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誰も思いつかない優れたアイディアの育て方(全5記事)

オリジナリティは“アイディアの絶妙な掛け算”から生まれる 『君の名は。』制作会社・川口社長が語る、物語の作り方

「誰も思いつかない優れたアイディアの育て方」とは、いったいどういうものなのか? 2020年、オンラインにて開催されたIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)でこのテーマについて、有限会社集い家 代表取締役社長・樹林伸氏、アル株式会社 代表取締役・古川健介(けんすう)氏、株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム 代表取締役・川口典孝氏、AGI Sports Creative Co., Ltd. 代表取締役・上野直彦氏が語りました。モデレーターは面白法人カヤック 代表取締役CEO・柳澤大輔氏が務めます。

アイディアはいきなり生まれるのでなく、育んでいくもの

柳澤大輔氏(以下、柳澤):みなさん、こんにちは。

古川健介氏(以下、古川):こんにちは。

柳澤:面白法人カヤックという会社をやっている柳澤といいます。今日のモデレーターを務めさせていただきます。どうぞよろしく。

川口典孝氏(以下、川口):よろしく。

柳澤:「誰も思いつかない優れたアイディアの育て方」というタイトルも、人選もすでに決まっていましたので。これについてどこまで話せるか、がんばっていきたいなと思っています。

そもそも優れたアイディアも、誰にも思いつかないようなことをやろうとしているのかどうかも、それぞれに立ち位置が違うと思っています。

その辺の話と、アイディアを実際にどう育てていくかというのがポイントだと思うんです。僕が若い学生を見ていても「なんとかおもしろいことをやってやろう」という思いがあっても、やっぱりいきなりは無理だなという印象なんです。

ただ、そういう思いを持ってこだわっていると、何年か後にオリジナリティのある人間になっていく印象なので、今日はアイディアをどう育んでいくかについて4人の方から聞いて、みなさんのヒントにしていただければなと思います。

『君の名は。』『天気の子』制作会社の代表取締役・川口氏

柳澤:最初にあまり長くならない程度に、最近やっている仕事や興味のあることを交えて、各自の自己紹介を話していただきたいと思います。どなたからでもいいんですけど、僕から勝手に順番に振っちゃってもいいですかね?

樹林伸氏(以下、樹林):はい。大丈夫です。

柳澤:よろしくお願いします。では、川口さんから。

川口:ありがとうございます。よろしくお願いします。アニメーション会社をやっております。所属に新海誠という監督がおって、彼が『天気の子』を作ったり『君の名は。』を作ったりして、最近はちょっと大きいところでやらせてもらっています。

僕らは去年、2019年に『天気の子』という映画を完成させて公開し、ありがたくヒットしました。アニメ業界って、簡単に言うと1社では作品を作れないんですね。横のつながりで手伝いあいながらやるんですけれども、今この2020年は2018年、2019年にお世話になった会社のお手伝いをしています。

なので、コロナ禍という意味では僕らは今、そんなにきゅうきゅうな目にはあっていませんが。ちょうど今年に向けて作っている会社やスタジオは、けっこう苦労しながら今やっています。それをなんとかお手伝いしているという状態です。

いったん、以上です。今日はよろしくお願いします。

柳澤:よろしくお願いします。

(一同拍手)

漫画や小説、ゲーム、Netflixのアニメまで手掛ける樹林氏

柳澤:続いて樹林さん、お願いします。

樹林:はい。最近やっている仕事というと……たくさんやりすぎてあれなんですけど『金田一37歳の事件簿』という作品を今、漫画で連載しています。

金田一37歳の事件簿(1) (イブニングKC)

あと『神の雫』の続編である『マリアージュ~神の雫 最終章~』や、他にもいくつかやっているんですが、ちょっと変わったところですと、短編のアンソロジーなんですけれども『刑事コロンボ』の小説を書いておりました。

マリアージュ~神の雫 最終章~(1) (モーニングコミックス)

現在進行でやっているものですと『JobTribes(ジョブトライブス)』というブロックチェーンの技術を使ったゲームを仕掛けております。

さらに、これはたぶん発表が少し先になると思うんですけれども、今、Netflixでオリジナルのアニメーション作品を手がけております。他にもいっぱいあるんですけども、だいたいこのような流れで仕事をしています。

柳澤:すごいな……。はい。もうとにかくやっていることが多岐にわたっていますからね。

樹林:何でもかんでもやっています(笑)。

漫画原案協力、サッカーチームスポンサーなどを務める上野氏

柳澤:じゃあ続いて、上野さん、お願いします。

上野直彦氏(以下、上野):はい。みなさん、こんにちは。上野直彦と申します。AGI Sports Managementの代表をしています。現在大きく言うと3つの軸でお仕事をさせていただいております。1つ目として、まずメディア。これはもう20年以上もやっておりまして、その中にコンテンツ制作も入っております。

最近はいろいろなスポーツ漫画の原作を一緒に書かせていただいております。企画だったり原案だったり、いろいろなかたちです。これが1つです。

2つ目はやっぱりイギリス住まいがちょっと長かったので、もう私はサッカーと映画が死ぬほど好きで。イギリスのプレミアリーグのあるチームのスポンサー、セールスの仕事をさせていただいています。

3つ目は、先ほど樹林先生もおっしゃっていましたけれども、私もブロックチェーン企業に2017年からコミットさせていただいています。

1つはALiSという「ブロックチェーン×メディア」ですね。ソーシャルメディアのアンバサダー。もう1つはGaudiyという、これもまたブロックチェーン企業のクリエイティブディレクターを務めております。コロナで遅れてはいるんですけれども、近々みなさんの前で大きめのリリースが出せるかなと思っております。楽しみにしておいてください。今日は、よろしくお願いいたします。

柳澤:はい、よろしくお願いします。上野さんもいろいろやられておりますね。はい。わかりました。

「作らず・売らず」に漫画界を盛り上げる、アル代表のけんすう氏

柳澤:じゃあ最後にけんすうさん、お願いします。

古川:はい。こんにちは。アルの古川と申します。「けんすう」と呼ばれていたりします。僕はアルという漫画のサービスの会社を経営しております。

漫画業界は主に、漫画を作る出版社的なものか、漫画を売る書店さんや電子書籍ストアさんが多いんです。我々のサービスは漫画を作らないし、漫画を売らないというポジショニングで、インターネットを通じて漫画を盛り上げたり、漫画家さんが漫画を売る以外でお金を稼げるようにする企画をいくつかやっている会社でございます。よろしくお願いします。

柳澤:なるほど、ありがとうございます。

映画作りは「黄金律の中での“アイディアの掛け算”」が基本

柳澤:さっそく本題に入っていきたいんですが「誰にも思いつかない」ということなので、おそらく「オリジナリティ」と言い換えてもいいと思います。そもそもみなさんが「他と違うこと」とか「オリジナリティ」に、どこまでこだわってやられているかですね。

僕は自分の会社に「面白法人」と名付けちゃったので、やっぱり比較的、立ち位置的にもなるべくかぶらないようにやっていて、変な会社になっちゃっいました。その言葉のせいというところもあるんですけどね。

そういう意味で、どれぐらいこだわっているのかというのと、過去の実績や今やっていることで、具体的にどこにオリジナリティがあると考えられているか。その辺を聞かせていただければなと思っています。

先ほどの順番でもいいですかね? 川口さんご自身が、アニメーションの会社自体がユニークだという話もありましたけど。『君の名は。』の映画は、どこがおもしろかったのかという話でもいいです。話を聞かせていただければと思います。

川口:まず、まったくのオリジナリティと言っても、僕らは映画なのでだいたい時間が90分~2時間ぐらいと決まっているんです。大まかなストーリーラインは、きっと神話の世界から「黄金律」があって。「日常から始まって、非日常に入って、お宝をゲットするなり敵を倒すなりして、最後は帰ってきて、ちゃんちゃん」というストーリーラインに、やっぱり世界中の映画が乗っているんです。

そこをまったくのオリジナルにしてしまうと、きっと人間の脳がついていかないような気がしています。なので映画作りは、ある程度のラインがありながら、その中で「アイディアの掛け算」をすることがまず基本にあると思っています。

今、75億人の人がいて、神話の時代からいくと二千何百年かの歴史があるとなると、僕はまったくのオリジナリティというのは、けっこう難しいような気もしています。なので、掛け算・掛け算・掛け算。

例えば、男女入れ替わりというストーリーには、ずっと歴史があるわけですよ。『とりかへばや(物語)』(注:平安時代後期成立の日本の物語。ある貴族のもとに生まれたの兄妹が、父親の意向により、兄は女として、妹は男として育てられる)と言うのかな。

『君の名は。』でいけば「入れ替わり」に「1,000年に一度の彗星」が来て「災害」が起こる。それで、3年の時間がずれている「並行世界」。そして「ボーイミーツガール」。「3年違いの女の子を救いに行く」という、絶妙な掛け算。

そこに「絵」や「色」や「音楽」がある。それらについても、新海誠監督はものすごく深いものを持っていて、それもさらに掛け算になる。声優の「声」も1つの掛け算で、(ストーリーが)浮き上がってきて、世界中の人たちにはまったという気がしています。

その根底が、やっぱり……深層意識みたいなところで共有できているから、インドでも当たるし、中国でも当たるし、ハリウッドの人も気に入って買ってくれたとは思っています。むしろ大事なのは、時代性をどう読むか。

これは映画監督の話なんですけど、この時代だから「今お客様にこれを見せて、元気づけたい」とか「こっちに光があるよって勇気を与えたい」とか。僕は、そういう言葉にできないような衝動が大事だなと思って、この仕事をしています。

僕らは手塚治虫や宮崎駿の影響からは逃れられない

柳澤:『君の名は。』はすごくヒットしましたけれど、そうすると「誰も思いつかないようなポイント」はあまりないんですか? 全部が相対的によかったということですか?

川口:映画全体で見たら「うぉーっ!」となるとは思うんですけど、よくよく後から分解していくと、やっぱり「『これ』×『これ』×『これ』だよな」とは言われてしまいますね。

お客さんはいちいちそんなことはしなくて、おもしろいから世界中でこうやって見てもらえたとは思うんだけれども、何しろ宗教が違う人たちまでが共感してくださったのでね。そこに間違いはなかったと思うけれども「まったくのオリジナリティ」というのは、僕からするとちょっとおこがましい感じがしています(笑)。

柳澤:なるほど。

川口:やっぱり手塚治虫の影響は受けているし、僕らは宮崎駿の影響からは逃れられないんです。

柳澤:なるほどね。全部がちょっとずつちょっとずつ掛け算で、全部がよかったというところが、他の人がやらなかったところということなんですか?

川口:おそらくそうです。それはやっぱり、1つあるんじゃないですか。新海誠はうちの所属の作家なので、僕が言うのもなんですけど、やっぱり彼は天才なんですね。

オリジナルでやっていますし、原作物はやらないから、ゼロイチで作っているんだけれども、やっぱり紐解くと「これって、昔話のこれだよな」とか「村上春樹のこれに影響を受けているよな」とか、童話作家のアンデルセンの影響を受けていたりということがあると思うんですよね(笑)。すみません。これは物語作りの話です。ごめんなさい。

柳澤:いえいえ。

川口:全般に当てはまることではないと思うんです。

柳澤:なるほど。わかりました。ありがとうございます。

川口:そんな考えでした。

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