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漫画家ミライ会議2021【村田雄介×森川ジョージ】超創作論(全5記事)

『ワンパンマン』にあって、新人漫画賞の応募作品にないもの 森川ジョージ氏が語る、実績のある漫画家の共通点

ナンバーナイン主催で開催された「漫画家ミライ会議2021」より、【新創作論】をテーマに、『はじめの一歩』の森川ジョージ氏と『ワンパンマン』の村田雄介氏が登壇したセッションの模様を公開します。本記事では、お互いの初対面での印象や作品への感想、森川氏の語るおもしろい漫画の特徴、週刊連載の厳しさなどが語られています。

「超創作論」をテーマに、漫画家の森川ジョージ氏と村田雄介氏が登壇

工藤雄大氏(以下、工藤):いよいよ最後のセッション「超創作論」を開始したいと思います。

それでは登壇していただく方をご紹介します。左から、『ワンパンマン』の作画を担当されている漫画家の村田雄介先生と、『はじめの一歩』を描かれている漫画家の森川ジョージ先生です。まず、森川先生から自己紹介をお願いいたします。

森川ジョージ氏(以下、森川):森川です。今、ナンバーナインさんの説明を受けて、ナンバーナインさんがどんな会社かがよくわかりましたけど……。

工藤:ありがとうございます。

森川:なぜ今僕がここにいるのかが、まだよくわかってない。

工藤:(笑)。

森川:こんなの着ちゃって。

工藤:「漫画家ミライ会議」のTシャツを。

森川:これを着ちゃって、すっかり仲間みたくなっているけど。

工藤:え、仲間じゃないんですか?

森川:今講談社の「週刊少年マガジン」がハラハラしてると思う。

工藤:(笑)。いや。

森川:恐らく隣の村田君も同じで、集英社のジャンプさんがハラハラしていると思う。

工藤:(笑)。いや、でも同じ漫画業界で一緒に戦っている者としてみなさん仲間だと思っていますので、そんなふうには思っていただければうれしいです。では、村田先生からも自己紹介をお願いいたします。

村田雄介氏(以下、村田):どうも。『ワンパンマン』の作画をさせていただいています、村田です。よろしくお願いします。

工藤:よろしくお願いします。

村田:今回は森川先生にお目にかかれるということで、もう一も二もなく参加させていただきました。

森川:最高だな。

村田:今日はよろしくお願いします。

工藤:よろしくお願いいたします。超豪華なお二人に登壇いただけるということで、私たちも大変うれしく思っております。今回どういったお話をお二人と繰り広げていこうかというところで、このスライドの4つのテーマで進めていきたいと思います。

1つ目が「お互いの印象を知りたい」。村田先生と森川先生は最近お話をする機会が増えたということなので、その時の印象をうかがいたいと思っております。

2つ目が「お二人の制作スケジュールが知りたい」。過密なスケジュールをこなされているとは思いますが、どういったスケジュール、制作内容の分担などをされているのかや、どれぐらい時間をかけているのかなどをお話ししていただければと思います。

3つ目が「漫画の超創作論」。ここはけっこう幅広く漫画についてお話をうかがえればと思います。

4つ目が「お二人が注目する漫画のトレンド」。最近注目されている漫画家さんや、漫画業界の動向などをお話しいただければと思います。

自身の中に、一歩や鷹村のキャラを内包する森川ジョージ氏

工藤:さっそくですが、「お互いの印象が知りたい」というところで、お二人がお会いした時の第一印象はどうでしたか? 初めてお会いした時っていつ頃になるんでしょうか?

村田:お食事会ですね。ミライ会議さんにこのお話をいただいて、現場で初めてごあいさつというよりは事前にごあいさつしておいたほうが、ということでお食事にお誘いさせていただいてご相伴にあずかったんですけど。その時に、僕がとにかくすごい引きこもり体質なので。

工藤:ええ? そうなんですか?

村田:ああいう席に参加させていただく時は、周りへの気配りとか、愛情の示し方とかを勉強させていただこうというかたちで、参加させていただいているんですけど。森川先生はすごく気風が良く、ざっくばらんにお話ししていただける方で。「やっぱり作家さんって、手掛けられているキャラクターが、その作家さんの中に生きているんだな」と実感をする瞬間がたくさんありました。一歩もいて、鷹村(守)もいて。

工藤:鷹村も。

村田:鷹村を彷彿とさせるような愛情表現があったりして。ストレートじゃないんですよ。

工藤:(笑)。

村田:強い言葉なんだけど、そこに思いやりがあるという。そういう優しさの表現ですね。

森川:そういう解釈をしてくれたのね。ありがとうございます。

村田:すごく勉強になりました。

超大物漫画家を口説いた、ミライ会議の登壇オファー

工藤:森川先生は今の村田先生が持たれた印象の話などは聞かれていたんですか?

森川:いや、初めてだけど。だって、会ったのはその時の1回しかないから。

工藤:じゃあ、つい最近ってことですね。

森川:だから、あなた方が悪いんだよ。

工藤:ええ? 悪いんですか?

森川:あなたから僕のTwitterのDMに「こういうのがありますけど出ませんか?」とミライ会議の情報が来て。

工藤:そうですね。送らせていただきました。

森川:漫画家の周辺ビジネスは、詐欺師みたいなのが多いの。

工藤:(笑)。

森川:「絶対引っ掛かんねえぞ、バカ野郎」と思ってずっと無視し続けていたら。「村田さんも登壇していただく予定です」と、またDMが来たの。

工藤:そうですね。そういうふうに送らせていただきました。

森川:「あれ? 『ワンパンマン』の人だよな」と思って。

工藤:そうです、そうです。

森川:「すげえ興味ある」と思って。

工藤:(笑)。

森川:「どうしよう」とか思って。でも、この工藤ってやつ知らねえもん。

工藤:そうですよね。

森川:ナンバーナインも知らなかったし。

工藤:そうですよね。

森川:とりあえず会ったこともなくて、しゃべったこともないんだけど、Twitterはわかっていたから村田君にDMを送って。

工藤:そうなんですか?

森川:「この人知ってる? 信用できるの?」と聞いたら、村田君も「信用できるかどうかはわからないですけど」と言って。

工藤:ええ!?

村田:いやいや、そんなことはないですよ(笑)。

工藤:いや、どっちなんですか。

村田:僕はミライ会議さんには恩がありまして。

工藤:ありがとうございます。

森川:お世話になってるの?

村田:いや、最初、森川先生とコンタクトができたのはTwitter上でのスペースですよね。

森川:そうだね。

村田:『アイシールド21』で原作を書いていただいた稲垣(理一郎)先生の奥さまが、YouTubeで番組をやられていて。

森川:(笑)すっげー詳しく話すな。そこはいいんじゃないか?

村田:いいですか、すんません。稲垣先生とコンタクトが取れるようになったのが、ミライ会議さんからお誘いをいただいたお食事会だとか、そうした一連の流れの中でして……。

村田雄介氏の印象は「礼儀正しい人」

森川:今はちょっとナンバーナインさんの手柄みたくなっているけど、ぜんぜん違うからね。ぜんぜん違うよ。

工藤:(笑)。そうですか? 違うんですか?

森川:「一緒に登壇しましょうか」ということを村田君とDMで話し合っていたら、「登壇するんだったらその時に直に会うのは良くない」と村田君が判断して、「その前にごあいさつがしたいです」と言って、わざわざ席を設けてくれたの。すごく男気があって。

工藤:本当にすごいですよね。

森川:規範を示してくれるというか、僕はそんなの思い付かなかったから。

工藤:いやいや。

森川:「村田君に会えるんだったらいいや」と思ってその日に会おうと思っていたのに、「ちゃんと食事会をします」と言って。

村田:いや、ありがとうございます。

森川:それで漫画家の人を集めて、すごく楽しい会を作ってくれて。「いや、この人はすごく礼儀正しいな」と思って。それが僕の印象ですね。そこでちょっと傍若無人なことを言っていたのね。

村田:(笑)いえいえ。ありがとうございます。

工藤:弊社のサービスというかイベントがきっかけで、そういう場が設けられたのは素直にうれしいなと思っていますし。

森川:いや、ナンバーナインさんの手柄じゃないですよ。

工藤:違います?

森川:村田さんに会えるかなと思って。

村田:いや、ナンバーナインさんには非常に恩義を感じております。

工藤:(笑)それで初めてお会いになって、お話しされたんですね。

森川:かなり最近だよな。

村田:そうですね。ここひと月ぐらい。

工藤:ということですよね。

森川ジョージ氏を「すげーうまいな」とうならせた『アイシールド21』

工藤:もともとお互いの作品を読まれたりされていたんですか?

村田:『アイシールド21』が連載開始の時に、『はじめの一歩』はすでに50巻に到達されていて。編集部から「スポーツ漫画の名作は読んどけ」と教えていただいて、単行本をそろえておりました。

工藤:じゃあその時にって感じですね。森川先生はいかがですか?

森川:僕はマガジンが日本一になった時の最後のメンバーなんだけど。

工藤:(笑)。なるほど。今も現役でマガジンの誌面でってことですね。

森川:ジャンプさんが落ちてきてマガジンが抜いた瞬間があったの。その時にマガジン編集部がね、いつも飲み会をやっていて、「うれしい、うれしい」とやってて。ああ、もう駄目、このふにゃふにゃした感じ、と思って。

工藤:大丈夫ですか、これ? 怒られないですかね。

森川:聞いてるかな、マガジン編集部。

工藤:(笑)。

森川:ほんと、夜ごと夜ごとだよ。

工藤:いやいや。

森川:パーティーばっかりやってて。

工藤:いや、でも日本一はめちゃめちゃうれしいじゃないですか。

森川:「この気の抜け方は絶対無理だ」と思って。すぐ落ちると。勝って兜の緒をプッてゆるめちゃったからね。

工藤:(笑)。コメントができない。

森川:そんな時に出てきた新人さんが村田君たちだったの。「ジャンプさんはこんないい新人を抱えてんだ」と思って。「すげーうまいな」と思ったのがやっぱ『アイシールド』だよね。

工藤:ああ、なるほどなるほど。

森川:すって抜かれたからね。すって。

工藤:(笑)。ちょっと私のほうでコメントしづらいことではございますが、当時のお話を聞くことはすごく貴重です。そういったきっかけで、お互いの作品を読まれていたんですね。

「おもしろい漫画」は、世界観に没入させてくれる作品

工藤:けっこう質問も来ていますが、お互いの「ここ、すごいな」と思われる部分はございますか? 

村田:スポーツ漫画で、画の迫力ですよね。

工藤:ああ、そうですね。

村田:とにかく動きを混乱させないこと。位置関係と、あとそれぞれの繰り出す技とか特色の描き分けだとか、そういった部分で……。

工藤:森川先生、大丈夫ですか。

森川:これさ、横で褒めちぎられてるから無理だろ、これ。無理。

工藤:(笑)。めちゃめちゃ。

村田:もう「一歩漫談か」っていうくらい続きますよ(笑)。

工藤:抑えてくれ。

村田:いえいえ。

工藤:じゃあ、森川先生のほうに。今、村田先生から森川先生の「すごいな」と思うところをいただきましたが、森川先生から村田先生の「ここはすごい」と思うところはいかがでしょうか?

森川:僕は漫画を読んで、何がすごいとか思わないほうなの。漫画を読む時はいつも読者であって、稲垣理一郎の原作で、村田君が作画というコンビの作る漫画がとにかくおもしろかった。

工藤:読者として。

森川:そうそう。『ワンパンマン』もそうだけど、読者として読んじゃう。その世界に没入させてくれるから、「おもしろい」っていう感想しかないの。「ここをこうすればいいのに」と思った瞬間、作家目線で見ちゃってるから。

工藤:ああ、なるほど。

森川:その漫画は「おもしろくない」ってことになるわけ。新人漫画賞の審査員とかいっぱいやったけども、「ここが惜しい。こうすればいいのに」と思っちゃう漫画はやっぱり新人の漫画であって。このへんの完成された人たちは、没入させてくれるんで。だから、「ああすごい」ってこのままだよ。

工藤:(笑)。もう完全に一読者として読みふけってしまうという。

森川:うん。

工藤:そこが本当にすごいところという感じですね。

森川:そうだと思うけどね。

紙の漫画雑誌にはない、Webコミックならではのメリット

工藤:ちょっとお聞きするのは心苦しいところではあるんですが、お互いに「ここは負けない」と思っているところはありますか?

村田:負けないところですか?

森川:負けないぞ。負けないぞ。いいよ、言っちゃって。

工藤:(笑)。

村田:描き直しの量ですかね(笑)。

森川:そういうところくるか(笑)。

村田:修正の量は負けません(笑)。

森川:なるほどね。

村田:何度でも描き直します。

工藤:村田先生は上がった後に、変えられたりされますよね。

村田:そうなんですよ。『アイシールド』の時は修正できないのが悔しくて。

工藤:(笑)。だから『ワンパンマン』ではもう……。

村田:もう心ゆくまでというか。

工藤:心ゆくまで(笑)。

村田:最初に想定してた通りの画が出るまで何度でも描き直すんですけど、描き直しの部分は原稿料が出ないんですよね(笑)。

工藤:なるほどなるほど。「そりゃそう」と言っては、あれなのかもしれないですけど。

村田:僕の場合、けっこう状況が特殊で、ONE先生にお願いして描かせていただいている流れもあるので、「パワーアップしていないと描く意味がないよな」という。

工藤:いやいや。

村田:原作のWeb版の『ワンパンマン』も、誰でも読める状態でアップされているので。お金を取って単行本を買っていただくだけのバリューがちゃんと付いてないと申し訳がないと。

工藤:いや、めちゃめちゃ付いています。すごい密度だと思います。

村田:そこらへんはなるべく妥協しないでやらせていただくので。締め切りをたまに……。一応隔週で木曜更新ですけど、「隔週木曜で更新できた回数のほうが少ないな」という状況になっているのは、編集部のみなさんに申し訳ないんですけど。

工藤:(笑)。その分はクオリティを追求されているという。

村田:そうですね。わがままを言わせていただいて、そこは何度でも直すと決めています。

工藤:なるほど。そこは個人として突き詰めているというかたちで。

村田:そこはWebの強みでもあるので、より迫力のあるシーンが描けそうだったらページを足したりしています。

工藤:ありがとうございます。

漫画の週刊連載の厳しさ

工藤:森川先生のほうはいかがでしょうか?

森川:僕、絶対負けないよ。

工藤:お、マジですか。ぜひ。

森川:村田君にでしょ? (ホワイトボードに)書きました。じゃん。これね。

工藤:減ページの量。

森川:あ、言っちゃった。

工藤:すみません。

森川:これ、言葉にしちゃいけないの。

工藤:違うんですね。

森川:だって、製版所の方や編集部の方が見ているかもしれない。

工藤:確かに。静かに。

森川:これ。

工藤:なるほど。これなんですね。

森川:これはたぶん村田くんに負けないよ。だってもう間に合わないんだもん。

工藤:(笑)。そうですよね。

森川:間に合わない。

工藤:確定の締め切り日がある中で、そこでっていうところで。

森川:たぶん単行本何冊分か落としているからね。

工藤:(笑)。

森川:ちょっと顔も見せらんない。本当に申し訳ない。読者のみなさん、製版所のみなさん、編集部のみなさん。

工藤:いや、むしろちょっとすみません。

森川:運送会社のみなさん、ほんとすみません。

工藤:いや、言わせてしまって申し訳ないなというところがありますので。

村田:クオリティ維持のためにということですよね。

森川:え?

村田:すみません。クオリティ維持のためにということですよね。

工藤:そうですよね。

森川:いや、ほんとにね、クオリティ維持とかじゃなくて、(時間が)足りないのよ。

工藤:(笑)。

森川:「週刊連載って人間のやるもんじゃないんじゃないか」って最近思っていて。

村田:そうですね。僕も体力が落ちてくると、「若さの勢いがないとなかなか難しいな」と感じるんですけど。

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