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弁才天社長 大野淳平氏による講演 大野氏が考える国際ビジネスとは(全1記事)

2年半で70店超の拡大を実現した、素人「だからこそ」の強み 「和菓子業界の風雲児」が大切にする、外観と中身の「バランス」

国際ビジネスに対し前向きに挑戦しようという意識改革の推進を目指し、名古屋青年会議所の主催で開催された「中小企業の国際ビジネスを推進する名古屋フォーラム」。同イベントに、「フルーツ大福」が大ヒットし、年内にフランス・パリに海外第1号店を出店する予定の株式会社弁才天の代表・大野淳平氏が登壇。フランスで和菓子店として初のミシュラン獲得を目指す大野氏が、「今振り返っても的を射ていた」と語る「老舗の横」戦略や、フルーツ大福の海外進出で大切にしていることなどを語りました。

「社会不適合者」から「和菓子業界の風雲児」への大出世

大野淳平氏:みなさん、こんにちは。初めまして、大野淳平です。だいぶ印象が変わって、後ろのロン毛時代と違う雰囲気になっていますけど、今年はこのスタイルでいきたいと思います。

よろしくお願いします。

(会場笑)

先ほど「和菓子業界の風雲児」と言っていただいたんですけども、僕もずいぶん出世したもんだなと思いました。実は独立する前に、2社でサラリーマンを経験しています。1社目は機械商社で、ぜんぜん性に合わず、その会社の社長さんから「社会不適合者だ」と言われて泣く泣く転職することになり、2社目に入った広告会社では「コンプライアンス違反だ」と言われたんですよね。

それで、自分でやるしかなくなって今、社長をやっているんですけども。今まで、実は1回も「社長になりたい」と思ったことはなくて、仕方なく社長になったのが僕です。なので見てのとおり、今でも決して社会に適合しているとは思えないような見た目をしていますし、場合によっては和菓子業界からも「何なんだアイツは」という目で見られているかもしれません。

でも、「だからこそ」と逆に言えるのかなと思っています。というのも弁才天が誕生したのが、ちょうど2年半前、令和元年10月ですけども。僕、和菓子なんて何もやったことがないんですよ。和菓子のことを知らないのに和菓子屋をやってしまうという暴挙に出たわけですけども、これが逆に良かった。

もし僕が和菓子業界出身で、その道十数年の職人だったら、弁才天はこうはならなかったんですよね。詳しくは僕の個人のInstagramに「弁才天という文学」というかたちで、弁才天をどうやって作ったかや、経営理念、人生観のようなものを記しておりますので、そちらをご覧になっていただければと思います。

「老舗の横」戦略

軽くさわりだけ話すと、当時僕は30歳を迎えて、「自分が持っていきたい手土産がないな」と思っていたんですね。デパ地下に行っていろいろ見てみるわけですけども、パリッとして凛としたと言いますか、目上の方に持っていくものとしてふさわしい手土産がなかなか見当たらなかった。

いつも洋菓子を持っていっていたんですけど、ちょっとかわいくなっちゃうなと思いまして。でも和菓子だと、「自分が食べておいしいと思えるものがなかなかないな」と思ったりしていて。どうしたものかと思っていた時に、名古屋の「覚王山吉芋」さんという老舗の芋菓子屋さんがありまして。そこに、1ファンとして芋けんぴを買いに行ったんですよね。そうしたら、隣の物件が空いていて、そこでビビッときました。

アイデアが「降りてきた」というのはああいうことだと思うんですけど、老舗の芋菓子屋さんの隣で、老舗っぽい雰囲気で、「和菓子屋の4代目が新しいブランドを立ち上げた」……。こういうコンセプトの店を作ったら、芋けんぴを買いに来た人がその系列と間違って来るかな、という邪な考えから入っているんですけど。

これが功を奏して、「老舗の横」戦略というのができあがったんですね。2号店は上前津の「天むすの千寿」さんの横です。だから最初は「老舗の横に老舗っぽく出す」ということをやっていたんですよ。これは案外、今振り返っても的を射ていたんだと思います。

素人だから辿り着いた、「薄皮薄餡の黄金比」

というのも和菓子業界ってとても閉鎖的な業界で、新しくお店を出すこと自体が縁遠いと言いますか。みなさん伝統や格式を守っていくことには長けていらっしゃるんですが、新しいお店、こと新しい業態に関してはどうも奥手になられている。そんな節があるかなと思っていまして。

自分は社会や学級とか、さかのぼればいろんなところからはみ出して生きてきてしまいましたけども、和菓子業界の中にいなかったからこそ、先ほどおっしゃっていただいた「風雲児」というやつになれたのかなと思っています。

弁才天の大福って、召し上がっていただいたことがあるかどうかわからないですけど、「薄皮薄餡の黄金比」を標榜しています。フルーツがメインの大福でよいと。実は、僕はあまり甘いあんこが好きじゃないんですよ。もったりとしたお餅もあまり好きじゃないもんですから、フルーツが主役で、あくまであんことお餅は脇役でいいんだと。

僕がもし和菓子業界にいたら、たぶんそうはいかないですよね。「お餅のすばらしさを広めたい」「あんこのおいしさを届けたい」となっていたと思うんですよ。だから案外、僕が素人として業界に新しい風を吹かせることができたのは、必然だったんですよね。

「何者でもなかったから、何にでもなれた」

今回は「海外向けの話を」ということで、ちょっと海外に視点を移してみようと思います。現状、和菓子という日本を代表する菓子文化、カルチャーは、世界で見るとそんなに盛り上がっていないですよね。とらやさんがパリに1店舗あったり、源吉兆庵さんがベトナムの高島屋に出店していたりということは見受けられるんですけども、どこかの和菓子チェーンが世界を席巻してるという話は聞いたことがありません。

でもだからこそ、チャンスがあるとも思っています。さっきの話に戻りますけども、普通の和菓子屋さんが世界に行こうとなった時、きっと「お餅のすばらしさ、あんこのおいしさを伝えにいくんだ」と気合いが入りすぎちゃうと思うんですよね。

だけど西洋の人たちは、そもそも甘く煮たあんこ、甘く煮た豆がそんなに好きじゃないと聞いたことがあります。そうであれば、まずはガワだけでもいいんじゃないかと。まずは体裁として和菓子屋さんっぽいという要素があれば、むしろヨーロッパに進出する時は「あんこ抜き」というオプションをつけてもいいんじゃないかと思うわけですよね。

これはきっと、僕が和菓子職人で5年、10年あんこを炊いていたら、考えられないと思います。やっぱりあんこのすばらしさを届けたい、となっちゃうと思うんですよね。でも自分の場合は「何者でもなかったから、何にでもなれた」というのが大きくて。なので一番自分が欲しいと思うものを作ればよかったんですよね。

ヨーロッパの方の気持ちになると、あんこ抜きがあったらすばらしいなと。もしかしたらお餅も薄ければ薄いほうがいいかもしれないな、とか。最近フランスでは「餅クリーム」がけっこうはやっていたり、日本茶をワインのように嗜む文化があったりするみたいなので、だいぶ土壌はできてきているなという感じもあったりします。

利益のことだけを考えたら近場の韓国や台湾といった親日の国々に進出するのがいいのかもしれないですけど、やっぱり文化的造詣の深いフランスだったり、イタリア・ミラノ、アメリカのLAだったり。そういった所に勝負しに行きたいなと思っています。

フルーツ大福の海外進出で大切にしていること

じゃあ「どうして和菓子屋じゃなくて、素人・門外漢のお前にできる?」と問われたら、僕はその土地土地にローカライズして、単純にその人たちが欲しがるようなものを作れるからだと思っています。和菓子って食べていないけれど、フルーツは世界中のみんなが食べているんですよね。

僕たちのお店は今ではおかげさまで全国75店舗、もうすぐ76店舗になります。でもお店に来てくださるお客さんみんながもともと和菓子を食べていたかというと、食べていないんですよね。でもフルーツは老若男女みんな好きです。だから、アイデアが降りてきたとはいえ、案外僕が日頃からBtoCのお店が好きで、いろんな所を食べ歩いたりしていた経験が活きてきたんだなと。自分のことを振り返って、こう思ったりもします。

やっぱり「自分が欲しいものを作る」ということですよね。弁才天ができた後に追随するように、糸で(大福を)切るということをやる類似店が増えました。でも外側だけ真似しても、根底にあるコンセプトや考え方まで真似できていなかったら、そのうちメッキが剥がれちゃうだけですからね。だから、「じゃあ次は何なんだ」となって、また新しいことを探してしまう。

かく言う自分も、「カルチャーを作る」「トレンドで終わりたくない」と言っていても、やっぱりテレビや雑誌、あるいはSNSで一気にブームになって広まったものですから、ピークアウトし始めているなという実感もあるんですよね。

70店舗、80店舗ということで、数にはもう満足しています。先日は沖縄で催事もやりましたが、実店舗は北海道から九州の熊本まであります。もう十分じゃないですか。日本国内はこの2年間でかなりいろいろと出させていただいたなという思いです。ここから90、100店舗にいくかどうかはわかりません。

90店舗、100店舗に膨れ上がったとしても、そこからダウントレンドになってお店が減っていっちゃうかもしれない。きっと減っていくんだと思うんですよね。でも最後の1店さえ辞めずに100年続けたら、本当の老舗じゃないですか。とらやさんだって500年、600年の歴史があるといっても、最初の1年が絶対にあったはずですよね。

その最初の1年から500年、600年後の今、不動の地位を築き上げているとらやさんですら、海外に関しては手をこまねいている状態だと。「じゃあこれが一番おもしろいじゃん」と僕は思っているんですよね。だから「あんこを届けたい」「お餅のすばらしさを」と和菓子に寄りすぎた格好で海外に行くのではなくて、あくまでファッションとしては和菓子なんですけども、コンテンツはフルーツというか、そのバランスが大事です。

ヨーロッパの人が食べてもおいしいと言ってもらえるものを作りたいと思っていて、それが海外に向けて自分が、素人だからこそやれることかなと思っています。

メディア出演で、知名度が上がった効果

そんなこんなで海外進出に向けた話をしてきました。ありがたいことに、今日の講演もそうですが、もともと何者でもなかった僕がフルーツ大福でちょっとブームを作って、少しみなさんに名前を知ってもらえるようになりました。YouTubeの『街録ch』というのに呼んでもらってゲストでしゃべったり、今日も実は『ヒルナンデス』に出てしゃべりました。

そうなって良かったかなと思うのは、同志が集まることです。同じ思いを持った仲間、もちろん100パーセント思いが一致しているかはわかりませんよ。でも少なくとも僕の考え方に共感してくれたり、自分に興味を持ってくれた人たちが、Instagramで直接メッセージをくれたりして。その中から実際に今、弁才天で働いている若手もいます。

彼はドイツとフランスのハーフで、先月、フランスに事前に乗り込んでもらいました。実際に物件を探したりしている段階なんですけども。発信しているといろいろ共鳴してくるものがあるなぁと思います。実際にフランスに、今年のどこかでは出店まで持っていきたいなと思っています。あるいはハワイとかスペインとか、近場だと韓国とか、ほかにもいろいろと案件があります。

「のれん分け」という水平分業型のメリット

僕は、のれん分けというやり方で店舗を広げたんですけども、これはどうしてかというと、垂直統合型の組織を作るのが自分は苦手だとわかっていたからです。自分一人で全国展開するのは難しいと、最初から考えていました。それはお金の面もあります。

調子が良い時にどんどん借り入れをして、設備投資をガンガンしていった結果、ダウントレンドになった時にキャッシュフローが回らなくなって返せません、お手上げ。これがよくある失敗事例だと思っていて。やっぱり借りたものは返さないといけないので、自分の身の丈に応じて成長していこうと考えて、直営店はそんなに急がずにやったつもりです。

ただそんな折にコロナ禍がきましてね。コロナになると国が担保するかたちで金融機関がたくさんお金を貸して、「第2の柱を作りなさい」と、世論に言われる。でも今まで水道工事ばっかりやってきた社長が、急に「第2の柱を作れ」と言われても難しいですよね。不動産ばっかりやってきた人が急に第2、第3の柱、ポートフォリオ(資産構成)なんて難しいと思います。

そんな時に「コロナ禍で調子が良さそうなのはどこだ」「弁才天?」と。社長さんたちの手土産で使ってもらうことも多かったものですから。それで「ライセンスでやらせてほしい」という話を何件かいただきました。

そこから僕は考えました。フランチャイズと言ってしまうと、どうもかっこ悪いなと。そして大きくなるとダサくなるというか、「広がると薄まる」のもわかっていたので。いかにインディーズ感を残したままメジャーになるか、みたいなところが僕のテーマです。

垂直統合で自分でやるよりは、水平分業で良かったなと今も思っています。ローカルのオーナーさんたちが、弁才天を好きだという思いで一生懸命やってくれたりもします。中には「弁才天、本当にすばらしいお店だから」と最初は言ってくれたけど、結局はお金だったのかなと寂しくなるようなこともあるんですけども。

そんないろいろなことを経験して、のれん分け制度というかたちでオーナーさんたちが、200人ぐらい一気に応募してくれました。そこから1割ぐらいの人にお店をやってもらうことになり、その方たちが1店舗、2店舗と増やしていって、直営が十数店舗に対してのれん分けのお店が六十数店舗になっています。

ただこうなってくると、僕は1個良い店を作りたいだけだったのに、管理業務ばっかりになってきたんですね。それではどうにもならないと思っていたところに、昨年ファンドから話がありまして。株の半分はバイアウトして今に至るということなんですけども。このへんはM&Aにまつわるお話ですね。

時間ですので割愛しますけども。ご興味のある方はけっこう時間をかけて書いていますので、僕のインスタなんかを読んでもらうとうれしいなと思います。

海外に向けてという話があちこちに行ってしまって、例によってまとまりのない話になってしまって申し訳ありません。何かみなさんに響くものがあればいいなと思います。ご清聴ありがとうございました。

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