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漫画をSNSでプロモーションする方法 根田啓史×工藤雄大(全5記事)

「雑誌連載を経て単行本を出す」は、もはや最適解ではない 今後の漫画業界で重視される、プロデューサーの存在

紙本売上の落ち込みによる出版不況から始まり、スマートデバイスの普及やSNSの発達を通して、ここ数年で急伸してきた電子書籍市場。漫画業界でも各社によるデジタルシフトがニュースで取り上げられる一方で、漫画家たちに起こる変化について語られる機会は多くありません。そこで、ナンバーナインが主催で「いまの漫画家たちが何を考え、どんなキャリアを歩むのか」を考えるオンライントークフェス「漫画家ミライ会議」が開催されました。本記事では、漫画家で『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』の著者 根田啓史氏と、株式会社ナンバーナイン 執行役員 工藤雄大氏によるトークセッション「漫画をSNSでプロモーションする方法」の模様を公開します。

書店に陳列されることで見込める、広告効果

工藤雄大氏(以下、工藤):あと今回「プロモーションの方法」っていうところで。

小林琢磨氏(以下、小林):次のテーマがまさにそこですね。もちろんそういった座組で『異世界妹。』をやったんですけど、やっぱりどこにも出してないってなると、プロモーション方法がけっこう大事になってくるのかなと思ってまして。次のテーマでは「漫画のプロモーション方法」について、いろいろお伺いできればなと思ってます。

ここはまず最初に、責任者である工藤さん。最近だと、どんな漫画のプロモーション方法があったりするんですかね?

工藤:「Twitter上で」というところで、今回も話があったことで言うと。みなさん「プロモーション」って言葉を聞くと「ツイートの仕方」とかのみに、視野が絞られちゃってることもあると思ってるんですけど。

『異世界妹。』はそこにとらわれず「プロモーションってこういうのもあるよね」というところで広くやっています。まずYouTubeアニメ動画。これも作品の良いプロモーション方法だと思っていて。それに、ここで発表するんですけど……。

小林:発表。おっ!

工藤:『異世界妹。』がですね、1月に紙の単行本が出ます!

(一同拍手)

小林:インデペンデントの星!

根田啓史氏(以下、根田):(笑)。

工藤:角川さんから出させていただくんですけど、これはナンバーナインとKADOKAWAさんとの共同の取り組みで。電子書籍はナンバーナインで出させていただいたまま、紙のみをKADOKAWAさんから出していただくという座組になっているんですね。これも正直、プロモーションだと思っていまして。

小林:そうです、そうです。

根田:本当にそう思います。

工藤:紙の本を出せる。これで何が起こるかっていうと、書店が数千店舗あるわけじゃないですか。数千店舗に面陳(書店において、背ではなく表紙が見えるように書籍を陳列する方法)される。で、漫画好きの人たちがそこを見るって、かなりの広告効果だと思うんですよ。すごいダイレクトマーケティングだと思ってるんで。その結果、電子書籍が動くっていうのもやっぱりありますし。そこでまぁ「箔がつく」というか。

根田:立体的になりますよね。

工藤:その価値が出てきて。物理(紙)になることによって現れる価値みたいなところが、現状だとやっぱりあると思ってるので。なのでそういったものも、プロモーションだと思ってます。

町のちっちゃいパン屋さんとも、コラボしたい

小林:本当にそのとおりで『異世界妹。』はとにかく「知ってもらう」ことを重要視して、プロモーションとか戦略を立ててるんで。本当に、町のちっちゃいパン屋さんともぜんぜんコラボしますんで。

根田:ぜひ(笑)。

小林:地方の商店街の方とか、ぜひ一緒にコラボしましょう。異世界じゃなくて地方に転生したみたいなかたちでね!

根田:(笑)。

工藤:本当にそうなんですよ。「コラボ」って聞くと、やっぱり大きく聞こえるような感じですけど、でもちっちゃくてもよくて。YouTube動画もけっこう大きかったんですけど、もっとちっちゃくてもぜんぜんいいじゃないですか。ちっちゃい企業さんのサイトに『異世界妹。』のキャラを出してもらうとかでも、ぜんぜんいいと思っていて。

コラボがすごい大きいところでしかやりづらいっていうのは、環境とかいろいろな要因があると思うんですけど。漫画のキャラをなんにでも使えるようなものとかにしていっても、いいなと思いますし。ナンバーナインとしては、そういったところに作品を出すことにはすごいメリットを感じているので。これを見て「コラボしたいな」と思ってる方がいらっしゃったら、ぜひ。

小林:そうですね、ぜひぜひ。勝手に使うのだけは、ちょっとやめてほしいんですけど(笑)。

(一同笑)

勝手に使うのはNGですけど、コラボに関してはぜひぜひ、いろいろやっていきたいなと思ってます。

根田:本当に、個人の読み手の判断でブランドの積み重ねに全部なるというか。例えば『ジャンプ』とかだったら、逆にブランドの毀損につながるかもしれないじゃないですか。個人とコラボとか。

小林:そうですね、すごいちっちゃいやつとのコラボとか。

根田:やっぱり、(『鬼滅の刃』とコラボした)ダイドーとやらないと(笑)。

小林:「一番大きいところとしか組まん!」みたいなね。

工藤:ぜんぜんそんなことないんでね。で、そういったものが個人の作家さんの作品でできるようになっていったりすると、また作品の認知もどんどん増やせたりとか、もっとニッチなところで極めるみたいなこともできていったりすると思うので。やれるようになっていきたいですね。

「YouTubeアニメをやってよかった」と思う理由

小林:根田さん的には「このプロモーションがよかった」とかって、何かありました?

根田:やっぱりYouTubeアニメは、やっていただいてすごく(よかった)。あれ、自分はあまり関わってないというか。最初はいろいろお伺いというか、声優さんの選定だったりとかいろいろ引っ張られてたんですけど、そういうのも時間の無駄だから全部お任せして……。

小林:時間の無駄(笑)。

工藤:無駄ではないと思うんですけど(笑)。「自分の時間の無駄」じゃないですよね?

根田:あぁいや、お相手の! 確かに、けっこう語弊がある危険な言い方を(笑)。

小林:今、けっこう語弊があった(笑)。

根田:自分、本当に主語をいつも抜かして誤解されるんで……。

工藤:相手の時間を無駄にしちゃうのがもったいない、っていう。

根田:やっぱり(相手が)ものすごいスピード感で動いていて、毎週更新で動画投稿とかされてる中で、作家にお伺い立てて返信が1日こなかったとかだと、すごいロスになるから。最初にマインド聞いて「作品が好きで作りたいんです」って言われて「じゃあぜひ」と。むしろ、自分もわかんないところはいっぱいあるので。

結局やってもらって、キャラクターはすごく立体的になったというか。自分も「あぁ、こういうところが好かれてるんだな」って思ったりできた部分もあるし。しかも実際に数字が出て、ふだんTwitter使ってない人たちとか、YouTube使ってるけど漫画は読んでない人とかに「お前の作品出てきたんだけど」みたいな、ぜんぜん違うところから話がきたりして。実際に届いてるんだな、っていうのもあったので。

案件とかの難しい立ち位置みたいなところで揉めたりせず、全員が自分のために最大限の努力をしてコンテンツ全体を盛り上げるっていうのが「全員の目標」みたいになってる状況は、プロモーションとしてもその大きさとしても……全方向に良かったなと思ってるんですけど。プロモーションという意味では、自分ができないところに届けてもらえたので。

「雑誌連載を経て単行本を出す」は、もはや最適解ではない

小林:個人的には、これからの時代のプロモーションって、大きく2つあると思ってるんですけど。1つは当然、良いIP・価値のあるIPを、価値の高い金額で出していくプロモーションの仕方もあるし。逆に今の「漫画家ミライ会議」を見ている方とかもそうですけど、これからの作品を売っていく時には、逆に「自分の作品を宣伝するために、安く使ってもらう」みたいなプロモーションの仕方もあると思って。

例えばですけど、アニメ化とか舞台化とかって、当然、決まったらめちゃくちゃすごいじゃないですか。『鬼滅の刃』もそうですけど、やっぱりアニメ化するとドーン! ってなると。だから例えば「アニメ化してくれるんだったら、別に利用権とかいらないっすよ」みたいな。もちろんそれって、大手出版社さんだったら絶対できないかもしれないですけど、個人だったら例えば「うちの作品だったら演劇化・映像化、全部フリーでやりますよ」みたいなことを言ってみるとかね。良いか悪いかは別としてですけど。

もちろん一流というか、一定を越えてくるとまた変わりますけど。そこまでの(レベルに達していない)時には、とにかく読んでもらうことのほうが大事なので。まずは自分の作品を「無料IP」ってわけじゃないけど、勝手に使われるのは困るんですけど。ちっちゃい町のちっちゃいパン屋さんともコラボするし、でもそこのパン屋さんではずっと残っていくわけですからね。

根田:そこのアイデアが、本当にぜんぜん足りてないと思ってて。今は流通が「単行本で売れる」って方法しか、未だにあんまり開発されてなくて。さっきカメントツ先生とかもずっとおっしゃってたんですけど、100パーセント活かされてない。『100日後に死ぬワニ』がSNSでバズったら、家建てていていいはずだっておっしゃってたんですけど(笑)、本当にそう思ってて。だからそこの最大化をするアイデアが、もうまったく足りてない。

「いろんな方法で雑誌連載する。それで単行本を出す」っていうのが目的になっちゃってるんだけど、そこが今は流通として死にかけているというか。昔はそこが王道パターンで、最適効率だったからみんな使ってたんですけど、今それがぜんぜん最適じゃなくて。作家によっていろんな適性があるっていうのが見えてきてるんだけど、でもそのアウトプットの方法はまだわからない。

今後は、プロデューサーが大切な時代になる

根田:だから、プロデューサーはすごく大切な時代になるだろうと、自分は思ってるんですけど。まさに今のナンバーナインさんと小林さんと含めて。で、小林さんは本当に「ビジネスマンだな!」って。

小林:(笑)。

根田:握力も強いしアイデアも多くて、フットワークも軽いっていう。すごいおもしろくて。やっぱり会うたびに、いろんなアイデアを持ってきてくれる。いろんなコラボレーションだったりとか、こういう発想もあるんだって。

小林:よせよ! 照れるぜ(笑)。

工藤:よっ! よっ!

(一同笑)

根田:でも本当、話すほどおもしろい。だからそういうプロデューサー業みたいな人は、もっと増えてもいいのかなと。出版社の人たちはやっぱり、漫画をおもしろくすることすごく得意なんですけど、販売に関しては「コミックスを売るところまで」しか見られてなくて……そう言うと「そんなことねぇ」とか怒る人もいるかもしれないですけど(笑)。

工藤:まぁそうですね!

小林:それはもちろん! ただどこに重点を置くかで、僕らナンバーナインは「編集じゃない」ってことは、けっこうずっと言ってて。根田さんと組む時も……僕らは当然、編集者みたいなことしてるんですよ。みたいなことっていうか、編集もしてるんですけど。「ナンバーナインは編集者じゃなくて、プロデューサーです」と。「プロデュースしていきますよ」って話をしてて。

これも赤松(健)さんとのセッションでも話したんですけど、けっこうナンバーナインは「やらないこと」を決めることが多いんですね。「紙やらない」とか、今で言うと「海外行かない」とか。で「編集しない」とか。「編集しない」って言って、編集してるんですけど。

工藤:(笑)。

小林:でもそれによって、編集しない代わりにプロデュースとして、プロモーションの仕方とか「こうやって売っていこう」「ああやって売っていこう」みたいなところは、相当に力入れてやってるんで。

工藤:そうですね、正直そこは取捨選択してて。完全に「作る」っていうところになるとやっぱり、編集者さんがもう。

小林:うん、編集者さんが圧倒的ですよ。

工藤:長年で生み出された集合知みたいなものがあって、それは勝てない部分があるので。じゃあ、そこはやらない。

小林:そう。

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