2024.10.10
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Dogs Love the Smell of Stress(全1記事)
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ハンク・グリーン氏:さて本日の話題は、すべての人におなじみの「ストレス」についてです。さらに、このお話にはわんちゃんも出てきますよ。楽しみですね。
今週の『PLOS ONE』誌に掲載された論文によりますと、どうやら犬は人間のストレスを嗅ぎ分けるようです。犬が人のよき友である理由や、不安やストレス下にいる人間を犬がサポートしてくれるヒントも、どうやらここに隠されているようです。
犬を飼っている人なら、「もちろん、うちの子は僕がストレスを受けていると察知してくれるよ! だから僕は犬を飼っているんだ」などと思っていることでしょう。犬が人の感情を反映することは、研究で明らかにされています。代表的なストレスホルモン、コルチゾールの長期的なレベルは、犬とその飼い主でよく似ています。
しかし、犬がどのようにして人間のストレスを感じ取っているかは、実はよくわかっていません。喜びや恐怖など、異なる感情を感じている人のにおいを犬に嗅がせる実験も行われてはいますが、「どのようにして」の部分の解明はできていないのです。
そこで、犬のストレスの嗅ぎ分けを調べるため、とある対照実験が行われました。飼い主が別室にいて何のヒントも得られない状況で、犬に臭いを選ばせたのです。
人間の被験者はまず、平常心での汗と唾液のサンプルを採取され、その後に暗算をさせられました。ペンや紙などは与えられず、9,000から17ずつ引き算をしていくのです。確実にストレスを与えるため、被験者には実験担当者が2人付き添って、「この暗算にはスピードと正確さが求められる。これはきわめて重要なことだ」などとプレッシャーを与えました。
暗算が終わると、再度汗と唾液のサンプルが採取されました。そのうち、実験開始時点から、10ポイント中2ポイント以上ストレス数値が上がったサンプルのみが次の実験に使われました。
さて、いよいよ犬の登場です。この実験には、トレオ、ウィニー、フィンガル、スートという4匹の犬が参加しました。わんちゃんたちの名前は別段実験には関係ありませんが、とてもお利口なのでここで紹介しておきます。
実験では、臭いのサンプルが3択で与えられました。第一段階で与えられたサンプル3択は、「ストレス下の人間」のサンプルと2つのダミーでした。この実験を10回繰り返して臭いを覚えさせた後に、サンプルはすべてきれいに拭き取られました。
続いて次の3択が与えられました。ストレス下の人間のサンプル、同じ人物のストレスなしのサンプル、そしてダミーです。果たして、犬たちは実験の94パーセントで成功を収めました。32人の被験者の汗と唾液を720回嗅いだ結果、ただ座っていた被験者と、大量の暗算をさせられた被験者との臭いを嗅ぎ分けたのです。
実験では、余計なバイアスがかからないよう注意が払われました。たとえば、犬に視覚や聴覚情報が与えられないよう、被験者たちは別室にいました。また、実験には「二重盲検法」が用いられました。つまり、犬を扱う実験担当者も正解を知らされておらず、カーテンの陰に隠れた別の担当者から正解の合図が送られ、犬を褒めるべきタイミングが知らされたのです。
ただし、この実験は犬がストレスと知ってそれを嗅ぎ分けられることを示すものではありません。犬たちはただ事前に訓練したタスクを遂行して褒めてもらいたい一心でがんばりました。また、犬はストレスを与えることで被験者たちのストレス臭へ反応したわけでもありませんでした。
いずれにせよ、ストレス下とそうでない人間の臭いを犬が嗅ぎ分けられることが実験上立証されましたし、これは実態に近いのかもしれません。論文の著者たちは、これは不安やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を軽減する介助犬の訓練に役立つと指摘しています。反応するべき臭いが犬にわかり、それを教え込むことで、人間のより良いパートナーになってもらうことができるかもしれません。
さて、ストレスつながりで次のお話です。新型コロナウィルス感染症のパンデミック以降、なんだか気難しくなったなと感じていたら、そう思うのはあなただけではありません。今週刊行の『PLOS ONE』誌に掲載された論文では、新型コロナのパンデミックによる人格の変化が検証され、変化が立証されただけでなく、想定より大きいことが明らかになりました。
さて、この手の話題になると、人格とは何かという定義が重要になってきます。心理学分野では、長く複雑な研究史があるからです。大雑把にいえば、人の性格をパターン化し、それが生涯にわたってどのように発現するかの研究が主流です。とはいえ、どんなテストであろうと、人格をリボンをかけた箱のようにきれいにまとめることは不可能です。
しかし、この論文にも用いられている「ビッグファイブ」主要因子の人格モデルは、よくできています。それぞれの次元は、多様な経験を評価する「開放性」「外向性」、人を信頼し裏のない「協調性」、責任感が高くて几帳面で自己を律する「誠実性」、不快な感情を感じがちでストレスに脆弱な「神経症傾向」に分かれます。
これまで行われた研究では、このビッグファイブ性格特性は確かに大きなストレスのかかる体験をすると変化しますが、集合的な体験や天災などでは大幅な変化はないとされてきました。しかし、研究者グループは新型コロナのパンデミックの規模が大きく、世界レベルであることから、なにがしかの変化をもたらしたに違いないと考えました。
研究者グループにとっては願ってもないことに、ビッグファイブ性格特性の長期研究が2014年から開始されており、分析に適した7,000人以上の被験者プールがすでに存在していました。事前に1回、パンデミック中にも1回、調査を受けた経験が全員にありました。年齢、ジェンダー、学歴、倫理観を問うアンケート調査で、人種を絡めた調査は特にはありませんでした。
まず、2020年5月以降のデータが調べられました。「神経症的傾向」に減少が見られ、それまでの不安やストレスが減ったという他の調査結果にも合致するものでした。2020年時点では他の4つの性格特性には変化は見られませんでした。
しかし2021年と2022年にはまったく異なる結果が得られました。「神経症的傾向」の減少はなくなり、「開放性」、「外向性」、「協調性」、「誠実性」すべてに減少が見られました。被験者を3つの年齢層で区分してみたところ、変化はより顕著になりました。
中年層と高齢層では2021年・2022年にも「神経症的傾向」の減少が見られた一方で、30歳以下の若年層ではパンデミック以前と比べて飛躍的な増加が見られました。若年層ではさらに同時期の「協調性」と「誠実性」に急激な減少がありました。
とはいえ、その影響はきわめて小さなものであったことは留意するべきでしょう。総合的な標準偏差は、変化と見なされる10分の1だったのです。ちょっとわかりにくいですが、統計はこうして取られています。要するに、10年単位で見られる一般的な人格の変化はこの程度ですが、決してゼロではありません。
また、論文の著者たちは、原因はパンデミックに限らないと明言しています。ここ数年間で社会的な大事件が多数起こっており、きわめて多様で大きなストレスとなりえます。こうした変化が今後も定着するのか、もしくは数年で元に戻るのかは不明ですが、パンデミックで自分が変わったと感じているのなら、もしかしてそれはみなさんだけではないかもしれません。
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