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小島慶子×田中俊之★男らしさナイト★(全6記事)

「男女の脳には、科学者でも見分けられないほどの差しかない」 臨床心理士が語る、セクシャリティと脳神経の多様性

近年、生き方や働き方の多様化が進むにつれ、議論されることが増えてきた「ジェンダーについて」。中でも「男らしさ」に悩む男性たちの声が、漏れ聞こえてくるようになりました。周囲から受ける「男らしさ」の重圧、知らず知らずのうちに我が身を縛っている「男らしさ」の刷り込み、良かれと思って我が子や部下にかけている「男らしさ」の呪い……。それらへの言及を己に許すことができない男たちが集まって「男らしさとはなんだろう?」を語るのが、本イベント『小島慶子×田中俊之 男らしさナイト』です。こちらのパートでは、脳神経の多様性とセクシャリティの関係などについて話します。

脳神経の多様性とセクシャリティの関係

小島慶子氏(以下、小島):今、田中さんのお話にもありましたが、今日、実はもうお一方サロンのメンバーの、村中直人さんにいらしていただいています。

村中さんはジェンダーの専門家ではなくて、臨床心理士でいらっしゃる。しかも発達障害の子どもの学習支援もしていらっしゃる方なんですが、なんで村中さんに参加していただこうと思ったかといえば、まさにこのジェンダーの問題と認知の問題はすごく関係が深いと思ったからです。

「これが普通だよね」というものから外れていると、そうした人を排除しようとするとかね。あとは、自分たちよりも価値が低いんじゃないかと思ってしまうというように。

その発達障害の問題などでもそう捉えられがちです。それまでは当たり前だとされていたものを、新しい当たり前を作るといえば、なかなか頭とエネルギーを使いますよね。そのあたりを専門家の立場から今の議論を聞いて、ご意見をいただければと思います。村中さん、よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

村中直人氏(以下、村中):本日はお呼びいただき、ありがとうございます。私は心理士で、ふだんはジェンダーについて人前で語る機会はまったくありません。

私は発達障害支援の専門家で、どちらかといえば支援者の育成に関わっています。調べれば調べるほど、考えれば考えるほど、最終的にこの問題は、ニューロ・ダイバーシティに行き着くと考えました。ニューロ・ダイバーシティという言葉を、社会に流布させるための取り組みを始めています。

小島:そうですよね。ニューロ・ダイバーシティ、脳神経の多様性と言えばいいんでしょうか?

村中:そうですね。脳や神経の多様性と、それに基づく人の多様性が、この社会の中で位置付けられていくように。この話は、発達障害領域で始めると、これだけで1~2時間はしゃべれてしまいますので。

セクシャリティの話としたときに、私が今お話を聞かせていただいたのは、社会学的な教育の視点、つまり社会側からの視点ですよね。私は心理屋ですから、すこし違う見方をします。精神医学には、生物・心理・社会モデルという考え方があるんですね。

人間の問題を考えていくときに生物学的な視点、心理学的な視点、社会的な視点という3つの視点から見ていく。精神医学といったことについては、より患者さんのQOLを上げるために必要な視点だと言われたりする視点です。

今までのお話も、生物・社会・心理の側面でいえば、社会の側から心理にどう影響があるのか。社会の変化や教育が、心理にどう影響を与えるのかといった話にもなったと思います。私の関心はどちらかといえば、生物学的な要因が心理にどう影響を与えているのか。これは発達障害の問題も、男女の問題も同じだと考えています。

男女の脳に見られる差

一番最初にご紹介したい言葉があります。「ニューロセクシズム」という言葉です。何かと言えば「男(あるいは女)というものは。脳科学的・神経学的に見てこういったものなんだ」という見方。生物学的に決まっていることなので、今ある役割分担は妥当なのだという考え方です。ただこれはニューロセクシズムと呼ばれてで、神経学者からは非常に評判が悪い。

なぜか。ここは統計的な話になるんですが、男女の脳や神経について調べると、確かに統計学的な有意差が出ることもあるんです。AIに調べさせ、その全部のデータを読ませると、だいたい90パーセントくらいの確率で、脳や神経の違いから男女を見分けられるとする発表もある。ただ脳科学的なデータだけで、男女を見分けられる人間の研究者はいないそうです。それくらいの差。

統計学的に有意があるといえど、人間の違いをその有意差からどれだけ説明できるのかといえば、まったく別の話なんです。

今回のイベントのために、脳や神経の視点から見たときの男女差を、いろいろと調べてみました。男女の脳にどれくらいの差があるのかということについては、脳科学者的にまだ意見がバラバラなんです。

ただ1点だけコンセンサスを得ているのは、セクシャリティに関しては性別の要因よりも個人差のほうがはるかに大きいということ。このところだけは、ほぼコンセンサスが取れているそうです。

つまりグラフを書くと、確かに山が2つあって、その頂点の2つの距離を取ると、すこしズレている。けれどもあまりにも分散が広くて、重なり合う部分が大きすぎるので、1人の人と考えたときは、性別の要因よりも個体差の要因のほうが大きいと。

ここからは心理学的な発想になっていくんです。そうなると、一般に考えられているよりも、生物・心理・社会といったときに、生物学的な差は大きくないはずなんです。けれども心理学的な差は、今お話しされているように、ものすごく大きい。

では、これはどこから生まれてくるのか。保育園に通っている、うちの5歳の息子も言うんですよ。「こんなん、女の子や」というようなことをね。そのたびに妻とアワワワとなって「違う、違うよ!」と言うわけです(笑)。

妻とは意見が合うので、うちの家庭の中でそんな発言はしたことがないはずなんですよ。性別自体は言ったことがないはずなんですが、どこから持って帰ってくるのか、保育園年長の息子にジェンダーの固着化が進んでいると(笑)。親として、それをひっぺがすことに日々格闘しておるわけですよ。「どこで学んでくるんや」と思いますね。

小島:先ほどチラッとおっしゃっていた、アメリカの心理学者が提唱したニューロ・ダイバーシティ。脳や神経の違いを、いわば特徴の多様性として捉えようということです。

本来はうまく働くはずのことが働いていない、といったイメージを持たれがちな自閉症などの発達障害をお持ちの方々がいます。例えばニューロ・ダイバーシティとして考えると、イノベーティブな人材を見つけやすくなったり、育成しやすくなったりする。経済的な面から見ても、それによって新しい技術が生まれたり、新しいビジネスが生まれるという面もあります。

それから社会を運営していくうえでも、その方々を排除したり、一律にレッテルを貼ったりのではなくて、多様性として捉えたほうがいいんじゃないか。これが日本でもっと広がるといいということを、村中さんはずっとおっしゃっていますよね。

村中:そうなんです。もともとは、自閉症当事者の人権運動から始まった概念です。学術的な研究から始まったわけではなく、当事者が声を上げたんですね。そこはインターネットの発達といった側面があったわけですが。

ですから自閉症とニューロ・ダイバーシティは、結び付けられることが多いんです。アメリカでは雇用の問題の中で「自閉症人材をいかに活用するか」と。それこそMicrosoftなどが自閉症人材を雇用して成果を上げているという二ュースになっていますから。今、ニューロ・ダイバーシティで検索すると、そうした記事が多いと思います。

でも本来彼らが主張しているのは、自閉症は我々の文化なんだという主張なんですね。優劣の問題ではなく、脳や神経ベースの文化を持っていて、その文化の違いというところがマイノリティであるがゆえに生きづらさを感じているという話。

そう考えていくと、生きづらさを抱えていることが社会的に……男女の場合、人数は一緒ですが、パワーのバランスで、マイノリティにさせられてしまっているというようなことがあると思うんです。マイノリティ化することによって、起こってしまう。

男女の問題と自閉症の問題をつなぐ、ある仮説

村中:みなさんにお伝えしたいことが1点あります。この男女の問題と自閉症の問題をつなぐ、すごくおもしろい仮説があるんです。有名な心理学者の仮説に、自閉症の「極端男性脳仮説」というものが存在します。ここで男女の問題とリンクしてくるんです。

自閉症スペクトラムは、極端に男性的な脳の在り方が社会の中でマイノリティ化しているんじゃないか? という話です。

自閉症のいわゆる中核症状と言われているものは、社会性の問題ですね。共感の問題、コミュニケーションの問題。これを突き詰めていくと、いわゆる男性が苦手と言われている、先ほど出てきた話と共通する部分があるんですよ。

それはどうやら神経の問題で、社会脳といった脳の部分があるんですが、そこがあまりうまく働かない。ゆえに自閉症といったような状態になるんだというサイモン・バロン・コーエンという有名な心理学者が提唱している仮説です。

というように、なんとなくイメージで今までずっと男性は強者として扱われてきたところがあるんですが、それもいきすぎると実は自閉症と名前が付けられてマイノリティ化していたという事実があり得る。そうした話です。

小島:なるほど。ただ、おっしゃっていたようにあくまでも男性と女性の生物学的な脳の構造で見ると、その差はAIがようやく見つけることができるくらいの差であって、ぱっと見て「あ、この人は男性脳だね」とわかるような、大きな差はないことが前提だということですよね。

村中:もちろんそうですね。

小島:男性が男性性といったものを学習していく中で身につけてしまう、あるいは男性が社会的に置かれる立場の中で習慣化してしまったような。そんなに共感しなくてもやり過ごせてしまったり、共感ベースで人間関係を作ることをむしろ奨励されなかったり。

あるいは、共感ベースで考えることを自分に禁じてしまったことについて、あえて男性脳と仮に呼ぶのであれば、そこが非常に強く出ていることが、そうした脳の特徴があるということ。理由は別なのですが、自閉症の方によく見られるということだと理解してもいいんでしょうか?

村中:そうですね。ただ、いわゆる定型発達、多数派と言われる人と自閉症と言われる人たちの神経医学的な連続性は、まだ解明されていない部分があります。原則として、私は連続性が存在していると思っています。

先ほどお話ししたように、性差よりも個人差が大きいという話ですから、個人で見たときに、極端に男性脳というようなことが、これは神経神話と言われるもので存在はしない。個人で見たときにすごく男性脳と呼ばれるような極端な脳を持っている人もいれば、いわゆる女性脳と呼ばれるような脳を持っている人もいる。

ただしこれは、生物学的な性別とはあまりリンクしない。男性で極端に女性脳を持っている場合もあれば、女性で極端な男性脳を持っている場合もあります。

ですから、そことリンクさせると、女性のASD、つまり自閉症スペクトラムは潜在化しやすいんです。社会で気づかれにくい。なぜかと言えば、男性に期待されるような特徴を女性が持っているという話になってくるので。障害化しにくいところがあるため、気づかれにくいところも議論としてはあります。

小島:へ~、そうなんですね。

村中:だいたい男女比で4対1、5対1と言われることがあるんですが、おそらく実数としても男性のほうが多いんですね。遺伝性のものだから多いんですが。そこまで女性が少ないのかと言われると、きっともうすこしいる。でも気づかれない。

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