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第三部 パネルディスカッション「JDCアワード受賞企業の事例から見る2021年のデジタル・コミュニケーション」(全4記事)

“される側”なのに、人種差別にアンテナが立たない日本人 「アジア人への差別ポーズ」を取られても怒らない、不思議さ

デジタル上で発生したクライシス(危機や重大なトラブル)を研究する日本初の研究機関、シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所。同研究所が、一年間の研究成果をまとめて発表する『デジタル・クライシス白書』の発行を記念して、オンラインイベント「デジタル・クライシスフォーラム」が開催されました。本記事では「第三部 パネルディスカッション『JDCアワード受賞企業の事例から見る2021年のデジタル・コミュニケーション』 」の模様を公開します。

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“される側”なのに、人種差別にアンテナが立っていない日本人

倉田真由美氏(以下、倉田):例えば、これは人種差別問題で去年のことではないけれど、ドルチェ&ガッバーナがアジア人の女性が箸でピザを刺す動画で炎上しましたよね。中国を中心に。ああいうのは、当然ダメだと思うんですよ。

むしろ、日本でそれについての怒りの声が上がらなかったことが、すごく残念だなと思ってるんですけど。日本ってけっこう人種差別をされる側にいるのに、あんまり人種差別に対してアンテナが立っていないというか。わりと鈍感な人が多いなぁという印象です。

ヨッピー氏(以下、ヨッピー):たまに、サッカー選手が差別的なポーズをとったりして「アジア人差別だ」とかって言われて炎上しているのを見ますけど。意外と日本人はぜんぜん怒ってないですよね。

倉田:なんでですかね。私自身も、欧米諸国とかに行ったら、必ずアジア人差別されてめちゃくちゃ嫌な思いをするんだけど。みんなもされてるはずなのに、あんまり言及しないのかなって不思議でしょうがない。

中川淳一郎氏(以下、中川):アジア人差別と関係してくるのが、アメリカで白人の若い女性が和服を着たんですって。それを動画でアップしたら炎上したらしくて。「お前は日本の文化を冒涜してるのか」ってアメリカ人から怒られたからだそうなんですよ。

倉田:あったね。意味わかんない。

中川:日本のネットユーザーの反応は「和服着てくれてうれしいし、この子、似合ってるじゃん」みたいになっていたんですよね。なので、なぜアメリカ人が批判したのかちょっとよくわからないっていう。

企業活動においては、バズも炎上も“積み重ね”によるもの

桑江令氏(以下、桑江):なるほど。そのへんも踏まえて、コロナ禍での事例も交えてお話を伺えればと思っております。「炎上防止策と事後の謝罪対応などで取り組むべきこと」についてですね。

コロナ禍において、ユーザー心理も大きく変わってきている印象があると思います。それを踏まえて、企業側はどうすべきか? そんなお話を伺えればと思っております。

まず最初に「バズると炎上の違い」について、お話いただいてもいいですか?

ヨッピー:(バズると炎上は)紙一重の時もありますけど、基本的には別物だと思ってます。炎上もバズも、一瞬だけを切り取って世の中に投げて、それで拡散されるってことではあるんですけど。ただ企業活動においては、基本的にバズにしろ、炎上にしろ、積み重ねがあるものだと思っているんですよね。

1件だけでバズることもあんまりないし、なにか1個だけ炎上することも、たぶんあんまりなくて。さっきの電通さんの話みたいに、日頃から突っ込まれていたポイントがどんどん溜まって、ブワーと燃えたりとか。細かく積み重ねてきた取り組みが、なにかのきっかけで取り上げられるとかですよね。

最近の話だと「となりのカインズさん」っていう、ホームセンターのカインズがやっているメディアがあるんですけど。そこがずっと、コツコツとコンテンツを作っていて。これは僕の知り合いの会社が、一生懸命、カインズと一緒に作っていてですね。僕も出たりとかするんですけど。

やっぱりコツコツ一生懸命やっていたから、ユーザーにその一部分を取り上げられて「おもしろい」ってすごく広がったんですけど。やっぱり積み重ね次第ですよね。至る道のりは、バズと炎上でぜんぜん違うなと思いますね。

桑江:日頃の積み重ねが大切になると。

たった11人の批判を“炎上!”に仕立て上げる、メディアの見出し

中川:あと「担当者がどう捉えるか」はすごく重要ですよね。ある時、私のクライアントが血相を変えて「炎上してます、どうしましょう!」って言ってきたんだけど、2件ネガティブな書き込みがあっただけだったんですよ。「そんなんワシから見りゃ、ぜんぜん炎上してません」って言ったワケなんですけど。

ヨッピー:(笑)。

中川:慣れれば「炎上してない」と思うようになる。ただ厄介なのが、メディアが炎上を焚き付ける傾向があることで。去年のゴールデンウィークに『サザエさん』がゴールデンウィークの予定を決めるって回があったんですよね。

倉田:あった、あった。

中川:そこで「これって不謹慎じゃない?」って意見を発信した人が、11人いたらしいんです。これは研究者が調べた情報なんですけど。ところが、どこかのスポーツ新聞の電子版が「サザエさんが炎上」とか「賛否両論」って見出しをつけて記事にした結果、炎上したことになっちゃったんですよね。

倉田:なるほど。

桑江:「非実在型炎上」というやつですね。

倉田:元は11件だったんだ(笑)。

中川:そうらしいです。調べたところ。

桑江:確か大学教授の鳥海(不二夫)さんが調べられていて、実際のデータとして出ていましたね。我々も調べたところ、SNS上での意見を見るとほとんどがポジティブだったという。

倉田:でしょうね。

「炎上を正しく理解し、正しく恐れる」という考え

ヨッピー:これは本当、アレですよね。上司の人とかに、ちゃんと理解させておかないとたぶんダメで。1、2件のコメントで慌てる人ってけっこういるんですよね。「お前がやったキャンペーンで、3件Twitterで言われてるぞ」みたいな。「どうする、謝罪文出すか?」みたいに、過度に対応しちゃう人がたくさんいて。

そういうのに振り回されちゃうと大変だから。やっぱり現場の人たちは、上層部の人に「1パーセントくらいの人は、ぜんぜんこっちの意図を汲み取ってくれないこともある。なにかに攻撃している人が急に現れたりすることもある」「普段からあんまり気にするなよ」って根回ししておかないと、なにかあった時に怖いですよね。

倉田:確かに。

桑江:このあたりが、企業の危機管理力を高める1つの方法かもしれないですよね。炎上を正しく理解し、正しく恐れるという意味合いで。

ヨッピー:もちろん恐れなきゃいけない時も、当然あるんですよ。2人くらいしか言ってないけど、その2人が言っていることが理にかなっていて、これが広がるとこっちが叩かれちゃうみたいな時もあるんです。そういうのは上司を啓蒙しておかないといけないなと思いますね。

桑江:そこの見極めも必要なんですね。なるほど。

企業に対してかかる「どっちかハッキリせぇや」の圧力

桑江:ではこれに関連して「論争的なテーマに踏み込むべきではないんじゃないか?」みたいなテーマがあるんですけれども。ネット上で論争を生んでいるものに対して、企業として基本的には発信しないということが、基本スタンスになっているところが多いかと思います。そのあたりはいかがお考えでしょうか? 

「発信する必要がなければ、そりゃ発信しないよね」という話だとは思うのですが。それこそ某アパレルブランドのCMのように、あえてポリシーを発表するために踏み込んでいくことも、時には必要なのかなと思うのですが。

倉田:でも、企業がそれをやるメリットって、実はそんなにないですよね。だから、企業が慎重になっていくのはすごくよくわかります。賛否両論がある場合、やっぱり否のほうがどうしてもパワーとして強くなってしまう傾向があるので。

論争的なテーマに企業が踏み込むことがメリットになることは……メリットになることもないワケじゃないでしょうけど、デメリットのほうが大きいのかなと思いますけどね。

ヨッピー:僕も現時点だと、デメリットのほうが多いんじゃないかなと思うんですよ。なるべく波風立てないほうがいいんじゃないかなと思うんですけれども。

ただ、さっきのアパレルブランドがやっていた例みたいに、それぞれの企業に「どっちかハッキリせぇや」っていう圧力が、今後SNSとかでバンバン出てくるんじゃないかなって思うんですね。「お前は親トランプか、反トランプかどっちか?」みたいな。

企業も「仕方ないから、どっちかにいくか」みたいな感じで、分断されても仕方ないのかな、みたいな風潮になってきたり。そういうことはあるんじゃないかなって気がするんですよね。

DHCとアパホテルを例に見る“無関心層”の存在

倉田:DHCなんかは、わりとハッキリしてますよね。

ヨッピー:DHCはめちゃめちゃハッキリしてるんじゃないですか。

倉田:あれは社長の意向なんでしょ?

ヨッピー:そうですね。

倉田:あれはどうなんですかね? メリットとデメリットってどっちが大きいのかしら。

ヨッピー:デメリットのほうがぜんぜん大きいと思います。僕は。

倉田:そうですかね。やっぱね。

ヨッピー:ただ、あれはあれで1つのファン層を見ているというか。同じような意見の人たちが「じゃあDHC買おう」ってなることを見据えているのか、まではわかんないですけど。

倉田:どうなんでしょうね~。

中川:あれは「無関心な人がめちゃくちゃ多い」って話かなと思っていて。それの最たる例として、まさにDHCは売り上げがいい。あとはアパホテルですよね。

倉田:あ~、そうですね。

中川:アパホテルって「南京事件はなかった」って明確に言っている会長がいて、それで本を置いている。ボイコット運動とかも時々ネットで出るんだけど、アパホテルってバンバン新店舗を建てているし、ホテル業界でも独り勝ちの状況ですよね。つまり、無関心層がいっぱいいることをアパもDHCもわかっている、という判断かなと思っちゃったりするんですよね。

倉田:無関心層か。確かに。

桑江:ある意味それも、許容できる範囲の企業ポリシーが評価されるところではありますが。そこは内容次第になるのかもしれませんね。

ヨッピー:あとはビジネススタイルですよね。消費者から直接お金をもらっているところは、正直、少々のクレームには揺るがないですよね。ただ、例えばテレビ局は「スポンサーに迷惑かけちゃったら嫌だな」みたいなところがあるから「スポンサーに伝達されないように控え目にしようか」ってこともあると思うんです。

倉田:あ~、ありますね。確かにどういう政治的ポリシーがあるかよりも「いかに安いか」とかのほうが、大半の消費者にとっては大事だったりしますよね。

ヨッピー:そうですよね。

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