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Doggerland A Real-Life Atlantis(全1記事)

アトランティスは本当に存在するのか? 海底に沈んだ大地から見えてきた太古の生活風景

海に忽然と消えた文明「アトランティス」についてどこかでその話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか? しかし、アトランティスの存在は未だに確認されていません。ただ、海底に人類の生活の形跡を発見したことで、その生活の様子が解明されてきたのです。そこで今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、その謎に迫ります。

アトランティスは本当に存在するのか?

海に忽然と消えた文明、「アトランティス」のお話には胸が躍りますよね。しかし、アトランティスを見つけたと主張する者は大勢現れましたが、アトランティスは恐らくは実在していません。

とは言え、「人の定住する土地を海が浸食すること」は実際に過去にもあり、特に直近の氷河期の余波は大きなものでした。

ここで、「ドッガーランド(※イギリスの東方約100km沖合いにある北海の浅瀬の広大な砂堆)」をご紹介しましょう。緩やかな海面上昇と、2度の自然災害により海に没した、実在版アトランティスです。消滅後何千年も経った現代において、そこで営まれていた暮らしが少しずつ解明されつつあります。

地球の直近の氷河時代……別名氷河期には、氷河の形態で大量の海水が封じ込められていました。そのため、1万2,000年前の海面レベルは、今日に比較して約70メートル近くも低く、イギリスとヨーロッパ本土との間には陸橋がかかっていました。

考古学者は、このエリアを北海のドッガーバンクにちなんで「ドッガーランド」と呼んでいます。広さはドイツの半分ほどで、平原には狩猟採集民が暮らしていました。

今日では、イギリスとオランダ間の北海のトロール船により、魚と一緒に生活用品や武器、さらには太古の人骨までが引き揚げられ、その存在を知られています。

海底面下30メートルに人間が暮らしていた大地を発見

ドッガーランドは、考古学者の間で1世紀以上前からよく知られていました。しかし、水中考古学は技術が必要な上にコストがかかるため、調査を進めるのは困難でした。「現場で採掘」という従来の考古学の手法は不可能です。

しかし、さまざまな科学技術により、時と膨大な海水を超えてその全貌が見えてきました。

ドッガーランドという地帯そのものの情報の多くは、海底に眠る原油や天然ガス調査の地震探査により得られたものです。観測船から照射された音波が海水を超え、海底面や、堆積物や岩盤などの地層に反射します。海面へ戻って来た反射波を、観測船が牽引する長いセンサーで検知するのです。

こうして広大なエリアの3D映像が得られ、太古の人間が暮らしていた大地は、現在は海底面下30メートルから50メートルにあることが明らかになりました。そこには、ゆるやかな丘陵地帯や河川、湿地などの地形が広がっていました。2007年の調査では、全長1,600キロメートルの久しく失われた河川、24か所の湖沼、かつて淡水が海水に流入していた10か所の河口が見つかりました。

底質コアを採取して、海底地下に埋もれた花粉を一つひとつ特定すれば、その土地の植物相がわかります。数年の調査を経て、シラカバ、マツ、オーク、ハシバミなどが主な樹木だったことがわかってきました。

そして、ある調査では、なんと森林があった証拠の化石が見つかったのです。

海底に沈んだ大地で見えてきた原住民の生活

そして、ドッガーランドには太古の住民たちもいました。人間やその他の動物が暮らしていたのです。住民たちが遺したものから、詳しいことがわかってきました。海の中から見つかった動物骨や、その付近の遺跡から見つかった遺物から、ドッガーランドにはウマやマンモス、シカなどが生息していたことがわかっています。

時折、浜辺に人骨が打ち上げられたり、漁船に引き揚げられたりすることがあります。2016年の調査では、こうした人骨が50個以上集められ、放射性炭素年代測定によって1万1千年以上も昔の物であることが判明しました。

骨に含有された炭素と窒素を精査することにより、人々の食生活を推測することもできました。炭素や窒素の原子には、重さの異なるバージョンが存在し、これを同位体と呼びます。

食品に含まれる同位体の種類(注:炭素の同位体である炭素14の存在比率を指す)は、その食品が由来する環境や、食物連鎖における地位により異なります。植物や陸生動物、湖や海の魚などは、それぞれが異なる種類の同位体を含有し、それを食べた人間の骨へ移行します。

研究者たちは、ドッガーランド居住民は、陸や淡水の食べ物を採取しており、海の物は少なかったことを突き止めました。

しかし、海水面が上昇し気候が変動すると、徐々に陸で採取された食べ物は少なくなっていきました。つまり、居住民たちは他の場所に移住することはなく、周辺環境に順応したのです。

気候変動は劇的に状況を変える恐れがある

今日の北海を調べると、大きな変動が起こったことがわかります。最後の氷河期がピークを過ぎると氷床が溶け始めましたが、もしそれだけなら、ドッガーランドは少しずつ海水に浸食されるに過ぎなかったでしょう。

ところが、太古に起きた2つの自然災害が、急激に水没を早めたのです。氷床が溶け出すと、今日のマニトバ(注:カナダ中部の州)にあたる地帯に広大な湖ができました。

8,400年前、湖の北岸に形成された氷床が突然崩壊し、湖水が急激に海に流出したのです。海水面は1年以内に突如50センチメートル上昇しました。

それだけではなく、数百年後には「ストレッガイベント」という巨大津波が北海を襲ったのです。

この津波は、ノルウェイ沖の海底地すべり(注:「ストレッガ海底地すべり」というイベント)により発生し、地震が原因だと考えられています。ドッガーランドに到達時点で、津波の高さは約3メートルありました。

既に海面上昇に襲われていたドッガーランドには、これは壊滅的なことだったのでしょう。ドッガーランドを可視化した地震探査や、採取された底質コアから、この巨大津波によって残された土砂の堆積物が特定されました。

津波は、ドッガーランド水没のとどめとはならなかったようですが、海に完全に水没するのは時間の問題でした。

大災害による水没劇が、アトランティス伝説の元となったかは定かではありませんが、この惑星の地表は、常に変動しつつあることを思い起こさせてくれます。現代の気候変動でも、海水面は再び上昇しつつあります。ドッガーランドの物語は、その結末がどれほど劇的になりうるのかを浮き彫りにしたのです。

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