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シートン動物記「狼王ロボ」刊行記念イベント(全3記事)

シートン動物記の世界が蘇る--清川あさみらが語る「狼王ロボ」の魅力とは

2015年6月21日、都内で行われた「シートン動物記『狼王ロボ』刊行記念トーク&サイン会」にアーティスト・清川あさみ氏、RIZEドラマー兼俳優・金子ノブアキ氏、翻訳家・金原瑞人氏が登場。リトルモアより発行されている“清川あさみ絵本シリーズ”の最新作となる『狼王ロボ』について、それぞれの読書体験をもとに作品への思いを語りました。

シートン動物記「狼王ロボ」刊行記念イベント

司会:清川さんは、私どものリトルモアで本をもう8冊出していただいています。そのうち、翻訳物は全て金原瑞人さんが訳してくださっていて、今回の『狼王ロボ』も訳していただきました。本日は清川さんの強いご希望もあって、ぜひということで、金子ノブアキさんにお越しいただきました。

金子ノブアキ氏(以下、金子):ありがとうございます。

司会:では、まずは清川さんと金子さんの出会いからお話しいただけますでしょうか?

金子:最初はライブに来てくださって。

清川あさみ氏(以下、清川):そう「男祭り」。

金子:僕のスタッフを介して知り合って。それからあさみちゃんの作品にたくさん触れるようになりまして、コラボレーションしたいです、とかって感じかな?

金原瑞人氏(以下、金原):それ、いつ頃ですか?

金子:最初は5年前とか6年前とかですね。

金原:どこかって覚えてらっしゃいます?

金子:最初は新木場でしたかね? スタジオコーストっていうところで。RIZEっていう、もう非常に行儀の悪いバンドをやってるんですけど。

(会場笑)

金原:清川さんはその行儀の悪いバンドを見に行ったの?

清川:もうみんなダイブしてるような、汗の臭いがたくさんするような場所に行かせていただいて。

金原:どうでしたか?

清川:なんか、その時に見た印象と、2人で話した時の印象が全然違う人だなっていう。

金原:2人で会ったのはライブの後?

清川:ライブの後に挨拶をして、その時に初めて会ったんですけど。なんかすごいいろんなものが中にある人だなぁと思ってます。

金原:おぉ~。

清川:いつもはかっこいい演奏というか、音楽をやっているんだけど、実際会って話すとすごいアーティスティックで繊細で、だけど男気があって。いろんなものを中に持ってる人だなぁって思って。

金原:そうなんだ。

清川:そうそう。それでちょっと興味が出て。それまでずっと女性ばっかり作品にしてきたんですけど「男はやりません」って言って。

金原:そうだよね、言ってた時代があったよね。

清川:なんか、いつの間にか「女性を知るためには男性も知らないと」っていう気持ちになって。

金原:別に知らなくてもいいと思いますよ(笑)。

清川:それもありまして(笑)。

金原:そういうふうに、女性を知るために?

清川:そうそう。あとはファンの人がやっぱり男性を見たいっていうのもあって。

金原:清川さんの見る男性を見たいと?

清川:そうです。それで最初にお願いしたのが金子くんだったんです。

金子:第1号です。林海象さんってわかりますかね? 海象さんがカメラのシャッターを押すということで、映画撮るみたいだったよね。

清川:そうだよね。

金子:「アクショーン!」って言ってね。泣いてるところを撮りたいっていうことで、2~3分待ってもらって。さあ出たっていうところでバシッと撮って終わり。

金原:じゃあちょっとここでやってもらえますか? 2~3分待ちますので。

金子:それはギャラが発生します(笑)。

(会場笑)

清川:大人な感じで。

金子:でもねぇ、空気が良かったんですよ。やれましたね。

金原:それ、どこで撮影したんですか?

清川:学校を借りましたね。そこでスタジオを借りて。「男糸」っていうのは「男」に「糸」って書くシリーズなんですけど。男の人は採集されたくないじゃないですか。

金原:そうですか? 清川さんなら別にいいよね?

清川:そうですか? そうなんですけど、違うコンセプトでいこうと思って。女性の裏側を動植物にしていく「美女採集」っていうシリーズをずっとやっていたんですけど、やっぱり男って生き様じゃないですか。

金原:男は生き様ですか。

清川:男はやっぱり社会性とか、その人の才能だとか、その人の背中とかもういろいろなものがある。それを糸で表現したいと思ったのが「男糸」シリーズだったので。

アーティスト兼俳優・金子ノブアキの魅力

金原:金子さんって言った時に、この中でも何が一番強烈に印象に残ってます? 「これを表現したい」っていうのは何でした?

清川:繊細さ。

金原:おっ、そこに行きますか。

清川:うん、あんなにむちゃくちゃドラム叩いてるけど、ものすごく優しい人だなぁって思ったんですよね。それで、裏テーマをミカエルにしたんですけど。

金原:天使?

清川:そう、天使天使。

金子:なんか結びつけてね。各被写体の方を歴史の人物とかに例えて刺繍するっていう企画だったんですけど。羽、生えてましたね(笑)。

清川:っていうのが最初でした。繊細だし、ピュアだし、男気もあって、っていういろんなものが重なってそれにしたっていう。羽を生やしました。

金原:金子さんはそういうふうに羽を生やされてどんな気分?

金子:これ、俺を上げてくれるような話はいないところでしてもらいたいなって思いながら今聞いてたんですけど(笑)。目の前で聞いてるとなんか熱くなってきちゃった。

金原:泣いていいですよ?

金子:いや、ギャラが発生します。(笑)。

(会場笑)

清川:そうなんですよ。

金原:なるほど~。

金子:モノクロで写真を統一して。僕はバックショットだったんですけど、全員そういうわけじゃないもんね?

清川:全員違います。

金子:男の人は背中から撮りたいんだって言ってて。

清川:本当はみんな裸にしたいぐらいなんですけども、それだといろいろ問題があるので難しいじゃないですか。

金原:知りません、それは……(笑)。

清川:服って邪魔じゃないですか? 作品に、服って。途端に説明的になって、途端にファッションになってしまうので、服はあんまり本当は好きじゃないんですけどね。

金原:じゃあ着せなきゃいいじゃない。

清川:でもいろいろな問題があるので、脱いでる人と着てる人がいます。

金原:その分け方は?

清川:自分から脱ぐ方もいらっしゃいますし。

金子:自分から脱ぐ人もいるの?

清川:いるいる。「脱がなくていいっすか?」って。自分に自信がある方は。

金原:というわけで、第1号に?

清川:第1号にしちゃったぐらい。

金原:惚れてたわけですね?

清川:プライベートもお仕事の時の金子くんもすごいおもしろいなぁって思っていて。

金原:その後もライブに行ったり?

清川:そうそう。最近ソロでやってらして、それを聞きに行ったんですけど、すごいシンプルなライブで。

金子:ギタリストとマニピュレーターの方と3人で。僕はドラムを叩いてボーカルもとって、っていう形でやったんですけど。楽しかったです。

金原:そっか~。その話してるとすぐ1時間終わっちゃうからね。今日はその話じゃなくて(笑)。

(会場笑)

清川あさみと金原瑞人の作品づくり

清川:金原さんは本当にずっと翻訳をしてくれてるんですよ。

金原:でもね、1つ断っておくと、清川さんは僕の翻訳を読んで作品を作ってないですよ? 1つも作ってない。

(会場笑)

清川:こらこら(笑)。

金原:他の翻訳でイメージを固めて。僕の訳文と本になった時に一体感が出てくるというのは何なんでしょうね?

清川:それはですね、いつも最初はどの話を選ぶかっていうところから編集者の方と始まるんですけど、今この時代に何を作ったらおもしろいかっていうことをいつも話し合って、すごい話し合って。で、世界の名作を生まれ変わらせるっていう企画なんだけども……。

金原:そうなんですよ。

清川:でも「昔読んだけど、今どう思うんだろうね? その話」っていうの、多いじゃないですか。

金原:それはそうだよね。僕も実は「狼王ロボ」は小学校の時大好きで、何度も繰り返し読んだんだけど。「狼王ロボ」とかね、「ギザ耳ウサギの話」とかね、「伝書鳩アルノー」とかね、シートンが大好きでよく読んだんだけど、ロボを訳してみて、こんなに短かったとは思わなかった。もっと長いと思ってた。

清川:そうなんですか? でもロボはすごい金原さんが好きな話だって聞いたんですよね。で、金子くんもすごい好きみたいで。飼ってた犬がロボっていうぐらい。

金子ノブアキと「狼王ロボ」の出会い

金子:僕の飼っていた犬じゃないんですが。両親が音楽家なんですけど、子どもの時に仕事の関係で2ヵ月ぐらいフロリダに暮らしたこと時期があって。僕が5歳ぐらいの時かなぁ。

ちょうどその頃にロボを読んで、すごい好きだったんですけど、子どもの時だから「狼かっこいいな」ぐらいの感じ。深いところとか、男のセンチメンタリズムみたいなものは全然わからないで、漠然と捉えてたんだけど。

その時にお世話になってた家族がこんなでっかいシェパードを飼ってて「ロボ」っていう名前だったんです。そのフロリダのロボは、じゃれてきてくれるんだけど、5歳児なんで、圧倒的にもう「やられる!」っていう……。

金原:怖かったでしょ?

金子:トラウマというかちょっと畏怖みたいなのもあって。で、ある日の朝、パッと庭に出たら、そのロボが死んじゃってたんですよ。何かよくないものを口にしちゃったかなんかで、バッと倒れてて。だからその時って、このお話もそうだし、不思議な類似で、なんか記憶が混同してたんですよね、ちっちゃい頃ね。

それからしばらく、これを読ませてもらうまで「狼王ロボ」に目を通すこともなかったので、30年近く経って「うわ~、懐かしい!」と思って。今読んだら本当に響き方が違うし、もちろん自分が大人になったからっていうのはあるけど、全然感じる深さが違くてね。なんかいろいろ記憶の旅もできましたね、今回はね。すごい経験をしました。

清川:ちなみに私は、全然この「狼王ロボ」を通って来なかった人なんですよ。で、今回このお話をやるって言ったら、もう男の人がみんな好きで、びっくりしました。

金原:この中で「実は狼王ロボ好きでした」っていう方、どのぐらいいらっしゃいます? 何人かいらっしゃる。女性でもいらっしゃいますね。

清川:主に男性が多い。

金原:圧倒的に男でしょう、シートンは。

清川:そうなんですか。私もすごい難しかったです、今回書くの。

金原:あ、わかる。じゃあそろそろ、清川さんの難しかった話を……。

清川:ふふふ(笑)。

アーティスト・清川あさみが描く「狼王ロボ」の世界

金原:今までの作品とはテイストも違えば、作品の最後に悲劇があるとか。何が一番大変でした?

清川:金原さんといつも、ほら、いろいろ絵本やってるじゃないですか。すごい自分が共感できたり、入り込める物語。大人になって読んだら全然考え方が違って、今はなかなか入り込めない物語とかがあったりするんですけど。例えば「人魚姫」とか。

金原:「人魚姫」に入れない?

清川:「人魚姫」は子どもの時に読むと、すごいかわいいし「なんだ、この海の中の物語?」みたいな感じ。

金原:今読むと?

清川:今見ると、もう人魚姫の気持ちもわかるし、王子の気持ちもわかってしまうんですよ。

金原:あっ、王子の気持ちまでわかりますか? 鈍感でどうしようもない王子の気持ちもわかる?

清川:結局足がついてる人を選んでしまって、ね。

金原:人魚だって最後までわかんないんだよね、あの王子。鈍感で。

清川:そう、鈍感なんです。大人になってくると、いろんな人を見るじゃないですか。だから、いろんな立場で物を見るようになってしまってる自分がいて。

いつも絵本のシリーズって、視点が主人公になったり、相手になったり、いろんな立場になっていって物語を作っていくんですけど、今回は「いかにロボをかっこよく描くか」を考えながらやっていて。どっちの目線というか、私はわりと両方持ってるなぁと思って。

金原:「どっち」というのは、ロボの視点と、もう1つは、殺すほうの視点?

清川:いや、ブランカです(笑)。

金原:そっちか!

清川:結局動物のほう。だから人間はまた……。だから人間として見ちゃいます、この話。

金子:そこの三つ巴がすごく、逆に新鮮で。人間から見た狼もすごくイメージできましたよね。もちろんロボとブランカのお話だったりするんですけど、その三つ巴だなっていうのは、すごく感じました。

「狼王ロボ」のシーンに込められた思い

『狼王ロボ』リトルモア刊)より

金原:今回、殺す側の視点っていうのが僕の場合は非常に強い。前半ロボのエピソードが進められてきて、いきなり殺しに来るわけじゃないですか「いかに殺すか」って。で、人間にとってみれば本当にとんでもない悪漢であるわけで、それをいかに殺すか。それに命がけでシートンは取り組む。

で、最後それをひっくり返すのが、確かにこれはおもしろいなぁって思うんだけど。ブランカの視点っていうのは僕にはなかったなぁ。金子さんはブランカの視点ってちょっと感じたことってあります?

金子:ラストですかね、やっぱり。ブランカも死んじゃってるんだけど、亡骸がどうも待ってるということですよね。最後の絵も素晴らしくてね。最後の、見開きの。

金原:(スクリーンに)出るんですね?

金子:すいません(笑)。

金原:いきなり最後ですね(笑)。

(会場笑)

『狼王ロボ』リトルモア刊)より

金子:これこれこれ。

金原:あ、そうですね。

清川:最後の絵って、いつも一番大事にしてるんですよ、私の絵本シリーズで。どんなにすごい悲しい話でも、どこかにいつも希望を入れたいなぁと思っていて。

「オスカー・ワイルド(幸せな王子)」の時も、あれも天国のシーンはないんですけど、勝手に作ったりとかしてたり。これもこういうふうに、最後この2人が寄り添ってたらいいなぁと思って。

金原:意外に優しいとこあるんだね(笑)。

清川:え? 何を言ってるんですか?

(会場笑)

金原:ちょっと新しい発見です。

清川:いつも(そういう気持ちを)持ってるんです。

金子:素晴らしいですね、これも。

清川:虹の光みたいなのがね。今回、私が大好きですごい尊敬してるアートディレクターの方が装丁をやっていて。井上嗣也さんっていう、コム・デ・ギャルソンのポスターとかいっぱい作ってる人で、本当にすごい人なんですけど、その人と撮影をできたのも今回すごくいい経験でしたね。

いつも撮った後、その写真に私が少し加工する時もあるんですけど、もうこれはこのまま光を一瞬にして、いろんなものを使って光を反射させて撮って、虹ができたんですよね。現場で作っていらっしゃって。

今はデジタルで何でもできてしまうんですけど、井上さんのやり方はすごく手作り感やアナログ感がある撮影のされ方で、その撮影の仕方もすごく私は共感できたし、もう本当に生の光をそのまま使えるってすごい贅沢な撮影現場だったなと思いました。

金原:そうなんだ。そういう作り方だったんですね。てっきりこれは清川さんがCG処理したんだろうなと。

清川:いつもはそうなんですけどね(笑)。

金原:今回は違うんだ。

清川:今回は違って、本当に生を大事にする方なので、すごいこの話にぴったりだったっていう感じでした。

作品の世界観に反映される、清川あさみの原体験

金原:あと、苦労したのはどこ?

清川:苦労したのは、そうですね……。本当に登場人物が少ない。

金原:確かにロボ、ロボ、ロボだからね、これ。

金子:群れの頭数が少ないっていうのがいいですよね。すごいそこに共感しちゃったんだけど。

清川:1人に対しての描写をすごい考えなきゃいけないのと、ロボのかっこよさ。本当に人間の男性を描いてるような気持ちで描きました。

金原:そういう時に狼の写真とか、動画とか、そういったものを見て研究するの?

清川:いつもは絵本シリーズっていうのは、宮沢賢治さんの「銀河鉄道の夜」とかも、結局小さい頃の記憶だけで描いてるんですね、資料とか見ずに。

私、淡路島出身なんですけど、その時に感じた島の冷たい空気とか、川で遊んだ経験とか、記憶だけで、体感した記憶で描いてるんですよ。

ロボの場合は、さすがに狼を飼ったこともないので、狼の研究をするためにいろんな角度の狼を、すごいやっぱりリサーチしなければいけなかった。あと、メキシコ?

金原:ニューメキシコ州ですね。

清川:その雰囲気とロボの雰囲気をどういうふうに落とし込んでいいかっていうのとかを、すごいいろいろ考えながら作ったので。結構調べましたね、今回は。

金原:なるほどね。ニューメキシコ州ってアメリカの南のほうにある州で、元メキシコなんですけどね。アメリカが19世紀に戦争をふっかけてぶんどったところです。

ちょうどサンタフェにあるニューメキシコ大学というのがあって、あそこに入るとでっかい狼の像があるんです、シンボルとして。たぶんロボだろうと思うんですけど。シートンも最後はサンタフェに腰を落ち着けるんですけど。

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