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話し言葉の「書き起こし」から、読み手を惹きつける文章を生み出すには?(全4記事)

「話者の人柄」をどこまで出すか? 原稿の質を左右する、書き言葉・話し言葉の使い分け

「書く」を学び合い「書く」と共に生きたい人の共同体「sentence(センテンス)」。2016年に発足したこちらのコミュニティは、オンライン・オフラインの両軸で、全国各地の会員さんと「書く」を学び続けています。これまでは現役編集者によるトークイベントなどを開催してきましたが、2020年から新たな取り組みとして、ライブ配信イベント「sentence LIVE」を始動。その第3弾となる本企画では「書き起こし〜執筆におけるノウハウと心構え」について、2名の編集者が考えを語ります。こちらのパートでは、視聴者からの質問に対して回答します。

文字起こしを依頼する際の指示

岡島たくみ氏(以下、岡島):ありがとうございます。長くなっちゃったんですが、こんな感じになりました。このあとは質疑応答の時間になります。

小山和之氏(以下、小山):ZoomのチャットやTwitterを見てると、文字起こしのあたりが主に盛り上がっていたりはしていて。見ながら笑ってしまったのが「文字起こしをやるとき、どうやって依頼するのがよいですか?」という質問に対して「これを使っています」ってソリューションが出てきてて。(チャット上で)完結していると思ってました。

それでいうと岡島君は、文字起こしを依頼するときに「こういうふうにしてほしい」とか伝えたりします?

岡島:毎回同じコピペを使ってお願いしているんですが。「明らかな雑談は省いてください」とか、さっきの「繰り返しの動詞とかは削ってください」くらいしか言ってないですね。

自分で取材をしているので「ここ抜けてるな」というのがあったら、文字起こしを見ているときに気づく。かつ、それを完璧な状態で起こしてもらうというよりは、抜けている箇所があったら音源を自分で聞き直すっていうふうに対応してますね。

小山:逆にいうと、わりと文字起こしでゴリゴリに書き換えてもらった状態、原稿に近い言葉選びとかまでしてもらった状態で上げてもらうというよりは、わりと生に近いものをもらっているという感じですか?

岡島:そうですね。どちらかといえば。

記事の軸を考えるタイミング

小山:ありがとうございます。けっこう大事な質問があったので、これはぜひ聞きたいなと思ってたんですけど。「記事の軸はどのタイミングで考えますか?」というのが来ていて。フローの中の、どのあたりでやってるのか? みたいなのはけっこう気になるかと。

岡島:2つあるなと思ってて。1つはフローの中に入ってないんですけど「企画を立てる段階」ですね。ある程度の企画が定まってないと、そもそも軸なんてできないので。その時点で「どういう話が聞けるのか」「この人はどういう話を言ってくれそうか」というのは、仮説を立てておきつつ、実際に聞きに行く。「これを軸にするぞ」って聞きに行く。

実際に聞いてみて外れることもぜんぜんあるので。外れたときは、削りながらですかね。2の「削るの工程」で考えることが多いように思います。いらないものを削っていく中で使えそうな部分、記事の見出しを……見出しというか「意味の塊」をつなぎ合わせていく中で順番を(つける)。……だから2と3を交互にやっていく中でですかね。

「ここの意味の塊は、どうにもつながらなさそうだな」という部分ができてくるので、その中で(行う)という感じですね。「軸を考えて削っていく」というより「削っていく中で勝手にできていく」ような感じです。

小山:なるほど。そもそも削る時点で「これはいらない」って判断できるということは「これが軸になる」というのが見えてるって感じですよね?

岡島:そうですね。さすがに企画があるので、あまりにも企画から逸れたことしか聞けてないという状況には、そんなにならない。そうなると、まあ、やばいですよね(笑)。基本的に企画の、最初に立てた主題に忠実に削っていってという感じですね。

話者の人柄を消してしまう可能性

小山:質問が2つくらい来ているので、それを。「個人の話し言葉を出す場合と、書き言葉にする場合のパターン分け」について。

岡島:それでいうとTwitterで1件見つけまして。「話し言葉と書き文字について。人柄を消してまで、その人の話し言葉を書き言葉に変える理由がなかなか理解できない」っていうコメントをいただいております。

小山:なるほど~。

岡島:大切な観点だなと思っております。「書き文字にすることで誤解を生む可能性があるから」ならわかるけど「その人柄を消してまでやる必要があるのか?」という意見です。

小山:うんうん。どう思いますか? 

岡島:「読者がどう思うか」というか「読者が読みやすいか、受け取りやすいか」ということが一番大事だと思うので。その情報が届かないといけないなぁと。「人柄を消す」という言い方が、もしかしたらよくなかったのかもしれないですね。

言い方はめちゃくちゃ悪いんですけど「読者が(取材対象者の)人柄に興味があることは、そんなにない」って僕は考えてて。「消す」というよりは「変に出しすぎないようにする」ようにしてます。

それは出しすぎるとノイズになっちゃうと思うんですよね、どちらかと言うと。難しいところなんですけど。もちろん、ほのかに残しておくのはいいことだなぁと思いつつ、出しすぎるとなかなか……極端な例ですけど「全部方言」とかだと、たぶん頭に記事が入ってこないじゃないですか。

小山:そうですね。

岡島:そういうのはなくそう、くらいの感じでした。そこまで「この人の言葉を変えてやるぞ」みたいなことは考えておりません。

人柄を出すべきシーン、出すべきでないシーン

岡島:もともと小山さんが仰ってたのは何でしたっけ?

小山:「個人の話し言葉を出すか、書き言葉にするのパターンを分け」。でも今の話、けっこうそのとおりかなと思って。「読者が読みづらくならないように、書き言葉にする」という観点が1つあるんだろうなって、今の話を聞きながら思ってましたね。

岡島:バリバリの口語を使ってる媒体とかもあると思うんですね。オモコロさんとか、話し言葉そのままの記事がけっこうあったりすると思うんですけど。それは読者がそれを求めているからだと思うので。そっちのほうが受け取りやすいのであれば、もちろんそれを選択すればいいと思います。

小山:あとはさっきの補足で僕が思ったのは「その人の人柄を出すべきシーンと、出すべきでないシーンがある」と思っていて。「取材で話してくれているときが、その人にとってのパブリックな場面じゃない」みたいなのは、認知としてあったりするので。

例えば、上場企業の経営者がすっげぇラフに話してくれたんだけど、その人のコーポレートメッセージに出てる言葉って、すごく堅かったりするんですよね。その人は、本来すごくラフで話しやすくていい人だったんだけど、会社の経営者として表に出てくる言葉としてはそれじゃない、というのが広報的にはあったりするので。

それで(人柄を)意図的に消すみたいなことを、やってあげたほうが本人の望むアウトプットになる場合もあるっていう感じですね。もちろんそれが全部じゃないとは思うんですけど。

岡島:人柄を消しちゃうというよりは「ちゃんと正しく、その人の伝えたいイメージどおりに書く」という感じですかね。

小山:そうですね。人によっては「こういうふうに見せたい」というのを大事にされてる方もいらっしゃるので。それはあるかなと思いました。

取材時に「知ってます感」を出すか否か

小山:あとは質問で来ているのが「事前に取材相手をどれだけ調べてから取材にいくか。それを取材時にあまり出さないようにするか否かの、力加減」。これ、めっちゃ難しいやつですね。

岡島:力加減、難しい。

小山:取材前の準備と、すごく調べて行ったうえで「知ってます感」をどれだけ出すか。

岡島:あ~。これはちょっと恥ずかしいですね。僕は「知ってる感」を小出しにしたりするんですけど。

その人がこれまで取材されてる記事は、全部読んでいきます。それがあまりにも有名な方で100記事とか出てるようなものであれば、最近のものと、その人の根幹的なものが話されているような記事を読んでいきますね。著書とかを出されている場合は、絶対に買って取材の場に持っていきますし。読みきれなかったら一番大事っぽいところをパラパラって読んで、ここだろうなっていうのを押さえて行ったりします。

この前『はじめの一歩』の森川ジョージ先生の取材の話が舞い込んできて。『はじめの一歩』って120巻くらいあるんですけど。今、死にそうになってます(笑)。

小山:120巻読むんですね(笑)。

岡島:万全にできるだけ調べて行って、取材中に全部出しすぎると気持ち悪いんですけど。「そこの話って、この記事で言ってたこれですよね」って言ったら、取材の時間もショートカットできてコスパもいいので。出せるところは出すという感じでやってます。小山さんはどうでしょう?

小山:僕も調べるのはマックスで。その1件の取材に対して、持てる時間はなるべく可能な限りで調べまくる、というのはやりますね。それこそ過去記事もそうだし、著書もそうだし。なるべくやりましょうとは思っていて。

当日「知ってる感」を出すか出さないかは、悩ましいなと思ってるんですけど。「出したほうがいい情報が取れる人」……例えばピンポイントな質問をしても「○○○○と過去の取材でおっしゃっていたと思うんですけど、このことについて教えてください」って聞いても、わりと答えてくれやすいというか。取材慣れしてる人は、そういう「知ってます感」を出してもいいかなと思ってるんですけど。

場を盛り上げてあげたほうがその人が饒舌に話してくれる、もしくは逆に初速で元気がすごくあるわけじゃない人とかは、意図的に知らなくて話しやすそうなところに前半部分は時間を使って。ギアが上がるようにしてあげてから、話を広げていくっていうのはやります。なので意図的に「知らない体でいく」というのは、やったりはしますね。

けっこう難しいし、いまだに僕もその温度感に悩んで「今日の取材もミスったなぁ」とか思いながら帰ったりするので。正解がない感じがしますね。

岡島:正解ないですよね~。難しい問題です。

小山:考え続けなければいけないと思います。

岡島:準備だけは万全にしていこうっていうのだけは言えそうですね。

小山:うんうん。

校正時に取材対象とコミュニケーションを取る

岡島:あと「人柄を出すかの議論、難しいですね」ってコメントをいただいてますが。また戻っちゃいますけど。たぶん新聞とかだと、(取材対象者に原稿の)確認を出さないこともけっこうあるかなと思うんですけど。Webだと取材対象の方に、原稿のテキストを1個1個意図が間違ってないかって確認してもらうことのほうが多いかな? と思ってますので。

「それで実際に見ていただいて、なにか違和感がある方は直していただけます」って工程を挟んだりしているので。削るというか、そこはそれで合意が取れているのかなっていうのは確認はしてます。

小山:本人見ないんだったら、ちょっと悩ましかったりとか。

岡島:ですよね。さすがに。

小山:ちょっと不安だったらコメント残して「これ、意図的に堅めのトーンにしてるんですけど大丈夫ですか?」みたいなコミュニケーションを挟んじゃうみたいなのも、必要な場合にはやったりはしますね。

岡島:やりますね。「ニュアンスあってますか?」というのはちょっと心配なところ。それこそ取材中に「ここはちょっと書き方に気をつけて欲しい」って言われることとかも、けっこうあるので。「ここはこういう書き方になりましたが、どうでしょう?」ってコメントを残したりしてますね。

という感じでしょうか。あとは質問とかってありましたっけ? 

小山:ひととおり、これで大丈夫そうですね。

岡島:あ! 最後に宣伝をさせてほしいんですけど。アルでは、常時、ライターさんを募集しているので、もし「漫画が好きだぜ」っていう方がいらっしゃったら、ぜひご応募ください。「漫画ライター」で検索して、トップに募集の記事が出てきますので、もしご興味ある方はどうぞお願いします。

ものすごく漫画好きな方々が集まって、ワイワイとみんなで好きに記事を書いてくださってて、すごくいいなと思うので。そこのコミュニティというか、漫画好きの人たちと一緒に楽しくワイワイやれるというところもすごく価値かなと。手前味噌になってしまいますが、そう思っております。ぜひご興味ある方はお願いいたしますという感じです。

小山:それでは本日は、ありがとうございました。

岡島:ありがとうございました。

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