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2016年7月1日 講義「ヒトの認知機能と神経伝達物質」(全4記事)

「日本人は遺伝的に挑戦が苦手」脳科学でわかる国民性を中野信子氏が解説

脳科学者の中野信子氏が、上智大学で「ヒトの認知機能と神経伝達物質」というテーマの講義を行いました。「日本人は新しいものへの挑戦が苦手」と言われますが、これは環境の問題なのか、それとも遺伝の問題なのか? 脳科学的見地から、日本人の性質に迫ります。

男女で違うセロトニンの合成能

中野信子氏(以下、中野):次、行きましょうか。「男性のほうが不安になる傾向が高い」。○か×か。どうでしょうか。○と思う方?

(会場挙手)

女性じゃないかと思う方?

(会場挙手)

最近の学生さんはあれですかね。「男性のほうが不安になる傾向が高い」と思う方のほうが多いですかね(笑)。半々より若干「男性のほうが不安になる傾向が高い」という方のほうが多い感じかな。

セロトニンという物質があります。これを合成する能力が男性と女性で、これぐらい違います。

ちょっと古いものですけれども、1997年の『PNAS』という学術誌に載った論文から引用した図です。男性のほうが女性の1.5倍ぐらい合成能力が高いということがわかりますね。。

じゃあ、セロトニンってなんなのかというとですね。……こんなの見てもわかんないな(笑)。物質としてはこういう構造式です。意外と単純な構造の物質ですね。

こういう物質が、神経細胞のつなぎ目の部分、シナプスに、小胞という小さな袋のようなものに小分けにされて、神経細胞の末端に準備されているわけです。そして 電気刺激が伝わってくると、小胞が口を開けて、神経細胞に向けて放出される。シグナルが伝わることで、セロトニンが放出され、また次の神経細胞にシグナルが伝わっていくのです。

女性のほうが不安になりやすい

セロトニンは「人の気分に大きく関係している」と考えられていますけれども、セロトニンが足りないというか、使い回す能力がちょっと低い。そういう人では、セロトニンが不足していて、うつになりやすいといわれています。

セロトニンが足りないと不安感情が起こりやすい。さっきの合成能力を見ますと、これだけ男女で違うわけですから、女性のほうが不安になりやすいだろうなということが、ひと目でわかるわけです。

女性の場合はもっとやっかいな問題があります。生理周期。生理周期はこのようになります。

上の線は女性ホルモンです。女性ホルモンがこのように女性の体の中で上下していますね。高校か中学校くらいの保健体育とかやりましたかしら。やった? たぶんやると思います。

緑の太い部分、生理ですね。1ヵ月の間に1週間ぐらい生理期間がある。そのとき、女性ホルモンの値が下がってきます。

生理の前にある、この大きな山のちょっと前にある深い谷、これはなんだろうというと、これは排卵日ですね。排卵日、生理前、生理中に女性ホルモンは下がりやすい。そういう周期があるよということを把握しておいてください。

これと脳内のセロトニンの状態は連動しています。女性のみなさんは実感があるかもしれませんね。生理前にわけもわからずイライラしたり、泣きたいような気持ちになったり、ふだんは言わないようなことを誰かに八つ当たりして言ってしまったり、甘いものがほしくなったりとか。これはセロトニンがうまく使えなくなっているからです。

脳内のセロトニンの量と女性ホルモンの量が連動していると覚えていただけると。とくに男の人は得をすることができるかもしれない。女性の攻撃から身を守ることができるという(笑)。

今はあんまり役に立たないかな。大人になってから、もうみなさんは大人でしょうけど、職場に出るようになってから、女性の部下あるいは女性の上司を扱うときに、いまの知識がとても役に立つでしょう。

性格の不一致で離婚するのはナンセンス

さて、トリプトファンという物質があります。アミノ酸でできている。セロトニンの原料です。

セロトニンというのは、勝手に脳の中で自然に増えていくわけではなくて、食べ物から摂取されるアミノ酸のトリプトファンが原料になって作られます。なので、食べ物を食べないと、セロトニンの合成能が下がってしまうんですね。

トリプトファン、原料を欠乏させることで、どれぐらい合成能に影響があるかということを調べたのが、この図です。下側。

男性ではそんなに影響ないですね。トリプトファンを欠乏させても、それなりにセロトニンが合成されている。だけども、女性の場合は影響が大きい。激減している。ほとんど0になるぐらい。

今ぐらいの、20代前半ですかね。10代の後半~20代の前半ですかね。ぐらいの方で、男性はダイエットなさる方はあまりいらっしゃらないかもしれませんけど、女性は非常に敏感になる世代ですから、最近、頻繁にあるんじゃないでしょうか。ですが、あまり無理な摂食制限をすると、こういうことが起きます。

セロトニンを増やしたほうがいいよといっても、勝手に増えてくれるものではないので、食べもので、原料を増やすことで増やすしかないわけですが。トリプトファンを多く含む食べ物としては、こういうものがあります。赤身の肉類、かつお、まぐろなど。

あとは、ベジタリアンの人もいるかもしれないので、お豆腐とかですね。落花生とか。チーズもそうです。おもしろいところだと、パスタなんかも含有量が多いようです。不妊や肥満にもやや効果があるとされていますから、検討してもいいのかもしれません。

余談になりますけれども、男性と女性でセロトニンの合成量だけを見ても、生理的な違いが有意にあるわけです。共感を求めるとか同じ楽しい時間を共有したいなと思って結婚しても、3組に1組は離婚してしまう時代です。離婚の原因は、第1位はずっとこれですね。性格の不一致。

とはいえ、男性が見ている世界と、女性が見ている世界、これはもともと違うものと思った方がいいのでしょう。違うように認知するように、男性と女性はできています。

性格が一致するほうがめったにないことであって、もともとちがうのであれば性格の不一致をもって離婚するというのは、理由としてはちょっとナンセンスといっていいのかもしれない。

日本人は遺伝的に挑戦が苦手

では、6番目、いきましょう。あと2問ですね。

日本人は慎重で、新しいものへの挑戦が苦手と言われます。よくビジネス書なんかで言われますね。「日本人はだからダメなんだ」という論調で語られることが多いようです。6問目は、こうした日本人の特徴は、文化的な背景によるもので遺伝的なものとは関係がない、○か×か、という問題です。

わざわざ問題にするからには、と深読みしそうな人がいそうですけれども、○×、聞いてみましょうね。○だと思う方? 「文化的なものです」と。

(会場挙手)

遺伝的な要素が影響している、と思う方?

(会場挙手)

こっちのほうが少数派ですね。ありがとうございます。

答えは×です。これは遺伝的なものが、関係あると考えるほうが妥当です。遺伝が関係ないほうがよかったですね。努力の余地がありそうな感じがする。遺伝的なもの、と言うと、やはり一般受けは悪いのです。だけれども、遺伝的な要素がある。努力しても限界があるということになります。

「新奇探索性」って、聞いたことありますか? 聞いたことある方、どれくらいいらっしゃいます? あんまりいないかな? 英語ではNovelty Seekingといいます

ひらたくいうと、目新しいものに飛びついちゃう性質のことです。もう少しいい言い方をすると、これまでの安定を捨ててでも、新しいものに挑戦しよう、という性質といえるでしょうか。ドーパミンという物質が関係している。

ドーパミンというのは神経伝達物質で、攻撃性を高めるノルアドレナリンとかアドレナリンという物質の前駆体でもありますね。これらをつくるもとになります。

ではドーパミンそのものはなにをしているかというと、快感をもたらします。それから、やる気がでて興奮してドキドキする、いわば覚醒したような状態を脳に作ったりもします。

浮気の回数は遺伝子に左右されている?

このドーパミンは、今までになかった刺激が脳に入るような、新しい物事に触れると放出されて快感を感じます。そして、快感を感じたいために、脳は新しい物事を追い求めるようになる。これが、新奇探索性です。

しかし、新奇探索性には個人差があります。周りを見渡してみても、新しい物事や刺激が大好きなタイプと、新しい物事はあまり好きではない保守的なタイプがいると思います。それぞれ、新奇探索性の高い人、低い人、といいますが、これは、実は遺伝的に決まっています。なにで決まるかというと、ドーパミンのD4レセプター、DRD4の遺伝的なタイプで決まります。

DRD4の長さが長いタイプの人とそうでない人で、人間のある行動が変わってきます。新奇探索性の高さ、つまり、DRD4の長さが長い人と短い人とで、変わってくる行動、変わってくる数字が3つがあるんです。

なにがどういうふうに違うのかというと、まず1つめは、一夜限りの性経験がどれくらいあるか。DRD4の長い人のほうが短い人よりも、有意に多いんです。倍ぐらい。つまり、新奇探索性が高い人は、性的にもアクティブになりやすいということがわかります。

2つめは、浮気をした回数です。これもだいぶ違いますね。DRD4の長い人のほうが、浮気した回数が多い。もうこれは「浮気遺伝子」といってもいいんじゃないか、ということで、俗に「浮気遺伝子」と呼ばれることもあります。

3つめは、浮気した相手の数。これもだいぶ違いますね。

これは2010年の論文です。興味がある人は探して読んでみるとおもしろいかもしれません。

男性でも女性でも等しくこの傾向がありますので、浮気傾向が高い人なのかどうか。「できれば、あんまり浮気をしてほしくないな」と思う方は、DRD4の長さが短い人を選んだほうがいいかもしれません(笑)。

ただ、その人のDNAを見ることはすぐにはできませんから、簡単な見分け方としては、新奇探索性が低い人を選べばいい、ということになるかもしれませんね(笑)。

欧米人と日本人の遺伝子の違い

DRD4が長い、といいましたが、どんなところが長いのかというと、DRD4が神経細胞に生えているとき、その細胞膜の細胞質側、細胞の中に埋まっている部分の長さが、人によって違うのです。ここは、同じ配列の繰り返しの回数が多いか少ないかで長いか短いかが決まるのですが、繰り返しが7回以上の人とそうでない人で、振る舞いがだいぶ違うようです、というのがおもしろいところなのです。

これも遺伝子を調べたらある程度予測がつくことなので、そのうち振る舞いなんか見なくても、ご結婚なさる前に遺伝子を見て選ぶような時代がやってくるかもしれない(笑)。ちょっと危険な感じがしますかね。危険だな、こわいな、と思うタイプの人は、DRD4が短い人かもしれない。

あるいは、就職活動するときにも、そんなことがあるかもしれませんね。もう学校の成績じゃなくて、遺伝子で選ぶ。さすがにこれは私も恐ろしいような感じを受けますけれども。

さてそれでは、日本人は新しいものへの挑戦が苦手、というなら、DRD4の長さが短い人が多いということなのかどうか。日本人を含めて、世界各国でDRD4の長さが長い人がどれくらいの割合いるのか、を表にしたレビューがあります。

7回繰り返し型だけに注目してみると、日本人では、100人に1人ぐらいいる感じですね。1パーセントくらい。この教室の中に2人ぐらいでしょうかね。

7回繰り返し以上、というカウントの仕方だと、5パーセントぐらい。20人に1人ぐらいですかね。この教室の中だと10人ぐらいということになりますね。それぐらい人が、さっきの浮気傾向の高いタイプです、ということになりそうですね。

じゃあ、それに対して、ヨーロッパ人はどうなんでしょう。

ヨーロッパ人がどうかというと、7回繰り返し型の割合、デンマーク人では14パーセント。日本が1パーセントだったのに対してずいぶん多く感じますね。

スウェーデン人もやはり同じ北欧だからか同じような数字ですね。

フィンランド人だけ少しすくなくて、6パーセントです。これは、フィンランドの人々がもともとアジア系の人種だったということに由来するのかもしれません。

この表の中で、一番7回繰り返し型が多いのは、スペイン人ですね。なんとなく頷ける感じがするでしょうか。やっぱり南欧の血というか、ラテン系の血というのは、俗に、異性に対して非常にアクティブだといわれますけれども。遺伝的にもそれが裏付けられたということになるでしょうか。

さらに、アメリカに移住したヨーロッパ人たちのデータもあります。それなりにやっぱり高い割合で、もともとのヨーロッパにいた人たちより若干数字が高いです。

これは、ヨーロッパからアメリカに移住するという行動そのものが、高新奇探索性フィルタとでもいうような機能を持つのでしょう。今までの生活を捨てて新しい環境に乗り込む、という行動をとるか否かが、新奇探索性の高い人を抽出するフィルタになっているということです。

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