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Antibiotics In Your Nose!(全1記事)

海でぽっかり口を開ける、なんか怖い「穴」の底にはなにがあるのか?

穴。この世界には大小様々な大きさの穴が存在しています。そして、穴の中には、お往々にして未知の可能性が秘められています。今回は、海にポッカリと空いた深さ数百メートルの穴、通称「ブルーホール」と、私たち人類なら誰しもが持っている「鼻の穴」について、最新の研究結果を解説します。YouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」。穴の中には、一体何が隠されているのでしょうか?

世界最大のブルーホールが発見か

ハンク・グリーン氏: 今回のSciShowでは、いろんな「穴」について考えてみましょう。新しい抗生物質の素として期待されている鼻の穴と、これまでに見つかった中で最も深い海の穴です。

まずは海の穴の話をしましょう。

中国の研究者チームがブルーホールと呼ぶこの穴は、水中にある洞窟や陥没孔が、周囲の水深が浅い部分より濃い青に見えることに由来しています。サンゴの保護を目的としている三沙航路研究機構では、南シナ海の西沙諸島にあるこの「ドラゴンホール」の深さを、水中ロボットを使って測量しました。

なんと深さは300メートルにもおよび、エッフェル塔がすっぽり沈んでしまうほどだったのです。この発見には同分野の独立した他の研究者による確証も求められています。それでももし正確なら、バハマ諸島にある深さ約100メートルの、ディーンズ・ブルーホールの深さを塗り替える記録です。

ブルーホールは基本的に、水中にある、上部にすぼまった穴が開いている空洞が原因です。石灰岩や炭酸塩岩が多く存在する地域によく見られ、ふだんは水中にじわじわと溶けていきます。岩が酸性雨や水流にさらされることによって、水が岩の表面を残したまま内部に侵食していき、隠れた空洞を作っていくのです。

残された上部の表面がある薄さになると、その部分が崩壊し、シンクホールと呼ばれる深い井戸状の穴ができます。

その後で、例えば最後の氷河期が終わったときのように海面の高さが上昇すれば、シンクホールはブルーホールとなるのです。これが基本的なでき方ですが、地上の洞窟と同じようにブルーホールもそれぞれに作られる過程は異なります。また、気候や微生物の環境などが果たす役割についてはよくわかっていません。ドラゴンホールがどのように形成されたのか、研究者は調査を続けています。

しかし研究を続けるのは、形成過程のためだけではありません。なんとそこに生物が住んでいたのです。ドラゴンホールの上部100メートル前後のところで生活する生き物が、20種類ほど見つかりました。それ以下の深さになると酸素濃度が急落するので生物は存在しないようです。

今は深海で生物を発見できない時代ではありません。毎年新種の生物が、時には深さ数キロもの深海で見つかっているのです。近い将来、ドラゴンホールの深いところに適応した微生物や、堆積物の中から化石が見つかるかもしれませんよ。

鼻の穴から見つかった抗生物質

ところが、人間の鼻の穴にいる微生物にも驚くべきことがあるのです。

テュービンゲン大学の研究者チームが発見した新しい抗生物質はルグズニンと名付けられ、複数の有害な微生物を殺すはたらきがあります。MRSAという、毎年アメリカで約1万1千人が死亡する感染症にも効果があります。これは薬剤耐性を持った黄色ブドウ球菌で、肌や肺、血液自体にも感染する病気です。

こうした薬剤耐性菌に対する新しい抗生物質は十分に見つかっていないので、この発見はとても重要です。ルグズニンは、地面などの他の場所から見つかった微生物とは違い、人体に生息する微生物から作られた初めての抗生物質です。

ルグズニンを主に生み出す微生物は、S.ルグズネンシスと呼ばれます。研究者チームは鼻から見つかったこの微生物を持っている人といない人とで、黄色ブドウ球菌に対しての反応がどう違うか注目しました。すると、S.ルグズネンシスを持つ人は、黄色ブドウ球菌にかかる確率が6分の1に減ったのです。

シャーレの上に黄色ブドウ球菌とS.ルグズネンシスを置くと黄色ブドウ球菌は死滅していき、S.ルグズネンシスの10分の1の数にまで減りました。

S.ルグズネンシスの遺伝子を分析し、黄色ブドウ球菌を殲滅した分子、ルグズニンを抽出しました。その仕組はまだ解明されていませんが、恐らく黄色ブドウ球菌が活動するために必要なエネルギー源を破壊すると考えられています。

人体は戦場のようなものです。領土と栄養素を守るために、微生物たちはルグズニンのような武器を使って敵をなぎはらっています。研究者たちはこうした微生物たちがどのように敵と戦っているかを調べて、有効に活用しようと考えています。

S.ルグズネンシス自体は感染症の原因にもなるので、人の鼻に直接塗りつけるのはオススメできません。ですが抗生物質の素となる遺伝子から、無害な抗生物質を作りだせるかもしれません。そうした処方薬を開発できれば、手術が必要な人や、免疫システムが弱い人の助けとなったり、黄色ブドウ球菌の感染が深刻に広がった時に威力を発揮するでしょう。

ルグズニンは有望ですが、すべての微生物に効果があるわけではありませんし、病院での使用に限定されるでしょう。身の回りに存在する10%の微粒子が私たちを悩ませますが、薬は年々安全性と効果を増しています。

人体に存在する微生物が―実際は微生物たち自身のためですが―私たちもどのように守ってくれているかを理解すれば、さらなる抗生物質の発見につながるでしょう。鼻の通りがスムーズになるような、快適な世界になるといいですね。

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