2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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古谷経衛(以下、古谷):今年2月に文藝春秋社で『「意識高い系」の研究』という本を出させていただきまして。発売から1か月半弱ぐらいですけど、お陰様で大変好評いただいておりまして。それでこちらのイベントスペースのほうから、「このテーマなら勝部先生がいいんじゃないか」「ぜひセッティングさせてくれないか」とお声をいただきまして。私は断る理由が当然なかったので、やっていただきたい、と。
勝部元気(以下、勝部):そうだったんですね。おめでとうございます(笑)。
古谷:ありがとうございます。僕から見た勝部さんの印象は、朝日新聞のWEBRONZA。それから、男性であるけれどもフェミニスト。こういう姿勢を堅持してらっしゃる。
これはなかなか、日本の論壇とか言論人とか知識人の中にはあまりいないですよね?
勝部:はい。
古谷:逆はありますよね。女性の言論人では山のようにいますけど。男性だと普通は「女は黙っとれ」みたいな人しかいないわけだから、難しいなぁと思って。非常に注目をしておりまして。当方も勝部さんの『恋愛氷河期』を読ませていただいて、僕の『意識高い系』の本論と非常に被るところもあり、部分的に共感するところもあると思うんですが。
その各論に入っていく前に、小生の『「意識高い系」の研究』の感想を聞きたいのですが。
勝部:私が一番印象に残っているのは夏期講習の話ですね!
古谷:夏期講習?
勝部:意識高い系の人たちは、セミナーに出席したことさらSNSにアップしているけれども。夏期講習に出席したことをアップしているようなもので、結果が伴っていないところが非常に痛快でしたね……。
古谷:夏期講習に行った結果、例えば「東大に受かりました」。それで記念撮影をするのはまあ、当然というかわかる。ところが「私、東大目指してがんばってるんです!」っていう講習中の姿、プロセスを写す人って、なんか心がゆがんでいる気がしますよね。
勝部:ははは(笑)。ゆがんじゃってる(笑)。そうですねぇ。
古谷:僕がこの本章の中で定義した意識高い系って、読んでくれた方はわかると思うんですけれども、一言で言うと「承認欲求の怪物」である。承認欲求のモンスターである。
承認欲求っていうのはみんな持ってるわけですよね? 人からよく言われたい。人に称賛されたい。それは誰でも持っていると思うんですよ。どんな人でも。ところがそれが、ものすごくいいように肥大した存在。それがある種の意識高い系と呼ばれる人たちです。
そういう人ってたぶん昔からいたんですよ。例えば江戸時代の大富豪とか豪商だってね、見せびらかしたいがために、どこかを貸し切ってやる。
大阪の豪商・淀屋辰五郎が、当時はまだ高価だった金魚をわざわざガラス張りの天井で飼って来客に自慢したりですね、そういうのが江戸時代版意識高い系なのかなと思うんですけど。
ただ今はSNSという、気軽に意識高いことの承認を求められるツールのおかげで敷居がものすごく低くなりました。戦前とかもっと前の時代の人たちがとった方法はともかくとして、大富豪だったことは事実なわけで、やっぱりそこに至るまでの努力が必要だったんですよね。
ところが今や、あんまり努力しなくても、「こういうホテルのバイキングに来ました」「私、こういう社長を知ってるんですよ」「こういうパーティーに来ました」とか。
別に普通の所得の人でも行けるわけですよね? それを自分と一緒に写真を撮ってアップロードすることが、ものの1分や2分もしないでできてしまう。そういう中で、「私を見て」「私をもっと承認してほしい」という、いわゆるFacebookでいうところの「いいね!」を求める人たち。Instagramだとなんて言うのかわかりませんけれども。
意識高い系に非常に多い特徴で、Twitterはまずやらないんですね。Twitterは揚げ足取り、冷笑の文化ですから。
(会場笑)
古谷:最近の時事に絡めると、安倍昭恵さん。これは非常に「遅れてきた意識高い系」だと思うんですね。
勝部:うーん。
古谷:彼女はFacebookとInstagramはやるんです。ところがTwitterはやらない。それはなぜか。批判に耐えられないから。
勝部:あはは(笑)。
古谷:自我が壊れちゃう。Facebookだと批判の声はあるんですけれども、やっぱり「昭恵さんすごーい!」で、いいねが2,000、3,000とつくわけです。これで承認されちゃうんです。
Instagramも友達ですから、「昭恵さんすごーい!」「アッキー頑張ってる!」「アッキーの無農薬なら私も食べたいです!」って言われたら、「やった!」と思うわけですね。
勝部:(笑)。
古谷:だから、安倍昭恵がなぜTwitterをやらないのかというのも、これも承認欲求の1つの現代的な形だなと思ってまして。
とにかく人間っていうのは、承認されたい。そんなふつふつとした欲求は誰しもがあるんだけれども、それがゆがんだ形でSNSの中に出てきた。それがここ5、6年とか7、8年ぐらいだと思うんですけれども。
それが僕が意識高い系だと定義をしているんですが、このへんはいかがですか?
勝部:定義ですか? その先の話になっちゃうと思うんですけれども、やっぱりこの本で一番ハッとさせられたものがあります。
意識高い系の間には2つほど理由があって、1つはスクールカースト。それはなんとなく個人的にもわかっていたかなと思うんですけれども、もう1つの土地。家系が土地持ちか否かって視点はなかったなと思って。
古谷:ありがとうございます(笑)。
勝部:要するに、リア充って不動産。つまりReal Estateが充実してるかどうかってことを説いたのは初めてだったと思うので。
古谷:ありがとうございます。そうですね。そこが新鮮に感じられた。
勝部:すごく新鮮ですね。
古谷:リア充と意識高い系っていうのは、非常に混同されがちなんですよね。リア充っていうとこうなんかこう、パリピ(パーティーピープル)のイメージ。原田曜平さんが『パリピ経済 パーリーピープルが市場を動かす』という本を書いてらっしゃいますが、あのパリピです。
パリピは夜な夜なクラブで友達と遊んでる。それで、いろんな人脈があって旺盛な消費生活をしている。リムジンを貸し切ってアゲハ(新木場のクラブ・ageHa)に行きます。意識高い系もそういうことをいちいちアップするわけですよね。「今日はこういうパーティーに来たよ」って。
だからリア充=意識高い系って思ってる人はすごく多いわけです。ところがリア充と意識高い系って、この本に書いているように、まったく似て非なるものなんですよね。
リア充っていうのは、今この現代の時間を切り取って、恋人がいるとか所得が高いとか、そういうことではないんです。
リア充っていうのは土地。札幌でも、福島でも、東京でも、広島でもどこでもいいんですけれども、その土地に上級の親族、つまり親。場合によってはさらにその親から受け継いだ土地にずーっと住んでる人。つまりこれ、ジモティーてやつですね。このジモティーがリア充の条件。
なぜジモティーだとリア充に位置するのかというと、彼らは生まれた瞬間からその土地にずーっと住んでいるわけです。だから、大学は別として、小中高は学区がありますから、だいたい同じ土地に住む。
すると、自然に人間関係ができてくるわけですね。人間関係の構築が自明のものとして苦労を要さないわけです。
人間関係ってなかなか築くのに時間がかかるのはみなさんご存知だと思いますけれども、小中高とつるんでるような感じの人たちがずっといると、そこで必然的に友達ができる。そして、必然的にそこで恋人とかもできていく。これを映像化したのが、いわゆる宮藤官九郎が脚本・演出をやった大ヒットドラマ『木更津キャッツアイ』なんですよね。
あれは木更津っていう地方土地の中で、職業はまったく違うんだけれども、親の代から木更津にずーっと住んでるジモティーたちの物語。だから彼らはそこで恋人を作ったり、飲みに行ったり、草野球やったりなんやかんやとする。木更津は千葉の地方都市ですけれども、これの大都市版が井上三太の漫画『TOKYO TRIBE』なんですよね。
井上三太の『TOKYO TRIBE』は、親の代からずーっと吉祥寺とか新宿とか渋谷とかに住んでる。そこを根城にしてるカラーギャングたちが主人公ですね。そこにずーっと住んでるから、ほかの土地に行かないわけです。むしろほかの土地には敵対するトライブ(部族)が住んでいるから行かない。
だから、ずーっとその土地にこだわってるわけですね。そうするともう、特段連絡しなくても、常に集まれる、群れることのできるたまり場があるわけですよ。ここを根城にしているわけですね。
『TOKYO TRIBE』の主人公は、吉祥寺のSARUというグループにいるんですけれども、その吉祥寺のデニーズで、別にLINEで「待ち合わせしようね」とか、そんなこと言わなくても常にSARUのメンバーの誰かがいるわけですね。
その中で恋愛とか人間関係とかが発達していく。これがリア充なんですよ。ですからいちいち「パーティーしました」とか、いちいち「こんな人脈があるんです」って、彼らは他者にアピールしなくてもいいんですよ。だって当たり前だから。自明のことを言う必要はない。土地にずっと土着しているんだから。そういういろんな人間関係って自然に蓄積ができてきますよね? ところが、それを手に入られない人がいるんです。
それは、後からその土地にやってきた人。後からその土地の分譲住宅とかマンションを買った人。後からその土地にやってきて、賃貸マンションとかアパートに住んだり。つまり後発の定住者です。
その人たちはその土地の時間の蓄積から除外されているわけです。ですから、新しく人間関係を作らないといけないのです。だから必死になるんです。必死になるから人にアピールするんです。それが意識高い系なんですよ。だから他者に「私ってすごい」と言わないといけない。
『TOKYO TRIBE』の主人公も、毎日クラブに行って友達とお酒飲んで、CDかけて家に帰ってくる。でも、それを人に自慢したりなんかしないです。だって当たり前のことだから。
ところが意識高い系っていうのは、後から土地に入って来たので、そういう自明のものがないわけですよね。だからそれをあえて言わない、自分はそんな地位になれないわけですよ。そして、それを「いいねいいね」ってしてもらわない。自分がその土地の支配階級であるリア充に憧れているんだけれども、それになることができないからわざわざ他者に言うわけですよね。
だから、みなさんも思い起こしていただきたいんですけれども、超大金持ちビル・ゲイツとか、ウォーレン・バフェットとか、マーク・ザッカーバーグとか。「俺、こんなにすごい金、年収持ってるんだよ?」とか言わないでしょ。言わなくたってわかるから。なぜ言わないのかというと、繰り返すようにそれは当たり前の自明のことだから。
当たり前じゃない人たちの、リア充になりたいけどなれない、コンプレックスを煮しめた人々が意識高い系なんです、というふうに僕は定義しました。
勝部:いやー。
古谷:どうでしょう?
勝部:ずっと疑問だったのは、やっぱり小さい頃から、祭の構造というのは本当に疑問で。
古谷:わかりますねー。
勝部:「なんだこの構造は?」と思っていました。すごく可視化されてない。例えば学校の行事とかみたいに、誰かが立候補とかいうわけでもなく。
古谷:そうなんですよねー。
勝部:「この仕組みはなんだろう?」って思ってたのが、これでパッとしたっていう感じですね。
古谷:ありがとうございます。七夕とかお盆とか、いろんな祭があるわけじゃないですか。その祭にその土地に土着した思春期の男女がね、浴衣を着ていって、花火を見て、みたいな。そういうリア充アニメが『グラスリップ』(舞台は福井県)っていうアニメなんですけど。別にDisってるわけではありません(笑)。いいアニメですよ。
それはともかくとして、その祭っていうのはまさに日本的なものなんですよ。というのは、祭には、別に誰だって行けるわけですよね。岐阜県のお祭があったら行きますよね。青森でねぷたがあったら行きますよね。ところが、主催者にはどうやってなるのかというと、立候補したり、民主的な手続きがないんですよね。
勝部:そうですよね。完全に世襲性。なぜあの子はお祭りに係われているのか不思議だったのですが、それは親がそこで委員とかをやっている人だっていう。
古谷:そう。そうなんです。だから祭の主催者は、実はずーっとその土地に土着してる人、およびその子孫たちで構成されているのです。つまりこれはリア充ですよね? その中にはおそらく商工会とか、青年会の人とかも入ってくるんですけれど。
つまり祭は誰でも参加できるのだけれども、祭の主体というのはものすごく排他的な世界なんですよね。
例えば、僕は松戸に住んでますけども、松戸七夕祭とか誰でも行けますよ。ところが、主催者にはなれないわけです。なぜなら僕はずーっと松戸に住んでるわけではないから。後発に住宅を手にしたよそ者なんで。
ところが僕がずーっと代々、例えば大正時代とかから僕が松戸に住んでたら、たぶん実行委員になってると思うんです。
これって猛烈な格差なんですよね。土地にずーっといるかどうかって、この国の中でめちゃくちゃな格差があるんですよ。この国は現在でも土地本位社会ですから。すべてが土地を基準として動いているといって過言ではない。それがやっぱり人間関係とか、青春時代のコンプレックスとか、人間の心の歪みにも影響を与えてるんじゃないか?
というのが一部、この私の本の論点にも出てくるんですよね。この国で土地を親から相続できていない人って、ものすごいハンデがあるっていうのは、あまり見えにくいが、問題だと思うのです。
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