2024.10.10
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吉田照幸氏(以下、吉田):逆に、こっちが言われたこともよく覚えてたりしますよね。
高橋栄樹氏(以下、高橋):どっちかというと、僕、職種的にいうと、会えるのが、まだプロとしての矜持がバーンとある人とか、経験がバーンとある人じゃないんで。年齢的にも未成年の方が多いので、あまり言われる側にまわることは少ないかな。「あまちゃん」は錚々たる俳優陣ですもんね。
吉田:もう、あの辺の方々、有名な監督とずっとやってらっしゃるから、それと比べられてる気がして、余計多分怖くなっちゃって、ひるんじゃうんですよね。でも今回のドラマ、今日クランクアップしたんですよ。
高橋:おめでとうございます。
吉田:はい、ありがとうございます。桐生の山奥でリリーさんのシーンを撮ったんですけど。題名は「洞窟おじさん」っていうドラマなんですよ。
高橋:それ、実話ですか?
吉田:実話なんです。13歳で親の虐待で家出して、少年ながら足尾銅山の洞窟に住んでて、それからずっと1人で生きてきた男の物語なんですね。
今64歳なんですけど、まだ生きてらっしゃるんです。その人の実録の物語をドラマにしようとして、60分で4回で、夏に放送する予定なんですけど、ぜひ。もう1回言いますね。これ、全然Twitterでつぶやいていただいて結構ですよ。
で、あれ、何の話をしようとしたんだろう。僕、急に焦り始めました。
高橋:リリーさんのお話をしてたんですよ。要はプロの方の演技っていう。
吉田:すみません、全然、関係のない人が話しかけてきたかと思いましたよ。ロの方の演技の話ですね。
高橋:改めて聞かれると、分からなくなりますね。
吉田:そうですね。なんでこんな話をしようとしたのか……ちょっと待ってください。
高橋:もともとアイドルっていうのが、基本的にはちょっと子供なのでっていう……。
吉田:あ、そうですね。
子役がいたんですけど、子役っていっても、本当に子役子役した人は嫌だったんで、ちょっと素人っぽい子を選んだら、もう大変だったんですよ。その話をしたかったんですよ。
高橋:なるほど。リリーさんじゃなかったんですね。
吉田:リリーさんじゃなかったんです。だから動かない。僕、動く人ばっかり演出してきたんで、動かない人の演出ってどうやるのかなっていうの、興味があるんですよね。
高橋:ああ、それで。動かない人。やっぱり動かない人っているんですよね。演技としてどう動くかイメージできないというか。僕はどうやってやってんのかなあ。とりあえず、好きにやらせるっていう感じ。あんまり「これやって、あれやって」って言っちゃうとわからなくなっちゃうので、1つ、2つぐらいですよね。
だから、「散歩しようぜ」とか、1ワードか2ワードぐらいでやるようにしてます。あとは、とにかくいきなり回す。それはよくやりますね。
吉田:そうなんですよね。それができたらいいんですけどね。
高橋:ただ、プロの方とか、いろんなことの段取りがあるとそうもいかないですよね。
吉田:そうなんですよね。(客席に)そういう業界の方っていらっしゃいます? テレビ業界の方……なんでいるんだ、お前。後輩ですね。なんでいる……また忘れちゃった。
撮影が本当に過酷だったんですよ。リリーさんが挨拶で「和民の店員より大変だった」っていうくらい(笑)。その前の日は朝5時半に、新宿のニューアートっていうストリップ劇場でロケが始まって、そのあと木更津の病院で撮って、そのあといわきの映画館でロケしてたっていう、移動のほうが多いじゃねえかと。
高橋:それは過酷ですね
吉田:あれ、ウケないな。これやばいな。売れないですね、この本。ごめんなさいね。
高橋:子役が大変だったっていう話ですね。
吉田:あ、そうです。子役の集中力がなくて、演技をさせるのに苦労しました…結果的には感動するようなシーンになったのですが、そのやり方に、自分で後から落ち込んでしまうようなやり方をしてしまいまして。
高橋:監督って、ちょっと鬼になる瞬間があるじゃないですか。非情な瞬間が。本当はそういうものも必要なのかもしれないなと思いつつ、あんまり得意じゃないんですよね。
吉田:だから今回のことも、もしかしたらこっちの覚悟があれば、何かが伝わっていいんだろうけど、安易にそれを安売りしてると、なかなか辛いものがあるなって。
ただ僕も初めてやったので、やっぱりその日一日はすごい暗かったって、記録の女の子が言ってましたね。横に記録の子がいるんですけど。記録っていう名前じゃないですよ? 記録っていう職業ですよ……本当に駄目だ、今日は。
高橋:大丈夫です。十分面白いです。
吉田:本当ですかね。どうですか? 大丈夫ですかね? この本の表紙のカピバラも僕、反対したんですよ。絶対、編集の彼女がこのカピバラを入れるって言ったんで。でも、会う人、会う人に「なんでカピバラですか?」って聞かれるんですよ。本当に面倒くさいんですよね。でもこれ、カピバラで売れたみたいですけどね。「話し下手でもオーケー」とか、何言ってんだ(笑)。
高橋:いや、でもやるときは頑張って、自分が悪人になってもやらなきゃいけない瞬間っていうのはきっとありますよね。
吉田:でも、これ(「パンドラ」)本当に面白かったですね。
高橋:ありがとうございます。
吉田:なんでしょうね。なんで、こんなかっこいい人ばっかり揃ってるんですかね。
高橋:それは吉井さんっていうボーカルの人が、イエローモンキーっていう名前でバンドをやりたくて、イエローモンキーっていう名前でやる以上、やっぱりあんまりかっこ悪い人がいたら洒落になんないっていうので、結構ルックスでも選んだって言ってましたね。
吉田:なるほど。本当にイエローモンキーになっちゃうから。そうですよね。
高橋:例えば海外から見たときにどうかとか、割と最初のころからそういうことを考えてらしたそうで。海外から見たときにも、ちゃんとかっこよく見えるやつらでやんないと名前負けするっていうんで選んだって言ってましたね。
吉田:この中にすごいタトゥーをした人が。
高橋:はい、カトウさんっていう楽器クルーの方ですね。
吉田:あの人が一番普通って言ったらおかしいけど、まっとうなことを言ってるのがすごい印象的だったんです。まっとうというか、なんて言ったらいいんでしょう。
高橋:一発決まってる、筋が通ってるというか。
吉田:そういうものも面白いなと思ったんですよね。人って見た目と中身で勝手に整合性とっちゃうところがあったりして。今回の録音部の音声さんもラップやってるって聞いてたんですけど、もともとは自衛官だったって言われて。で、「今どこに住んでるんですか?」って言ったら「芝公園の40階建ての20階に住んでる」「は?」「いや女房が開業医なんです」って。なんかいろんなキャラクターが複雑に絡み合って、どういうキャラクターか見えなくなっていったっていう。
高橋:でも録音部の方なんですよね。
吉田:でも録音部なんですよ。それで普通に何か録音してるんです。
吉田:録音部って、音撮る人たちですけど、そういう人がそんなバックボーン持ってるって分からないじゃないですか。
だから僕、できるだけスタッフに声かけるようにしてるんですよね。しかも仕事の話じゃなくて、プライベートな話っていうか。
監督の場合、閉じこもっちゃったりする人もいるんですよね。(トラン)シーバーだけでやってたりする人もいるんです。あの辺のコミュニケーションのとり方って、目にかけてるかどうかで大分違ってくるんですよね。
その音声さんが、「吉田さん」と声をかけてきたんです。リリーさんが「うん」って言って終わるシーンがあるんですけど、横にいた音声さんから「吉田さん、このあとの反応が聞きたい」って言われたんですよ。
ハッと思ったんですよ。台本上、欠陥だったんですね。気づかなかったの。それで、もう1回やらせてもらって。でも多分、彼は僕がプライベートな話を聞いてなかったら、その一言は言わないと思うんですよ。ぼそっと自発的に言ったんですから。
僕はそういうとき、「こうだからこう」っていう論理的な話をした場合は、ほぼ無視しちゃうんですけど、「こういうのが見たいな」っていう感情のことを言われると、これは何かあると思って、自分はそうじゃないなと思っててもやるようにしてるんですよね。
高橋:みんなが言いやすい現場をつくるっていうのも、やっぱりいいですよね。監督さんっていろんなやり方があって、割と自分が頂点に立ってみんなが付き従うやり方もあるけど、比較的フランクにいろんなことが言えて、それに対して、よければ採用してもらえるっていうやり方もある。
それだけ監督との人間関係ができてて、例えばさっきおっしゃっていたみたいに、きちんと敬語で、年長さんの方にも年齢経験問わず接するっていうのは、ひとつのあり方ですよね。
僕もできるだけそういうふうに心がけてますし、特に吉田さんもそうですし。本広(克行)さんっていう「踊る大捜査線」や、ももクロの「幕が上がる」を撮ってらっしゃる監督さんも、そういう方なんですよね。
吉田:宮藤さんもそういう方で、ものすごい丁寧な方でしたね。僕らにも本当に。
吉田:ちなみに、ここ(会場の書店「B&B」)、こだわりの本屋ですよね。どんな本を読まれてたりしますか?
高橋:僕ですか? いろいろあるんですけど、仕事関係とか。いきなり話飛んでますね。これ、話飛んでますよね?
吉田:そうです。飛んでます。
高橋:僕は本当によく読んでるんだけど、でも、そのときそのとき、興味があるものをいっぱい読んじゃってるから。
吉田:僕は下積みはあまりしてないんですね。ドラマの現場入って、助監督やってっていう経験がなくて、急にコントをやったんで。だから、全部本で覚えたんですね。
で、「サラリーマンNEO」の映画をつくったときに一番参考になったのは、『映画の本当の作り方』という、ものすごい題名の本なんですよね。本当に映画つくれるんだなと思ったんですよ。
でも、みんなバカにするじゃないですか。本当にクリエイティブなものは本じゃ覚えられないとか、実体験しなきゃいけないって言うんですよ。
でも実体験をすげえしてる人が、本当に本質を掴んでるかっていうと、そうじゃないと。本で素晴らしいもの、アメリカとか、いろんな国でずっと残って大学の教材になってるようなものは、やっぱり研ぎ澄まされて、残されたものなんですよね。なぜそれを読んで現場にフィードバックしないんだって思うんですよ。
だからその『映画の本当の作り方』という本を何度も何度も読んだんですね。その中に、例えばレンズってあるじゃないですか。レンズには広角レンズと望遠レンズがあって、望遠レンズは遠くから撮って、結構背景がボケてるやつですよね。かっこいい映像の。広角レンズっていうと、ガッと寄ったときに、ショムニみたいな感じで、ぐいっと大きく見える。
高橋:ちょっと画面が歪んだやつですね。
吉田:歪んだっぽいやつ。それって普通使い分けるんですけど。その本の中に、小さなテクニックなんですけど、「偉そうに見えるほうだけを広角レンズで撮って、切り返しの側を望遠レンズで撮る」って書いてたんですよ。
こんなことを日本の映画の現場でやってる人なんかいないんですよ。だけどアメリカの、その本には書いてあったんです。だからカメラマンに「このシーンはそういうシーンだから、こうやって撮ろう」と言って。
完全にパクリなんですけど、自分が思いついたように言ってみたんですね。そしたら撮ったあとに、カメラマンが「あれ面白かったですね」って言うわけですよ。つまり、それだけの英知が本にあるのにもかかわらず、なぜなのかっていうのを僕はいつも思うんですね。
吉田:「本で読んだことを実践できるのが才能だ」って言われるんですけど、「才能なのかな?」と思うんですよね。それはなぜかというと、この本買うと、面白い会話できるかどうかって話じゃないですか。
ここに話がつながるかっていう。
「面白い会話っていうのは、本を読んでできるもんなのか?」と。だけど、これまでずっと会話してきて会話に悩んでるのに、今後人生の実体験でうまくなるって思うほうが分からないんですよ。
「自分が今までやってきたことを続けたら成長する」っていうことをどこかで思うのは、今までやってきたことを否定したくないからなんですよね。今までやってきたことを肯定したいがために、このままのやり方でやれば何か掴めるんじゃないかって。
でも本当は、それと違うやり方をすることがチャレンジだったり、努力だったりするわけじゃないですか。
だから例えば、監督って必ずOK出さなきゃいけないわけですよ。だけど笑いをやってたら、みんな違うじゃないですか。自分が面白いなと思ってても、隣りで照明さんがちょっと首ひねったりするのがチラッと見えることあるんですよ。
そうすると迷うわけですよね。そのときに、例えばどこが面白くなかったかって聞けるかどうかなんですよね。そこで「あっ」「ドキッ」としたら、OK。そっちだったって思うわけですよ。
吉田:つまり、違うっていうことの許容量が広いほど、こういう本とかを読んだときに取り込めるんだけど、結局老人になっていくと、どっちかに分かれちゃう。
例えば電車の中でマナーの悪い人って、基本的に年取った人のほうが多いんですよ。ガッと入って来たり。あれ、もう自分のことしか見えなくなってるんですよね。恥とかが忘れていっていて、自己肯定の塊なわけですよ……何の話するんでしたっけ?
だから僕は、本っていうのは、この人に出会っているわけですよね。映像とかもそうです。出会ってるんです。だから素晴らしいと思うわけです。それを読む前から、「これは本だ」「これは書いた人が考えてることだ」って思っちゃって、自分が分かるところしか理解しようとしない人が多すぎる気がするんですよね。
僕は本を読んでるときに、自分は分からないけど、なぜこの本がずっと支持されてるかということを取り込もうとするんです。
本屋ですから、本屋褒めますね、やっぱり。
高橋:でも、何でもそうですよね、できるだけ自分の中の許容量を広くするっていうのは。自分の中に変な偏見というか、先入観の壁を作らないようにしようっていうのは、頑張ってやってるでしょうし。
吉田:そうなんですよね。
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