2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
尾原和啓×川村真司(全1記事)
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尾原和啓(以下、尾原):こんばんは、川村さん! ニューヨークからありがとうございます。さっそくですが、本(『ITビジネスの原理』)はいかがでしたか?
川村:いたるところに共感できる、面白い内容がありました。たとえばクラウドソーシング。クラウドソーシングによって、これまでアートをやりたくても出来なかった人が、うまく時間が使えることで出来るようになるかもしれない。まあ、クリエイターとしてはどんどん時間の取り合いが進んでいくので、それはそれでスピードが速すぎて心配だなとも思いますね。良き方向の先にある怖さ、自分の時間がなくなっていく怖さというか。
あとは尾原さんが“阿吽の呼吸"とも表現されている「ハイコンテクスト」には、ものすごく共感できました。世界の人がつながるマクロの意味と、日常の僕のやっている仕事でもありますがニッチの気持ちよさというミクロの部分。等感覚のところを探して、なるべく多くの人に伝わるレベルにする、最大公約数的に広げるという点はテーマとしてすごく面白かったです。
尾原:お聞きしたかったのが川村さんの作品、たとえばSOUR「日々の音色」のミュージック・ビデオなどを見てもまさに世界のつながりがありますよね。みなが参加していて、誰が見ても気持ちがいい。僕が本の中で書いたのはどちらかといえば文化や歴史に根ざしていますが、川村さんの気持ちよさは人間に根ざしていますよね。
川村:(笑)。僕はもともとシンプルで非言語、言葉やコンテクストに依存しない世界共通の「阿吽」を見つけられたら、それが最強だと思っています。色んな国を転々とする中で、特に広告をやっているとオーディエンス/コンシュマーのことを考えてクリエイティブをつくらないといけないので、あまりに細分化されたマーケットを意識することはありません。
インターネットは色んな国の人とつながるから、たとえば巣鴨の商店街のPRがおもしろかったらブラジルでもいけるんじゃないかとか、共感覚の狭い部分、世界をベン図で見るならば円が重なっている部分を狙った方がいいと思うんですよね。やはり言葉よりもビジュアル表現、誰もが共通してなんとなく理解できるものをベースにつくる方がいいと思うし、自分が単純にそういうものが好きだというのもあります。
尾原:面白いですね。言語化しにくいとは思いますが、たとえば共感覚というものは、どういうものなのでしょうか?
川村:難しいですよね。言葉にしづらいですし、言葉にするとすごく陳腐になってしまいます。あえて言うなら、当たり前のことですけど人と会えたらうれしいとか、好きな人とハグしたりキスするとうれしい。もちろんストレートに出すとそのまま過ぎるので、どうやってこの感覚を呼び起こせるのか、理解できる物語をつくれるのかなのかなと思っています。
尾原:川村さんの作品を見て思い出したのは「バーニング・マン(Burning Man)」です。バーニング・マンはラスベガス郊外の何もない砂漠に6万人が集まる祭りというかコミュニティなのですが、直径4キロの範囲に6万人が集まるので移動は自転車なんですよ。で、たとえば朝、自転車ですれ違う時に、みんな手を出し合ってハイタッチする。それがすごく気持ちよくて、どこの国から来たのかもわからないまったく見ず知らずの人なんだけどハイタッチの瞬間の「パチン」だけでつながっている感じがするんです。川村さんの作品を最初に見た時にそのことを思い出しました。
川村:それはうれしいですね。まさに垣根を気にせずハイタッチしているような表現を僕はしたいと思っています。誰かわからないけど「パチン」とやると、つながる、わかりあえる。そうしたきっかけがあれば人はもっと深くつながれるし、世の中はもっとよくなるんじゃないかと思います。まあ、言葉にすると陳腐ですけどね(笑)。
尾原:そこなんですよね……。まあ、僕は「とりあえず川村さんの作品を全部見ろ!」と言っていますが(笑)。
川村:ありがとうございます。それってインターネットだけを考えたとしても、言葉よりも見て体験する方が強いと思いますし。
尾原:そうですね。その方が広がりも速くなるし、人も動く。たとえばTEDx(イスラエルとイランの愛の物語)で、イランとイスラエルがいさかい合っている時に、イスラエル人が子どもを抱えた写真で「私、イラン人のことが好きなの」という写真をFacebookにアップしたら、今度は逆にイラン人が「イスラエル人のことが好きよ」とアップした。それでお互いに平和でいこうという気分が高まる。こういうムーブメントがインターネットによって起きやすくなっています。
川村:まったくそのとおりだと思います。言葉にすると大げさで陳腐ですが、意外と簡単なことなんですよね。シンプルなものの方が人の心に深く刺さります。
尾原:そういう作品を日々つくる川村さんが気を付けていることや、アイデアがうかぶ瞬間はどういった時だったりするのでしょうか。
川村:先にいる人に向いてつくりたいということは気をつけています。たとえば、台湾のすごく小さい店舗のPRをするにしても、僕が「日本でも広まってほしいな」と思えば、その瞬間にスイッチが入る。日本と台湾が重なる部分、世界のベン図の真ん中を当てにいきたいと常日頃から思っています。
アイデアが浮かぶ瞬間は……バーに行って一人で考えるとか、ステキなクリエイターのイメージでは僕の場合ぜんぜんなくて、普通に机の前にいて、白い紙を置いて考えるという感じです。自分が鉱山労働者だったら、カンカンカンと土を掘っていって、金脈がなかったらまた戻って別のところを掘る。当たっても別のところに行ってみようなど、全方位で考える方ですね。
僕の作品はインターネットやデジタルを使ったものが多いので意外に思われるかもしれませんが、けっこう手を動かして考える方ですね。スクリーンやパソコンの上で考えてしまうとどうしても解像度が違うんですよね。
尾原:身体を使って考える?
川村:そうですね。ツールで発想や考えるものが変わる気がするので、できるだけそれに縛られないようにしたいと考えています。といいつつも自分自身にも囚われたくないので、こだわりすぎないです。
川村:コンテクストの話でいうと、日本では僕が本来グローバルにやりたいなと思ってやってきたことが、日本以外では求められないケースもあります。さきほどの台湾のお店の例だって、お店からすれば売れて儲けが出ればいいわけで。
尾原:ベタベタのローカル・コンテクストでもいいわけですものね。
川村:そうなんです。だから否定するのとはまた違います。扱い方というか、文化的なもののさじ加減。僕も日本人なので影響を受けていると思いますが、他の外国の人よりも微妙な違いを嗅ぎとりやすいですし、なんとなく染みついています。言葉にしづらい部分を、においとして嗅ぐ。
簡単なことなんです。みんなが思う日本、たとえばマンガやクールジャパンなど言葉にすると真似できると思ってパッケージにしようとしてしまいがちですが、ものをつくっている人たちからすると「おいおい、そこじゃないだろ」と思ってしまう。”おもてなし”だったり、インタラクションの距離感というか。日本っぽさはそこだと思うんですよ。
言葉にはまったくできないのですが、「阿吽」と言ってもいいかもしれないですし、「こうきたら、こう出る」みたいな、脊髄反射的に染み込んだ部分が日本の魂なのだと思います。
尾原:インタラクションの距離感。すごく良い言葉だと思います。そこが読み解ければ、なぜ世界の人に受け入れられるのかがもっとよく見えるのかもしれませんね。本日はありがとうございました。
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