CLOSE

Could You Run on Water?(全1記事)

人間は水の上を走れないのか? 沈まずに駆け抜けるための条件を科学的に解説

忍者のように水の上を走りたい、と思ったことがある方もいると思います。もしかしたら、実際に試したことがある方もいるかもしれません。実は、動物たちのなかには、水上を走ることができる種も存在します。表面張力に頼るアメンボのような小さな生き物だけではありません。バシリスク属のトカゲは、足をバタバタさせて文字通り水上を「走る」ことができるのです。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、トカゲが水上を走るメカニズムと、人間が水上を走るための条件について解説します。

水上を走ることは可能か?

オリビア・ゴードン氏:あの魔法寄宿学校をご存じの方であれば、「バシリスク」と聞けば、人を死に至らしめる巨大で黄色い目や、血塗られた剣を思い浮かべることでしょう。しかし実際のバシリスクはヘビではなくトカゲですし、目が合っただけで死ぬこともありません。

ところで現実のバシリスクには、特別な力があることは確かです。なんと水の上を走ることができるのです。これは魔法ではなく、科学の力です。

水上走行が科学の力と聞くと、なぜトカゲにできて人間にできないのか、みなさんは不思議に思うかもしれませんね。実は、人間もちょっと努力すれば……いや、かなりの努力が必要ですが、水上走行は可能です。たとえば、それが宇宙船の中であれば。

土や木、コンクリートのような固体の上であれば、人が歩くことは可能です。なぜなら、固体の粒子間に働く力は、粒子同士が自由に動けない状態にするのに十分強いからです。

しかし液体であればこの力は弱く、人間の体重を支える代わりに、足の下から移動してしまいます。つまり、水上走行をしたければ、物理法則をなんとかする必要があります。

小動物であれば事は簡単で、水の表面張力を利用すればよいのです。アメンボや、ある種のクモのような節足動物には、たくさんある長い足の裏に細かな毛が生えていて、水を弾きます。そのおかげで、身体のどの部分も水を突き破ることはなく、文字通り水の上に立つことができます。

しかしこの方法は、重さ1グラム未満の動物にしか使えません。それ以上の重さであれば、表面張力では支えきれないのです。浮くことはできますが、立ったり歩いたりはできません。

水上走行できる動物たちのテクニック

ところが水上走行できる動物は存在します。こういった動物は、水面上に体を保つため、また別のテクニックを使っているのです。

体を下に引っ張る重力に対抗する力を発生させる必要がありますが、これは至って簡単です。

水面下で水泳のストロークの要領で足をばたばたと速く動かし、これを交互の足で行うと、体を水の上に出すことができます。でなければ、沈みます。もしくは、もうあきらめて泳ぐしかありませんね。

この方法の難しいところは、水上に体を保つために水を強く押すと同時に、足を水面から引き抜く際に生じる、水面下に引っ張られる力を軽減する必要がある点です。水上走行できる動物は、この点をうまく処理しています。

たとえばバシリスクであれば、足の指がフリンジ状態になっており、これで水面を叩く力を強化すると同時に、ストローク時にエアポケットを作り、下に引っ張られる力を軽減しています。中型から大型の一般的なバシリスクの場合、体を支える力の大部分を、水面を叩くことに相対峙するこのストロークから得ています。

しかし、水上走行するもっとも大型の動物は、水面を叩く力の方から、より多くの力を得ています。彼らは体をほぼ完全に水面上に保つことができますが、その力の55パーセントに上る力を、この水面を叩く力から得ているのです。

クビナガカイツブリとクラークカイツブリは、今まで話に出て来た水上ランナーたちの10倍以上の体重がありますが、「ラッシング」と呼ばれる求愛儀式の際には、水上を20メートルも、すごいスピードで走ることができます。

カイツブリもまた、特化した足の持ち主です。足指の両側には水かきの代わりにヒダがあり、足指の骨は平べったくなっています。水上に足を引き上げる際には、横に引き上げます。

人間が水上を走るために必要な条件

ところで、みなさんもお気づきのとおり、人間は重さ2キログラムの鳥ではありません。したがって、水上走行にははるかに大きな力が必要となってきます。

研究者たちが実際に算出した所、平均的な人で、毎秒4回、なんと秒速30メートルで水面を叩く必要があることがわかりました。この力の平均的なアウトプットは、標準の人間の足の筋肉が出せる最大値の15倍です。

現実的な速度に抑えたとしても、秒速10メートルは必要で、足には1平方メートルの連続した面がなくてはなりません。こうなるともはや早くは走れませんし、そもそもそんなに大きな靴を履いては走れません。つまり、陸上の生活を捨てない限り、人間の水上走行は不可能ということになります。

ところがこの件については、2012年に『PLOS ONE』上で発表された研究があるのです。

研究者たちは、小型のフィンを足に装着した人間を、プール上にハーネスで吊るし、低引力を再現してみました。すると、地球上の10パーセントの引力であれば、すべての被検者たちが少なくとも7秒間は水面上に留まることができたのです。ちなみに引力の最高値は、被検者1人が水上走行が可能であった22パーセントでした。

ということは、もしあなたに適性があれば、地球の17パーセントしか引力のない月面上での水上走行は、理論上は可能ということになります。

こうなると、太陽と惑星以外であれば、太陽系のどの天体でも水上走行は可能です。もっとも、太陽系には水のある天体は、まだ見つかってはいませんが。

残念ながら、この特殊な才能の使いどころはありませんが、技術的には可能だとわかれば十分ですよね。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 民間宇宙開発で高まる「飛行機とロケットの衝突」の危機...どうやって回避する?

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!