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商業連載作家のアタマのなか 畑健二郎×宮島礼吏(全6記事)

「『ハヤテのごとく!』は金持ちの漫画なのに貧乏くせぇ」? エゴサで見つけた誹謗中傷を、自身の血肉に変えるマインド

紙本売上の落ち込みによる出版不況から始まり、スマートデバイスの普及やSNSの発達を通して、ここ数年で急伸してきた電子書籍市場。漫画業界でも各社によるデジタルシフトがニュースで取り上げられる一方で、漫画家たちに起こる変化について語られる機会は多くありません。そこで、ナンバーナインが主催で「いまの漫画家たちが何を考え、どんなキャリアを歩むのか」を考えるオンライントークフェス「漫画家ミライ会議」が開催されました。本記事では、畑健二郎氏と宮島礼吏氏が「商業連載作家のアタマのなか」をテーマに語ったセッションの模様を公開します。

1つ前のパートはこちら

「読者が触れている文化に、自分も触れていこう」の精神

工藤雄大氏(以下、工藤):(イベントが)「そろそろ終わるんじゃないか?」とみなさん思っているかもしれませんが、検討した結果、15分延長させていただきます!

(一同拍手)

宮島礼吏氏(以下、宮島):(このまま話を続けて)いいですか?

工藤:15分延長させていただきます。なので、このまま引き続き。

宮島:しゃべりすぎましたね。

畑健二郎氏(以下、畑):(笑)。

工藤:(宮島氏の)作品を読んでても、それこそ「レンタル彼女」という制度を作品に入れたのは、たぶんそういったところからですかね。

宮島:そうですね。だから絶対“引き出し”に何かなくなるだろうなというのは、めちゃめちゃわかってたので。

工藤:どんどん詰め込んで……。

宮島:どんどん新しいものを入れて、そういう親近感のある文化を描いたほうが、読者も絶対伝わりやすいし。だから読者が触れているものに、自分もひたすら触れていこうとしている感じですかね。

:すごいなぁ。

工藤:作品の中でクラウドファンディングなんかも。

宮島:そうですね。

:ああ、やってた。そういえば。

宮島:そうなんです。

工藤:すごい。なるほど。お二人の「新しいことをやっていく」というところは一緒だけど、根底はけっこう違ってておもしろかったなと思いますね。

宮島:そうですね。

アニメ化が持つ、作品の寿命を終わらせる可能性

工藤:じゃあ、最後のトークテーマにいきたいと思いますね。

「商業連載とアニメ」というところで。これもう、お二人は今年(2020年)アニメ化されて、共通のところがあると思うんですけれども。

「アニメ化ってどうやって決まったの?」とか「作家さんってどこまで関わっているの?」というところとか。あとは一番聞きたいのは、やっぱりアニメ化のメリットと、デメリットはないと思っているんですけど、もしあるならデメリットみたいなのをぶっちゃけで。

:デメリットもあるよ。

工藤、宮島:デメリットもあるんですか!? 

:デメリットはあるよ。でもたぶん、(宮島氏は)まだ気づいてないと思う。

宮島:感じてないだけですか。

:アニメになって、アニメが終わると“なにかお祭りが終わった”みたいな感じになって。

工藤:あぁ、なるほど。

宮島:“ロス”。

:ロスにはなる。それが読者に伝わってしまうと、作品として寿命が終わってしまう。

工藤:いや、気づけなくないですか。そんなの(笑)。

宮島:メンタルから来るやつですね、完全に。

:こっち(作者)側の。だから「2期が決まってる」とかは、まだ維持できるんです。

工藤:あぁ、なるほど。

:でも、それでもわりとしんどい。

工藤:確かに1つの到達点というか。

:そう。1つの到達点になっちゃって。読者の中にも作者の中にも「あ、ゴールしたんじゃね?」っていう。「だって最終回流れたし」っていう気持ちにはなるね。

工藤:はー、それが思わぬ、あまり気付きづらいデメリット。

:デメリット。

工藤:けっこうタイミングとかは大事みたいな。

:タイミング、大事。

アニメが終わって再認識する「自分がいかに孤独だったか」

工藤:でも宮島先生、アニメ化を今回されて、どうですか? 宮島:デメリットなんてあるのかと。本当に。

(一同笑)

宮島:打ち合わせで思ってましたよ。

工藤:でも今の……。

宮島:ロスですか。

:いや、ありますよ。だって……。

宮島:あるとは思います。

:なんか周りのスタッフが「あれ、最終回終わったよね」っていう空気を出しますからね。

工藤:そんなんあるんですか!? 

:なんかすごいアニメスタッフが、遠くにいって次の作品を描いているという。

宮島:『AKB49』でミュージカルをやった時に、僕もすごいロスがありました。

ミュージカル『AKB49~恋愛禁止条例~』SKE48単独公演 2016 [DVD]

漫画は孤独な作業じゃないですか。本当に孤独に1人で描いていて、それでだんだんだんだんデカくなってって、1人増え2人増えって。売れていくとどんどんするわけですよね。

それでアニメ化が決まったとか、舞台が決まったとかになると、いろんな人が盛り上げてくれる。そういったものが終わるとバーンっていなくなって、また1人に戻る。

:(笑)。

宮島:本当に心にぽっかり穴が開いたようになるんですよね。寂しい! 

(一同笑)

:俺だけこの島に取り残されているっていう。

宮島:本当に、本当に! 1人だったんだって。

工藤:俺は次にいけないのかみたいな。

宮島:「1人だったんだ!」ってなるのは、その時に思ってはいて。だから、そうならないでおこうと気をつけていました。

工藤:どうするんですか? 

宮島:でもまぁそこはもう、なんですかね……。心を強く持つ。

(一同笑)

工藤:(笑)。精神。

宮島:穴が空かないように。

工藤:でもそういうのがあるっていうのを、事前に考えておくだけで。

宮島:そうですね。絶対になるっていうのはわかってたので。

工藤:おもしろいですね。

海外で単行本を売るには、アニメ化が必須

工藤:もう一つ聞きたかったのが、最近アニメ化することで、国内の需要も高まるというのはもちろんだと思うんですけど、海外での効果もけっこう見込めるみたいに聞いていて。

:そうですね。アニメにならないと海外の効果はあまり見込めない。

工藤:逆に。

:アニメから入る人が、海外はもう絶対数として多いので。アニメにならないと認知されないところはある。

工藤:じゃあ海外で、単行本とかが売れるという状況にするには、アニメ化が必須。

:そう、そう。アニメ化必須。

工藤:アニメの海外での反響が必須。

:そうですね。それがないとやっぱり海外展開というのは。だって売ってないから、漫画。

宮島:そうですよね。

:知ってもらう機会がぜんぜんない。

「DVDの売り上げで回収しよう」なんてアニメ会社は、ほぼない

工藤:わかる範囲でいいんですけど。『トニカクカワイイ』のアニメあるじゃないですか。今は何ヶ国ぐらいで放映してるんですか?

:何ヶ国でやってるんだろう。

工藤:けっこうやっていますね。

:究極、日本市場を、もう今後はあんまり見てないかも。

工藤:畑先生が? 

:いや、違う。アニメ業界が。

工藤:アニメ業界が! 

:だってBlu-rayほぼ出さないところもあるじゃん。『トニカクカワイイ』も1巻しか出ないんですよ。今までだったら全2話ずつ収録で全6巻とかってやるじゃないですか。だけどもう、やらないんです。1巻、コレクター用に作って終わり。これの売り上げは別になんでもない。

トニカクカワイイ Blu-ray BOX

工藤:なんでもない? 

:なんでもないというか、それはもう、とんでもない数売れりゃいいけど。

工藤:そんなふうにならない。

:そう。おまけみたいなもん。そんなことより海外の配信。

工藤:じゃあ海外の配信でアニメは利益を……。

:(配信で)利益を得るというモデルに、もうアニメ会社がなってるから。

工藤:もうなってる。

:そう。そうだよね? 

宮島:そうですね。

:もうDVDで回収しようなんてアニメ会社、ほぼないと思う(笑)。

宮島:ないです。

工藤:「今回のは海外配信でいくらいくら」みたいなかたちで。「ここと契約して」みたいなかたちが多いんですね?

:そうですね。そう、そう。

宮島:最初に「どこで配信してくれるか?」っていうところを募っているところで、いろんな企業が手を挙げてくれて。その時点でたぶん、儲けにはなるっていうことなので。

たぶん「どこでどれだけ配信しているか?」で、かなり売り上げというのが決まってきてしまうところはあって。

:そこでどれだけビュー数を稼げるかっていう。

宮島:そうですね。たぶんそれは、かなり売り切りに近いという感じなんで。Blu-rayとかはたぶん、売れれば売れただけアニメの収入になるという意味では、売れてほしいとも絶対もちろん思っていると、そういう感じですか。

:昔みたいに、その数字が重要性を持ってない。

工藤:あー、なるほど。別のマネタイズ方法が出てきてという。

:ていうやつ。

工藤:いや、聞けてよかったです。

エゴサで見つけた批判的意見が、自身の血肉となる

工藤:もろもろ駆け足にはなりましたが、いったんテーマ的には全部終えたので、Q&Aを。Twitterに気になるコメントがあればそこからと思いますし、Zoomのほうでいただいたものでも……。いろいろ来てますね。

先ほど週刊連載の時にアンケートをすごくお二人とも意識されて、自分の乖離とかに気づかれていると言われていたんですけれど。Twitterの反応とかって見たりします?」 エゴサについて。

:まぁ、僕はエゴサに関していうと“エゴサの王”ですから。

工藤:エゴサの王!? 

:それはだって『ハヤテのごとく!』が始まった時点で、僕が一番見てたのは(ネットの)『サンデー打ち切りスレッド』です。

ハヤテのごとく!(1) (少年サンデーコミックス)

(一同笑)

宮島:あぁ、そこまでいってるんですね。

:あの頃はハートが……あの頃はというか、当時は「絶対終わらない」と思っていて。(読者に終わる)と思われたくなかったから、一番きつい言葉を言ってるのはどこだ? と思ったら、もう『サンデー打ち切りスレッド』だと。

(一同笑)

宮島:何を発見したんですか……。

:そこでボロクソに言っている意見が、全部、俺の血となり肉となる。

工藤:へー! 

:一番(キツい)意見であったのが「金持ちの漫画を描いてるくせに、貧乏くせぇんだよ!」という。

工藤:(笑)。

宮島:わけがわからない(笑)。誹謗中傷ですよ! 

:「あぁん!?」って思ったけど「確かに、俺は金持ちのことを何も知らないな」って。

宮島:よく「確かに!」ってなりましたね(笑)。

:それで実際に「じゃあ金持ちがやってることをしよう!」と思って。例えば都内の高級ホテルに取材で泊まりに行ったり。そこで何十万か出してスイートに泊まったり、一晩で二十数万円使って泊まったりしたよ。誰もいないのに!!

(一同笑)

:そこでネームを描いて。でもそこで気づくのは「あ、こんなに天井が高いんだ」と。

工藤:あぁ~。

:「あ、扉ってこうなってるんだ」とかいう“気付き”があるわけですよ……ありがとう!

工藤:ありがとう(笑)。

:ありがとう、打ち切りスレッド。君のおかげで命拾いしたよ。お前は「終わらせたい」と思ってんだろうがな! って。

工藤:確かに。あぁ~、そういう。

宮島:そこに感謝するんですね。

:そう、そう。だからTwitterも同じ。

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