2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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猪子寿之(以下、猪子):僕、最近やっと海外へちょこちょこ色んなとこに呼ばれるようになってきたんですけど、隈さんはもうすごくご活躍されているじゃないですか? どうやったらそんなに活躍できるのか聞いてこい、ってさっき社員から言われたんですけど。
隈 研吾(以下、隈):はい……(笑)。
猪子:そんな話とか聞きたいです、僕。
隈:それからいきますか?
猪子:いや、何からでもいいですけども。
隈:なぜかというと……。1つはね、日本で90年代にバブルがはじけた後に仕事がなかったから、その時に「ああ、このままもう日本はダメだな、建築は」と思ったんですよ。
単に建築に仕事がないだけじゃなくて、なんとなく建築嫌いみたいな世の中の風潮があったと思うんだけど、要するに公共建築はお金の無駄遣いだとか、なんか昨日も、トンネルで落っこちたりしているでしょ(笹子トンネル天井板落下事故)。なにしろ公共建築ってどんどん世の中から嫌われる時代が、もう90年代から続いているじゃない。
それで、これはやっぱり日本でそういう時代なんだろうと。たぶんそれは高度成長で建築を造りすぎちゃったからで、その後も建築嫌いの時代が続くだろうから、当分もう日本はダメだな、って感じだったので。
それで海外で講演に呼ばれたりなんかしたら、無理にでも行って話してきたりとか。それで、中国で『竹の家』っていうのを造ったのがね、わりと海外にバーっと広まるきっかけだったんだけど。「竹の家」って皆さん知っていますかね……。吉永小百合のコマーシャルで使われた。
猪子:CMに!
隈:CMに出ていた。アレがバーっとウケたんだけれども、あの『竹の家』の仕事なんかもね、もうめちゃめちゃ安い設計料だったのだけれど、海外だからやろう、って。アレはね、ここだけの話、設計料が交通費込みで100万円だったの。
猪子:へえー。
隈:それで中国の大学の先生から「これは面白いプロジェクトだから、まあ、これくらいしかあげられないけれど、まあちょっと文化事業的プロジェクトだと思ってやってよ」って言われて。
中国の場合はさ、わりと最初うまいこと言うから、100万円で1枚スケッチくれればいいのだから、って言うのだけれど、絶対そんなことで終わらないわけね(笑)。それでスケッチ1枚で送ったら逆に何されるか分からないから、スケッチ送って、図面送って、現場何回も行って……。1年半かかっても結局100万円しか貰えなかった。
猪子:へえー。
隈:そういう仕事でも海外だからちょっと無理してでもやろう、ってやっているうちに、なんか海外からどんどん呼ばれるようになってきて、今は日本の仕事がなくてもいいような感じになってきたのかな。まず、それがきっかけね。
猪子:うん、うん。
隈:海外の仕事をマネージするコツみたいなのがあるとするとですね、やっぱり日本と同じやり方じゃ無理だっていうことなんだよね。安藤忠雄って建築家いるじゃない。安藤さんは1941年生まれで僕54年だから、13個上なんですよ。
つまり安藤さんは世代的に言うと1個上なんだけれど、彼のやり方とか彼の世代のやり方はね、日本と同じ物を造らないと怒る(笑)。コンクリート打ちっぱなしじゃない。安藤さん、コンクリート打ちっぱなしで、ものすごく奇麗に打ててないと、日本でも大変に怒るわけですよね(笑)。有名だけれど。
もう完璧に平滑な面で、エッジも完全な直角じゃないとダメ、という完全主義者で、安藤さんはそのやり方を海外でも通すわけですよ。そうするとね、それについて来れるところはいいけれど、ついて来れないところも結構あるわけ。どうしてもあんなコンクリートは打てない、って。
その時に安藤さんは、どこまで怒るか、どこで諦めるかは知らないけれど、僕の場合はね、自分のそういう日本の制度を押し付けるのは止めようって、ある時から思ったのね。その「竹の家」がいい例なのですけれど、「竹の家」はですね、図面では、6cmの直径の竹が6cmの隙き間でダーっと全部均一に並んでいるという図面を書いたわけよ。
日本だと殆ど6cmの真っ直ぐな竹が来るのだけれど、中国の現場行ったらさ、全然6cmじゃない(苦笑)。9cmもあるし4cmもあるし、みたいな感じだし、曲がっているのもあって真っ直ぐな竹はちょっとしかないってわけ。これ、日本だったら建設会社が全部もう予めフィルタリングして現場に持ってこさせないのだけれど、中国だったら平気でそういうのが現場に並んでいるわけね。
僕はそこで考えましたよ。これ怒鳴ろうか、どうしようかって(笑)。その時に、「あ、これがひょっとしたら中国の味になるんじゃないか」って思ったわけ。日本で造った「竹の家」は日本風のカチっとしたので、同じ図面でも中国だとなんか、ふにゃーっていうのが、逆に柔らかさになって味になるかもしれないから、ここはもう怒るのを止めようと。ニコニコしてようと思って、「ああ、これ意外に面白いじゃん」って言って。
それで中国の人、ゼネコンに「よくやってくれたねー、難しい竹で」とか言ったらば、彼らはそれから結構、機嫌良く他の分もやってくれたりして。そういうことをやっているうちに、海外の精度で面白い図面をこっちも書き始めようと思ったわけよ。
逆に、こういうふにゃふにゃした竹が並んだ時に面白い建物ってあるかもしれないなって、こっちの設計も段々変わってきて。中国で竹使う時とフランスで竹使う時と、図面の書き方が変わってきてさ。そうすると日本と違う味みたいなのが、それぞれの場所で出せるようになってきて。すっごい、海外の仕事が楽しくなったわけね。
隈:今、海外の仕事って、どんなところからどんな風に呼ばれてやっているの?
猪子:国立台湾美術館っていう台湾で一番大きい現代美術館があるんですけど、そこの別館丸ごとで「チームラボ展」みたいなのをやってくれって、すごく有り難いオファーがあって。それは今年(2013年)春に3ヶ月近く、結構ホント広いスペースで20作品くらい置いて『チームラボ展』っていうのをやりましたね。後はついこの間、シンガポールで初めて展覧会みたいなのをやって、それが結構現地でウケていて、来年3つくらいまたシンガポールから展覧会のオファーみたいのが来ていたり。
その台湾の美術館でやったのがきっかけで、今、台湾のカフェ、チェーン店なんですけど、そこの仕事をやってます。デジタルの演出を入れるって仕事なんですけど、チェーン店だと、上手くいった場合、チェーン展開できてコストがいいじゃないですか。それで、具体的なデジタルの演出っていうと……。
たとえば、大きい壁にデジタルの壁画みたいなのがあって、そこにいっぱい描かれた木の中から鳥がいっぱい飛んでくるっていう演出があるんです。それを、頼んだ注文によって演出を変えたり。たとえば、バースデイ・ケーキを頼むと皆が、鳥達がバースデイをやってくれるみたいな。そういう仕事をやってたり。
隈:それは台湾用につくるんだよね、クライアントがいて。
猪子:そうです、そうです。
隈:その時、日本でつくる時とさ、台湾人用につくる時とって、考え方というか、作り方が違ったりする?
猪子:展覧会はもうアートなので、今までつくったものを選んだり。でも、今回は台湾用につくりました。ただ、すごく最近言えることは、昔って国ごとに価値観ってすごく違ったじゃないですか。でも、最近って国ごとの価値観の違いよりも、世代間の価値観の違いのほうが大きくて。昔は入ってくる情報ってテレビだったり新聞だったり、雑誌だったりだと思うのですね。そうすると、テレビって国ごとにテレビ局あるし、新聞もそうだし、雑誌も国ごとにありますよね。
でも、今の、僕の世代とか下の世代はもっとだと思うのですけれど、テレビ見ている時間よりfacebookとかTwitterとか見ていて、実際共有される情報は、入ってくる情報は、YouTubeの情報とか、そういうのがfacebookで入ってくるので、なんて言うのですかね。台湾に行っても、シンガポールに行っても、殆ど見ているものが一緒なのですよね。だから価値観がそんなに変わんなくて。
自分の国の世代間が違えば違う程、国内でのほうが結構、価値観が違ったりしていて。日本だけかなって思っていたのですよ。そういう話をすると、今、世界中でそういうことが起こっているみたいで。シンガポールですら、世代間の価値観のほうがすごいギャップを感じる、って。同世代の他の国のほうがそんなに価値観変わんない、みたいなことを言うんですよね。
実際にあった話なんですけど、台湾、中国で美術館の用意をする時、規模がすごく大きかったので、スタッフ皆が日本から行ったらコストも大変なので、向こうで手伝ってくれる子を探そうと思ったんですね(笑)。そしたら美術館の近くに商店街みたいなのがあって、そこの喫茶店に若い子がいっぱい集まって来てたので、パッと入ったんですよ。
んで、ちょっと話したりして「オマエ何やっているんだ?」とか言われて。「まあ、ちょっとアートをやるんだよね」とか言って。「アート? 何だそれ?」みたいな。「いや、こんな感じ」とかってYouTubeで見せたりすると、「あ、これ見たことある!」「これかぁ!」みたいな。「あ、知ってる!」「オマエ超すげー!」みたいな。
(会場笑)
猪子:日本では結構、大企業に行って偉い方に「こういうことやってるんです」と言うと、「ほお、こういうのやってるんだ」みたいな、「初めて見た」みたいな感じなんですけれど。結構、他の国の同世代は「おお、知ってるよー!」ってなる。だから結構、見ているものが一緒なのかなと思って。そういうの、すごく感じます。
実際、自分でも最近、もうfacebook経由の情報ばっかりになって、そうするとやっぱりYouTubeの情報ばっかりになって、そうするとグローバルなプラットフォームなので、見ているものも一緒なのかな? とかって段々思いますね。
隈:それでもその国でやったテイストみたいなの、ないかな? この国では、これは絶対に勝てないとか、そういうのがあるのよ。
猪子:へえー。
隈:ドイツではコンペは絶対勝てないんだよな。ドイツで勝ったのを見ると、どうして、こんなのいいの? ていうくらいにつまらなく見えるのだけれど、本当に四角くないと、勝てない。壁が直角に立ってないと勝てないの。ちょっと斜めにすると、ダメなんだよな。未だにドイツは(笑)。
(会場笑)
隈:あれはね、不思議だよ。それでも国の、なんかDNAか分かんないけれどさ、組み込まれたものはあるのではないかとか。
猪子:まあ、確かに。ただ、分野が違うので、建築ってホントに歴史の長い、もしかしたらもう5万年くらい歴史があるような分野じゃないですか。自分のところはちょっと良く分からない分野なので。まあ、デジタルって分野はまだ始まってもいないかもしれないような感じかもしれないですけど。だから国による違いというのは、その国が未来志向だとすごく相性が良いのですが、未来志向じゃないと、少し相性が悪いですよね。
隈:だからシンガポールなんていいんでしょ?
猪子:そう! シンガポールとか台湾、というかアジアは、すごく未来志向。特にシンガポールはすごくそうだし、台湾もやっぱり国家として、未来はどう生き残るべきかみたいな、すごく強い意志があるので、そういうとこはやっぱり相性がいいんですよね。アジアとかずっと行っていると、ちょっと日本って懐古主義みたいなブームじゃないですか? 『三丁目の夕日』が流行ったりしたりして、すごく懐古主義。国のトップも、「日本の社会はね、『三丁目の夕日』みたいになったらいい!」とか言ったりする。
アレ、シンガポールとかで言ったら殺されると思うんですよ(笑)。シンガポールで「50年くらい前のシンガポールがいい」とか、台湾で「昭和30年代の社会がいい」とか言った日にはね、たぶんその首相、撃ち殺されると思うんですよ。懐古主義の国だと、「デジタルは非人間的だ!」みたいな扱いをちょっと受けてね。差別されたりもするのです。
(会場笑)
隈:差別か。俺らなんかもね、シンガポールとかマレーシアで出すコンペでは、とりあえず丸くしとくと、もうそれで喜ばれるから、「丸くしとけよ」とか言ってやってるの(笑)。だけど、ああいう国の面白さってさ、そういうモノをコンペで選んでおきながら、建築みたいな技術の場合、伝統工芸みたいに蓄積がないと「丸い物を今、造れ」と言ってもなかなか簡単に造れなかったりするわけじゃない。
日本はそういう懐古主義だけれど、日本の建設会社はしっかり丸いモンを造れるみたいなところがあるわけよね。シンガポールなんかは、いざコンペで勝ってから「その案はお金が掛かってできません」ってなったり。まだそういう状況もあるんだよね。
猪子:なるほどね。それは結構、だいぶ違うかもしれないですね、ウチらの世界は。もう完璧、グローバルで統一されつつあるので、国による差っていうか、手に入る物の差みたいのが殆どないんですよね。
隈:それはきっと違う。相当違うよ(笑)。
猪子:逆に僕とか、生きていてすごく焦っていて。技術的な日本の優位性とかはもう完璧ないんです。技術のグローバル化のスピードが激し過ぎて。エンジニアの差っていうのも、たとえば建築技術の差だと、歴史もあって経済的に豊かな時代が長くて先進国で、っていうところと、ぽっと出みたいな国との差って、すごくあるじゃないですか。
でも、デジタルはエンジニアの差も、もう全くないのですよね。できる人達は超できるし、世界中で情報が共有されていて、できない人はもう、できない! みたいな。
隈:韓国はすごい?
猪子:二つの側面があって、人っていう面で言うと、本当に世界中、変わらないですね。だから、トップのエンジニア達は皆、同じくらい優秀。まあ、できない層もいますけど。それはもう均質化されていて、この国はみんな優秀とか、この国はみんなアホとかもない。
たとえば、インドとかでも優秀な人達は皆、超優秀だし、中国でもそうだし、韓国でもそうだし、みたいな。ただ、その花が開くか開かないかは、国の状況ですごく差が出てしまって。今、全然関係ないですけれど、LINEっていうコミュニケーションのツールが半端なく流行っていて。
隈:それ韓国のNHNのやつだよな。
猪子:そうです。でも、作っているのは日本、東京で日本人達なんですよ。
隈:あれ、そうなの? へえー。
猪子:100%日本人なんですよ。今まで、日本からグローバルで皆が使うようなfacebookとかgoogleとかTwitterみたいなものって、ずっと出なかったじゃないですか。だから差はなくて、社会環境とか組織のジャッジの仕方みたいなものとか、資本の厚みみたいなもので、世界に行けるか行けないかの差がパッと出るんですよね。
隈:僕、そのNHNの研修センターを設計しているのだけれどさ。
猪子:えーっ!
隈:それがさ、半端じゃないんだよ。デカさと環境の良さが。日本企業であんな研修センター作るところなんかあり得ない、ってくらいすごい。
猪子:いや、もう、その差だけでLINEは世界に。東京の人が、日本人が普通に作っているわけです。日本人だけですよ。東京のオフィスで作っているんですけど、そういう環境とか資本の厚みとか、それでもう世界の競争に入れるか入れないかが分かれちゃう。だから、別に日本のクリエイターとかエンジニアも全然競争力あるんだけれど、結果として日本企業に競争力が全くない、みたいになって。
隈:要するにデジタルになって、韓国の建築業界というのが、学生のレベルでも、もう全く違う世界に様変わりしていて。学校教育でも、もうバンバンそういうソフトを学生に与えて、コンピューターで絵を描かせるわけよ。日本の建築学会ってさ、全くその点もうガラパゴス的でさ。安藤さんなんか「手書きで描け」みたいなことを言っていたから。
日本はかつて世界の建築教育をリードしていたんだけど、ここ10年くらい韓国がすごいんだよ。韓国の学校行って設計の公評会とか行くと、もう日本人なんて相手にならない。わーっとすごいの描いちゃう。
猪子:全分野ですごい差ができると思うのですよね。だから今、日本だと今おっしゃったように、大御所の方々が「デジタルは人間を舐めているのか」みたいに怒られるじゃないですか。若い子ってたぶん怒られ過ぎていて、たとえば20歳くらいの、ウチのこと好きだったり、興味があって遊びに来ている子ですら「そうは言っても、インターネットには悪い側面もいっぱいありますよね」とか言っていて。
(会場笑)
猪子:「ああ、そっか」とかって。「どこらへん? どこらへんが? ちょっと教えて」とかって言ったら、5分くらい考えたあげく「ちょっと今、一生懸命考えたんですけど、1個もないかもしれません」って。たぶん学校とかで怒られ過ぎているんですね。でも本当に、デジタル化されると共有のスピードがすごく上がるので、レベルが一気に追いつくんです。
だから、そういう環境、基礎スキルの底上げが激しいですよね。エンジニアとかも昔だと国ごとに差があったのに、今ネット使ってどんどんバンバン共有して、バンバン学習する人達は、同じぐらいすごい。世界を問わず。
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