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This Old Sailors’ Mystery Could Help Save Swimmers(全1記事)

「死水」が全速力で進む船を止める 謎の海水にまつわるサイエンス

飛行機や新幹線、車など、多様なモビリティが現代における「移動」を支えています。その昔、船が移動の主流だった時代に“ある水”が行く手を阻んでいたのはご存じでしょうか? 今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、「死水(しすい)」というミステリアスな現象を解説しています。

船の行く手を阻む「死水」のサイエンス

ステファン・チン氏:現代の私たちには、どこかに行きたくなったら、車や飛行機などの移動手段がありますね。

しかし、これまで何世紀もの長きにわたる最速の移動手段は、船でした。ところが突如そうではなくなる事態が、発生することがあるのです。

何千年もの間、船乗りたちの間で語り継がれてきた、ミステリアスな現象があります。その名を「死水」と言い、航行中の船を突然止めてしまうものです。

現代では、死水は単なる水であることがわかっています。そして長い時間が経過した今、船乗りたちを苦しめて来た理由が判明しました。さらには現代でも、スイマーが巻き込まれる危険があるのです。

「死水」は、後にノーベル平和賞を受賞することになる、ノルウェイの航海者フリチョフ・ナンセンが、1893年に作った造語です。とはいえ死水に囚われたのは、ナンセンが初めてではありませんでした。

フルパワーで前進していた船が、突如減速したり、あるいは船足が完全に停止してしまうという話は、少なくとも紀元前600年にまで遡ることができます。

船乗りたちは時代を超えて、船首の前に油を垂らしたり、海面に発砲したり、果ては修道士を船外へ放り出したりなど、あらゆる手段で死水からの脱出を試みました。しかし、死水から脱出する最善手は、実はただひたすら待つことなのです。

死水に捕まる経験を幾度も積んだ末、死水が発生しやすいのは寒冷な時期であることが、だんだんわかってきました。例えば、ナンセンの船フラム号が死水に遭遇したのは、シベリア北部を航海中の出来事でした。この経験は、真相の究明に役立ちました。船乗りが死水に捕まるのは、塩分を含んだ海水の上に、氷河などから溶け出した真水が層を成している場所だったのです。

こういった2タイプの水は、まったく異なる液体のように振る舞います。その境界線は、水と大気の境目によく似ており、これが複雑な事象を引き起こすのです。

1904年、海洋学者ヴァン・ヴァルフリート・エクマンは、このような2層の水上を船が航行する場合、大きな波が発生することを数理学上で示しました。このような波が発生するのは、大気に接する海面ではなく、塩水と真水の境界面です。そのため、船上の乗組員からすれば、海面は凪いでいるように見えるのです。

このような波の発生には、船尾に見られるような航跡を作るよりも、はるかに大きなエネルギーを要します。とくに、船が波に近いスピードで航行している場合は、必要なエネルギーはさらに大きくなります。そのため、海中の波は船の推進力を奪い、水面下から船足を低下させる働きをします。

波が発生している限り、船は少なくとも速やかには前進することができません。船の航行により波は発生しますが、この波が消滅しない限り、船は前進し始めることができないのです。

うれしいことに、水中の波よりもはるかに高速で進行している物は、それほど影響を受けません。単純に振り切って逃れることができるからです。つまり現代の船であれば、心配は不要なのです。

ところが鈍足で「航行」するゆえに、死水を警戒するべきなのが、「人間」です。オープンウォータースイミングでは、ベテランのアスリートが、完全な凪の海で、力尽きて溺死する驚くべきケースが後を絶ちませんでした。そこで、死水との関連性を疑う研究者ができてきました。

2009年の研究では、上層の薄く冷たい水中で泳ぐスイマーは、推進力の40パーセントを失うことがわかりました。

この分野の研究はまだ途上ですが、パワフルなスイマーであっても、凪の海で身動きが取れなくなる理由が、そのうちわかるかもしれません。

みなさんも、泳いでいて水温の異なる層があるなと感じた時には、このことを頭に入れておいてくださいね。SciShowでは、そのようなシチュエーションに遭遇してしまった場合の対処法を、専門家に聞いてみました。

最善策は、冷静さを失わずに、ゆっくりと浅く水を掻くことだそうです。さらには、溶けかかっている氷河のそばでは、くれぐれも泳がないでくださいね。

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