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『覚醒コンテンツと麻酔コンテンツの今を追え! 〜HUNTER×HUNTER休載から考える現代と漫画の関係性&サザエさんの未来、他』山田玲司のニコ論壇時評(全6記事)

サザエさんは封建社会へのアンチテーゼである 昭和中期の女性たちが抱いた理想

ニコニコ生放送の人気番組「山田玲司のヤングサンデー」。今回は9月16日放送の「『覚醒コンテンツと麻酔コンテンツの今を追え! 〜HUNTER×HUNTER休載から考える現代と漫画の関係性&サザエさんの未来、他』山田玲司のニコ論壇時評 1/2」の内容を書き起こしでお届けします。

サザエさんのラブシーン暗示に困惑

乙君氏(以下、乙君):「『サザエさん』、ラブラブシーン」に視聴者困惑!?」っていうニュースなんですけども。こちらは8月27日のテレビアニメ『サザエさん』の中で、いつもと雰囲気の異なるエピソードが放送され、ネット上で話題になったと。

それは「可愛い愛情表現」というタイトルで朝、波平が目を覚ますと枕元に愛するお父さんんへという手紙があり、それを読んだ波平はフネにアイコンタクト。

フネが「お父さん、よろしいかしら」と尋ねると、波平は「ああいいよ」と何かを承諾する。このやり取りを不思議に思ったサザエはフネに理由を聞くとフネは「ひ・み・つ」とごまかすだけ。

結局、フネが波平に手紙を書いたのは欲しいものをおねだりするためだったが、愛情あふれる微笑ましいやり取りが描かれたと。この回は他にも出勤するノリスケに妻のタイコがベランダから投げキッスをしたり、サザエが笑顔でマスオのほっぺにキスしたりと夫婦のイチャイチャシーン満載。

まさに愛情表現がクローズアップされたエピソードとなっていたと。ただこういうのは普段あまりお目にかかれない『サザエさん』のそういうシーンなので視聴者はすっかり動揺して。

「なんか生々しい回だった」とか、「『サザエさん』で急に夫婦感を出されるとドキドキしちゃう」と、「なんだったんだよ、この回」と困惑の声が多くあがっていたということですね。

山田玲司氏(以下、山田):ほう。

乙君:これね。

山田:「『サザエさん』まだ観てるんだ」というコメントが多くて(笑)。それはニコ生であまり話題にすることじゃねえよな(笑)。まだやってるんだみたいなね。まだやってるんだね。

乙君:まだやってますね。

山田:すごいね。カツオは戦前生まれなんだよね。

乙君:はぁ、どうですか?

山田:日野(皓正)さんぐらいじゃない? カツオは(笑)。74歳。

乙君:カツオ?

山田:うん。カツオ74歳(笑)。

乙君:カツオ74歳(笑)。

山田:わがままな中学生を殴るカツオ(笑)。「バシッ!」って。「僕もお父さんを裏切ったんだ! パシッ!」(笑)波平めっちゃ殴るじゃん。

乙君:「ばかもーん!」って。

山田:「ばかもーん!」って言って。あの人がガンダムのナレーションするなんておもしろいよな。アニメってな。

乙君:あー確かに。

山田:宇宙世紀なんとかとか言うじゃん。

乙君:それで?(笑)この話やめますか?(笑)とくに言うことないなら取り上げる必要ないじゃん(笑)。

サザエは封建社会へのアンチテーゼ

山田:お前、(作者の)長谷川町子なめるなよ。

乙君:誰がなめてるの?(笑)

山田:町子がいないからっていい気になるなって話じゃないですか。町子の目は今でも光ってますよ。

乙君:はいはい(笑)。

山田:世田谷で。世田谷の美術館で。

乙君:桜新町でしたっけ?

山田:桜新町で町子は嘆いてますよ。「あんなの私の『サザエさん』じゃないよ」って言って。泣いてますよ。『サザエさん』のことを言わなきゃいけない時代が来たと思ったよ。今日。どうしちゃったんだ。『サザエさん』。

乙君:はい。

山田:『サザエさん』って何か楽しいですよ。

乙君:何ですかそれ?(笑)

山田:『サザエさん』って言えばね、おてんばキャラなんだよ。

乙君:はいはい。

山田:おてんばなんだよ。財布を忘れて愉快な『サザエさん』なんだよ。

乙君:そうそう。

山田:お魚くわえてどら猫追っかけちゃうんだよ。裸足で。

乙君:うん。

山田:そんなワイルド・アンド・ファンキーな(笑)。

(一同笑)

山田:おきゃんな。

乙君:ワンダーウーマンですね(笑)。

山田:ワンダーウーマンでしょ。しかもあれは戦前からのキャラですよ。

乙君:戦前からですよね。

山田:これで意味がわかりましたね。

乙君:意味?

山田:封建社会ですね。封建社会でおてんばというのはどういうことかと言うと、これは「女はおしとやかにしていなさい」と言われる時代のアンチテーゼとして出てきているのが『サザエさん』なんです。

そして、それを書いた作者というのが女性であるということが大事で、しかも田河水泡(たがわすいほう、のらくろの作者)のところに弟子入りしていた人が、要するに戦前を象徴する。しかも、のらくろって軍隊に行ってますからね。

そういった男社会、それから封建社会みたいなもの全部。1回弟子入りするんだよ。ホームシックになってすぐ帰ってきちゃったの。そういう可愛い人なんだけどね。町子さんというのはね。それで実はけっこうなコミュ障だったの。

乙君:えーっ、知らない、知らない、そういう話。

長谷川三姉妹でサザエさんを出していた

山田:それでなにか交渉事になると「おねぇちゃん行ってよ」って、三姉妹なんだよ。

乙君:へぇ。

山田:お姉さんがだいたい外交官。

乙君:あー。

山田:真ん中が町子さんで、それで妹もいて三姉妹であって、だから、その三姉妹で単行本を出すことになるわけ。自分の漫画について。

乙君:えっ、えっ、えっ、3人でやってたの?

山田:そういうこと。

乙君:えーっ! 1人じゃなかったの? 『サザエさん』って。

山田:『サザエさん』を書いているのは町子さんだけど、会社をやってたのはお姉さん。

乙君:そういうことね。えっ、チーム? 編集であり、そういうことね?

山田:そういうことです。SSSというマークがあって、スリーシスターズです。

乙君:ほう!

山田:だから会社の名前が姉妹社といって。

乙君:へぇ、よく知ってるねえ。

山田:自分のコミックスを大手の出版社から出すという時代じゃなかったんだよ。昔は。だから自分たちの力で同人誌みたいに出してたというのが姉妹社の始まりで、なんと前50何巻、60何巻かな、けっこうな巻数出して姉妹社でやっているというね。

これはどういうことかと言うと、この家族、お父さんが早く亡くなっているの。高校の時に亡くなっているの。

それで長谷川家というのは元々は佐賀の人なんだけど、九州の福岡に行って、お父さんが亡くなっちゃったんで、それを期に1回、東京に来るんだよ。それで戦争があって疎開してということをやって、そこで弟子入りするんだけど、まあとにかくいいお父さんだったらしいんだよ。

乙君:ほう。

山田:優しくて。それでお父さんみたいな人がいいなと思ったのが町子さんで、そんな思いがあって一生独身なんです。お父さんみたいな人がいいなと言いながら。お姉さんと妹は結婚するの。お姉さんは離婚するんだけど。

みたいな感じで、それで仕切っていたのはお母さんだったの。最初に出した判がね横イチか何かで、出版したら返品されちゃうんだよ。置けないからって。大量の在庫を抱えて途方に暮れてたんだけど、「じゃあ判型変えてもう一回出せばいいじゃない」って、家中在庫だらけなのに。

乙君:へぇ。

山田:出せって言ったのがお母さん。それで2刊を車に積んで各書店に長谷川姉妹が直接本屋さんに売りに行って、これがヒットするんです。それで在庫も無くなってみたいなのが姉妹社のスタートです。だから要するに女力よ。

乙君:自費出版からということですね。

山田:そうです。

乙君:はぁ、すごい!

マスオさんは最初は作中に登場しなかった

山田:それでポイントは何かというとマスオさんです。

乙君:マスオ?!

山田:マスオさんは最初出てないです。『サザエさん』は『サザエさん』中心の家族で、1回目の連載が終わるタイミングで、ドタバタと終わるんだけど、結婚させて終わっちゃえばいいやって言って、無理やり結婚させて終わらせちゃうんだよ。『サザエさん』って。

その時にマスオさんと結婚して終わりましたという話で終わらせたんだけど、『サザエさん』が全国区になって再開する時に、あまりにその男がどうでも良かったんでしょうね。マスオさんのこと。顔忘れてたんだって。町子さん。

乙君:描いてたのに?(笑)

山田:「あれ? どんな男だっけ?」って言ってたっていうさ。このへんのくだりはNHKの連ドラの『マー姉ちゃん』というので1回ダーッと(扱った)。実を言うと、ある世代の人たちには有名な話なんだよ。

それで町子さんがなんで結婚しないのかという話の時にインタビューで答えているんだけど、「夫や子どもの世話で一生終わるなんてできない。自分のほうがお嫁さんが欲しいぐらい」って妹に言っているんだってさ。

乙君:ああ。

山田:つまりマスオいらねえの。だからマスオに投げキッスしない、しない(笑)。チューしない、しない。いらねえんだもん(笑)。最初から。

それでお父さん買ってちょうだいって、そんな時代じゃないですから。私にプレゼント買ってちょうだいなんてアメリカナイズされたなんて全然『サザエさん』じゃないから。

乙君:あっ、もっとないってこと?

山田:そう。『サザエさん』っていうのは、その世界の中で封建社会をからかっているの。だから、お父さんが「けしからん!」って言って、1番格好悪いイメージでやったりするの。

乙君:はぁ、なるほど。皮肉なんですね。あれは。

山田:何か覚えてる好きなのが、飴の缶があって、その飴の缶の入り口のところに隅を塗るっていういたずらを誰かがするんだよ。

乙君:はい。

山田:カツオかなんかかな。

乙君:ああー。

山田:やって、(目の周りに)こうなって、「ギャー、カツオがいたずらして!」ってなって、騒々しいって言ってる波平の目にこう墨がついてたというのがあるんだけど。

(一同笑)

山田:このオチとかですごくいいなと思うのはやっぱり、偉そうなお父さんからかってていいねっていうね。つまり昭和の女たちが、ちょっとずつ自由になってきている。封建社会からささやかな抵抗をしているというのが、昭和中期の女たちの理想だったんだよね。

だからそういう雰囲気だったなというのが、そういうのがあって、だから、今さら家族が崩壊している日本社会みたいなものを、どうにかしようよみたいなことを言った人がいるんでしょ?(笑)それで「これはアニメのせいよ」って言って。

いや、アニメのせいじゃないですよ。じゃあ、何とかならないか? 『サザエさん』がラブラブになればいいんです(笑)

乙君:ああ。

山田:あそこは不倫じゃないですからね。本妻ですからねって言って、「本妻夫婦が2人も出ます。これイチャイチャさせましょう」という流れがどこかであったんでしょう。私の。でも『サザエさん』はそんなんじゃないよ。男に期待しないのが『サザエさん』スタイルですよということなんですね。わかりました? 町子、オッケー? これでいい?(笑)。

乙君:なるほどね。納得感ありますね。信じるか信じないかは個人のアレなんでね。

しみちゃん:そうですね。個人の。

山田:あっ、町子オッケーって言ってる。ありがとう。玲司正しいわよって、オッケー。ありがとうございます。町子(笑)

乙君:じゃあそんなの『サザエさん』は果たしてどっちなのかという部分はあるんですけど、続いていきます。

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