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講演:岩崎究香 祇園の教訓(全5記事)

本田宗一郎に「ずっとハゲたはんのどすか?」 伝説の舞妓が明かした、お座敷でのオープンなやりとり

日本固有の文化的価値を伝え、再発見へとつなげることを目的としたイベント「伝説の舞妓・岩崎究香さんと現役トップ4に学ぶ粋な大人の遊び方」で、本田宗一郎や勝新太郎といった贔屓筋を持ち、舞妓時代に“伝説の舞妓”と呼ばれていた岩崎究香氏が登壇しました。数々の有力な実業家や経営者を見てきた岩崎氏が知っている「昇る人(トップに立つ人)」の共通点とはなにか。また、そういった人材はなぜ京都の花柳界に集まっていたのか。芸妓・舞妓の文化とともに、トップ人材になるために必要な素質を語りました。

ご祝儀のもらい方には手の角度がある

山中哲男氏(以下、山中):(トップに昇りつめる人の)特徴を今お話しましたが、その中でも人柄などはどうなのでしょうか。横柄な人が多いのか、意外とコツコツした性格の人が多いのか。「どんな人が多かったのでしょうか?」といった質問も。

岩崎究香氏(以下、岩崎):昇る人の?

山中:昇る人の共通点で、こういう性格というのはありますか?

岩崎:今言わはった人は昇らない(笑)。

山中:昇らない?(笑)。

岩崎:こういうことも言わはります。うちのお客さんが教えてくれはったことは、お金をもらうときの手がありますにゃて。もらい方、お金の受け取り方どす。この手の出し方があり、その“間”もある。見場(見栄え)が悪かろうが、どんなようなことでもしはる人がやはんのどっせ。

うちらはようご祝儀をもらいますにゃけど。というのは、うちらがようようお座敷をつとめると、お客さんがポケットマネーでご祝儀をくれはるんです。そのご祝儀というのは、(現金を)裸で渡すのとは違うのどっせ。ちゃんとポチ袋に入れてもらうのどす。

そやけどそのときのもらい方に手の角度があんのどすて。「ちょうだいよー」みたいな、これはヤクザの人みたいですね。そうじゃなくて、やっぱりもらい方というのがある。そういう手の出し方を研究していただいたらいいと思います。

山中:それは、このようにしたらいいというのがあるのですか?

岩崎:それはね、みんなね……。今日ここに見えている方は、邦楽のお稽古をしてやした方。例えば、踊りのお稽古された方はありますか? 挙手、挙手。

(会場挙手)

山中:お1人いらっしゃいますね。

岩崎:あら、お1人? 別にええのどっせ、幼いときに習たはったんかて、ええのどっせ。……ない? あらら、ほんま。ちょっと今からでもよろしいし、もしやったら、そういうお稽古をしていただくと角度がちゃんとわかります。

例えば人をご紹介する時の手、お辞儀をするときの手のような、ものをもらうときの手というのは、すべて音楽、伝統芸能を習わはったらええのです。

山中:踊りに全部ついていることなのですか?

岩崎:ついてますね。

山中:得ですね(笑)。

岩崎:めちゃくちゃお得です。1,940円みたいな。

山中:お得、確かに(笑)。そういう特徴があるのですね。

「昇る人」は去り際がサラッとしている

おもしろいと思った質問がもう1つあって。昇る人は帰り際などで会った時などに粋な一言や仕草といった、そんなものがやっぱりあるのですか? なんかあるじゃないですか、サラッと帰る人もいれば……。

岩崎:いやいや、そういう人は「おー!」って来はります。

山中:「おー!」と来るんですか?(笑)。

岩崎:「おー!」と言われますね。ほんでうちらは「おー!」言うて迎えるんです。

山中:そういうことですね。

岩崎:早よ家にお帰りやす、とかね。早く家に帰られたほうがよろしいということですね。

山中:じゃあけっこうオープンな感じに?

岩崎:そうですね、「おー!」と絶対言わはるんですよ。「おー!」と、こんな感じ。帰らはるときも「おー! ほんなら~」と帰られますね。

山中:そうですね。僕らもそんな感じかもしれないですね。

岩崎:サッサと出る(笑)。こないだもそうやったね(笑)。

山中:(岩崎氏と)よくご飯を一緒に行くのですが、帰るときはもう「はい、さいなら~」と、そんな感じですね(笑)。確かに。

岩崎:そんなんでええのどす。「納豆」じゃなかったらいいです。粘っこいのはね……。自分の知りたいことに対しては、ちょっとしつこい方がいいですけど。

山中:好奇心とか追求心とかですね。

岩崎:そやけど、他のことにやっぱり糸を引く、後を引く、やったら大変なんです。

山中:去り際は意外とサラッとしているのですね?

岩崎:サラッとしている人が多い。

山中:せやけど会った時は、わーっと。

岩崎:そうです。うれしいうれしい。

山中:いつもそんな感じがしますね。この間も会った時に……ずっとわいわい言っていましたよね(笑)。

岩崎:だから、やっぱりあんまりジメジメ、ジメジメというのは……。

山中:しないですよね。おもしろいですね。

岩崎:おもしろいのは顔だけにしときます。

(会場笑)

山中:(笑)。

「昇る人」は早咲きか? 遅咲きか?

山中:他にもあって。究香さんの本に出ている人たちも、僕が冒頭に言ったようにすごい人が多いじゃないですか。本田宗一郎さん、ワコールの塚本(幸一)さんなど、みなさん若くして花咲いてるのか、それとも遅咲きなのかといったところではどうなのでしょうか。昇る人も、早咲き・遅咲きがあるのかなというところで。

岩崎:あると思いますよ。それはあります。やっぱりこれは、ちょっと……。「遅く咲く」と言わはりますやろ。そやけど、それって要するに「人の人生の中、10代で花咲くか?」っちゅう話ですよ。

山中:そうですね。咲きません。

岩崎:遅く咲くといったら、まぁ私みたいにもうじき70歳で花咲くという人もありまっせ。そやけど、なんで70歳まで咲かへんかっちゅう話ですね。

山中:気になりますね。

岩崎:ということは、もっとうんとうんと積み重ねんと、力が出ない。

山中:そうですね。これもやっぱり人によりますよね?

岩崎:そうです、そうです。

山中:だから遅咲きもあるし、それはなにか自分の目指したいことに一生懸命コツコツやっているからこそ花開くわけで。「待っていてそのうち花開くやん」ということはないわけですよね?

岩崎:例えばほとんどの人がここを目指しているといったラインがあるとします。LINE? いや違う違う、ちょっと今のは、ジョークです(笑)。

山中:ははは(笑)。

岩崎:こういうラインがあるとします。そやけど、その遅咲きの人は、ここ(より高いライン)かもしれない。それはその人はそこ(高いライン)かもしれへんけど、ほかの人はここ(低いライン)かも知れへんのです。思いがどっせ。

ということは、いくつからやっているかということでしょ? それかて変な話、恵まれてへんかもしれへんですよ。時間的に。

山中:環境もそうでしょうね。

岩崎:もちろんもちろん、そういうこと。全部含めて、その人が「ここで咲きたいねん!」というときがそのとき。だから遅咲きとか早咲きとか、そういうものは本当はありません。

どんな身分の人も、お座敷に入れば同じ扱い

山中:ないのですね。でも花開いたときは、やっぱり見ていて「あっ、変わったな」と思う瞬間がありませんか? 実際に。

岩崎:目の色どすね。ほんまにキラーンとしまっせ。それこそなんでしょうかね、「目から鱗」とよう言いますよね。ほんまにそんな目されます。キラッと。

山中:前に会ったときと次に会ったときで、ぜんぜん違いますか?

岩崎:ぜんぜん違う雰囲気がします。

山中:そうなのですね。そういう人は、いっぱいいたのですね?

岩崎:いっぱいはいない。

山中:あっ、いっぱいはいないのですね(笑)。ちょこちょこ?

岩崎:そうそう。そやけど、日本を代表するというね。私らはもう、家で新聞などいろいろ読んでますけど、お座敷にみえた方が、世界的な方とか、国賓とか……。国賓と言うとちょっとあれですけど。とりあえずそういう立場のある方、それはまったく関係ないんです、お座敷に入られたら。

お座敷に入られますとね、こんなことを言うと天皇陛下に叱られますけど。例えば天皇陛下がお見えになっても、そこらのぼんさんがお見えになっても同じ扱いどすねん、お座敷は。うちらの対応は。これが違ぉたらあかんのです。

一緒やないとあかんのです、お座敷は。

山中:例えば国賓とか、いろんな海外の方々もいっぱい見てこられたと思いますが、そういうときに心がけることなどはあるのですか?

岩崎:いやいや、それはもう普通どっせ。

山中:なにも変わらないんですね。

岩崎:変わったらあかんのどす。それまで、祇園町の舞妓さんに出るとか、芸妓さんに出るなどと育てられているわけですよね。自分の中でも「ここのお座敷に国賓がお見えになりますので」なんていうのがありますやんか。ほんなら、うちらが身構えて「ははー」て言うて、それは日本人として恥ずかしいことじゃありませんか?

山中:ありますね。

岩崎:その中はね、誰も見たはらへんと思うでしょ? 私が例えば卑屈な態度をした時に、日本の人はもう絶対がっかりしゃはりますよ。

だからそうじゃなくて、今まで育てていただいて、自分が衣装を着て、それからなんだかんだといって出てるわけでしょ? そうしたら、その方が英語しかしゃべれへんかっても、「ようこそ」と。それだけですよね。「ほなおおきに」と言わはりますやん。そういうことどす。

山中:向こうに合わせる必要はありませんよね。お座敷に入ったらいつも一緒。

岩崎:そうです。だいたいこういうふう(頭を下げる格好)にならはるでしょ? 偉い立場の人と会うと。

山中:なりますね。それがお座敷だと関係ないということがおもしろいですよね。

「昇る人」は遊び好き

事前に集まった質問でおもしろいなと思ったのが、「昇る人の特徴で、遊び心のある人はどんな人ですか?」です。自分の楽しみ方や、もしかしたら喜ばせ方なども含まれているのかもしれませんが、実際にそういう遊び心としてはどんなものを持っていらっしゃるのかといったことです。

岩崎:これはね、だいたいお座敷にみえる人は遊ぶことが好きどっせ。絶対好きなんです。というのはね、人間観察をよくされるからです。

山中:あっ、来てる人たちの?

岩崎:うん。だからうちらも観察されるし、自分もとりあえず観察されているのやろなと。

例えばね、本田(宗一郎)さんがおいやっしゃろ。この方がね、ハゲてましたんや。ほんで「なんとかなぁ?」と思て、「本田さんは、ずっとハゲたはんのどすか?」て言うたらねぇ……。

(会場笑)

いやいや、お座敷でですよ。よっぽど髪の毛がなくなってからずいぶん経つにゃろからね、とりあえず「かづら」をねぇ……。「ぼてかづら」というのがあんのどす。それをね、作っといたげましてん。今度来ゃはったら被したあげますわぁて」てね。

ほんで2ヵ月ぐらい経って来ゃはりました。「ありまっせ、作ったぁりまっせ。」て、ここへ(本田氏の頭に)被せたん。めちゃくちゃ喜ばはったんです。だからそういう……。

山中:遊び心がね。

岩崎:ほんでなにをしゃはったかて言うと、自分は小唄を習い始めはったはんですて。「ちょっとの間に、名取になったんだよ」て。「へぇ~!?」って。本田さんは小唄の流派で「春日流」を習いに行ってられたんです。「名取名はなんですか?」て聞いたら、「春日たまるだよ(カスが溜まる)」やって。

(会場笑)

山中:そういうことですね(笑)。

岩崎:そういうことを言っても、ぜんぜんお座敷では大丈夫というようになってくれはるんです。

山中:大丈夫なのですね。じゃあやっぱりみんな遊び心が。

岩崎:遊びがないと。

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