2024.10.10
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本にまつわる様々なプロジェクトを数多く手がける内沼晋太郎氏が、これからの「本の周辺」を語る。iPodをはじめとする音楽の電子化と比
内沼晋太郎氏(以下、内沼):次はですね、さっきもちらっと言ったんですけど、「情報・知識」としての本と、「論点・ナラティブ」としての本とを分けて考える、と。ちょっといいですか。これ話して。これって、実はなんでこんなことになるかって言うと、主に図書館の現場で話されていることなんですよね。
僕、図書館業界の人にも呼ばれていって、しゃべったりするわけなんです。そうすると、図書館の話って、要はどういう事かっていうと、情報の検索性の話なんですよね。
膨大な今までの書籍の知識の遺産みたいなものを、どういう風にデジタルアーカイブするか、っていうことについて考える時に、章立て……例えば、目次をきちんとデータベース化しましょう、とか。
そこの中で要は第1章があって、その中身がこうあって、みたいなもので、デジタルアーカイブの思想っていうのは、あとは何について書かれているか、とか、そういうようなものをタグ付けしていきましょう、とか。いわゆるデジタルアーカイブ、過去の出版物をデジタルアーカイブしましょう、っていう話がされるわけですよね。特に図書館とかの中で。
でも、よく議論がすれ違ってるなぁ、って思う瞬間があって、すれ違ってる時はだいたい、この2つがごっちゃになっている時なんですよ。
内沼:つまり、情報とか知識としての本はデジタルアーカイブしやすいんですよね。階層構造とかタグ付けとか、そういうような事が意味あるんですけど、例えば小説の中に出てくる単語とかが検索されることに、あんまり意味はないわけですよね。
小説の研究っていう意味では……あの、個人の楽しみとしては面白いですよ。なんか、こんな単語が出てくる小説がこんなにあるんだ、みたいな。
そういう変な角度で見たら楽しいけど、でも小説の本質とは、つまり、論点・ナラティブって、まぁナラティブって物語みたいな事なんですけど。ケヴィン・ケリーが言ってたことなんだけど、ケヴィン・ケリーはもはや逆に言うと、僕が深読みをしてるだけかもしれないですけど、もう情報とか知識について書いてあるものは「本」じゃない、と思っているわけですよね。逆に言うと。それは、もう検索性の高いものだからWebサイトだ、みたいな。極論すると。
多分、そういう風に思っていて、つまり電子書籍と電子辞書みたいなものは「本」じゃない、と思っているわけです。だから、もはや辞書は「本」じゃない、と。
タウンページも「本」じゃない、と。という風に思うのが、「論点・ナラティブ」だけが「本」だっていうふうに考える考え方だと思うんですけど。まぁそれは色んな考え方の人がいて良いと思っていて。
内沼:ざっくりただ全部が「本」って考えた時には、いわゆるデジタルアーカイブして知識とか情報を取り出しやすくしましょうっていう話と、いわゆる「読書」っていうような頭から最後に向けて、物語性であったりひとつの議論であったりを、ひとつのまとまりとしてあるものとしてごっちゃにして議論すると、どっちに向かうのが正しいのかわからなくなる。というようなことがあるなぁと思って、それは分けて考えておいた方がいいよねということです。
森オウジ氏(以下、森):でも、その考え方は、あれですよね。電子書籍っていう言葉が出てきて以降の考え方になるんですかね?
内沼:どうなんでしょうね。
森:横断検索っていうのは。
内沼:電子書籍以前からの話だと思いますよ。やっぱりそれは、多分「図書館の検索システムを作りましょう」みたいな時だって十分こういう話はあり得ると思うんです。
森:なるほど。わかりました。
森:次、4つめいきますか。
内沼:ハードとソフトについて考える、と。これね、「分けて考える」って書いてない理由もあってですね、これもまぁ、みなさん釈迦に説法というか、ちょっと考えたことある人だったらすぐわかると思うんですけど。よく電子書籍の未来について話す時に、音楽業界を引き合いに出す人っていっぱいいるんですよね。で、音楽業界はこうなったんだから、出版業界もこうなるはずだ、みたいなふうに言う人がすごいたくさんいるんですけど、最も本質的な違いはここなんですよね。
何かというと、レコードはレコードがあってレコードプレイヤーが必要だったわけです。CDは、CDがあってCDプレイヤーが必要だった。もともと、レコードプレイヤーもCDプレイヤーも必要だったんですよ。で、それがデータになって、iPodが必要になったっていうのが流れじゃないですか。
だけど、今本っていうのは、最初からハードとソフトが一緒なんですよね。つまり、レコードプレイヤーとか必要ないんですよ。今すでに。
何を言っているかというと、音楽はもともとハードとソフト別のものだったわけですよね。本体があってソフトウェアがある、っていうのが、昔からそうだった。音楽の消費、っていう元に。
だから、デジタル化ってスムーズだったわけですけど、今普通の読者の人に対して「電子書籍、こんなに便利だよ」とかって言っても、ちょっとハテナマークがつくのは、ここなんですよね。
多分、無意識のうちにハテナマークがついてる、みんな理由が気づいてない人もいるかもしんないけど、そのハテナマークの原因はここで、つまり、「なんで端末使わなきゃいけないの」とか、「なんでアプリインストールしなきゃいけないの」って。だって、本って別に今ここで買ったらすぐめくって読めるわけなのに、っていうことなんですよ。
最初からハードとソフト一緒のもの、つまり電子化しましょうってどういうことかっていうと、音楽の場合は、単純に今までソフトだけ買っていたもの、それを電子で買えるから便利だね。ハードはずっと必要だよ。っていう話なんですよね。
だけど本の場合は、ハードとソフトもともと一緒だったのに、ちょっとハード買ってよ、みたいな。ハード用意しといて、みたいな。ソフト流通させるから。でもそれってなんか、もともと一緒だったものをわざわざ分けようとしてるってことなんですよね。
電子書籍化するっていうのは。で、これの横暴さっていうか、これのちょっと無茶さみたいなことをある視点から言えば横暴でも無茶でも全然ないですよ。
ただその、ハードとソフトっていう面だけから見ると、ある種の退化をしようとしている、っていうか。全然退化じゃないんだけど、そこだけから見るとある種の退化を、わざわざ一緒だったものを分けようとしてるわけですから、しているっていうことについて自覚的じゃないと、「本」の未来について考えるのが難しいだろうなぁ、っていう風に思ってるっていうことなんです。
森:日本の本っていうのは、極端にハードに愛情があるというか。今日実はアメリカの友達としゃべってたんですけど、アメリカっていうのは、アメリカの方が電子書籍は一般的になってるじゃないですか。
あれってなんでなんだろうね、って言ったら「日本の本はあまりに丁寧に作りすぎてて、スキャン通らねぇんじゃねえの?」みたいなこと言われて、まぁ全然参考にならなかったんですけど。
内沼:うんうん。
森:日本って本の装丁はいろいろ種類があるし、表紙があって扉があってフォントもきれいにして、っていう。あれはやっぱり日本人的な発想ゆえなんですかね? こう、モノがないと納得ができない、というか。段取りが大事、というか。
内沼:そうかもしんないですね。その話はどっちかというと、似てるんですけど、さっきの話で言うと僕がデータとプロダクトっていう話で言ってて。
森:ああ、そういうことになるんですね。
内沼:でも今の話は確かに、日本らしいというか、ものづくりということにこだわってる感じっていうのはなんかありますよね。
森:確かに。
内沼:ただ、今どきの装丁の技術、製本とかで変な本とかは日本よりも中国とかの方がいっぱいあるし、
森:えー!? そうなんですか?
内沼:もう、すごいですよ。中国の本って。ホントに中国のアウトブックとか無茶苦茶ですよ。まぁ、手作業がいっぱい入ってるからだけど、
森:はいはい。
内沼:日本じゃ絶対作れない本が無茶苦茶いっぱいあるんですよ。
森:おおー!
内沼:で、そういうのも見ると面白いんですけど。要はモノとしてのバリエーションがいっぱいあるってことは、結局人の手がたくさんかかってたり、どっか効率的じゃなかったりするってことなんですよね。
森:はいはい。
内沼:まぁ、だけどその、そういう意味でも僕は確かに「モノとしての本を愛する文化」みたいなのは根付きやすいんだろうなぁ、と思っていて。そこでビブリオフィリックなのっていうのも考えてる、っていうのはあります。
森:なるほど。
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