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The Only Animal That Can't Breathe Oxygen(全1記事)

酸素を呼吸できない唯一の動物、発見される

多くの生物にとって、酸素は生きていくうえで必要不可欠なものです。ところが、2020年に「そもそも酸素を呼吸できない生き物」が発見されました。その生物はどうやって生き永らえているのか、なぜそんな特異な進化を遂げたのか。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、サケに寄生する不思議な寄生生物の正体に迫ります。

酸素を呼吸することができない寄生生物

オリビア・ゴードン氏:私たち人間も含め、生き物が生きていく上で不可欠なものは、たくさんありますね。その一つが酸素です。酸素は極めて重要な物質であり、これまで人間の研究対象になってきた多細胞生物はすべて、酸素を使ってエネルギーを生成する能力を有していました。しかし、たった一種だけ、例外があったのです。

2020年、生物学者たちは単に酸素を呼吸しないだけではなく、そもそも酸素を呼吸することが「できない」生き物を発見したと報告しました。

これは、「ヘネガヤ・サルミンコーラ」という生き物で、発育段階のうち2つの時期にサケに寄生します。ミクソゾア門に属する、クラゲに似た小さな寄生生物で、複雑なライフサイクルを持っています。

ヘネガヤ・サルミンコーラは、その一生の一時期をサケの体内で過ごすことはわかっていましたが、その後にどこへ行くのかはわかってはいませんでした。さらにヘネガヤ・サルミンコーラは、ミトコンドリアのような働きはできません。実は、ここが重要ポイントなのです。

すべての生物はミトコンドリアを使って酸素を代謝している

ミトコンドリアは、細胞における発電所のような存在です。糖分と酸素を取り込み、エネルギーを持つ成分へと変換する働きをします。

単細胞生物や多細胞生物など、細胞核を持つ生物を真核生物といいますが、すべての真核生物は、進化の過程でミトコンドリアを体内に取り込んだのです。

酸素の乏しい環境下に適応した生物でさえ、体内には何らかの形でミトコンドリアを残しています。そして、すべての生物は、ミトコンドリアを使って酸素を代謝する能力を、ある程度は持っています。

他の生物の細胞内で生きているのにも関わらず、ミトコンドリアは独自のゲノムを持っており、これはミトコンドリアDNAもしくはmtDNAと呼ばれています。

ミトコンドリアDNAを持たない、初の多細胞生物

さて、『PNAS』(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:『米国科学アカデミー紀要』)誌上で発表されたある論文では、研究者たちは、ヘネガヤ・サルミンコーラとその近親種の生物とのミトコンドリアDNAを、それぞれ調べました。すると何と、ミトコンドリアDNAが見つからないことがわかったのです。つまり、ヘネガヤ・サルミンコーラはミトコンドリアDNAを持っていなかったのです。これは、多細胞生物では、今まで確認できなかったことでした。

ミトコンドリアDNAであれ、一般的なDNAであれ、DNAはいずれも、細胞に各種のたんぱく質を生成する指令を出す働きをします。

さて、この寄生生物ヘネガヤ・サルミンコーラは、ミトコンドリアDNAを持たないがために、酸素をエネルギーに変換するのに不可欠なたんぱく質の生成指令を出すことができません。

なぜ酸素を有効活用する能力を放棄したのか?

研究チームは当然ながら強い興味を持ち、ヘネガヤ・サルミンコーラの一般的なDNAも調べることにしました。彼らが探したのは、ミトコンドリアが酸素をエネルギーに変えるのに使う遺伝子でした。この遺伝子は、ミトコンドリアDNAではなく、一般的なDNAに内在するものです。すると、ヘネガヤ・サルミンコーラにはこの遺伝子はわずか7種しかなかったのに対し、近親種のミクソゾア門は、この遺伝子を18種から25種も持っていることがわかりました。

とはいえ、ヘネガヤ・サルミンコーラには、ミトコンドリアに似た構造体が見つかりました。これは、「ミトコンドリア関連オルガネラ」というものです。これらの構造体はエネルギー生成をしてはいましたが、ただ、使っているものが酸素ではなかったのです。

さて、サケに寄生するこの生き物は、なぜ酸素を有効活用できる能力を放棄してしまったのでしょうか。それはつまり、この生物が酸素に乏しい環境で生息しているからにほかなりません。そのような環境がサケの体内なのです。

そのため、ヘネガヤ・サルミンコーラは、酸素を使わない、より効率の低い手段でエネルギーを得る他はありませんでした。つまり酸素を使わずに、糖分を分解することです。酸素を呼吸する私たち人間のように糖を分解することは、酸素なしでも可能ではありますが、取り出せるエネルギーはごくわずかになってしまいます。

何世代も活用されなかった遺伝子は消滅する

さて、遺伝子が何世代にもわたって活用されない場合は、消滅してしまうことがわかっています。ヘネガヤ・サルミンコーラの場合は、ミトコンドリアDNAを失うことは、進化的適応でした。ただ遺伝子を維持するだけでも、エネルギーは必要だからです。特に、ヘネガヤ・サルミンコーラのようにゲノムが小さな生き物は、まったく活用しないDNAを手放すことにより、浮いたエネルギーを生存戦略に回せます。

もしくは、この変化は単なる偶然の産物だったのかもしれません。自然淘汰により遺伝子の変化が促されることもありますが、純粋にランダムな運であっても、それは同様なのです。

酸素を呼吸「できない」生物の発見という以外にも、この発見は実用レベルの役にも立つと研究チームは指摘しています。

このミクソゾア門の寄生虫は、サケの養殖家にとってはたいへんな厄介者です。この寄生虫が酸素を呼吸できないと判明したことは、駆除薬の開発に役立つかもしれません。ということは、この能力は、結果的にこの寄生虫にはすばらしい能力ではなかったのかもしれませんね。

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