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フロントジッパー競泳水着 祭りの裏側を社長が語る

「水中ニーソ」で知られるデザイナー・映像作家の古賀学氏が中野・Bar Zingaroで毎月開催しているトークショー「月刊水中ニーソ」。2015年6月に開催されたイベントでは、フロントジッパー競泳水着で話題になった水着メーカー「REALISE」の中村圭介氏との対談を行ないました。このパートでは先代から2代目REALISE社長を引き継いだ中村圭介氏が、「マニアではない自分」を向き合い、フロントジッパー競泳水着を生み出すまでを語ります。ネット上で祭りになったきっかけは想定外の情報の漏れだった、など、意外な裏話も披露されました。

引き継いだ当初は何を作ったらいいのかわからなかった

古賀学氏(以下、古賀0:そして、その先代と2代目が、ここで切り替わるわけです。

中村圭介氏(以下、中村):2013年に出した、海外で人気のN-037というのが先代の集大成です。これも人気のハイネックタイプを使って。

古賀:色分けして。中村さんのデビュー作が、セカンドスキンという素材を使ったラインナップですね。

中村:そうです。

古賀:先代から2代目を引き継いだ理由を今、話してもらえますか。

中村:先代が病気で亡くなってしまって、さっきのAさんが作ってたKってついてるプロダクトも、ちょうど闘病生活中に「ああじゃない、こうじゃない」というのを僕が伝達したりしながらできたものなんですけど、ちょうどここで先代が残してたデザインというのが途切れてしまって。

お亡くなりになってしまったっていうのが、この境目になっているということですね。僕としては、確かに仕事は見てたけど、何を作ったらいいのかわからないというのが正直あって。

古賀さんがこの間Twitterで「オタクが怖い」とか「フェチも怖い」ってつぶやかれてましたけど、僕もその時、そういうのがもろにあって。せっかく今までいたお客さんに対して、これを投下していいんだろうか、という悩みもすごいあったんですけど。まぁ、ここはいっちょやってみるかっていうことで。素材自体もすごい優れたものだったので。これもある種、原点回帰で素材にさらにこだわって作りました。

古賀:そもそも、フェチ水着のブランドを作るときに素材から作るってちょっとおかしいですよね(笑)。

中村:そうですよね。

特殊な生地を使ってくれる場所としてのREALISE

古賀:先代の考えで、型を作るっていうのが1つと、もう1つは素材、布を作るっていうのがあって。

中村:それに関しても結構ちゃんとしてるなぁと思ったのが、やはり後でコピーされるっていうのが絶対問題として上がってくるので、バックミラーを見なくてもいい経営を目指してたみたいで、そもそもコピーをされないものを作ろうっていうのが念頭にあったみたいです。それで光沢加工もバンバンかけてっていうのが、こだわりだったみたいですね。

古賀:REALISEの先代が亡くなったのが2013年で、2008年創業からだから5年しか活動してないですね。

中村:5年ですね。形になる前の悶々とした時間は凄いあったと思うんですけど、ザァーッと駆け抜けたのは5年間っていう感じですね。

古賀:5年間の間に偽REALISEがいっぱい出てきたんですよね。

中村:言っていいのかわかんないですけど結構でましたね。

古賀:でもみんな残ってない。

中村:残ってないですね。バックミラーを見なくていいっていうのは、こういうことですよね。

本橋康治氏(以下、本橋):素材から作るとなると、それなりにリスクもあるわけですけど、それでもやっぱり「自分じゃなければ作れないものを作る」という考えが先代にはあったわけですね。

中村:そうですね。やはり古賀さんが渡邉さんとやっている全天球とかのテクノロジーとかもそうだと思うんですけど、工場が「すごくいい生地持ってるけど、これを使う場所がない」って悩んでいて。発表の場がないから引き出しの奥にしまっちゃってて、出てこない生地が結構あるみたいなんです。今はもう、「困ったことがあったらREALISEに持ってけ」みたいにしてもらってます(笑)。

古賀:発表会みたいなものの1つとして、REALISEがある。

中村:だから面白い生地が結構回ってくるんで、その辺はすごい助かってます。

本橋:必要以上に光沢が出過ぎてしまうとかいろいろあるでしょうね。技術を開発する人って、さらなる光沢とか強度とかを求めてエスカレートすることがありますけど、それがプロダクトとして受け入れられるかどうかは、また別の話ですよね。

古賀:REALISEさんって、マーケティングはゼロじゃないですか。その点で世の中のアパレル産業と、たぶん随分違っていて。最初は先代の熱い思いだけっていう。

本橋:生地メーカーの方でもてあましてしまっている技術って、実はあるんでしょうね。そういうマーケティングからは引っかかってこない技術が、REALISEのおかげで掘り起こされてきて。

中村氏が2代目を襲名した理由

古賀:それで、新しいロゴに変わるわけですね。

中村:これは古賀さんの発言があったから、というわけでもないんですけど(笑)。まぁ、ちょっと心機一転という感じで作って、一応商標登録も取ってって感じですね。

古賀:大手っぽいデザインですね(笑)。

【休憩】

古賀:前半戦は初代編でした。

本橋:ここから中村さん編ですね。

古賀:2代目、中村圭介、襲名。スケバン刑事みたいですね(笑)。

中村:ありがとうございます。

古賀:これは先代の生前に襲名したんですか?

中村:結論から言うと僕しかいなかったっていうのがあるんですけど(笑)。僕が一番知ってたんですね。一番こういうプロダクトに対して理解があったのと、経営的なこととか経理面もすべて理解していたのは僕だったっていうので、いちばん適任者だったということです。別に「任せた!」みたいな感じではないです。状況的に僕が一番継ぎやすかったし、僕もすぐイエスと言えたので。いいタイミングでした。

古賀:でも、普通に社員のお仕事をしていて、嫌だったらそもそも受け継がないですよね。引き継いでもいいかなっていうぐらい、REALISEが楽しかったってことですね。

中村:でも最初は「わけわかんないなー」と思いながらスタートしたんですけど。

フロントジッパー競泳水着の祭りは非公式な情報公開がきっかけ

古賀:中村さんは競泳水着フェチではないんですか?

中村:僕は正直、違いますね。これ言っても大丈夫なんですかね。フェチって何かという定義は難しいですけど。

古賀:フェチの定義も相当曖昧ですからね。競泳水着の愛好家ではないっていうことですよね?

中村:愛好家ではないし、コレクターでもないです。

古賀:ただ、事業として先代と一緒にお仕事をしていて、全然嫌じゃないし、むしろ面白いと。

中村:ありがたいことに、着用していただいている皆さんの画像を見て、「あっ、かわいいな」とか、「もうちょっとこういうエッセンスを入れた方が面白いのかな」っていうところに魅力を感じてやり始めたっていうところが強いですね。

本橋:そしていきなりブレイク作のフロントジッパー競泳水着が。これ、競泳水着じゃないですよね(笑)。

中村:そうなんです。そこは結構つっこまれたので。

古賀:でも素晴らしいプロダクトだと思います。

中村:一応名前だけ、どうしようと思ったんですけど。後で年表が出てきますけど、サンプルをアップした時点で祭りが始まって、僕らの公式のアナウンスじゃないところで勝手に広まっていっちゃったんで。「オイオイオイオイ」って。

古賀:情報が漏れてしまった?

中村:そうなんですよ。

古賀:名前は最初からフロントジッパー競泳水着なんですか?

中村:そうですね。語呂がいいのと、「フロントジッパー」っていうのがわかりやすいしっていうのがあったので。

古賀:競泳水着愛好家ではなくて、意外にオタクの人とか、エロからはみ出して萌えとかまで広がるところまで、人気の射程範囲がとにかくデカいなと思うんですよ。

中村:ありがたいことに。

ファッションという切り口で水中ニーソを考える

古賀:年表にいきます。

中村:これはさっきまでの壮絶なアレじゃなく、なんかゆるいですよね。古賀さんがREALISEのロゴいらないって言うので、ちょっと摩擦がチリチリって起こったところから、僕がロゴを変えて。Twitterで定期的に流してる「質問があったらリプライなりDMください」っていうところに、古賀さんからコンタクトがあって。

最初リプライで「ロゴかっこいいですね」って来た後にDMが来て、会いましょうかっていう話になって。その翌月に僕が東京に出張の予定があったので、カフェで密会から始まったという感じですね。

古賀:このときに、フロントジッパー競泳水着の話もしてましたもんね。

中村:そうですね。まさかこうなるとはという感じですけど。

(カチカチと変な音が鳴る)

古賀:なんか変な音がしますね。

中村:ラップ現象ですかね。もしかして初代……。

(会場笑)

古賀:初代ありがとうございます(笑)。

本橋:古賀さんのDMの内容っていうのは、会いませんかっていうものだったんですか?

中村:古賀さんは1月から「月刊水中ニーソ」をやるっていう時期ですよね。

古賀:そうですね。去年(2014年)の年末に本橋さんと水中ニーソの今後の展開みたいなことを話していて、展示とか出版は今までやってきたのでトークイベントをやりましょうという話をしていて。去年の10月にやったイベント(出演:菊地成孔+松永天馬+山口愛実+古賀学)が面白かったんで、延長線上で、っていうやりとりをしてたんですね。

水中ニーソとは何なのかって考えていて、アートなのか、ファッションなのか、ポルノなのか、オタクなのかって、いまだにわかってないし、自分で決めるべきではないと思っているけども、その中でファッションの切り口はあり得ると思ってて。だからこの時期、服作る人とかに密接に会っていたんですね。服作るっていっても、REALISEなんですけど(笑)。

本橋:シーズン1は、例えばハヤカワ五味さんとかもそうなんですけど、表現として身につけるものを作っている人にゲストに来てもらったんですよね。

カフェでの無駄話からスタート

古賀:身につけるっていう話の延長線でいうとREALISEもそうなんですけど、ただお客さんがアパレル扱いしていないというか。アパレルともちょっと違うんですけど、今まで会ってなかったタイプのクリエイターというか、クリエイトしてる人に会いたいっていうのがあって。会って、企んでいることを斯く斯く然々とお互い言い合って。

中村:そうでしたねー。このときは今日みたいなトークの話は全然具体的ではなかったですけど。

古賀:トークに出てくださいっていうのは割と最近ですね。

中村:このときは古賀さんがカフェですごい甘いもん食べてて、「甘いもん好きなんだなー」っていうぐらいの感じで(笑)。

古賀さんの今までの経歴をお伺いして、その時はまだ具体的な形はなかったですけど、この人だったら何か面白いことができそうだなっていうのは漠然と思っていて。自分自身も古賀さんに何か伝えられたかなってのはあったんですよね。この時は。

古賀:この日、面白かったのは、僕が仕事で関わっている某アニメのキャラクターの服を中村さんが作りたくて、版権元に直訴したら玉砕したっていう(笑)。

中村:玉砕でしたね。ちょっと待ってくださいって言って、すぐ帰ってきて「無理です」って言われてしまいました。

古賀:プラモデルを作っている部活の部長の服を出したいって言ってました。REALISEが作ると相当いいと思うんですよね。相当いいと思うんですけど、まぁ無理だろうなっていうとこもあるんですよね。

中村:無理ですねえ。

古賀:まぁ、そういう無駄話から入って。

中村:2015年になった瞬間に僕はいろいろ表に出たりとか、これまでとは違う売り方をしたいと思ってたので、とっかかりとして古賀さんとお会いするっていうのは僕の中では重要な出来事でした。

REALISEのメインの購買層は「ドメ用」

古賀:最近REALISEさん、中村さんとよくお喋りしてる中で「ドメ用」っていう専門用語があるんですけど。皆さん、ドメ用って聞いたことないですか?

中村:ドメ用はないですよね。

古賀:ドメスティック用っていう意味なんですけど、REALISEの水着をメインで買ってくださるお客さんが、「ドメ用なので」って仰るんだそうです。

本橋:従来のコアターゲット向けっていうことですか?

古賀:買って、買ったことも誰にも言わないし、恋人とか奥さんとかに着てもらって楽しむっていうための水着のことなんです。

本橋:それがドメスティック用と呼ばれていると。

古賀:パブリックとドメスティック。REALISEさんのは、パブリックなとこに出しても面白いプロダクトなんですけど、完全に今はドメスティックで。ただドメスティックな商売は面白いし、そこは大事にしたいっていうのがあって。

ドメスティックなラインはそのままで、パブリックなことも新しく始められるとREALISE的にも面白いんだけど、っていうのが中村さんの中にあって。

本橋:競泳水着フェチでは無いところから始まっているわけで、「自分にできることって何だろう?」みたいな。

中村:そうですね。

古賀:先代が築いた世界観は世界観として継ぐしかないし、それはそれで発展していくべきだと思うんですけど。それとは違う中村さんの世界観、そこに乗っかる形でっていう考えに至る入口が、僕の悪口だったっていう(笑)。

本橋:「ロゴはいらない」というのは、どうだろうかと。

中村:「あれ?」みたいな。

フロントジッパー競泳水着を受け入れる時代になっていた

古賀:そのロゴのこととは関係ないんですけど、フロントジッパー競泳水着なるプロダクトが、発表前に流出して大人気になって、祭り状態に。これは完全にドメスティックじゃないですね。

中村:やっぱりいけるんだって、その瞬間にちょっと思っちゃって。いけるんだって軽い気持ちじゃなくて、時代的にそういうハードルが下がっているじゃないですけど、受け入れられるんだっていう。

古賀:時代が違うって思いますよね。このイベントのトークでずっと言ってますものね。

本橋:発言者はバラバラなんですけど、みんな同じ思いですね。

古賀:時代がいいというか、この時代じゃなきゃ許されないプロダクトっていうか。フロントジッパー競泳水着も、5年前に出しててもだめだし、5年後じゃ刺さらないし。

本橋:やっぱりソーシャルメディアが重要なんですよね。

中村:うちに関しては確実にそうだと思いますね。

古賀:祭りの一部として、フロントジッパー競泳水着に刺激されて、絵を描く人たちが描きたくなっちゃって、pixivとかTwitterでバンバン描くっていう。pixivで特集までやってましたよね。フロントジッパー競泳水着の話題はネットのニュースにもいくつか出てました。

初回のロットは30分で完売

中村:この祭りが始まったのが3月6日で、サンプルの段階のものを上げられて「オイオイオイ」ってなっちゃったんで。実はさっき描いてた絵師さんとかは、物があるっていうのを気づいてないまま描いている人もいっぱいいるんですよ。

古賀:そうか。祭りになった後、誰かの絵を見て孫引が始まってたんですね。

中村:そうです。「これなんだ?」っていう。それで、3月25日に発売して、「実際、物があったのか!」っていうのと、「実際作ったのか!」っていう両方の反応があって、時系列がバラバラになっちゃってました。

古賀:祭りの後に作って間に合うわけないじゃん!

中村:絶対に無理です!

本橋:でも、そう見えている人にはそう見えるんですね。

古賀:ネットのリアリティーっていうのも面白いですよね。

中村:3月25日に発売開始したんですけど、僕は前日すごい寝たんです。たぶん売れるんじゃないかなと思ってたんで。そしたら30分で初回のロットが全て完売という。

古賀:すごい!

中村:ちゃんと祭りになった成果が出てくれて、ありがたいなと思って。これで受注が1件も入らなかったら、僕は何を信じて生きていったらいいのやら(笑)。

(会場笑)

中村:だからさっきも出たキーワードで、これを受け入れてくれるような時代になったっていうのは、皆さんが仰ってるように少しはあるのかなと、この時に実感しましたね。

古賀:ドメスティックに対するパブリックの意味が、時代によって違うんですね。

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