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40歳の起業家と、戦国時代の「戦」の話をしよう。(全8記事)

豊臣秀吉は“ベンチャー経営者”としての力量がヤバかった 信長が始めて、秀吉が更新した『ハック思考的』価値観の変化

著書『ハック思考』がヒットした起業家・須藤憲司氏と、新刊『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』が出たばかりの歴史好きお笑い芸人&作家・房野史典氏は、同い年の40歳。房野氏が新刊の中で「終わりの見えない戦国の世」と「先の見えない現代」を重ねて人間の面白さ、歴史の面白さを描きだす一方で、須藤氏は『ハック思考』の中で「歴史上の偉人たちのマンガが繰り返し僕に教えてくれたことこそが、世界をハックする方法です」と語っています。そんな中、須藤氏の「戦国武将を起業家と見立てて、話してみたいですね、房野さん」という一言から、今回の対談「40歳の起業家と、戦国時代の『戦』の話をしよう。」の開催が決まりました。3記事目となる本パートでは「日本の歴史で初めて“人事異動”を行った、信長」「秀吉は“ベンチャー経営者”としての力量がヤバかった」などについて、話しています。

1つ前のパートはこちら

日本の歴史で初めて“人事異動”を行った、信長

房野史典氏(以下、房野):あとそれでいうと、やっぱり信長って、この『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』の中では「めちゃ生意気な風雲児だっていわれてるけど、そうじゃないんだよ」みたいに書いたんですけど。

13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。

本当はそのあとを、もうちょい書きたかったんですよ。「それでも風雲児なんだよ」っていうのを書きたかったけども、分厚くなるからやめようと思って。

須藤憲司氏(以下、須藤):もう1冊できますね。

司会者:それはどういうこと?

房野:要は、すごい部分もめっちゃあるの。今、パッと浮かぶのは2個くらいで。1個は、秀吉もそうだし家康もやってたことなんですけど。信長がやった1個は、所領替え。昔から武士っていうのは「自分の土地を守る」のが仕事なんですよ。自分の配下になっていっても「そこを守っといて」っていって。「私の家臣になったけど、あなたはあなたが生まれた土地を守っといて」っていうので、そこを大きくするっていうのがスタンダードなんですよね。

信長は所領が増えた時に、(歴史上)初めて、それを取っ替え引っ替えするんですよ。「お前はここがいいから」って。

須藤:異動ね。

房野:そう、異動! 今でいう人事異動。あれが革新的だったんですよ。これまでは、そんなことやったことない。みんなどう思っていたかはわからないですけど、絶対に不満はありますよね。育った土地を守るっていうのが自分たちの使命と思っているやつらが「え、まじっすか!?」って「俺そんな遠方に!?」みたいな。

それを普通に、企業の在り方としてやっていくわけですよ。で、それが家康にまで受け継がれて。家康はもうバリバリじゃないですか。配置換えって。ここが信長の革新性の1個。

土地に根ざした価値観の分離・分解

房野:もう1個は、どこまで本当だったかな? とは思うんですけど、価値を変化させたっていうこと。褒美として与えるものを、土地から茶器にしたっていう。

須藤:あ~。

房野:これ、ハックしてると思うんですよ(笑)。

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須藤:してる。でも僕それは、さっき言った商人たちのアレで学んだんだと思うんですよ。

房野:なるほど。

須藤:これって「土地が豊かさの象徴だった」というところから「貨幣経済で価値を交換できるもの」という視点になったっていうことでしょ?

房野:そうです、そうです。そういうこと。

須藤:もはや資本主義ですよ。

房野:先駆けか!

須藤:そう。

房野:それを中世にやったっていうこと?

須藤:土地に根ざした価値観を、分離・分解したんですね。

房野:価値観分解ね! それは画期的ですよね。

須藤:画期的。交換可能にするっていうことでしょ? 

房野:そうです。もちろん、与えられるのは、限られたものなんですけどね。

秀吉は“ベンチャー経営者”としての力量がヤバかった

房野:茶器っていうのは伝統があって「あの人が作った」っていう、昔から受け継がれていたものなんですけど。ここがまたすごいのが、秀吉がそれをアップデートさせるんですよ。千利休さんを使って「今(の時代に)作られたやつだけど、利休が『いい』って言ったやつはいい」って。

須藤:現代アートね。

(会場笑)

房野:ここなんですよ! 秀吉がまた1個すごいのは! 信長はそれまでの価値を「土地を茶器に変えた」。で、それをもう1個ワンランクアップさせたのが秀吉で。「今作られたものも、こいつがいいって言ったらいい」ってさせたっていう。これ、すごいですよね。

須藤:それって、今でもすごく学べるところがありますよね。

房野:これめっちゃアレですね。変化させていくことも、まさにハックの話ですよね。

須藤:結局「日本の中に土地が無くなったので、外に攻めよう」みたいな、ああいう発想とか。けっこう秀吉さんは、ベンチャー経営者としての力量がヤバいと思うんですよ。

房野:あ~なるほど。秀吉さんがやっぱ一番ですか? ベンチャー起業家。

須藤:いや、どうだろう……。でもトップクラスだと思う。間違いなく。

房野:そうですよねぇ。やってる行動からすりゃ、すごく起業家の匂いがする。今まで人気があって、ちょっと落ち着いたというか。今、戦国武将の人気(ランキング)取りましょうみたいになった時、秀吉はあまりにも後半の行いが酷すぎて、人気がへこんでるんですけど。

高度経済成長の時、秀吉ってむっちゃ人気あった匂いがするんですよ。俺と須藤さんが子どもの頃って、秀吉は人気あったと思いません? 『まんが日本の歴史』とかテレビとかでも見るやつは、けっこう“秀吉推し”なんですよ。

須藤:大河もやってましたもんね。

房野:やってました。日本がなにもないところから成り上がっていく、みたいなのと重なったのかなと思って。

須藤:それはそうじゃないですか?

房野:ね!

須藤:ジャパニーズドリームですよね。

房野:ああ、そうか。めっちゃ被ってるんだ、ジャパニーズドリームが。

須藤:だって日本の歴史上、最も出世した人ですからね。

房野:秀吉が一番っていう感じですよね。本当にね。

須藤氏の“推し徳川”は、8代将軍・吉宗

房野:前、須藤さんとお話しした時……徳川将軍の中では、吉宗って話をしてましたよね?

須藤:吉宗。吉宗超好き。“推し徳川”。

(会場笑)

「推し徳川、誰ですか?」って聞かれたから、吉宗大好きって。

房野:なんででしたっけ?

須藤:吉宗はアレなんですよ。あの人って御三卿を作ったりとか。

房野:はい、作りましたね。

須藤:外から入って……。

房野:和歌山からですからね。

須藤:紀州尾張家から入って、けっこうな改革やってるんですよ。

房野:そうですね。

須藤:その改革の傍ら、ちゃんと自分の地盤を固めてるんですよ。大変優秀な経営者だなと思って。尊敬申し上げてます。

(会場笑)

貨幣システムを一新させた、田沼意次の手腕

房野:なるほど。俺もめっちゃ好きだけど、吉宗さんに見出されて……本人というか、そのお父さんが見出されて、のちに大出世する、田沼さんが好きなんですよ。田沼意次。将軍じゃないんですけど。僕らがちっちゃい頃のちょっと偏った教育で、賄賂のイメージしかないんですけど(笑)。

須藤:ねぇ?

房野:かわいそうですよね。今は見直されて、優秀で有能な政治家だっていわれてますが。で、吉宗さんは農業をむちゃくちゃ大切にした改革で。倹約、備蓄……なんだろうな、けっこう国家的な。まさに国家ですけど。国として節約して黒字にしましょうと。

田沼さんは単純に言えば真逆で、経済、どっちかといったら民間企業っぽいことかな。めっちゃ市場を回して、それでやがて国を豊かにしようよっていう。改革としては田沼さんがやったやつ、すごいなと思って。

まず貨幣を、当時は金と銀を使っていたんですけど……。東京は金が多い、大阪は銀を使っている。一般市民でいえば銀を使う人が多い。こんなふうに二元的なことになっているわけですね。「じゃあ統一しましょう」といって、要は「銀を何枚か集めたら金になりますよ」みたいな。

今まではお金っていうのは、測って重さで価値を決めてた。これ、秤量貨幣っていうんです。一方で計数貨幣っていって、今もそうじゃないですか。数を数えて価値を決めるでしょ? 「1万円は1,000円札が10枚で」とか。現代でもそうしてるように、要は貨幣に文字を印字して「これはそういうものですよ」ってした。「金は銀を何枚か集めたらこれです」っていって、二元的なのを1個に統一しようとした。

ほんで、商人ですね。「株仲間」っていう「お前ら商人は仲間作っていいよって。自分でいろんなことを独占してください。ただ、税をくださいね」みたいなことをやっていって。

いってみれば、緩い経済をやってお金を回したっていうところが、なんか好きなんですよね。吉宗も好きだけど、そっちの倹約よりはこっちのほうがみたいな。

須藤:そうですね。経済政策は、まさに田沼さんがいいと思います。僕のポイントは御三家から御三卿に変えたりとか、生い立ちとしてのストーリーですね。

徳川慶喜は、荒れた時だからこそ現れた人物

須藤:房野さんの推し徳川は、誰なんですか?

房野:俺はねぇ……。

須藤:もちろん家康さんも。

房野:家康はナンバー1ですけど。2番目は慶喜かもしれないです。15代目。

須藤:慶喜ね。慶喜も優秀です。あの人は間違いなく。

房野:間違いないですよね。

須藤:間違いない。

房野:やっぱり慶喜が15代目になった時、薩摩も長州もうろたえてるんですよね。「お前ら(薩摩、長州)がイギリスだから、俺ら(幕府)はフランスをバックアップに付けまっせ」って、めっちゃ改革してるんですよね。あんまり注目されてないけど。それを見た桂小五郎は、「やばい、やばい、やばい!」って書いてるんですよね(笑)。「これ、ほっといたらやばいよ」って。

そんなんできる経営者……あえて経営者っていいますけど。当時、将軍がリーダーシップ取っていくってこと自体がすごいのに。あれだけ荒れた時だからこそ、出た人物だと思うんです。やってることは、マジでひどいことが多いですけどね。

須藤:でも正しいですよね、たぶん。だからおもしろい。

房野:ちょっとアイデンティティを失って、よくわかんなくなったっていうところも好きなんですよ。要は最終決戦があったじゃないですか。戊辰戦争が結果として起こってしまった。それも、初っ端は鳥羽伏見の戦いっていって、手前までは「行けー!」って言ってるけど……。

須藤:逃げちゃったやつ?

房野:そう! 錦の御旗を掲げたっていう報告を聞いて、慶喜は朝廷とか天皇を必ず大切にしていたから「錦の御旗があっちに出た。朝廷があっちに付いた」っていうのを知った途端「もう無理」ってやめるわけですよ。

あそこで、もしアイデンティティを無視して、逃げずに戦っていたら、結果はわからなかった。それなのにヘロヘロになっていったのも、なんかちょっとかわいい……かわいいっていうのはあれですけど。そのへんも好きなんですよね。

須藤:さっきのビジョン、ミッションの話ですけど。彼のビジョンとかミッションは、そこにあったんですよね、きっと。それがあったから、もうやる意味を失ってるんですよね。

房野:そうだと思います。「朝廷がいなくなったら、俺はもうやる意味ないよ」っていうことで。だから推しは慶喜さんかな。

須藤:推し(笑)。

房野:推し慶喜!

須藤:推し徳川の話出ましたね(笑)。

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