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『暗闇から世界が変わる ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの挑戦』発刊記念トークショー(全4記事)

日本を高齢化する世界のリーダーに 加齢をポジティブに伝えるダイアログ・ウィズ・タイムの試み

まっくらやみのエンターテイメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を知っていますか? 1988年にドイツで生まれたこのイベントは、現在までに32カ国、800万人を超える人々が体験しています。今回、1999年から日本でダイアログ・イン・ザ・ダークを運営しているDialog in the Dark JAPAN CEOの志村真介氏が、著書『暗闇から世界が変わる〜ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの挑戦〜』(講談社現代新書)の発売を記念して、代官山 蔦屋書店で開催されたイベントに登壇。同じく運営に関わる志村季世恵氏、アテンドを務める川端美樹氏と共に、視覚障害者の能力を日本の伝統文化と結びつけた「めぐる」や、聴覚障害者の世界をポジティブに伝える「ダイアログ・イン・サイレンス」、高齢者の世界の「ダイアログ・ウィズ・タイム」などの取り組みを紹介。漆器職人とのコラボレーションの理由や、超高齢化社会となる日本が世界の中で果たすべき役割などについて語りました。

視覚障害者と漆器職人のコラボレーション

志村真介氏(以下、志村真介):ちょっと話を戻しまして、みきティたちってものすごく感性が優れてんです。今治のタオルを一緒に作ったことがあるんですが、目を使わないで、触り心地だけでデザインをしたわけであります。

あと今日初公開なんですが、会津の漆器職人とみきティたちがコラボをして出来あがった漆器をお持ちしています。

志村季世恵氏(以下、志村季世恵):みきティ、見せるよ。きれいでしょ?

川端美樹氏(以下、みきティ):きれいでしょう! これは拭漆の器ですね。

志村季世恵:なぜ拭漆ってわかったの?

みきティ:自分が愛して作ったものですから、ちょっと触れるだけでわかります。

漆って、どんな化学物質よりも強い接着剤と言われているんですけど、拭漆はすごく木の質感が残っていて、マットな手触りがとってもいいんです。みなさん後で触っていただきたくときは、ぜひ目を閉じて触ってください。

志村真介:もう一種類作ったんですよね。

みきティ:これは漆黒がきれいでしょ? これは三つ椀で作ってあるんですけど、下側の角があるところにちょうど手を添えると、すごく持ちやすくて。お椀が本当に水平かどうかがわかりやすくなっているんです。

こういう形のお椀って普通にあるんですけど、それをさらに、私たちの手触りで、どれくらいのところに角を持ってくると持ちやすいとか、高台というところの下の部分に指が引っ掛かりやすいようにしたり、本当に持ちやすくしてもらっているんです。

本当にあり得ないぐらい、プロの職人さんにこんなこと頼んでいいのかなというぐらいに、私ともう二人、この漆器作成に関わったアテンドで無理難題を散々言ってですね。

志村季世恵:職人さん、泣いてたよね。

みきティ:試作で作っていただいて、「もうちょっとこの部分を斜めにしないと足りないです」とか、無礼千万な感じで言わせていただいたのに、根気よく仕上げていただいて、本当に愛すべき漆器ができあがったので、とってもうれしいです。

視覚障害者向けの食器を作りたいわけではない

志村真介:普通、漆器というと目で見るわけですよね。でもみきティたちの見方はちがうんですよね。みきティが漆器を見るというのは、こういうことを言います。

志村季世恵:音かんかんさせるよね。

みきティ:(指でお椀を叩いて)「これは栃の木」ですね。というような感じです。

志村季世恵:ほっぺたでも唇でも、あらゆる自分の肌の感覚で触って感じて、「わー!」とか「うえー!」とか、そういう反応がすごいんだよね(笑)。

志村真介:こういうのを見ると職人の方たちは嬉しくて涙が出るんですよね。

みきティ:このフニューってしてるカーブがいいですね、とか言って(笑)。縦木取り横木取りとか、お皿、コップ、箸、お椀っていろいろ食器があるけれど、どの食器ではどの木を使うのがいいかということもレクチャーしていただいて。

木の質によって叩いた音も全然違うので、なんかちょっとわかったようなつもりになっています。

志村真介:こういうコラボを通じて自分たちが何を挑戦してるかというと、視覚障害者の人向けの食器を作りたいわけではないんです。彼女たちの秀でた能力(プラスの財)を、産業と、もしくは日本の伝統文化とくっつけることによって、より良い物を作っていきたいんですね。

今日持ってきたのは漆器ですけど、漆器は英語で「japan」と言うんですよね。日本の漆は、もうたぶん漆の総生産の5%以内で、みんな今は中国の漆を使っていますけど、この器は日本の漆を使ってるんです。

この漆器は「めぐる」というタイトルがついてまして、お食い初めの時に買った物が、ご自身が大きくなっても使えて、そしてそれをまた子供に継がせて、さらに孫に継いでいくような、一つの物をずっと丁寧に丁寧に使っていく。

みきティたちが丁寧に丁寧に日常を暮らしてることに倣ってやっていって、命をつむいでいくことができたらいいなと思ってつけた名前です(参考:めぐる)。

志村季世恵:この黒い器は、60歳になったら赤くするとか、染め直しができるような状態なんです。そういうふうに、いろんなことを大切にしてもらいたくて、丁寧に大切に命をいただく器にしようと考えてつくったんですよね。

「イン・ザ・ダーク」だけじゃない、ダイアログ

志村真介:こういった日本のいい文化って、地方に行くとどんどん衰退していたりするので、何とかみきティたちの力でイノベーションを進めていこうと思ってるんです。2020年の東京オリンピックがあるときに、歌舞伎とか能もすばらしいんですけど、当たり前にあるものを、もう少しよく見せていけるといいんじゃないかなと思っております。

ダイアログ・イン・ザ・ダークって、日本では16年かかって東京と大阪に常設をしている施設ができましたけど、ヨーロッパではもっと進んでおりまして、今は「見えるんだけど、聞こえない」空間を作っています。「ダイアログ・イン・サイレンス」というんですね。

どういうことかというと、自分もそうなんですけど、私たちは表情がものすごく乏しいと思うんですけど、聞こえなければ、表情豊かにジェスチャーを混ぜて表現して対話をしないと伝わらないと思うんです。

その時に、みきティが見えない中でのファシリテーション担当をしたように、聞こえない空間では聴覚障害者の人がリーダーシップをとって、ファシリテーションをします。

もう一つあるんだよね?

志村季世恵:もう一つは、75歳以上のご年配の方がリーダーシップをとって、命とか時間といった見えない世界をポジティブに伝えていく、「ダイアログ・ウィズ・タイム」というものです。

見えないのは不便なんかではないし、聞こえないのも不便なんかではないように、アンチエイジングってよく言いますけど、そうではなくて「アンチではないエイジング」がどれだけ素敵なことかをポジティブに伝えていく。この三つを、ミュージアムとしてやっていくということですね。

超高齢化社会のトップバッターだからできること

志村真介:東京オリンピックは今、競技場のことでいろいろありますが、いずれにしても、「お・も・て・な・し」ということで日本が選ばれたわけであります。

今、例えば世界中から障害者の方がパラリンピックで来たとして、成田や羽田に着いたときに唖然とすると思うんです。

例えばみきティたちと旅行に行こうとすると、白杖を持っているという理由で泊めてくれない旅館が、まだまだ日本にはいっぱいあります。盲導犬を連れて行こうとすると、ペットお断りと言われるところもいっぱいあります。

でも、私たちも日本で生活していると、世界から見ると変だということすら気づかないと思います。だからこそ、この5年間でグローバルスタンダードにもっていくためには、例えば暗闇の中に入るだけではなくて、サイレンスとか、ウィズ・タイムとか、多様な能力は少し見方を変えるとすごくポジティブなものになるというふうな考え方を広めていきたいと思っています。

実はイスラエルでは、このミュージアムに1年間に6万人もの子供たちが来ています。日本は超高齢化社会のトップバッターであります。ここでノウハウをためて、これから高齢化していく各国にシェアしていくことでリーダーシップをとっていく可能性があると思います。

自分たちが老人になるのはまだ先だと思ってますが、こういうものが楽しみながらできたらいいなと思って、ミュージアムを早期に作りたいと考えています。そのために場所を提供してくださる方、応援してくださる方を探しています。

自分の人生はどれぐらいあと残されているかわかりませんが、そこまでは生きたい。目が見えない人たちを助けるとか、そういうことではなくて、様々な楽しみ方があるんだということですね。

この蔦屋さんみたいに、本を売るだけではなくて、時間を豊かに、ライフスタイルを提案するような感じでやっていけたらいいなと思っています。

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