2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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柴村登治氏(以下、柴村):あらためて対談を続けていただきたいと思います。今日は本とは逆に、池田先生が聞き役となって、いろいろ質問されたいとのことでしたので、福岡先生にお聞きになりたいことをぜひお願いいたします。
池田善昭氏(以下、池田):僕から質問していいの?
柴村:はい。
池田:先ほど、確かノーベル賞の話がでましたよね。大隅(良典)先生のオートファジーというのは、私は科学者ではありませんのでいい加減なことを言うかもしれませんけれども、実は(オートファジーは)福岡先生が言っている絶対矛盾を、その基礎において成立する。だから私は「ノーベル賞をもらえるんだったら、福岡先生のほうが先だ」と彼に言ったんです。
すると、福岡先生は「科学というものは実証性がある(伴われる)ものだから、こういう哲学的なものでは自然科学のノーベル賞はもらえないんです」と。それはそうかもしれないのですが、私はしかし未だに腑に落ちない。結局、オートファジーというのは、突き詰めていくと、徹底的に壊すということだと。そこで初めて秩序ができる。そのことに根本的にほかならないわけです。この点についてもう一度、しつこいようですけれども福岡先生に説明していただきたいと思います。
福岡伸一氏(以下、福岡):これは難しい話なんですけれども、やっぱり科学者というのは1度に1つのことしか見ることができないんですね。だから細胞を調べると、作ることを研究する人は作ることばかりを研究するし、壊すことを研究する人は壊すことばかりを研究することになるわけです。だから、大隅先生のお仕事や、先ほど言ったユビキチンというもう1つ分解することに関する研究も、それは1つのロゴス的な立場としての研究と言えます。
でも、壊していることの意味というのは何なのかを問わないと、生命そのものはなかなか解けないわけです。細胞を一生懸命壊しているんだけど、何のために壊しているのか、ということです。実は壊していることは、壊すことの中にすでに次の「作ること」が含まれている。そして作ることの中にも壊すことが予定されているわけです。それが同時に起こっているのが生命体であるというところが1番大事なことなんです。
この『福岡伸一、西田哲学を読む』という本の中でも、私はこのことをもう少し理論的に突きつめたある種のモデルを提出しています。壊すことと作ることが同時に起きているんですけれども、両者は同じ量だけ起きているわけではないんです。常に壊すことの方が少しだけ多く起きています。その壊すということによって生じる不安定さを利用して、作ることが行われているんです。
このことを「先回り(している)」と私たちは呼んだんですが、これは別に分解のほうが時間的に先に行われているということではなくて、合成することを予定しながら、常により多く分解しているということなんです。生命は合成と分解を常に行っているわけなんですが、分解することをちょっとだけ多くやらないと、常にエントロピーを捨て続けることはできないんです。同じだけ合成し、同じだけ分解していると、エントロピー増大の法則に追い越されちゃうんです。
だから常に分解の方を少しだけ多くやっているんです。それがずっと続いていくと一体何が起こるかというと、常に分解が少しだけ多いわけなので、自分自身をちょっとずつちょっとずつ消費してしまいます。つまり、自分自身を少しずつ壊してしまっているということなんです。だから、それゆえに生命に有限さがあるわけです。
我々に寿命があるのはそのためなんです。「テロメアがだんだん短くなっていくから生命に有限さがあるんだ」とか、「細胞の分裂に限界があるから生命に寿命があるんだ」というふうに、いろんな方法で生命の有限さ、我々の寿命というものが時間的に限定されているということが説明されてきましたが、もっと下に降りていくと、常に我々は壊すことを一生懸命やっているがゆえに、自分自身が最終的に壊れてしまうということなんです。
でも、壊すこと、分解するという行為は新しいものに引き継ぐことができて、それが次の世代を見出すということだし、細胞分裂をすることでバトンを常に手渡しているというわけです。このことが、自己と他者が実は繋がっているということにもなるんじゃないかなと思うんですけれども。
実は、池田先生と私の対話は中々一筋縄ではいかず、池田先生もこのように頑固な方ですし、私も「分かったふりはしない」と最初から自分のスタンスを決めていたので、しばしば議論が煮詰まって、今日はこれ以上話し合いを続けても議論はどこにも行かないな、みたいなこともありました。
その場はいったん別れるんですね。我々は出会ったら即、剣道の「礼、始め!」といった感じで、いきなり真剣勝負みたいになるので、お互いにプライベートな話などは一切しなかったんです。
(会場笑)
福岡:今日初めて池田先生に4人も娘さんがおられることをうかがって、「昨日出版のお祝いをしてもらった」と嬉しそうに言われて、「ああ、そうなんだ」と思いましたけれども。そういうことも一切知らずに、2人とも真剣勝負で、力尽き果ててその日はもうどこにも行けず、という感じで別れたこともあります。そして、その日は編集者の柴村さんが池田先生を東京駅までお連れして、構内をとぼとぼ歩いて行って……。
2人でラーメンをすすりながら「今日はイマイチでしたね」みたいな話になった、と。池田先生は「これで我々の議論は終わってしまうんじゃないか」というふうに落胆されたこともあったそうなんです。
しかし、私は議論が終わってしまうとは1度も思いませんでした。この船は難波をしたり、山に登りかけたり、いろんなところに行きそうになったけれども、必ず我々の対話はどこかに向かっていくだろう、と。だからこの議論が決別してしまうとまでは思っていませんでした。
でも、どこに行くのかもよくわからないまま、なんとかここまで来れたな、という感じもしているんですけれども、池田先生、落胆しながらラーメンを食べたというのは本当なんですか? 聞いていらっしゃらない(笑)。
(会場笑)
柴村:本を読んだ方はお分かりになると思うのですが、「逆限定」という難しい概念があり、お2人の見解が合わなかった時があります。今、福岡先生がおっしゃったように、池田先生は対談のために毎回静岡県藤枝市からいらしていたので、お帰りは私が東京駅まで池田先生をアテンドする役目だったんです。逆限定の話があまりうまく行かなかったときに、池田先生はすごくがっかりされておられたのですが、覚えていらっしゃいますか?
池田:覚えてない。
柴村:「覚えてない」ですか……。
(会場笑)
柴村:しかし実はそういうこともありました。その時池田先生はラーメンを召し上がりながらうなだれて、「もうこの議論はだめかもしれないね」とぼそっとおっしゃったんです。だけど私は福岡先生と同じでどこかに着地点はあるはずだと思っていました。それはやや低調に終わった回の別れ際に、福岡先生がご自身で訳された、ドーキンスの……。
福岡:『虹の解体』ですね。
柴村:『虹の解体』という本を私に見せてくださったんです。そして、「ここに書かれている時間はロゴス的な時間だ」と福岡先生が仰ったんです。だから私は「絶対に着地点があるはずだから、どうか気を落とさないで、続けてください」と池田先生にお願いしたんです。
池田:そうだったっけ?
(会場笑)
柴村:お願いしたんです。第2章、第3章にはそのあたりのドキュメントが書かれているんですけれども。お二人の対話はそういった感じで続いたんです。ですから、もしかしたら対談がうまくいかないかもしれないと危ぶまれたことが実はありました。
池田:うん、1つ思い出したのは「先回り」という問題です。科学者が「先回り」なんて言葉を使っていいのか、と。先回りというのはどういう仕組みで先に回るのか。これは科学的に非常に大きな問題だと思うんですけれども、福岡さんは平気で「先回り」ということを言われたんですね。そして、どういう科学的な根拠があってそのように言われたのかということについては、福岡さんとさんざん議論しました。
結論だけ言いますと、「先回り」というのは西田も(表現は異なるものの)使っています。時間というのは過去現在未来と流れますよね。だから現在という時点において、過去は含まれているかもしれないけれども、未来はそこにはないはずなんです。そうじゃないですか? ところが西田は「絶対現在」という言葉を使うんです。「絶対現在」においては、現在の中に過去だけではなくて先回りの未来が含まれている。
現在の中に未来が含まれている。これはアウグスティヌスも「現在というものはただ過去を含んでいるだけじゃなくて、未来を先取りしている」というふうに言っているのですが、まさに「先回り」なんです。時間の中にまさに「先回り」があるということを、アウグスティヌスや西田から学んだならば、科学者が「先回り」という言葉を用いる時は、こういう時間論から始めるべきなんじゃないか、と。
西田は、時間という問題を徹底的に考えていくときに、現在とか今というものに対して「永遠の今」という表現を使います。なぜ「永遠の今」なのか。「今というものの中に過去未来だけじゃなくて永遠が含まれている」ということを、西田は平気で言うわけです。
これは絶対矛盾の自己同一であり、また別の言葉では逆対応ともいうんですけれども、未来と過去が逆説的に対応しあっているという、「逆対応」という考え方を西田はします。実は、今という瞬間、瞬間の中に実は時の流れが含まれているわけなんですね。たとえどんな瞬間であっても、それは時の流れの中で初めて言えることであって、その時の流れに包まれながらその時が今という時を包んでいる。このことを僕は「包まれつつ包む」と言っているんですけれども、これは、ちょうど年輪が、何百年という歴史と同時に未来に向けてある可能性を語っている、といったようなことを思い浮かべてくださってもよいと思います。
つまり、環境という問題は、実は樹木の年輪の中に包まれながら包んでいる、ということで、そのことを私はこの本の中で明らかにしています。近年、年輪年代学という科学が発達していて、年輪を調べると、例えば17世紀がどういう気候で(太陽の)黒点の活動がどうであったかというのがわかるわけですね。そしてまた年輪を詳しく調べると、この先、この自然がどういうふうに動いて行くかという先々のことが予言できる。年輪年代学というのは、今、非常に科学者が関心を持っていて、いろんな方法で時の流れというものを解き明かそうとしています。
そういうことから考えます時に、「包み包まれる」というのは、全体の中に包まれながら全体を包んでいる。先ほどライプニッツのモナドの話をしましたけども、小さなモナドという、本当に小さな小さなモナドの中に全宇宙が包まれている。これを「鏡のように」と言っていますけれども、鏡のように全体を映して、丸い鏡であれば四方八方に物が映ります。そういう小さな物の中に、宇宙のような巨大なもの、全体が映っている。「包まれながら包んでいる」わけです。
自分は小さいんだけれども、それに包まれているものを包みとるという、これはまさに絶対矛盾の自己同一なんですけれどもね。こういったモナドでいう「映す」の代わりに西田は「表現」という言葉を使います。「表現」というものの中で、私たちは知らず知らずのうちに、「包み包まれる」という仕組みの中で、物を考えたり表現をしたりしている、と。この「包み包まれる」ということが、実は「先回り」という問題に絡んでいて、私たちはその時間論について相当長い間議論した記憶があります。
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