2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
These Death-Defying Salmon Just Keep Spawning(全1記事)
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マイケル・アランダ氏:人間を含めたほとんどの生き物は、親が「一人っ子で十分だ」と思わない限り、初産の後でも複数回の出産が可能です。これを「多数回繁殖型戦略」と言います。
しかし、すべての生き物がそうではなく、「1回繁殖型戦略」を用いる生物もいます。繁殖は一生に一度きりであり、繁殖後はただちに死亡します。
1回繁殖型戦略を用いる生物は、マイマイガ、カゲロウ、マーシュピアル・マウス(marsupial mouse)などが挙げられます。
その中で、もっとも有名な生物はサケでしょう。サケの遡上の旅は、動物界の中でも極めて過酷です。そしてそのほとんどが、旅の後に死に至ります。
ところが、中にはこの苦難を乗り越えて生き残るサケもいます。希少な運の持ち主は生き伸びて、再度産卵を果たします。
この理由を究明して、生殖全般について明らかになることが増えれば、希少な魚の保護にも繋がる可能性があるのです。
危険な遡上の旅に関して言えば、「パシフィックサーモン」と「アトランティックサーモン」では大きく異なります。パシフィックサーモンは、「典型的なサケ」です。味が良く、成熟後まもなく「死出の旅」に出ることで知られています。河川で孵化し、氾濫原から栄養を得て成長し、徐々に降海します。
しかし、海にたどりついたからといってビーチでのんびり海辺の生活を楽しむわけではありません。ある日、「川を遡上するべき時が来た」と身を固めて、家庭を持とうと決心するのです。サケの場合、「身を固める」ということは、永遠に「消される」ことを意味します(注;sleep with the fish とは、マフィア用語で「足に重りを付けて海に沈めること」を意味する)。
パシフィックサーモンが産卵後に死に至る理由として、成熟後は体を長く保てないことや、文字通り、遡上の旅が原因として挙げられます。帰郷を決意し身を固めたサケは、3,000キロメートル以上も河川を遡り、産卵場所にたどり着きます。道中のクマやヒトの襲撃に耐え、無数の苦難を乗り越えたとしても、疲労困憊して死に至るのです。
産卵場所に到達したサケは、すでにボロボロの状態です。遡上には膨大なエネルギーが必要とされるため、極めて過激な戦略に打って出るからです。
まず、カルシウム不足を防ぐため、自身の骨を吸収します。さらに、エサも摂取しません。胃を退化させることにより、かつて胃があった場所に卵や精子を収納するためです。こうして産卵場所にたどりつく頃には、蓄えた脂肪は使い尽くされ、筋肉は退化しています。人間からすればなんとも気の毒ですが、これがサケの生態なのです。
とはいえ、自然の摂理は人間の理解を超えているのだと、サケは教えてくれます。アトランティックサーモンがその一例です。
パシフィックサーモンとは異なり、アトランティックサーモンは産卵後に死ぬとは限りません。中には生き延びて、1回に限らず7回も繁殖するものもいます。つまりアトランティックサーモンは、人間と同じ多数回繁殖型戦略を用いるのです。
最初の産卵を生き延びたアトランティックサーモンは、「ケルト」と呼ばれます。その多くはメスで、大変な剛の者たちです。
というのも、外敵をかわしながらボロボロになり、疲労困憊したつらい旅の後でも、「ああ楽しかった! また来年やろう」などと言う猛者ぞろいだからです。しかもこれは、まれに生き延びる者がいるという程度では済まされません。
ノルウェイでは、20パーセントにも上るメスのサケが、数度にわたって遡上産卵を行っています。つまりアトランティックサーモンにとっては、産卵を生き延びるのは単なる幸運ではないのです。
ケルトはまだ多くの謎に包まれていますが、サーモンの個体数維持に、大切な役割を担っているようです。大きな体格は子孫を残すのに有利なため、数度にわたって遡上産卵を行うサケは、年数を経て大きく成長します。ノルウェイのメスのサケは、20パーセントが複数回の産卵を経験していますが、その卵は、産卵される卵のうちの実に27パーセントを占めています。
複数回産卵したサケは、丁寧に砂礫を積み上げた「レッド」という産卵床を、上手に作れるためだと考えられます。
体格の大きなメスのサケは、重い礫を使って深い産卵床を作ることができるため、捕食者から卵を守るのに有利であり、速い流れにも流されることがありません。
さらにケルトは、産卵量も多く、初産のサケより卵のサイズも大きくなります。はっきりとした理由はわかっていませんが、これがアトランティックサーモンの個体数増加に一役買っていることは確かです。水質汚染その他の環境破壊でサケの生態が脅かされている現状で、これは特に貴重です。
例えば、遡上に成功した初産のサケが少ない年の場合、産卵地の卵の実に60パーセントが、ケルトのものだと考えられています。
現時点で、ケルトについては大半のことが明らかになっていないため、初産で終わるサケとの違いや、巧みに産卵期を生き延びる仕組みも不明とされています。しかし、どうやら代謝か遺伝にそのカギがあるようです。
例えばケルトには、成熟期を早める遺伝子変異体があることがわかっています。理由は不明なのですが、この変異体を持つサケは、産卵期を生き延びて複数回産卵する率が倍増します。
そもそもこのような生態が、パシフィックサーモンには無くアトランティックサーモンにある理由すら、はっきりとわかってはいません。解明が進めば、明らかになることがたくさんあるでしょう。
この2種は、数百万年前に分化したことがわかっています。独自の繁殖戦略を発達させる時間はたっぷりとあったはずで、この2種の生息環境や遺伝子を研究すれば、こうした異なる戦略を発達させた理由がわかるでしょう。調べなくてはいけないことがたくさんありますね。
たくましいベテラン産卵者たちの究明が進めば、種の危機の際には年長の賢いサケに頼る、個体数が減少し危機に瀕しているサケの保護にも役立つでしょう。ケルトの研究には謎解きの楽しみもありますが、大きな課題の答えにもなりうるのです。
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