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『職業としての地下アイドル』発売記念トーク&握手&サイン会(全3記事)

地下アイドルの平均月収12.7万円 「やりがい搾取」が渦巻く、夢追う少女たちの理想と現実

2017年10月18日、書泉ブックタワーにて、『職業としての地下アイドル』発売記念のトークイベントが開催されました。イベントでは、自身も現役地下アイドルとして活躍する、著者の姫乃たま氏が登場。あまり表にでない地下アイドルの裏側と、職業としての地下アイドルの現実を、自身の経験や綿密な取材をもとに語ります。

駆け出しアイドルという特殊な需要

姫乃たま氏(以下、姫乃):地下アイドルって仕事はあるんですよ、すごく。私もライブの活動を始めて2ヶ月目ぐらいで、ライブは毎月10本から20本あったので。それぐらい、新人の子には新人の地下アイドルにしかない需要があるんですよ。

売れてない女の子を応援したい人が一定数いるんです。関係が一対一になるのが面白いというか。例えば新人の子ばっかり集めたライブだと、女の子が10組出てるのにお客さんが6人しかいないみたいなことがあるんです。

実際に私が今まで出た中ですごかったのは、10組ぐらいいて、お客さんは20人いなかったかな。みんなトリの子と私を見に来ていて、あとの子はまったく集客してないライブがあったんです。でも集客していない子もライブに出る意味がないわけではなくて、ファンがまったくいない子を好きになるファンもいるんです。そういうことで新人のアイドルにもファンはつくし、新人の子は一人当たりの集客が少ないので、たくさん出演させないといけないからライブの仕事も常にあるんです。

アイドルにも、地上から地下、そして人の曲をコピーして活動している「地底アイドル」に区分されるんですけど、それと同じようにファンにもグラデーションがあって、まだ人に知られていない子を応援したいっていう人もすごくいるんですね。なので、仕事はすごくあるんです。

(客席から咳込む声)

最初はライブから始めて……大丈夫? お水飲む?

(会場笑)

大丈夫? ちょっと喉とかくるよね。私も台風なのに花粉っぽくて(笑)。

なんでしたっけ、地下アイドルの子っていうのは、別にみんながみんな売れたいと思っているわけじゃなくて、アイドルとして売れたい子になるともっと少数で、声優さんになりたい子とか、女優になりたい子とか、タレントになりたい子っていうのがいろいろいて。

最初はライブ活動から始めて、しばらくは主にライブしか仕事がないんだけど、ブログだったり、SNSとか、短いMCの時間に自分がどういうキャラクターなのかアピールすることで、「この子は声優さんになりたいんだな」と思ってもらって仕事の幅を広げてステップアップしていきます。ライブから始まって、どんどん仕事の幅が広がっていくんですね。

給与形態は……というか歩合なんですけど、最初はほとんど固定のギャラではライブに出られません。お客さんを呼んだらチケット代からバックが入ってきます。最初はだいたい500円とか、よくて1,000円です。それで地下アイドルのライブって成り立つのって思われるかもしれないんですが、さっき言ったみたいな、新人の地下アイドルが出演するライブってチケット代が逆に高いんですよ。1枚3,000円で、その中から女の子にはバックが500円とか。

駆け出しの地下アイドルの子でも仕事があるのは、同じ音楽業界の中でも別のジャンルだと集客できない金額のチケット代でお客さんが呼べてしまうっていうからくりがあるんです。

だんだんキャリアが積まれていって、ファンが増えると、チケット代が逆にどんどん下がっていくんですね。私は最初にその辺りすごく気を遣いました。自分が最初に出られるライブって、チケット代がやっぱり高いんですけど、フリーランスで活動してるとお金の流れがわかってくるので、自分が主催するイベントは入場料を下げていったんです。そこから徐々にファンの人が増えていった気がします。

やっぱり知らない女の子のところに高いお金払って見に行くのって、ちょっと勇気いりますよね。特に地下アイドルを知らない人がくるのは、ただでさえ敷居が高いので。なので、そういう感じでやってきました。

地下アイドルの収入って結局、チケットのチャージバックじゃなくて、物販が主なので……(会場の物販コーナーを手で示す)。

(会場笑)

にゃははは(笑)。そうなんですよ。なので、極端なこと言うとファンが呼べなくてもいいんですよ、別に。金銭的には物販が売れればいいので。たまにいるんですよ。集客ぜんぜんないのに、物販が1、2を争うぐらい売れるっていうアイドルさん。ちなみに私はそれを「愛人体質」と呼んでいたのですが(笑)。

1番の推しじゃないんだけど、2番目に好きだったりして。私も割とそういうところがあるのですが、受付では他のアイドルの名前を出した人が物販の時間になると一斉に集まるんですね。それで、なんか相談とかするんですよ。「最近、推しがちょっと冷たくて……」みたいな、こっちも「大丈夫?」みたいな(笑)。

(会場笑)

なんか、そんな感じの人も、たくさんの人から一番に好かれてて、本気で付き合いたいとファン全員に思われている人とか、みんなそれぞれやっています。

地下アイドルの稼ぎとやりがい搾取

新書の帯にも書いてあるんですけど、アンケートで明らかになった地下アイドルの平均月収12.7万円だったんですよ。これ、どう思いましたか? まぁそんなもんだなって思った人?

(会場挙手、少数)

ふむふむ。高いなって思った人?

(会場挙手、多数)

あー。少ないなと思った人?

(会場挙手、少数)

うー、やっぱりそうか、高いなって感じなんですね私は少ないって執筆中は思ってたんですけど、出版したら「高いですね」ってすごく言われて。確かに趣味で稼いでると思うと高いけど……どうなんですかね? これ1本でやってる子のことを考えると、ちょっと苦しいのかなとかも思うんですけど。

出版後に給料が苦しいと「上京してきて一人暮らししてる子なんかは、彼氏と同棲しちゃうよね」みたいなことを言われて、私はすごく傷つきました!(笑)。「確かに」と思って。

ちなみに知名度と収入は比例しません。収入のことって答えづらいのにみんなよく書いてくれたなっていうのと、事務所の方もよく許してくれたなと感謝しています。というのも、事務所に所属していると事務所の取り分もあるからです。なので事務所に入っている有名な子よりも、知名度はないけど個人でやっている子のほうが、稼ぎが高い可能性は大いにあります。

人気のあるグループの子でもなんだかんだと理由をつけてお給料もらえないとか、そういう話が平気で出てくるので、本当に薄暗い気持ちになります。

前々から「アイドル業界はやりがい搾取を減らしましょう」と言われていて、本当にこのへんについては考えないといけないなって思うんです。やりたい仕事をやらせてもらってるからお金はいらないとか、そういう話じゃないので。

個人でやってると、仕事の依頼とか全部メールで私のところに届くんですけど、オーディションの過程で、なにかの売上を競ったりするの、あるじゃないですか。テレビ番組とか雑誌に出るために、撮影会とか有料のネット配信とかをやって、それの売上とか集客人数で競うみたいな。

そういうののお誘いが、一斉メールみたいなのでたまーに届くんでけど、資料を見るとバックがめちゃくちゃ安いんですね。撮影会とかけっこう肉体労働で辛いんですけど、ひどいところはバックが2割とかなんですよ。集客も頑張って、労働もして、でも有名になるために搾取されてしまうことがあるんだなと思って、また暗い気持ちになるわけです。

生活と恋愛

それでもなんでそこで女の子ががんばるかっていうと、地下アイドルっていうのは基本的に短期勝負の世界なので、だいたい本気でがんばってる子でも3年ぐらいでやめてしまうのが普通なんです。

書籍にも書きましたけど、1年目って右も左もわからない状態でがんばっていて、2年目でやっと腰を据えるんです。それで3年目で「ちょっと無理だな」って思って去っちゃうパターンがすごく多い。

だから業界には常に駆け出しのやる気のある子が溢れていて、常にみんな頑張っているんです。周りに触発されて、新しい子もどんどん入ってくるし、短い期間だからみんな頑張りたい気持ちがあるんですよね。売り上げを競うようなオーディションだって、頑張れる目標ができるのはやる気に繋がるし、一緒に頑張っていくファンの人との絆も深まるのかもしれないので、一概に悪いとかではないんですけど、別にお金だけがすべてでもないので。

ただ、フリーランスで8年とかダラダラやっていると、いかにお金が大事だったかよくわかります。まず評価軸としてお金ってすごく頼りになりますよね。やっぱり嫌いな人にお金払いたくないじゃないですか。だからちゃんとギャラが出たり、その金額によって、相手が信用してくれていることがわかります。

もちろんお金じゃないんだっていう気持ちはわかるのですが、有名になるってすごく曖昧な目標なので、定期的に目に見える収穫がないと、それこそ本当に無意味に頑張らないと自分自身が納得できなくなってしまいますよね。

なんでこんな話をしているかというと、ログミーの読者の方が働き方の話がすごく好きだと聞いたからです(笑)。

(会場笑)

そんな感じで地下アイドルの子は生活しています。今回はけっこう、帯に「恋人がいる(いたことがある) 52.2パーセント」という数字があって、「こんなものは心が痛むから読みたくない」っていうアイドルファンの人の声もいただいたのですが(笑)。

(会場笑)

まあ、なんていうか……52.2パーセント……恋人いる子はいるし、いない子はいないんだなみたいなものがもやっとわかりましたが。普通ですよね。同世代の女の子も同じような感じだと思います。

ライブをしながら生活して、恋人はほどほどにいたりいなかったりして、平均12.7万円稼いでいるというのがわかりました。

アンケートは私が直接ライブハウスに出向いて収集したほか、複数のレコード会社やプロダクションの方にお願いして取ってもらいました。書籍の最後にライブハウスの名前がいくつかクレジットされていますが、アンケートに回答したアイドルの特定や、アンケート結果のイメージがつくのを避けるために、クレジットはされていない会社もたくさんあります。いろんな人が協力してできた本です。本当に感謝しています。

職業としての地下アイドル (朝日新書)

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