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『職業としての地下アイドル』発売記念トーク&握手&サイン会(全3記事)

「いじめられた経験がある」地下アイドルは52.1パーセント それでも少女たちがステージに立つのはなぜか?

2017年10月18日、書泉ブックタワーにて、『職業としての地下アイドル』発売記念のトークイベントが開催されました。イベントでは、自身も現役地下アイドルとして活躍する、著者の姫乃たま氏が登場。あまり表にでない地下アイドルの裏側と、職業としての地下アイドルの現実を、自身の経験や綿密な取材をもとに語ります。

地下アイドルといじめ

姫乃たま氏(以下、姫乃):さあさあ、あとは何を話したらいいのかなあ。

あっ、そうですね。今回出版していちばん反響が大きかったのが、いじめについての項目でした。あと私が、この仕事を始めて3年目で鬱になって、一旦活動を休止してから、いまの名前に変えて復帰したんですけど、プロローグとエピローグに鬱になるまでの話と、そこから寛解して今に至るまでの話をを書いています。

なんでそんなのを書いたかというと、『うつヌケ』が売れていたので、「うつヌケみたいなものを書いてください」という編集さんからの素直な要望を受けて書いたんですけど。

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち

(会場笑)

私の場合はすごく単純な話で、活動を始めて過労になってしまって、それで鬱になったんです。なんでそこまで仕事をしてしまったのかっていう原因として、学生時代にいじめられていたことをプロローグに書きました。

私だけじゃなくて、地下アイドルの子はいじめられている割合がすごく高くて、「いじめられた経験がある」と答えた子は……何割ですか? (該当ページを探す)えー……見失いましたね。何ページだったかな。

(会場笑)

みんな探し始めた(笑)。ありがとね……。

(会場を見回し、見つけた人を探す)

会場:168ページ。

姫乃:168ページ! ありがとう(笑)。学校か!

(会場笑)

ありがとうございます。「いじめられたことがある」が52.1パーセントだから、約半分ですね。一般の若者が11.7パーセント。私これ、一般の若者がいじめられた率って11.7パーセントしかないんだと思って、すごくびっくりしたんですけど。

逆に「いじめられたことはない」って回答した子が、地下アイドルは19.1パーセントなんですね。約20パーセントだから、「なんかいじめられたのかな?」みたいな子も含めると、約8割の子がいじめに遭ってるんですね。「いじめられたことはない」一般の若者が61.7パーセントというのもすごいびっくりしたんです、高いなぁと思って。

私は16歳からこの活動を始めているので、逆に感覚が麻痺してたんだなと思ってびっくりしたんです。この部分が出版してからいちばん反響が大きくて、この項目と、地下アイドルの子は両親に愛されてる実感がすごく高いっていう結果も、一般の若者の結果と比べて大きく異なっていたので反響がありました。

データから地下アイドルの精神を読み解く

「地下アイドルは病んでる」というイメージが一般にあるので、一般の若者のアンケートの数値と照らし合わせたんですけど、実はあんまり変わらなかったんです。

ただ、普通の女の子に「地下アイドル」っていう肩書きがつくと、最初に話したみたいに、アイドルっていうものに対する、勝ち気で、キラキラしていて、華やかな世界なんだっていうステレオタイプなイメージと比較した時に、闇が深く見えてしまうんですよね。実際は不安とか心配とか、寂しい気持ちになったパーセンテージも、地下アイドルと一般の若者であまり変わりがないんです。

そんな結果の中で、いじめに関する部分と、両親から愛されている実感についての数値だけが突出して差がありました。

ちょっとラカン(注:哲学者のジャック・ラカン)みたいな話ですけど(笑)、地下アイドルの女の子は、基本的に両親からすごく愛されていると実感していて、「自分は愛される人間なんだ」って思っていました。それが学校という社会に出て、いじめに遭ったことで「そうじゃなかったんだ」と知ってしまうんです。そこで「愛される自分」というアイデンティティを削がれてしまって、社会の中で学校とはまた別の居場所を見つけようとして地下アイドルの業界にたどり着いたんじゃないか、っていう考察を本の中では書きました。

アンケートの数字だけでは断定できない繊細な話ですが、これまで地下アイドルとして活動してきて、この数値と考察はすごく感じてきたことだったんです。だから数値を見たときはすごく腑に落ちました。同時にどうして地下アイドルの世界ができているのか、なんでこの業界で女の子たちががんばってるのか、その理由がこの考察にあると思ったんです。

地下アイドルになった理由でいちばん多かったのは、「なんとなく」っていう回答だったんですね。「なんでなんとなくこの業界に来ちゃうの?」って疑問に思われてるのが、この数値で明らかになったように思っています。

ただ、この本は私が活動をしてきた実感から読み解いたものなので、数値だけ資料として見てもらって、なにか別の解釈をしてもらうっていうのはぜんぜんありというか、むしろ私にも教えてくださいという気持ちです(笑)。

そろそろ地下アイドルでいるのも厳しくなってきたかなと思い始めているのもあって、この本が次に地下アイドルになりたい子への引き継ぎみたいなものになればいいなと思っています 。

役割と自分の乖離

最後に、エピローグとプロローグの話を改めて。さっき言ったみたいに、私なりの『うつヌケ』の方法を書いたんですけど、私が鬱になった理由っていうのが、大まかに人間関係と断れない性格のせいだったんです。

頼まれた仕事が断れなくて、自己肯定感もすごく低いから、自分に来た仕事はなんでも受けなければいけないと思って受けていたということです。それが過労につながったんですけど。

地下アイドルは特に、「自分はこうなりたい」と思って入ってくる業界ですよね。私は最初、人に誘われてフラッと出ただけなので、別にアイドルになりたかったわけではないんですけど、人の前に立てる仕事ができるんだったら今の自分とは違う自分になりたいなというか、そうなるのが普通なんだろうなと思っていたので、自分の意図していない「秋葉系のアイドルファンの人が好きそうな自分」みたいなものを演じていた節がずっとあって。

だから、自分の意図してない自分に対して来ている仕事をずっとこなしているわけですから、その仕事は自分には合ってないんですよね。自分に合っていない仕事を日々こなしていくのって、つらいじゃないですか。

それがずっとわからなくて、私は18歳の時に鬱になってしまって、1回この活動を辞めてるんですけど。そこからどうやって今に戻ってきたか、みたいな話がエピローグに書いてあります。この説明だと自己啓発本みたいですね、これ(笑)。

(会場笑)

フリーランスなら「磁場」を自由に形成できる

私、根本敬さんという人が大好きなんです。特殊漫画家の根本敬さんは、今日も売っている『号外 地下しか泳げない通信』という写真集でボディペイントをしてくれた人で、私の中ではいちばんのアイドルで、生きる上でもいちばん参考にしている人なんですけど。

号外 地下しか泳げない通信 (バラエティ)

根本さんは「磁場」というのを提唱しているんです。人を取り巻く人間関係のようなものなのですが。私も鬱になってから、自分に合った人間関係の磁場を形成するためにはどうしたらいいかなってずっと考えていました。やっぱり第一に、自分に合わないものは切っていったほうがいいなっていうことに気がついて、それはフリーランスの特権だと思うので、自分に合わない仕事は無理をしてやらないようにしています。

逆に、これはさじ加減が難しいんですが、悪名高かったりとか、「あいつは危ない」みたいにされてる人っているじゃないですか(笑)。そういう人を最初から除外しないで、逆に受け入れていくっていうのが実はけっこう大事なんです。

あっ、これちょっと身内のは話なので微妙なんだけど、私のファンにも、すごくピュアなおもしろい人で、楽しくなるとすぐ服脱いじゃう人がいたんですよ(笑)。

(会場笑)

気づくといつも裸なんですけど、そういう人が来ると「磁場」ってめちゃくちゃ形成されるんです。私は、その人のことは大丈夫だったんですけど、そういう感じなので彼と合わない人は入ってこなくなっちゃうじゃないですか。彼は危ないように見えるけど実際はピュアだし私は大丈夫。それよりも、そういう強烈な彼をダメだなって思った人のほうが、私はもしかしたら相性が悪かったんじゃないかなっていう。

これはちょっと極端だし、自分と合う人たちが周りにたくさんいて、というのが前提の話ですけど、1回磁場が築けたら、強烈な人が入ってきても大丈夫だし、、むしろ自分にとっての居心地のいい人間関係の磁場ができていくな、というのをすごく実感しています。それは地下アイドルとして働いているからこそというか、フリーランスだからできたやり方なのかなとも思うんですけど。

一方でフリーランスの人は、目先の利益に固執しちゃうと身動きが取れなくなるので、人間関係も含めて余裕を持ちたいところです。

距離を置くべき基準

私、人間関係を保つために2つ気をつけてることがあって、「この人、こうじゃなかったらいい人なのになぁ」って思った時点で関係を切るようにしています。「この人、こうじゃなかったらいい人なのになぁ」って思うのって、実はその時点ですごくストレスになっている場合が多くて。

あとは、「この人がいないと、私は稼げないんじゃないか」とかも危ないなと思って。「この人がいないと○○できない」っていうのはけっこうありえない話だなと思っていて。そういうふうに思っちゃった時は、ちょっと距離を置くようにしています。この人がいないと生きていけないなんてことはないし、そういうことがあったとしても、自分に精神的な苦痛を与えてくる人ではないと思うからです。

そうやっていくと、自分に合った仕事、合った人たちも集まってきて。自分のやりたいことをやると、アイドルの場合ですよ、地下アイドルの場合なにがいいかなっていうのは、「やりたいことをやっている自分を応援してもらえる」というのがやっぱりいちばんいいですよね。

昔の私みたいに、やりたくないことじゃないですけど、よくわからないままやってることを応援されても、すごく申し訳ないというか、なにか騙しているような気持ちにどうしてもなってしまうので、それをどんどんなくして素の自分と地下アイドルの自分を近づけていくっていうのがいちばん精神的にはよかったかなと思います。

私は得意なことが少ないですが、幸い文章が多少長く書けるので(笑)。

(会場笑)

うまいとかではなくて、ちょっと文量を書けるぐらいの能力があったので、今は本を書くことがこうしてできています。自分と全く同じ人間はいないし、無理して取り繕うよりも、なにか自分の得意なことをちょっとやると、他の子と争わなくて済むからいいなと思っています(笑)。

なので、『職業としての地下アイドル』は地下アイドルの本なんですけど、むしろ地下アイドルに詳しくない人で、もし今生活に鬱屈している人がいたら、「こんな意外な場所に自分の居場所があることがあるんだな」って気づいてもらえたらいいなとぁ思って出版しました。わあ、いい話だ。

(会場笑)

本を出してよかったこと

そして新書を出版したところですね、なんと朝日新聞出版にファンレターが届きまして。

(会場拍手)

わ~、うれしいです。ところが編集さん……検閲してないんですよね? してくださいよ!

(会場笑)

批判なのか、それともお褒めの言葉なのか、どっちなのかなと思ってさっき中を見たところ、ちょっともうみなさん笑ってるけど、ルーズリーフ。ルーズリーフの紙1枚なんですね。

(会場笑)

それでパッて見たら、めっちゃ短いんですよ! 「前略、お名前を知りました。地下芸術や、地下音楽もどこかでやっているのでしょう。成功をお祈りします。さようなら。草々」って書いてある。

(会場笑)

どっちでもなかったっていう(笑)。なんか、新書は幅広く届くからいいなぁと思いました。

(会場笑)

そして今日はみなさんともお会いできてよかったです。今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

(会場拍手)

職業としての地下アイドル (朝日新書)

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