CLOSE

The Science of Hypnosis(全1記事)

ただのトリックではない「催眠術」 かかりやすい人の脳には特徴があった

揺れる振り子に集中していると聞こえてくる「あなたはだんだん眠くなる」の言葉。そして指を鳴らすと……。誰しもこのような催眠術を見たことがあると思います。なにかトリックがあるんだろうと思っている人も多いかもしれませんが、催眠術はただのトリックとは言えません。実は、催眠術が可能だという科学的な証拠もあり、本当に脳に変化を起こすことができるのです。なかには肉体や精神のコンディションを助けるセラピーとして使う心理学者もいるほどです。催眠術にかかりやすい人とそうでない人がいることがわかっており、脳波を調べた結果、両者にはある違いがあることも判明しています。YouTubeの人気科学系チャンネル「SciShow」より、催眠術の科学を紹介します。

催眠術はトリックではない

マイケル・アランダ氏:揺れる時計に集中すると、あなたはだんだん眠くなる。そして指を鳴らすとあなたはこのビデオを全部見るでしょう。

誰しもこのような催眠術を見たことがあるかと思います。命令したりアヒルみたいに鳴いたり、さらには映画の『リストラ・マン』みたいに人格が変わったり。懐疑的な人にはこれらの催眠術は怪しく見えます。この時計と声にそんな力があるのかと。

催眠術はただのパーティトリックではないようです。催眠術が可能だという科学的な証拠もあり、脳に本当の変化も起こしえます。肉体や精神のコンディションを助けるセラピーとして使う心理学者もいます。

つまり催眠術は本当なのかもしれません。誇張されるような洗脳能力とは違いますが。さまざまな瞑想方法やトランス状態に関する何千年もの記述があります。

私たちが知っている催眠術は、1700年代のフランツ・メズマーという内科医に関係があるようです。

「mesmerize(魅惑する)」の語源になった人物です。メズマーには自然に関する理論があり、動物磁気と呼んでいました。それは性的な魅惑だけにとどまらないものでした。

彼はすべての生き物には目に見えない磁力の流れが流れていると考えました。そしてその流れを調整することにより、あらゆる病気の治療が可能であると主張していました。

薄暗い明かりや不思議な音楽、磁力やジェスチャーで患者のトランス状態を呼び覚まし、目に見えない流れのバランスを取ろうとしていました。その後で実際に健康になった患者もいました。

しかし、化学のコミュニティーが動物磁力を検証し、ヒーリング能力に関する磁力の流れは事実ではないという結論なりました。メズマーの研究は信頼をなくし、科学者がトランスのセラピーを後継することは無くなりました。

しかし1800年の中頃、外科医のジェームズ・ブレードがこの潜在的なセラピーを研究し始めました。

説明のためにギリシャ語の「hypnos」から「hypnosis」(催眠術)という言葉を作りました。なぜならトランスのような状態は睡眠に似ていたからです。

最近では、臨床心理学者は催眠は眠気のようなものと考えています。集中した催眠状態は瞑想に似ているのです。テレビの派手な催眠術と違って、臨床催眠術は極めてシンプルです。集中、それだけです。

落ち着いた音楽が流れたりしますが、ゴールは邪魔を省くことです。催眠術者は優しく話しかけ、時に揺れる懐中時計などで、患者が集中できるよう促します。そしてリラクゼーションを体験させるのです。そしてリラックスに集中した状態になり、提案によりオープンな状態になるのです。こうして催眠術者は、催眠療法のゴールに沿って、患者に異なる視覚や指示へ導きます。シンプルですよね。

催眠術にかかりやすい人とそうでない人の違い

臨床心理学者はリラックスし集中したトランスが催眠術のゴールだと考えています。心理学的には催眠状態というのは2つのセオリーがあります。

変性意識状態は、催眠術が別の意識へ導くというものです。睡眠に似ていて、脳の精神プロセスの働き方が異なる全く違った状態であり、必ずしも認識できるものではないという状態です。

もう1つは「non-state theory」と呼ばれ、催眠術はロールプレイングのようなものだという一論です。

変性意識状態とは違い、高度の集中と、催眠というものに対する期待のコンビネーションであるというものです。要するに、意識があり、ルールに沿って遊んでいるということです。そして今、催眠状態を心理学的に解明するために、研究者はさらなる証拠を必要としています。

催眠術にかかりやすい人、かかりにくい人がいることがわかっています。催眠は自主的なプロセスです。術者の話を聞き、集中し、リラックスしようとしなければいけません。

研究者は、10~15パーセントの人は非常に催眠にかかりやすいと考えています。これらの人はセッション中に催眠状態になりやすいです。20パーセントの人は催眠にとても抵抗力があります。その他の人はまちまちです。

なぜ催眠にかかりやすいかは解明されていませんが、脳を解剖するとわずかな違いがわかるのですが、そこに関係があるということはわかっています。

研究者は核磁気共鳴画像法、つまりMRIを使いました。

その結果、催眠術にかかりやすい人はそうでない人と比べて、脳梁の先端が、極めて大きなことがわかりました。そこは集中を司る部分です。

ほかの研究者は催眠にかかった人の脳波を調べました。基本的に、脳が働くためには電気化学的エネルギーが必要です。なぜなら神経がコミュニケーションするために必要だからです。

脳波図、EEGを使い、研究者が脳の働きをモニターし、脳波の異なるパターンを見ました。

研究で、催眠にかかりやすい人は特にシータ波の増加傾向にあることがわかりました。注意と視覚化に関係のあるものです。暗算や空想にふけるときなどがそうです。

つまり、MRIとEEGは催眠術が脳の注意にどう影響するかということを教えてくれました。それは集中したリラクゼーション状態という考えを支持するものです。

なぜ催眠術師の意のままになってしまうのか?

でも術者の提案によって患者の考え方が変わるのはどうしてでしょう。

それにはトップダウン処理という考え方が関係しています。

脳は多くの感覚情報を受信しています。私たちは処理と解釈により状況を理解しています。そこでトップダウン処理は、記憶や推測による期待という情報の最上層が、感じるものや受け取るものである底の情報に影響を与えるというものです。

認知科学者はこのことをよく知っていました。この効果を証明するさまざまな実験も存在します。高いワイン、安いワインというていで人々にワインを飲ませるものです。飲むワイン自体は同じなのですが、高いワインとされるワインのほうがやや美味しかったというものです。おそらく美味しいことを期待したことが原因と考えられます。それだけでなく、喜びを処理する脳の部分がより活発にもなりました。

トップダウン処理はプラセボ効果についても説明しています。よくなると医者が言ったピルを飲むと、効果があると感じてしまうといったものです。それがただの砂糖であるにも関わらず、です。

つまり、催眠にかかった人は提案にオープンになることによって、期待値が調整され世界の見方が変わるのです。催眠のこのような効果は科学的にも証明されています。

例えばストループテスト。赤や青といった色を説明するたくさんの言葉があります。しかし言葉を読むのではなく、その言葉についている色を言うというものです。青のインクで書かれた黄色という言葉がある場合、青と答えなければいけません。

これはとても難しいのです。言葉と言葉の色を同時に処理しているためです。神経科学者のチームは催眠が与える効果をストループテストを用いて調べました。言葉やその色の捉え方をfMRIで脳の活動をモニターすることにより調べました。

催眠にかかりやすい人とかかりにくい人に催眠をかけるべくリラクゼーションのテクニックを用いました。そして被験体に特定の提案をしたのです。fMRIで見せられた言葉は「gibberish」で、その色をできるだけ早く特定するというものでした。

催眠セッションの数日後に、ストループテストの最中の脳をスキャンしました。催眠にかかりやすい人、つまり提案によりオープンとされる人は、より早く正確に言葉の色を当てたのです。

さらに驚くことに、脳の活動に測定可能な違いも現れました。特に、字の解読を司る脳の部分が起動していませんでした。つまり脳が言葉を言葉として認識していなかったのです。それと同時に、作業における混乱も見られませんでした。これは催眠術に抵抗力がある人の脳とは異なるものでした。

催眠による提案は被験者の期待を変えたと言えます。その結果「gibberish」ではなく色としてみることができたのです。神経科学者による別の研究では記憶をブロックすることまでわかりました。

被験者は45分のフィルムを見て、1週間後に戻ってきて催眠を受けました。サインを聞くと映画を忘れるという提案を与えられ、さらなるサインで記憶が戻るというものでした。そして被験者はfMRIに入り、忘れるサインを聞かされたら、映画の詳細が思い出せなかったのです。映画を見た部屋の詳細は思い出せたのにも関わらずです。記憶に関する特定の脳の部位が、催眠を受けなかったグループと比べて活発ではなかったのです。

つまり理論的に、「帝国の逆襲」は忘れてルーク・スカイウォーカーの父の登場だけを何度も思い出すことになるのです。これは催眠後健忘症と呼ばれています。これは実際の健忘症の研究モデルとして使われていました。外傷性脳損傷によって引き起こされるようなものです。

パーティトリックに使う催眠術者もいれば、医療や心理学のための有効な手段として使う科学者もいるのです。

手術や薬物治療の前に痛みや不安を減らし、より早い回復のために催眠術を使う外科医もいます。不安や痛みを和らげるために出産に使われることもあります。催眠セラピーは行動セラピーと一緒に使われることもあります。禁煙、うつ、PTSDなどです。

ただし、催眠は治療ではありません。催眠的提案が全ての人に役立つわけではありません。じゃあ催眠術は本物なのか? それはおそらく本物です。心理学者が完全に催眠を理解しているわけではありませんが。意識の別の状態と考える人もいれば、催眠は集中と期待だと考える人もいます。

もっとも言えることは、催眠は脳がいかに優れているかを示すハイライトであるということです。リラックスや睡眠がしたくなければ、実行は不可能です。ものの見方を変えて痛みを和らげる、または忘れさせるということは可能です。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 民間宇宙開発で高まる「飛行機とロケットの衝突」の危機...どうやって回避する?

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!