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好かれる会社、嫌われる会社―大転職時代を勝ち抜く企業の組織戦略とは―(全5記事)

日本企業に足りないのは「戦略人事」ができるCHRO 終身雇用の終わりとともに「CXOの兼業」が進むわけ

Unipos株式会社が主催する「Unipos Summit 2023~日本企業・組織の空気を変えろ~」より、「好かれる会社、嫌われる会社 ―大転職時代を勝ち抜く企業の組織戦略とは―」のセッションをお届けします。経営学者であり企業の組織問題にも見識を持つ早稲田大学入山章栄氏、戦略的な人事制度と採用方針を確立するLINE人事の青田努氏、ビジネスパーソンのデータを最も知る一人であるワンキャリア北野唯我氏が登壇し、「これからの人事戦略のあり方」を徹底議論しました。

会社として正直であること

北野唯我氏(以下、北野):じゃあ、テーマ3に行きたいと思います。「雇用流動性が高まる世の中で、人事という仕事にはどのような変化が求められるか」という話です。ポイントは「雇用流動性が高まる」と「変化」なのかなと思います。

けっこうお話でも出たと思うんですが、出戻り、リファラル、アルムナイって、この5〜10年くらいで急激に出てくるようになってきたワードだなと思うんです。それゆえに、企業側や経営側はまだ対応しきれていないというか。

それこそ「転職するなんて裏切り者だ」みたいなカルチャーの会社がまだまだあると思うんですが、ここらへんをどのように思われるか、聞いてみてもよろしいですか?

青田努氏(以下、青田):今までお話しした内容にもけっこう含まれていると思うんですが、カルチャーとかエンゲージメントが重要であるということは、たぶん昔から変わらないと思うんですよね。ただ、昔以上に何が変わっているかというと「見えやすくなっている」というのはあると思います。

北野:そうですね。

青田:もう、嘘がぜんぜん通じないでしょうね。

北野:間違いないですね。

青田:だから1つは、会社として正直であること。なぜなら、嘘をつく人はみんな嫌いだから、信じられないから、ついていきたくないから。まずそれが1つです。それで言うと、ゆめみさんとかすごいなと思います。

入山章栄氏(以下、入山):ゆめみ、すごいよね。

青田:ゆめみさんでは自社の採用候補者に向けて、社内イシューを一通り公開しているんですよね。しかも定期的にアップデートしていて、代表の片岡(俊行)さんがそこにかなりコミットすることでリードされてきました。

載っているイシューは「どの会社にもあるよ」ということもいくらか含まれているので、だったらちゃんと公開して、伝えてくれているスタンスの会社が選ばれるんじゃないかなと思います。

実際に、エンジニアが選ぶ開発者体験が良いと思う企業ランキングのトップ10くらいに(ゆめみが)入っているんですよね。

北野:入っていますよね。

青田:Microsoftさん、ディー・エヌ・エーさん、ゆめみさんが来る、みたいな感じになっていて。大企業だけじゃなくて、ゆめみさんくらいの規模の会社さんであっても大切にしているなというのはすごく感じますね。

北野:そうですね。

青田:あの姿勢はすごいと思いました。

台湾政府が国民から信用されているわけ

北野:僕も2〜3年前くらいからずっと「嘘はバレる」と思っています。我々の会社もそうですが、ググったら口コミサイトでなんぼでも出てくるので、嘘をついても普通にバレるから意味がないんですよ。

入山:本当ですよね。

北野:入山さんはどうですか?

入山:今のお話、すっごく賛成です。一昨年、オードリー・タンさんと2回くらい対談させていただいているんですが、コロナになってから最初に日本でオードリー・タンさんと対談したのはたぶん僕だと思います。その時にうかがったのが、「なんでこんなに台湾政府は信用されているの?」ということです。

台湾はすごかったじゃないですか。台湾政府が一番大事にしている言葉があって、それが「ラディカルトランスペアレンシー(Radical transparency)」なんです。

北野:へぇ~、おもしろいですね。

入山:徹底的に、極端なくらいとにかく透明性を出している。政治家や大臣の行動は全部見られているし、なんなら政府の行動もオープンソースになっているわけですよ。

オードリー・タンさんには10代の若いメンターがいるんですが、実は台湾って大臣みんなに10代とかの若いメンターがついていて、リバースメンタリングをガンガンやっているんです。そういうことをやっているから、国民がみんな信頼してくれるんです。日本の組織も、これから透明性を上げる必要がある。

組織と人事は最高・最大の戦略

入山:青田さんのおっしゃることはそのとおりだと思った上で、もうちょっと古めかしいというか、そもそも論を言います。まず、人事にどういう仕事を求められるかということなんですが、根本的に本当に大事なことです。お二方には釈迦に説法なんですが、やっぱり日本って人事が弱いんですよ。

青田:多くの企業においては、そうだと思います。

入山:根本的に弱い。失礼な言い方だったら申し訳ないんですが、今までは必要なかったんです。なんでかというと、終身雇用だからです。

終身雇用で比較的経済成長が伸びていて、当時はまだまだ人材がいた。そこいい会社さんであれば「絶対に受けたい」という人が来るので、そういう人たちを採用して何十年も同じ会社にずっといてもらえれば、みんな終身雇用を疑っていない時代だったのでよかったわけですよ。

でも、この時代は(終身雇用が)完全に崩壊しているわけです。今の20代のほとんどは、誰も終身雇用を信じていない。当たり前ですが、誰も信じていないんです。

誰も信じていないので二極化していて、とにかく自分を成長させてくれる組織文化のいい会社に行くか、絶対にどう見ても潰れなさそうな公務員になるか、どっちかしか考えていないです。超二極化している、というのが現状です。

これからイノベーションや変化が不可欠な時代に誰がやるかと言ったら、当たり前ですが会社は人なので、人と組織が作っているわけですよ。ところが、人と組織を作っていくのはめちゃめちゃ時間がかかるんです。

よくある「今年ダイバーシティ施策をやったから、来年からいけるでしょ」みたいなのはあり得ないんですよ。言うのは簡単ですが、10年、20年かかるんです。だから、コツコツ石垣を積むようにやっていかないといけなくて。

日本の会社は長い間終身雇用制度だったので、それをやっていないんですよ。それをやっていないのに、やれ戦略だ、イノベーションだと言ったって、石垣を作っていないのにお城は建てられないじゃないですか。

なので、組織と人事は本当に重要だと思っています。最高・最大の戦略です。その中で一番重要なことをズバリ言うと、人事のトップである「CHRO(Chief Human Resource Officer)」です。

これからCXOの兼業が起きる

入山:今の人事のトップに何が求められているかというと、「戦略人事」です。つまり、社長さんとまったく同じ目線で、時にはケンカして、「うちの会社はこういうビジョンや戦略で行きたいんだったら、長期的にはこういう人材が絶対に必要です」「こういう組織文化にすることが絶対に必要です」と言って、長期スパンで徹底的にやり抜くことがものすごく重要なんですが、日本でそれができるCHROはほとんどいない。

GE出身の島田由香さんとか、何人かすばらしい方はいますが、非常に限られている。僕は「これからCXOの兼業が起きる」という話をしているんですが、もう実際に起きています。まず、今はどこで起きているかというと、デジタルで起きています。

CDO(Chief Digital Officer)やCIO(Chief information Officer)の優秀な人は、兼業になってきています。なんでかというと、人が足りない、社長目線で戦略を考えられる人がいないからです。

例えば僕はコープさっぽろという生協の理事をしているんですけど、ここのCIOは長谷川秀樹といって、元メルカリのCIOです。僕は理事をやっているので、毎月すすきので彼と飲んでいるんです。

北野:(笑)。

入山:彼が今やっていることはすごいことで、徹底的にデジタル化をやっているんですけど、実は彼は実は業務委託契約です。1年間の半分だけ札幌に来ていて、残りの半分は吉野家さんのデジタル改革をやっています。

北野:へぇ~。

入山:いい人がいないので兼業になっちゃうんですよ。次にどういうCXOが兼業になるかというと、僕はCHROだと思います。最近だと、CFOは大手企業でもけっこういい人が出てきているんですよ。

北野:確かに。

入山:CHROがめっちゃ足りなくて。本当にできる人がいないんです。社長と同じ目線で、徹底的に長い間時間をかけて戦略的に作り込める人がいない。だから青田さんなんて、放っておくとたぶん引っ張りだこになると思います。今日はけっこう常識人ヅラしていますが。

(一同笑)

入山:青田さんは言わないと思いますけど、たぶんいろんなところから声がかかっていると思いますよ。

戦略人事ができる「CHRO」を立てる2つの方法

北野:でも、どうしたらいいんですか? 鶏と卵みたいに、どこにもいないのであればどうやって作っていくのか、作っていくにしても時間がかかるし、どう考えたらいいんですかね。

青田:二通りあるかなと思っています。まず1つ目は、いわゆる業務委託的なかたちでCHROに入っていただくこと。視座だったり、考える視点だったり、もっというと胆力とか、学べるところがすごく多いと思うんですよね。

入山:(青田さんは)けっこう声がかかっているの?

青田:......。

(一同笑)

北野:これはかかっていますね(笑)。

青田:僕はどちらかというと、CHRO志向があまりないんですよ。

入山:そうなの? そういうのはやりたくないんだ。

青田:好きにプレイングしていたいんですね。

入山:なるほど。そのパターンは、ますます声かかりますね。

青田:いやいや(笑)。そういった人たちと社内のメンバーが一緒にやることで、シャドウイング的な効果でいろいろなものを吸収していく。まずはそれが1つ大事かなと思います。そういったエッセンスを強く発揮できる人から、いかに自社に取り入れるか。

北野:なるほど。

青田:でも、全部が形式知化されているわけじゃないから、一緒にやる中で暗黙知の部分もどんどん吸い取っていく。これが1つ目です。2つ目は、別に人事出身者じゃなくてもいいかなと思っています。いかに経営目線を持った人か、ということです。

入山:めっちゃいいですね。

青田:例えば、今のLINEの人事担当役員が最近まで何をやっていたかというと、プロダクトの企画の責任者だったんですよ。

北野:え~、そうなんですか。

青田:よりプロダクトの強い組織にするために、今は彼女が人事担当役員になっています。やっぱり、経営とか現場からの信頼がめちゃくちゃ厚いんですね。めちゃくちゃ信頼があるし、人望もあるから、何か意思決定しなきゃいけない時に、それが大きな意思決定であっても受け入れられやすい。

北野:なるほど。

青田:要は、社内の信頼のクレジットが溜まっていると。

入山:すっごくいいポイントです。「さすがだな」と思って、うかがっていました。

組織の変化を阻む「経路依存性」

入山:「会社を変革しましょう」という講演の時に、僕がもう1つ申し上げるのが「経路依存性」という話をものすごく言うんですね。

これは経営学とか経営学の考え方なんですが、僕みたいな能書きたれが「会社を変えろ、変えろ」と言うのは簡単ですが、実際には大変だからなかなか変えられないわけですよ。実はその時の根本に理由があって、それが経路依存性なんですね。

会社って複雑なので、いろんな要素があるわけです。組織はそれなりにがっちりうまくかみ合っているから全体が回るわけですが、どこか1個だけを「時代に合わないから変えよう」としても、変えられないんですよ。

例えば僕がよく言うのは、なんで日本でダイバーシティが進まないかというと、ダイバーシティだけをやろうとするからだという話です。

北野:なるほど。

入山:本当にダイバーシティを進めたいなら、新卒一括採用、終身雇用、メンバーシップ型を見直さなきゃしょうがないんですよ。なぜなら、新卒一括採用では多様な人を採れないからです。ところが、日本の会社はそのままやろうとするんですね。

北野:確かに。

入山:あとは、評価制度も多様化する必要があります。評価制度が一律だと、多様な人を評価できないじゃないですか。多様な人がいるなら働き方だって見直して、「ある人は会社に来るけど、ある人は家にいてもいい」という働き方に変えなきゃいけない。そこを変えないでダイバーシティといっても、進むはずがないんですね。

同じことが起きているのがDXなんです。DXもなかなか変化しないんですよね。

いい会社は役員を兼任する

入山:青田さんの話に近づくんですが、僕は「経路依存性を変える一番手っ取り早いやり方がありますよ」という話をしています。ズバリ言うと、役員の兼任です。

日本の大手企業って役員が多すぎるんですよ。僕は(企業の)中をよく知っているつもりなんですが、「〇〇担当役員さん」っていっぱいいらっしゃいますよね。経営会議でみんなで議論するんだけど、それぞれ自分の持ち場の部署があるので、そこが揉めると話がまとまらなくて、グダグダで終わって持ち越しになる。

北野:確かに。

入山:そういう会社は死ぬほどあるんですが、コンフリクトしそうなところを1人が兼任していたら、絶対にその中で解消しちゃうじゃないですか。

北野:なるほど。確かに。

入山:なので、実はいい会社って役員を兼任するんですよ。

北野:おもしろい。

入山:例えばDXの文脈でいくと、今の日本の既存事業で最もDXができている会社の1個はクレディセゾンさんです。

クレディセゾンさんには、林野(宏)さんというすばらしい経営者がいます。林野さんはデジタルの人じゃないんだけど、「デジタル化しないままだとうちの会社は潰れる」ということで、シリコンバレーから小野(和俊)さんという方を連れてきました。

今は小野さんがDXをやっていて、めちゃめちゃ変えているんですが、実は小野さんは人事権を持っているんですよ。全部じゃないけど、デジタル周りの人事権を持っている。つまりDXをやろうとしたら、人事と兼任しないと絶対にコンフリクトするんですよ。

北野:なるほど。そうですよね。

入山:なので、まさにLINEのやり方はすごくよくて。人事上がりでずーっと人事をやっている人がそのまま人事のトップになっちゃうと、人事の権益のことしか考えないので、イノベーションやDXには絶対に対応できないんです。

北野:なるほど。確かに、コンフリクトが解消できないですもんね。

入山:もしそうするなら、人事のトップはDXのトップにもさせちゃったほうがいいです。

北野:なるほど、おもしろいですね。(青田さん)めっちゃ頷いていますね。

青田:ちょっと皮肉めいた感じにはなっちゃうんですが、人事の上にCHROがあるかというと、必ずしもそうでもない。CHROとしてのなんらかの素養を別途インストールしないと、やっぱりなかなかうまくいかないんじゃないかなと思います。

北野:これは事業じゃなくてもいいんですか? 要は「事業を経験している人がHR部門になると、ディティールとかもわかる」という話もあるじゃないですか。お話を聞いていて、事業というよりはコンフリクトを解消できるような経験、あるいは権限を持っていることが重要なのかなと思ったんですが、その認識は合っていますか?

青田:どうでしょうね。

北野:すみません、めっちゃ細かい質問をしちゃいました。

青田:自分の中で、まだ答えがない状態ですね(笑)。

北野:ないですか。

青田:今、初めて考えたので。

北野:確かに、変化が起きた時って絶対にコンフリクトが起きるじゃないですか。みんなが自分の島を守ろうとする。でも、確かに解決できるような権限がないと厳しいというのは、おっしゃるとおりなのかなと思いました。

青田:統合しちゃったほうが、メリットは大きいですよね。

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