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10 Fantastic Fungi Superpowers(全1記事)

魔女裁判の原因にも? 世にも奇妙なキノコと菌類の話

菌類は私たちの日常に深く関わっています。例えば、しいたけやしめじなどのキノコも菌類ですし、チーズやビールの発酵過程にも菌類が使われます。また、感染症を治療したり、臓器移植の際の拒絶反応を減らしたりする際にも菌類の持つ力が利用されます。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」は、驚異的な力を持つさまざまな菌類を紹介します。

不思議な力を持つキノコたち

ハンク・グリーン氏:友達の毒キノコがパーティから帰ってきてこんなことを言いました。「だってパーティにキノコ(fungi)はいなかったからさ」。本当は彼はおもしろいやつ(fun-guy)なのに残念ですね。

そんな話は置いといて、菌類というのはおもしろいだけではなく本当に驚くべき生物です。菌類は系統樹において、真核生物ドメインの中でも動植物とは異なる界を構成しています。

菌界には、酵母やカビといった微小なものから、スーパーマーケットやスーパーマリオで見かけるドーム状のキノコまで含まれています。数多くの種類が存在しているので、その中には目を疑うような特徴が備わっている菌類もいるのです。

(1)幻覚作用をもたらす

1つ目はいわゆるキノコです。

厳密に言えばマジックマッシュルームです。こうしたキノコにはシロシビンとシロシンという化学物質が含まれており、シロシビンは体内で、幻覚作用をもたらす薬物であるシロシンへと分解されます。

シロシンの分子構造は、神経伝達物質のセロトニンと非常によく似ています。セロトニンは脳細胞間で信号をやり取りしながら、気分や記憶、睡眠を担っています。

シロシンは脳を騙して、このセロトニン受容体にはたらきかけるのです。すると幻覚作用が生じるので、考え方や気分が変わったり、おかしな物が見えたり、多幸感を味わえたりするわけです。

宗教的な儀式でマジックマッシュルームが使われていた人類学の証拠とみられるものが幾つか見つかっていますが、本当にそうだったかどうかは研究者の間で議論が続いています。

マジックマッシュルームがアメリカ文化に登場したのは1950年で、菌類学者がメキシコに旅行した際に持ち帰ったようです。手軽に楽しめるドラッグとして国内で広まったため、1970年までにマジックマッシュルームは違法になりました。

ですが心理療法という別の用途のためにまた日の目を見るようになっています。アメリカ政府の許可を受けた研究者が、PTSDや慢性うつ病の患者に対して少量のシロシビンを投与して、その効果を調べています。

魔女裁判の原因は…

気分が良くなる菌類の中には、さらに危険な副作用があるものもあります。

(2)重い精神興奮状態をもたらす

アメリカで起こった最も悲惨で恐ろしい事件の1つは、菌類のせいだったのではないかと考えられています。

麦角菌とはバッカクキン科に属し、麦などの穀物に寄生する菌類です。

麦角菌は、アルカロイドという窒素原子を含む毒性の物質を作り出しますが、その中でも有名なのはリゼルグ酸です。リゼルグ酸は化学合成されたリゼルグ酸ジエチルアミド、LSDとして知られるドラッグになります。リゼルグ酸には熱中したり精神異常を引き起こしたりする作用があり、他の麦角菌では発作、けいれん、頭痛、吐き気、嘔吐、猛烈なかゆみが表れます。

こうした症状は、1692年に起きたセイラム魔女裁判において「魔力」と考えられた症状と非常によく似ていることがわかります。

その裁判では男女問わず魔女として告発され、裁判に掛けられ処刑されたのです。そのころセイラムの辺りでは麦が主食とされていました。また前年が温暖で湿った気候だったため、麦角菌が繁殖するには最適な環境でした。

麦角菌だけが魔女裁判という狂った環境の理由ではありませんが、食べ物に混じった麦角菌がきっかけになったのでしょう。

虫をゾンビ化する恐怖の菌

(3)虫をゾンビ化する

人気のある娯楽にはゾンビがつきものですが、黙示録の中の終末の予言がまだ来てないのでホッとしてます。ですがある種のオオアリにとっては、自分たちの巣がゾンビ化の脅威に襲われているのでホッとするどころではありません。

タイワンアリタケという菌類は、アリに感染してコントロールを奪ってしまいます。感染したアリはとても奇妙な行動をとります。

森の中でも空気が冷たく湿気のある地面に近い場所へ降りていき、地上から25センチメートル程度の場所の北側にある葉っぱに移動します。そしてその葉の裏側にぶら下がった状態で死ぬのです。

数日たって状況が整えば、オオアリの頭から細い軸状の菌類が生え出てきます。

そこから胞子を撒き散らし、別のオオアリへさらに感染を広げていくのです。

菌類がなぜこれほどまでにアリの行動を精密に制御するのかは分かっていませんが、アリの心を乗っ取りたいからという理由だけで進化したわけではないでしょう。

感染症の治療

(4)感染症を治療する

20世紀における医学の業績といえば、抗生物質であるペニシリンの発見と精製です。感染した細菌を確実に殺すこうした手段がなければ、ちょっとした切り傷で死んでしまうかもしれません。

しかし1920年代の後半、生物学者であったアレクサンダー・フレミングは、シャーレで発生した青カビが周りの細菌を殺しているのに気づいたのです。

フレミングは青カビ(ペニシリウム)が持っていた細菌を殺す物質をペニシリンと名付けました。ペニシリンは細菌の細胞を構成する酵素を攻撃し、細胞壁を破壊することで細菌を殺すのです。

やがてオックスフォード大学の研究者チームが大量生産、大量精製する技術を確立し、抗生物質が生産されました。

第二次世界大戦においては、数え切れない兵士を感染症による死から救いました。

臓器移植の拒絶反応を減らす

(5)臓器移植を成功させる

青カビには信じられない力がまだあったのです。ペニシリンで命を救うだけではありません。

「トリポクラディウム・インフラトゥム」は地味な見た目をしています。ノルウェーの土壌に生息するこの菌はカブトムシの幼虫に感染します。

ですがこの菌類は、人間の免疫システムの抑制に効果があるシクロスポリンという物質を生成します。免疫システムの抑制と聞くと害があるように感じるかもしれませんが、シクロスポリンは臓器移植の際に起こる拒絶反応を減らす上で重要な薬なのです。

通常であれば、患者の免疫システムは移植された臓器を侵入者と見なし、T細胞で防衛線を張って攻撃します。ですがシクロスポリンは攻撃を行うT細胞を抑制して、移植された臓器が体に定着するよう守るのです。

さらに、微量のシクロスポリンを接種し続けることで、臓器を移植された患者の健康状態も維持します。

9.6平方キロに広がる巨大キノコ

(6)尋常じゃない大きさに成長する

菌類の話を聞くと大抵は小さなものを想像するでしょう。森の中の小さくてかわいいキノコや、顕微鏡でしか見えないカビのような小ささです。

ですが中にはとてつもなく巨大な菌類もいます。実際地上に生息する最も巨大な生物の1つがこのオニナラタケの仲間でしょう。

このオニナラタケは遺伝子的にまったく同じ細胞を有していて、互いに影響を与えながら生息しています。よって生物学的な定義で考えれば、1つの生物といえるのです。

オレゴン州で9.6平方キロメートルにも広がっており、しかも数千年も生きていると考えられています。ですがこれほどまでに大きくなった理由ははっきりしません。

キノコの「茂み」は胞子を撒き散らすために土壌の表面近くにできますが、大部分は地中に生育します。

根っこの役割を持つ菌糸が、宿主になる木を探して枝分かれしながら広がっていき、菌糸体という固まりとなって栄養素を吸い上げて成長しているのでしょう。

ショットガンより速く胞子を飛ばす

(7)胞子を爆速で飛ばす

ミズタマカビの存在には中々気づけません。2センチ程度の大きさですし、生息するのは……フンの上だからです。

ですがこの地味な菌類には隠された力があったのです。

ミズタマカビが増殖していく際には胞子嚢という、細くて淡い軸状で胞子を含んだ袋と膨らみができます。膨らみが破裂すると、胞子は近くの草などを目がけて2メートル近くも飛んでいき、その草を牛が食べるとまた体内に入って生育するのです。

一見すると大したことはないようにも感じますが、胞子が飛んで行くときにかかる加速度は2万Gにも達します。ショットガンから発射される弾は最大で15,000G程度です。

小さな胞子なのに膨大な加速度がかかっているんですね。

人を死に至らしめる危険なキノコ

(8)人を殺す

タマゴテングタケは「死の笠」とか「天使を殺すキノコ」などと呼ばれていて、一見すると食用キノコに見えます。

ですがそうした呼ばれ方からも分かるように、人間も死んでしまう猛毒を持っています。

他にも海外では「ウェブキャップ」と呼ばれるドクフウセンタケという猛毒キノコもあります。

フウセンタケの仲間であるこのキノコも一見すると茶色の食用キノコ見えます。

しかしオレラニンという毒を持っていて、腎臓のはたらきを阻害し死に至ることもあるのです。さらに2日から3週間もたってからいろいろな症状が現れるため、中毒症状の診断が難しくなります。

日本ではカエンタケが似たようなヤバい症状を引き起こします。

珍しいこのキノコを食べると、めまい、胃痙攣、髪が抜けたり、指すような痛み、知覚や運動を司る小脳の萎縮が起こることすらあります。

カエンタケが珍しいために中毒症例は少ないものの、判明している例では大抵死に至ります。なにはともあれ、自生してるキノコを何も考えずに食べるのはやめたほうがいいですね。

おいしいチーズを作り出す菌

(9)おいしいチーズを作り出す

チーズを作る際には乳を発酵させて、乳清という液体とカードという固まりに分離させます。

カードは他のいろいろな材料と混ぜ合わせることで最終的にチーズへと加工されます。

ブルーチーズの一種であるロックフォールというチーズは、カードに菌を混ぜて作られます。

「ペニシリウム・ロックフォルティ」という、抗生物質の元になった青カビの1種で、パンにできるカビの仲間です。カビはカードの持つタンパク質を破壊する酵素を出し、それによって独特の口当たりや強い酸味を生み出すのです。

フランスのロックフォール地方で、洞窟に置いたパンにできたカビを使ったことが、このチーズの名前の由来です。

カビが生えたパンを乾燥させ粉末状にしてチーズに混ぜると、血管のような模様があるおいしいチーズができ上がるのです。

ペニシリウム・ロックフォルティはお店で買うことができるので、このブルーチーズは自宅でも作ることができますよ。

ビールの酵母も一種の菌

(10)酔っ払わせる

人類は最低でも7000年はアルコール飲料を楽しんできました。

ビールを作るにしても、菌の一種である酵母の力がなければできません。出芽酵母という特別な酵母です。

ビールの醸造には、まず麦芽を水と撹拌し、次に沸騰させてデンプンを糖に変えて糖化液にし、そこにホップを混ぜ合わせて香りと色をつけます。

それから冷やして酵母を入れるとこの糖化液に魔法がかかるのです。

糖化液の中の糖を酵母が食べて発酵という化学反応が起こります。糖を食べた酵母は二酸化炭素とエタノールを排出するのです。

二酸化炭素はビールのシュワシュワした泡に繋がり、エタノールは人を楽しい気分にしてくれるわけですね。

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