖しか感じないんです。例えば、かつらや整形顔に違和感を持つのは、完璧すぎるからだと言われています。完璧すぎておかしいものは、自然界に存在しない形なんですよね。

1/fゆらぎなんて話があるけど、自然界って少し歪んでいるんですよ。何かがズレていて、100パーセントじゃないんです。常に何かが欠けていて、不完全なものが自然界なので、完全なものには恐怖を感じるんです。

AIで作り出した映像やロボットとか、人間にどんなに似せても怖いのは、そもそも不完全さがないからなんですよね。「不気味の谷(心理現象の1つで、ロボットなどの人工物の造形を人間の姿に近づけていくと、人間に似てきた段階で急激に強い違和感や嫌悪感が惹起される現象のこと)」と言われますよね。

何が言いたいかというと、完全を目指しちゃいけないんですよ。ある程度でよくて、ちょっとファジーなぐらいが一番ちょうどいいんです。日本の「粋」の文化もまさにそうです。落語や歌舞伎なんかでも、すべての古典を全部押さえた上でちょっと崩したところが粋なわけじゃないですか。

KJ法を取り入れた、裁判員裁判の事例

ーーむしろ「完璧」を目指さなくていいと思うことで、決断に対するハードルが少し下がりそうですね。それから、そもそもの場作りの話になりますが、少数派の意見をきちんと取り入れようとする会議体を作ることも重要になってきそうですね。

堀田:そうですね。多数決がダメだというのは周知の事実なんですが、少数の意見を拾ってくれる仕組みを会議体の中に作っていくのも1つの手ですよね。

例えば、裁判員裁判ではまさにKJ法を使っています。裁判員裁判の研究をしていて、裁判官の意見がめちゃめちゃ強いので、裁判官が何か言うとみんなそれに流されて、それが正解だと思っちゃうんですよ。ところが、人の命・人生を決める裁判でそれはあってはいけないというのは、心理学者たちはみんなわかっていました。

その中の1つで、さっき言ったKJ法のような少数の意見を採り入れられる仕組みを導入する。みんなの前だから意見が言えないのであって、「1人10個ずつポストイットに意見を書いてください」といって意見を集めて、それをぺたぺた壁に貼っていって、意見の全体像が見えるようにするとか。

まずは環境が大事なんですよ。仕組みを作ってあげること。「なかなか意見を言えないので、こういうふうにやってもらうことはできないでしょうか?」と、自分が会議体を提案してみるのも大事ですよ。絶対に、自分と同じように、意見が言えない人もいるじゃないですか。まずは少数意見を拾える仕組み作りからですね。

ーー決断することに関しても、自分の意見を述べることに関しても、まずは環境づくりを行うことが大切なんですね。ありがとうございます。

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