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エンジェル投資家・小笠原治氏に聞く、スタートアップのメンタリングとマネジメント ログミー7年間の成長を振り返る(全3記事)

困っている人に答えを与えると「依存症」になる 起業家のメンターが説く、具体的なアドバイスがもたらす悪影響

9月14日に開催されたログミー主催のイベントに、創業初期のログミー株式会社にも出資をしたエンジェル投資家の小笠原治氏が登壇。ログミー代表の川原崎晋裕がモデレーターを務め、起業家の心が折れる瞬間やメンタリングについて意見を交わしました。

しんどくなる人は、物覚えがよく、生真面目な人が多い

川原崎晋裕氏(以下、川原崎):起業家の心が折れるパターンというのが、キャッシュ、人間関係、特に社内ですかね。またプロダクトが上手くいかないとか、いろいろあるかなと思うんですけど。

小笠原治氏(以下、小笠原):お客さんからの酷評とかね。結局、今の話は全部事業が伸びない要因で、事業が伸びていないから病むことが多いと思うんですよね。事業が伸びていても起こることだと、人間関係が一番大きいかなとは思いますけどね。

あと、しんどくなる人って、わりとよく覚えていて生真面目な人が多いですよね。

川原崎:最近『AERA』に、御社の牧田(恵里)さんの連載記事が……。

小笠原:はい。『AERA』に書いてあるので、ぜんぜん話をしてもいいんだと思うんですけど、実際に去年tsumugという会社はお金的にもすごくしんどい状態で、サービスが本当に伸ばせるのかなという状況で、僕ともけっこう揉めたんですよ。

川原崎:小笠原さんが取締役で彼女が代表ですよね。

小笠原:メンバーが20人ぐらいかな。なんとなくしんどくなった時って、どうしても周りが敵に見えちゃうじゃないですか。ちょっとしたひとことの裏を考えちゃったり。そういうものが積もり積もってしんどくなったと思うんですけど。

それよりはちょっと前、1回酷い時は、打ち合わせ中にパソコンに水をかけて出て行きましたからね。僕の言い方も悪かったと思うんですけど、「どういうこと?」って。喉乾いてるのかな、みたいな感じで。怒ってましたけど。

川原崎:自分のPCにかけたんですか?

小笠原:そうそう。やってられるかという表現を最大限にして出ていきましたね。

川原崎:なるほど、「もう仕事はせん」と。

事業が伸び悩んでいる時は、しんどさがすべてに波及してしまう

小笠原:そういうのだけじゃないけど、去年はしんどくて、お金もこのままじゃどうなのかなというギリギリのところまできて。(孫)泰蔵さんも含めて、バックアップを少し強めにするかたちにしました。牧田に「1回休んだら?」という感じにして、当初1ヶ月ぐらいって言っていたんですけど、結果3ヶ月ちょっとかな。

川原崎:今年の話でしたよね?

小笠原:今年の頭ですね。4月ぐらいに戻ってきてから資金調達が回り出して、わりといろんな方に入っていただいて。サービスも、今年は月平均で128パーセントぐらい伸びているんですよ。

川原崎:えっ、すごっ。

小笠原「TiNK Desk」というサービスの1拠点あたりの売上が2月と8月で4.5倍なので、かなり伸びていますね。そういうふうに事業が伸びてくると、やっぱり自分を見直せるというか。

僕は「まず事業ですよ」と思っています。やっぱり、しんどい時はしんどいことが全部に波及しちゃうんですよ。対応も悪くなるし。それを乗り越えてもう1回やれるかどうかみたいなところで、周りに人がいないと自分1人で戻ってこないといけないじゃないですか。しんどいですよ。

川原崎:1回失敗しちゃうと、スタッフに合わせる顔がないとか思っちゃいますよね。

「判断」は人間にとっての大きなストレス

小笠原:それまでは陣頭指揮をとっているわけですよ。その人が急に「諦めた。ごめん」と言い出したら、みんながどう思うだろうとか思っちゃうじゃないですか。それを思うと、ふだん陣頭指揮をとっているところに自信が持てなくなったりするという悪循環になるんです。

川原崎:超人と思われるよりは、低く見られたほうがいいですけどね。

小笠原:確かにね。スタートアップの経営者とか社長って、何でもできる状態じゃないとダメだと思っている人もいますもんね。

川原崎:私もわりとそう思っていたし、周りがそういうノリなイメージありますね。というか、経営の分業って、この企業規模とかだと、日本ではそんなに分かれていることがなくないですか?

小笠原:確かにね。例えば30人の会社で経営者が5人いて分業していたら、かなり効率悪いですよね(笑)。

ただやっぱり得意分野はあるので。判断って人間にとってけっこう大きなストレスなんです。何かを決めることは何かを捨てることなので、そこのストレスは分散したほうがいいような気もしますけどね。できそうに見えているのはソーシャル上だけじゃないですか(笑)。

川原崎:誰のことを言っているのかな?(笑)。

バーのマスターの経験をメンタリングにも応用

川原崎:次のテーマへ移らせてもらいまして。スタートアップのメンタリングって具体的にどうやっていくのかを、今までのご経験を踏まえていろいろお聞きできたらなと思います。

小笠原さんは、菩薩の顔をしている時と、心の中のヤンキーが表面に出てきている時のギャップがすごく激しくて、片面しか知らない人も多そうだなと思いながら見ているんですけど(笑)。

私はあんまり人の言うことを聞かないタイプだったりしますが、小笠原さんに言われた言葉はスパっと刺さる時が多くて。これを投資先全部に、要は起業家のパーソナリティに合わせて全部切り替えているんだとしたら、ほかの人は真似ができないんだろうなと思っているんですけど。

小笠原:僕、本業はバーのオーナーじゃないですか。普通にバーのマスターを想像してもらったらよくて、お客さんの興味関心とか、しゃべってはる雰囲気に合わせてしゃべるじゃないですか。単純にそれだけですよ(笑)。

川原崎:なるほど(笑)。

失敗経験が多いからこそ、起業家の助けになれる

小笠原:ただ、本当にいいバーに行けばものすごく勉強もされていて。2回目に行ったら、前にした話についてちゃんと調べて話してくれるマスターとかバーテンさんもいるけど、僕がやってるのはそれぐらいだし。

あと、自分からは投資先に声をかけないんで、向こうから来店してもらっている感じです。何かしらのコミュニケーションがある中で、「あっ、今こういう言い方をしているけど、もしかしたらこの後ろのことを言いたいのかな」とか。それこそ業界のことをわかっていないといけないから、調べたりしているだけで。

川原崎:でも、器用だなぁ。自分が経験したことを小笠原さんは全部経験しているのかなと錯覚するぐらい。

小笠原:失敗が多いですからね。滅茶苦茶失敗しています。だって2007年に動画のCtoCやろうとしたんですよ。2006年から作り出したのかな。当時ブログがCtoCのメディアとしては一番大きかったんで、ブログに入れられるアップローダー兼プレイヤーを作って、課金やドネート(投げ銭)もできるようにして、全部作って。VCから6億円、7億円近く集めて、それを始めたぐらいの時にYouTubeがGoogleに買収されて。

川原崎:まだ動画がそんなにきていない時代ですよね。

小笠原:オンラインゲームがやっとって感じですね。盛大にやらかしていますよ。でもそんな失敗はプロフィールに書かないじゃないですか。だからなんか上手くいっている人っぽくなるだけで、ひどい連帯保証債務を負ったこともありますし。

失敗経験が多いんで、今失敗しそうという時に相談されたら、そういうのはこうだよねーみたいな話になるだけで、成功側の相談をされても引き出しは少ないかもしれないです。

「あと5年はプレイヤーモードになる」と決めた

川原崎:なるほど。小笠原さんは、起業家が成功する上で具体的な事業のアドバイスというよりは、精神論みたいなものを含めて、心のケアをけっこう大事にされるイメージがあります。うちは猿、キジ、犬じゃないですけど、3人のエンジェルがいて、けんすうはプロダクトが大好きなので、滅茶苦茶具体的なアドバイスを超くれるんですよね。

小笠原さんはどっちかと言うと抽象的なご発言がすごく多くて。「やれ」とか「がんばれ」とか、「えっ、何、カワパラは悔しくないの?」みたいな。

片桐は魚の写真とか自分が獲ったシカの写真とか上げてくるだけのよくわかんない存在だったんですけど。3人いたから勝手に役割が分かれたのかもしれないんですけど、けっこう小笠原さんはそういうイメージがあります。

小笠原:そうですね、もう15年ぐらいプロダクト側じゃないので。最初の5年は遊んでただけですけど、あとの10年はどっちかというと投資とか。

この間、ある後輩にtsumugの採用のコンサルティングをやってもらおうと思ってしゃべっていたら、「小笠原さん、話がわかりにくい」って言われて。たぶん(話が)抽象的という意味で、「小笠原さん、この10年、自分の話を聞きたいかわかろうとする人とばっかりしゃべってきたでしょ?」と言われて。

確かに、となって。あと5年はプレイヤーモードになると決めたんで、今それをすごく変えようとしていますね。

困っている人に答えを与えると、依存症になる

川原崎:確かに小笠原さんは補足説明なしに、ドンッと言っていただけるので、言葉の意味を推測する作業はめっちゃしますね。どの文脈で言っているのかな? みたいなのを。

小笠原:きっと、そういう人とじゃないと会話が成立していないんですよ。

川原崎:あー、よかった。正解だったのか。

小笠原:うん。だいたい「答えをくれ」と言われることが多いんですけど、答えを出すと基本的に依存症になるはずなんですね。困ったら答えをちょうだい、という。(自分で)考えてもらわないと絶対に意味がないじゃないですか。だから、できるだけ抽象的なことを言うようにしてて。

川原崎:わざとやっているんですね?

小笠原:具体的なことを言う時は、どっちかと言うとスパッと線を引きたい時とか。「100万円貸して」って言われて、「10万円あげるからがんばれ」っていう。まぁ、僕にも借金あるけどね。

川原崎:手切れ金みたいですね(笑)。

小笠原:そうですね。具体的なことって自分の具体なので、僕が言ったことをその人の具体として行動されるのは無茶苦茶怖いですね。責任も持てないし。

川原崎:全部を真似する人もいますもんね。言われたとおりに動くタイプの方が。

小笠原:本当にそうするならいいんですよ。でも、答えを求めてきた人って基本そのとおりに動かないんです。お互いにとって無駄なんですよ。向こうもそのとおりは動かないし、こっちは責任を持てない怖さがあるし。この時間はなんだったの? ってなるから、できるだけ抽象的なことを言って、考えてくれと。そうなったら話が続き、キャッチボールができるというか。

メンタリングは答えを出すことではなく、壁打ちに付き合うこと

川原崎:基本のスタンスはやっぱりストロングスタイルかな? とは思いますが。

小笠原:わりとそれはありますね。

川原崎:困り果てて精神的にボロボロで、「小笠原さん助けて」と相談されたら、ひとこと言って自分でもっと考えてから持ってこい、みたいなアドバイスをしているということなのかなって。

小笠原:そうですね。その場で考えることには付き合いますよ。でも、基本的にはそこで答えが出るわけがないので、「視点変えたら?」とか、「それってこういうふうに受け取ってみたらどうなのかね?」とか。抽象的な話が多いですね。だから僕からは声をかけないというか。

川原崎:向こうから来たら答えるけど、みたいなことですね。

小笠原:そう。でもカワパラの場合は、お互いに抽象的な話ができるじゃないですか。話しやすいんですよ。なので、どれだけ(相談に)来ようがぜんぜん返しやすい。

メンターとかメンティーって言葉がいいのかはわからないですけど、基本は壁打ちでしかないと思っていて。投げかけられたことに対して返すだけで、投げたボールそのものが変質して剛速球を投げられるように渡せるわけではないので、基本的にこう投げたらこうだよね、みたいな。

そこの抽象度を高く保てないぐらい追い込まれていると大変だなという。追い込まれていると、具体ばっかりくれってなるじゃないですか。

人の考え方も行動も、劇的には変わらない

川原崎:今1,000万円足りないんだっていう話を持ってきているのに、銀行との関係性が大事だよね、みたいなことを小笠原さんは言ってそうですよね(笑)。

小笠原:そういう時に、そこ(抽象)をちゃんと入れないと、例えば今の銀行との関係性で言うと、具体なアドバイスを渡したとしても、その人はたぶん今度は5,000万円足りなくて、銀行との関係性も悪くてとか。絶対に大きい失敗になるだけなんですよ。

だからできるだけ視点を変えることと、抽象的に伝えて考えてもらうというのが自分の役割だと思っています。その時は恨まれる可能性もあるし、頼りになんねぇなー、みたいなことになると思うんですよ。でも別にそう思われたっていいしね、っていう。

ひとことで人の行動がパーンと変わる、考え方が変わることはないと思っているので、それよりは、その人が考える何かのきっかけになればいい。たくさんそういうきっかけがあって、何かのタイミングで、その人が変わるんだと思うんですけど。

「この言葉が自分を変えてくれた」と言う人がいるんだけど、人の変化って本当はもっと積み重ね、積み上げじゃないですか。その積み重ねの1個なんだろうなと思ってしゃべっている感じですかね。

川原崎:なるほどー。確かに無責任なようにも聞こえるし、相談している側からするとまっとう過ぎて(笑)。でも、確かにそれはそうだなぁ。

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