2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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小島慶子氏(以下、小島):こんばんは。小島慶子です。今日はお忙しい中、お集まりくださりまして、ありがとうございます。
実はこういったイベントは今回が初めてなんです。誰に頼まれたわけでもなく、自分でイベントを企画して、私が個人的にお話ししたいゲストの方をお招きして、対談して、それをコンテンツ化するということを、これからやっていこうと思います。その第1回目なんです。
初回はどなたがいいだろうと思っていろいろと考えましたが、私のオンラインサロンのメンバーにもなってくださっていて、このサロンを始める以前から共著も出している田中(俊之)さんをお呼びいたしました。
さらに、オンラインサロンをきっかけにお知り合いになった星野(俊樹)さんと村中(直人)さんを交えて、今日的な話題であるジェンダーというテーマ、とくに「男らしさとはなんだろう?」ということについて1時間半をかけてやってみようということになり、本日ここに至りました。
本当に、みなさんにいらしていただけて、とてもうれしいです。今日は時間が許す限りお話ししていこうと思います。もう、みなさんもよくご存じだと思いますが、大正大学(心理社会学部人間科学科)准教授であり、社会学者の田中俊之さんです。
田中俊之氏(以下、田中):どうも田中です。よろしくお願いします。
小島:よろしくお願いします。
(会場拍手)
田中:すみません。では、座らせていただきます。
小島:田中さんと私は、祥伝社の……これは、いつでしたか? 2017年? もう少し前でしょうか。
田中:いや、そうですね。2016年だったかもしれません。
小島:2016年に『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』という本を、田中さんと私の共著で出させてもらいました。今思えば、男らしさが本当に問題視されはじめたばかりの頃でした。
田中:そうですね。やっぱり2010年代半ばぐらいからようやく「男も問題を抱えているんじゃないか」といった話が、だんだんと通じやすくなってきた感じがありますよね。
小島:そうですね。ですから田中さんが、どうしてそもそも……日本の草分け的存在は伊藤公雄さんになるのでしょうか。
田中:そうですね。
小島:京都大学名誉教授の伊藤公雄さんを草分けに、今では何人か……。
田中:多賀太先生などですね。
小島:多賀太先生や、何人かいらっしゃいます。
小島:田中さんは今40歳ですか?
田中:44歳になりました。
小島:44歳。その田中さんの世代が、どうして男性学をやろうと思われたのか。テレビで取り上げられたり、今ではもうかなり認知が広がっていますが。
田中:そうですね。広がりましたね。
小島:それはどういうことだと分析をされているんですか? どれぐらい……。
田中:いや、僕がそもそも始めたのは、90年代後半です。当時は大学生だったのですが、それこそ上野千鶴子先生や、あとは江原由美子先生。少し専門はズレますが、宮台真司先生。社会学者にそうそうたる人たちがいた時代でした。
その中でもとくにジェンダーというものが話題でした。つまり、僕より1つ前の世代では、大学でジェンダーの話を聞くということは、なかなかできなかったと思うんですよ。ですから自分たちで、みなさん……。
伊藤先生も、そもそもはイタリアのファシズムの研究をされているわけです。
小島:そうなんですよね。
田中:そこから自分で男性学(を研究されていった)ということで。僕ぐらいの世代になると、ジェンダーを教えてくれる先生がいたんです。
小島:すでにいたから。
田中:はい。自分でジェンダーが身についた。自然に身につくし、当時は小島さんも知らなかったのかもしれませんが……。
小島:何?
田中:「メンズリブ東京」という団体があったんですよ。
小島:そうした団体が?
田中:はい。
小島:そうなんだ! 知らなかった。
田中:メンズリブですよ。男性解放運動ですよ。
小島:メンズリブ運動があったということはうっすらと知っていましたが、メンズリブ東京という団体があったんですが?
田中:ありましたよ。あったどころではなくて、他にも東京だけではなく、全国で7、8つもあったんですよ。
小島:そうなんだ。それは知りませんでした。
田中:そこの人がゼミのゲストに来たりして、お話をしてくれることもありました。
小島:へー。
田中:やっぱり僕にとって一番の疑問は、大学4年になると、なぜか「就職しろ」という圧力がすごくて。
小島:「当然、就職するよね」というような意味ですよね。
田中:はい。どうして男だという理由だけで、すぐに就職しなければいけないのか。しかも、いつ自由になるのかと聞けば60歳ですよ。
小島:そうですね。今はもう少し先になりましたもんね。
田中:本当にそうですね。ですから、自分が男であれば、学校を卒業して正社員になるのが当たり前。いったん働き始めたら、定年まで働くのが当たり前。その間には結婚するのが当たり前で、結婚したら一家の大黒柱になるのが当たり前だという。そうした当たり前に対して、すごく違和感がありました。
違和感があっただけじゃなくて、みんながそれをかなりやっているんですよ。
小島:世の中がね。
田中:はい。ですからこの仕組み。日本はずっと農業をやっていたのに、急に会社で働くのが当たり前になったわけです。なので、これを解明したいという思いでした。
小島:そうなんですね。では、ご自身もこの生き方しかないのがおかしいんじゃないかという、一人称の(問題意識がある)ときがあったんですか?
田中:これは強くありますね。それはあります。はい。
小島:それは今の時代は、すごく「男の生きづらさを語ろう」といったことや、あとは今の20代・30代は男らしさに対して違和感を持っているという記事が、最近は出ていたりなどなど、話題になっているじゃないですか?
なぜ2010年代後半になって、日本の社会で男らしさというものはおかしいのではないか? ということが話題になってきたんだと思いますか?
田中:これには2つ理由があると考えています。
1つはポジティブな理由です。男女雇用機会均等法ができて、男女共同参画社会均等法ができて、女性活躍推進法ができた。やっぱり女性にとっても、自分のキャリアを生涯にわたって考えることが非常に大事であると。
つまり、女性も働くことがある意味で普通。当然、そういうことも自分自身で考えていくものだ。そうなると、男の生き方も問われると思うんですよ。
今までは「みんな専業主婦になるんでしょ。俺が働くよ」で済んだものが「いやいや、女性もこれから生涯かけて働くんですよ」ということになれば、当然もう一方の性である男性は「いや、俺が働くだけでいいよ」とはならないわけですよね。
これはポジティブな変化で、ようやく女性にとってのキャリア……結婚していてもそうですが、今は独身の方が増えているので、女性にとってのキャリアがめちゃめちゃ大事だと思うんですよね。
小島:生きる上で不可欠。
田中:生きる上で。ですからこれはポジティブですが、もう1つのネガティブな要因は、やっぱり建築や製造業界などが非常に弱っているので、要は終身雇用・年功序列が難しくなると、男性のお給料が下がるんですよね。
小島:ですよね。
田中:先ほどもまさに、僕は44歳だと言いましたけども、90年代の40代の平均は500万円ぐらいです。
小島:うん。年収が。
田中:はい。今は400万円。
小島:ああ、では同じだけ働いても、8割ぐらいしか稼げない。
田中:そうなんですよ。そうなると、つまり女性は配偶者控除の範囲内で100万円を持ってきて、2人で600万円だったものが、奥さんは100万円しか持ってこないと、500万円しかないので、90年代と比べて100万円も少ないわけですよね。
小島:厳しいですよね。
田中:つまりネガティブな意味で言うと、男性が相対的に稼げない。それは日本の経済構造のせいなのですが。ですからもう、変わらざるを得ない。
小島:頑張っても昔ほど稼げないのに……。つまり、自分の父親などが身を粉にして働いて、その分の報いがあったことを見て育っているのに、同じように働いても報われないのであれば、それならもう少しゆっくりしたいと思うわけですよね。
田中:おっしゃるとおりですね。ですから、前はある意味では犠牲があれば、つまり身を粉にして仕事にすべてを注げば、何が保障されるかといえば「では、家族の生活も全部保障してあげよう」と。福利厚生から社宅から全部を会社が面倒を見てくれたわけですが。
今は身を粉にして働いて、会社が何をしてくれるのかということもある。あと問題は、90年代は10年経っても50代であれば、600万円は持っているわけですよ。
小島:年収がね。
田中:今の40代が、10年経ってから100万円も年収が上がるとは思えないんですよね。
小島:そうですよね。そうするとひたすら健康を害し、家族との時間を失い続けることに……つらいよね。
田中:ですからポジティブに捉えれば、高度成長期以降で初めて「男の働き方をさ、考え直してもいいんじゃない?」ということを言えるタイミングが来たので。話が長くなりましたが、やっぱり2010年代半ば以降から、男性学に関しては少しは話が通じるようになった。
「今は働き方を変えるチャンスじゃないの?」「生き方を変えるチャンスじゃないの?」ということが、通じやすくなったのだとは思いますね。
小島:政府の動きとしても、働き方改革というものがありました。
田中:そうですね。
小島:もう1つ、2017年から「#MeToo」という動きが日本にも及びましたよね。性暴力やハラスメントにNOという声がたくさん上がって、それはスポーツ界も含めて、働く現場のみならずあらゆるところに及んでいる。学校も含めて。
今までの、ハラスメントがコミュニケーションの基本形というような社会から、ハラスメントはハラスメントで止めようというように「理不尽な目に遭ったらNOと言ってもいいんだ」という気運が高まってきた。
まずは「今までは力のある男性にひどい目に遭わされても黙ってきたが、もう黙らないぞ」という女性たちの声が上がりました。それからさらに広がって、働くということを通じて企業や社会にいじめられていたというか、ひどい目に遭っても黙り続けてきた男性たちが「これはやっぱりおかしいんじゃないか」ということに気がついた、という段階だと思うんですね。
田中:そうですね。
小島:ただ、その声の上げ方が難しい。とても真剣に昔からやっていらっしゃるフェミニズムの一部の方からすると「女がひどい目にあってきたのに、男が『俺もつらい』とか言ってんじゃないよ」という思いもあるでしょうから、男性は言い方がすごく難しいですね。
田中:そうです。
小島:だけど、それで男性の口を封じてしまうのは不毛ですよね。同じようなことを女性はされてきたわけだから。
田中:そうです。そうです。
小島:「女は女らしくおとなしくしていろ」「男の言うことを聞け」というのと「男はマッチョで稼ぎ続けろ」というのは対ですもんね。ですから「女性を自由にしよう。これはおかしいじゃないか」と言うと同時に「男らしさ」というものも問い直さないと、根本的には変わらない。
だからこそ『男らしさナイト』をやりたかったの。やっぱり言ってもいいんだと。別に男の言い訳などというものではなく「男が乱暴になってしまうのはしかたがないんだよ。だって俺たち強いから」と言うためでもなく。相互理解のためだと。
田中:そうですね。ですから社会の問題では、想像力がかなり大事だと思うんですよね。例えばうちは今、子どもが2人いるんですけど。妻はまた0歳児が生まれたので育休中ですから、給付金しかもらえないわけですよね。
「では、お前さ。男性学をやっているんだから育休取れよ」という話もあると思うんですよ。でも日本の場合、フルタイムで働いていても、女性と男性の賃金の格差が10対7なんですよ。つまり、男性が30だとしたら女性は20だと。給付金というのは66.7パーセントしかもらえないわけです。
それは、理屈はわかりますよ。確かに、取ったほうがよろしいだろうが、男のほうが取ってしまうとすごく家計にダメージがあるわけですよね。
ですからつまり、男女の賃金格差という問題の解消がなされないままに「男はもっと育児をしろよ」というような話があると、すごく葛藤がありますよ。
奥さんが育休になると、子どもの保育園は9時から16時に変わってしまいます。「育休中なんだから、面倒を見ることができるでしょう」ということですね。でも0歳児がいると、迎えに行くのも大変じゃないですか。ですから僕が9時に送りに行って、16時に迎えに行く。これをやっているわけですが。
そうすると、結局は仕事をする時間が減るから、本を執筆したり、講演会に行けなくなってしまう。でも子どもは2人いるから「この子たちの教育費などはどうするんだろう」という……。そこについてはすごく葛藤がありますね。
小島:そうなると、制度設計上「女性の仕事というのはあくまでも男性のサブなので、子どもが生まれたら、基本的には育児に専念してもらおう」という発想自体を変えてもらわないと困るということですよね。
田中:そうです。おっしゃるとおりですね。
小島:女性も経済を支えているわけですから「この人が出産して、この人が育休を取った場合に、その家計はかなりダメージを受けるので、そこはしっかり支えてあげなくてはいけない」という発想にしてもらわないと困りますよね。
田中:本当におっしゃるとおりですね。
小島:その延長上には、もちろん介護士などや保育士、看護師など、ケアワーカーの問題がある。とくに保育士や介護士は待遇が悪いですよね。
田中:悪いですね。
小島:あれはそもそも、ケアのワークは女の仕事で、女の仕事は男のサブだから、そんなに払わなくていいでしょうという前提のもとで、ああなっているわけじゃないですか。
そこもやっぱり今の延長上で変えていかないと、そのケアの仕事をしている人たちも十分に家計を支えなくちゃいけないわけですから。今まで“男の稼ぎ”と言われていたのと同じ稼ぎを得ないと、人は生きていけない。
制度を変えていくためにも、やっぱりジェンダーという、根本的に私たちが縛られてきた「男らしさ・女らしさ」というものを、解体しなければいけない時期に来ています。
田中:本当にそうですよね。
小島:男らしさを語るということは、そうした社会全体の合意形成ののためにも必要なのだ、ということですよね。
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