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クラウドソーシングが変える労働と社会保障(全6記事)

「ほとんどの仕事は誰がやっても同じ」 承認欲求と仕事は切り離せるのか?– 宇野常寛×吉田浩一郎

3.11が引き起こした正社員神話の崩壊、若者の働き方の変化など、日本の労働を取り巻く環境は大きく変わってきています。『静かなる革命へのブループリント』の刊行を記念した特別対談にて、著者の宇野常寛氏とクラウドワークス・吉田浩一郎氏がこれからの労働と社会保障について語り合いました。

クラウドソーシングには「社会からこぼれ落ちた人」が集まっている

宇野常寛氏(以下、宇野):そこに関していうと僕が吉田さんに前から訊いてみたかったのは、例えばドワンゴの持っているマーケットやそこにあるカルチャーはどう見えているんでしょう。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):あー、あれはどうなんですかね。わかんないながら緊張感を持ってボール投げますけど、私の中では夜の世界の感じを持ちつつ、社会との接点のアウフヘーベンという感じに思っているといいますか……。だって、上場企業としてはおかしいことをやってるわけですよ。「wwwwww」みたいなのが画面に並ぶし(笑)。私はおもしろがってますけど、社会全体からしたら「何をやってるんだ!」みたいな話じゃないですか。

でも、あれを成立させて、しかもついにKADOKAWAと経営統合しちゃうってことは、現実社会と中二病とのアウフヘーベンみたいな興奮を覚えますけどね。

宇野:ドワンゴさんは僕とも関係が深い会社だけど、あれが次のマスになれるのかどうかっていうのは一番関心があるんですよ。会場に来ている人の中に、ニコニコ超会議に行ったことのある人はどれくらいいます? ……パラパラといますね。

吉田:おおっ、結構いる。

宇野:超会議に行って驚くのは、政治があって文化があって社会があってスポーツがあって音楽があって……みたいな感じで、新聞のテレビ欄から一面まですべてのジャンルが揃っていることなんですよ。おそらくニコニコはかなり20代に特化してると思うんだけど、20代のどちらかというとオタク、インドア系の人たちから見えている世界をほぼそのまま映していると思うんですよね。

で、それがそのままマスになることができるのか、それとも規模が大きくて動員力はあるけども島宇宙で終わってしまうのかに僕は興味があるんですよ。逆に言い換えると、ニコ動的なものがポスト戦後のスタンダードとして成立することができるのか、それとも日本社会はやはりバラバラのまま動いていくのか、という分水嶺でもあると思うんですよね。

吉田:なるほど……深いですね。

宇野:クラウドワークスに限らず今のクラウドソーシングが集めている期待って、どちらかというとバラバラ系だと思うからなんです。

吉田:なるほど。

宇野:主婦の方でパート代わりに家計補助の仕事として使っている人もいれば、年金だけでは食べていけないから副業的にやっている人、独立を狙っているサラリーマンで経験値を積みたい人、就職したくない学生でノマドワーカーをやっている人もいて、どちらかというと戦後的な男性会社員中心の社会からこぼれ落ちた人たち、つまり「◯◯ではない」ところを全部集めてる感じがするんですよね。

吉田:そうですね。うーん……なるほど。

宇野:そのせいで、よく言えばカラーがすごく拡散しているし、クラウドワークスを使っている人やランサーズを使っている人と言ったときに、どういう人たちなのかパッとイメージができないと思うんです。「◯◯である」ではなくて「◯◯ではない」と定義される人たちだと思うんですよね。

吉田:なるほど。

宇野:そこに対してドワンゴというのは、同じ戦後の男性会社員社会への(結果的な)アンチテーゼだとしても、そこにははっきりとしたカラーがある。二十代の、ちょっとオタク気味の男性ですよね。この先、「ポスト戦後社会」のようなものが作られていくときに、どちらのビジョンが勝っていくかが、最近僕が気になっているところです。

新しいホワイトカラーのカルチャーとは?

吉田:それは深いですね。たしかにおっしゃる通りで。昨年末に2周年イベントということで六本木ヒルズで、200~300人くらいのオンラインで働く皆さんで、オフ会をやらせていただいたんです。その時に、やっぱり分かれますよね。

主婦の子育てママの人たちはその人たちで一回集まるし、シニアの人たちはシニアで集まる。交流会の時は全員で交流しますけど、抱えているテーマが違いますから、おっしゃるように、二十代の同世代であっても同じものを見ているわけではない。困っている内容も全然違う。それは確かに、おっしゃる通りだと思いますね。

宇野:この問題って、戦後の中流家庭文化が崩壊した後に、日本社会ってどういう姿かたちをするんだろう、という問題に言い換えられるんです。最近、原田曜平さん ――僕の友人でもあるんですけど―― が『ヤンキー経済』という本を出してヒットしましたよね。彼はそこで「マイルドヤンキー」という概念を出しています。

今どきの若いブルーカラーのライフスタイルって80〜90年代のヤンキー文化に源流があるんだけど、当時と違ってアウトローや「反体制」的なニュアンスがゼロになっている、と彼は一生懸命書いているんですよね。原田さんにどこまで自覚があったかわからないけど、戦後の中流的文化が崩壊した後に新しいホワイトカラーと新しいブルーカラーに分化したときの、ブルーカラーについて彼は書いているんだと思うんです。

吉田:なるほど。

宇野:「マイルドヤンキー」と同じように、新しいホワイトカラーのカルチャーって出てくるんですよね。新しいブルーカラーがマイルドヤンキーだったら、新しいホワイトカラーってライトオタク的な文化が強いじゃないですか。今時の二十代三十代って、カジュアルなオタクが多いですよね。

その程度の話だと思うんですけど、僕はこの問題は根が深いと思っていて。僕がよく「銀座ゴルフ文化圏」とからかっているような、首都圏のホワイトカラー男性の文化のような強烈なスタンダードを生んでいくのか、それともバラバラの形になっていくのか、と言い換えることが出来るんです。

仕事に貴賎をつけてはいけない

吉田:それは私自身の出自というか、今までの育ちにもあるんですけど、私は……NPOみたいで恐縮なんですけど、困っている人に興味があるんです。うちのサポートには「使い方をどうしたらいいか」「一万円稼ぐにはどうしたらいいか」「今こういう生活環境なんだけど私はどう使ったらいいか」という問い合わせがけっこうあるんです。

これがなかなか生々しい話で。友達の経営者で、それを「クリエイティブワークとライフワーク」と定義した人がいて、私はそれに違和感を感じたんです。要は格差社会の上で、自分の個で立って個で生きていける、クリエイティブワークに特化できる人は数少ないわけです。

どっちかというとその友達が「ライフワーク」と表現したものを私は尊いものだと思っていて、そこを何とかしたいというのはありますね。新しいホワイトカラーにも興味あるけど、新しいブルーカラーにも意外にも(?)興味があるというか。働くということはもっと貴賎のないものであるべきだと私は思っていて、だからどういう働き方も尊いと思っているんですよね。

何でそう思っているのかというと、ひとつ原体験があって、私は新卒で入ったのがパイオニアという日本の大企業だったので、総合職と一般職があったんです。一般職は、常に総合職の横に配置されてサポートをしているという構図だったんです。

その後にリードエグジビションジャパンというイギリスの会社に転職したんですが、そこには一般職なんて誰もいなかった。「イコールパートナー」という考え方で、要はたとえば事務というのも一つの尊い職業である、と。私、この本(『クラウドソーシングでビジネスはこう変わる』)の前のほうにも書いていますけど、一度、事務の人に「あなたの仕事やりたくないです」「尊敬の念を感じません」と言われてしまって、二か月ぐらい事務を一人でやったことがあるぐらいなんですよ。

私のその2つの原体験の中でどっちが自分にとって正しいかというと、後者のほうなんですよね。うちの会社の経営も「イコールパートナー」のように考えていて、サポートに絶対貴賎を付けないように、とよく言っています。

「サービスの使い方もわからない」というのは、普通のサポートよりもはるかに手間がかかるわけですが、「そこで手を抜いたら俺たち終わりだぞ」と。クラウドワークスで仕事を始めてよかったと思ってもらえるようになるまできちんと対応したほうがいい。

さっき宇野さんはドワンゴの話を出されましたが、クラウドワークスのような会社はちょっとそういった世界とは属性が違うのかなと思っていまして。もちろん、稼げる人がしっかり稼げる世の中を作りたいというのはあるんですけど。

「ウェットな社会」ならベビーシッター事件は防げたか?

宇野:なるほど。吉田さんの今の話を聞いていてもそうなんですけど、僕個人は思想というより肌感覚のようなものとして、もうちょっとサバサバしたものを気持ちがいいと思うタイプなんですよ。例えばマンションに住んでいても、隣の人と全く交流がないんです。むしろ、ない方が良い、みたいな。

吉田:なるほど(笑)。

宇野:そういった人間からしてみると、もっと世の中はさばさばしてもいいんだと思う反面、でも吉田さんがやっていることはそうじゃないんですよね。実際クラウドワークスのサービスを見てみると、人が負担に感じないぎりぎりの温かいものをやろうとしている。

吉田:ああ、「ありがとうボタン」(クラウドワークスのサイトの機能の一つで、たとえば発注側が、受注側の仕事受注申請を断るときにも「ありがとう」を表明できたりする)とかね(笑)。

宇野:そうそう。人間が重荷に感じる限界までコミュニティ感を出す。そのぎりぎりのラインを、一生懸命歩いている感じがするんです。

吉田:リバネスの丸幸弘さんってご存知ですか? 宇野さんにぜひ紹介したいんですが、猪子さん(寿之=チームラボ代表)とも仲がいいんです。彼はユーグレナ(ミドリムシを中心としたバイオテクノロジーの研究開発及び生産管理、品質管理、販売等を展開する会社)の実務の研究のほうを担っていた人なんです。

彼は今、全員が院卒や博士課程卒の科学者集団をつくっているんですが、その丸さんがこの前面白いことを言っていたんです。

「俺は非ITの人たちをクラウドソーシングみたいにして全部集めて、知能集合体を作る」みたいなことを言っていたんです。その過程で彼が言っていたのは、この前ベビーシッターが子どもを死なせちゃった事件がありましたよね。あれは丸さんから見るとナンセンスで、

「そもそも隣の家に行って、ちょっと世間話をして『私、働かないといけないんでこの家でうちの子どもの面倒を少し見てもらえませんか?』という交流ができていたらあんなこと起きないよね。そういうのない?」

と言っていたんです。で、考えてみると、確かに私も子どものころ自分の家の鍵が開かなかったときは、向かいの家で親が帰ってくるまで遊んでいたんですよね。ああいうことが重要で、その「ウエット」と「ドライ」をぎりぎりまでストレッチして――。

ぜんぜん関係ないんですけど、エキスパンダーっていう筋トレ用具があるじゃないですか、あれって右と左を均等に伸ばしたら筋肉がつくんですよね。そういう感じで「理性と野生」とか、「ウエットとドライ」みたいなものを、ぎりぎりまでぎゅーっとやると、すげえ良い物ができるんじゃないか、みたいなことを思っているんですけど。

でもこんなことを言うと「ワケのわかんない人なんじゃないか」と思われるので、普段は言っていない(笑)。

宇野:人間というのは、顔が見えなくてもいいし、近くなくてもいいけど、承認が欲しいんですよね。でもそのことによって借りを作りたくないという、すごい都合のいい生き物なんですよ。

吉田:(笑)。

宇野:人間は誰かに頼らなきゃいけないから、誰か人とつながらないといけないんですよね。でもつながったときに、自分に何か期待をされたりすると重く感じちゃうんです。だから中距離にいて、自分が頼ろうと思った時には、何かの代償やコストを払って頼れるんだけど、そのことによって顔色を窺って暮らすとか、同調圧力とは離れていたいと思う都合のいい生き物で。

でも人間って都合のいいものが生まれたときに初めてお金払ったり、熱量を持って没入したりするじゃないですか。吉田さんの綱渡りって、その人間の身勝手な部分に一生懸命喰らいついて行っているんじゃないかと思うんです。

承認欲求を仕事以外で満たす

吉田:なるほどねぇ。さっき、イベントが始まる前に宇野さんと話していたんですけど、その究極系が「YO」ですよ。ご存知ですか、「YO」? 今私の中で、一番熱いアプリで。「YO」を知ってる人いますか?

(会場に挙手を求めると、パラパラと手が挙がる)

吉田:おお、結構いますね。「YO」ってすごいなと思っていて、今の宇野さんのお話をすべて満たしているんですよ。このアプリって、今ここにいる人(目の前の人を指さして)と友達なのでやってみますけど、IDがあって、相手のIDに対して「YO」と言うだけなんですよね。で、返して貰うと……。

(目の前の人のスマートフォンから「YO!」と電子音が聞こえる)

吉田:これって「YO!」って言われるだけで、メールする機能とかスタンプとか、感情表現の機能は一切無いんです。ほとんど猫と同じなんですよね。夜中に猫が「ニャー」というと、どっかの家の猫が「ニャー」と鳴いて、「いるよー、つながってるよー」みたいな。

その前身はLINEで、LINEはスタンプになっているわけですよね。言葉で表現したくない、明確にやり取りするとめんどくさいし角が立つ、だから柔らかくスタンプでやる。今言っているような、「つながりたいけど貸し借りは作りたくない」ということなわけですが、LINEだと既読いじめ問題があるわけですよね。

「読んでるのに何で返事くれないんだよー」っていうのは、期待をされている何かがあるから苦しくなってしまう。「YO」は送っただけで、既読も何もないので……。でも、「YO」で食べていけるかというと、食べていけないというのはあるんですよね(笑)。

宇野:僕らって、食べていくことと承認のベースを今まで結びつけすぎていたんじゃないかと思うんですね。

吉田:なるほど。

宇野:結局人間のほとんどというのは、5~6人のコミュニティーで、「宇野君がいないとだめだ」って言ってくれるだけで元気に生きていけるんですよ。ほとんどの人間がそうだと思う。そういう「承認」の問題と、食べていくことを、今までの社会は結びつけすぎていたと思うんですよ。

もちろん昔は結びつけていたほうがうまく回っていたし、共同体も維持できていたから、それなりの合理性があった。でも、今の社会の規模と複雑性を考えると、この二つは適度に離れていた方が良いんじゃないか。クラウドソーシングは見方を変えると、この二つを適度な距離に引き離すことができるシステムなんじゃないかと思うんです。

吉田:なるほどー。面白いっすね。おっしゃる通りに食べることとつながる事って、分かれていきますよね。アメリカでソイレントって粉状の食べ物ができて、それで人間に必要な栄養素が全て取れるんです。これはすごい革命だって言われて今話題なんですけど、それを丸さんと話したら「それは甘い」と。

人間は「見て楽しむ」とか「おいしそうな匂いだなー」と感じて食べて、栄養になる。それらも全部ひっくるめて「食べる」ということだ、と。丸さんの周りで何をやっているかというと、ソイレントはそのままに、ゴーグルをつけてバーチャルリアリティーのなかでソイレントをピザにする。四角い物を持つとピザになって、ピザのにおいがして、口元までピザで、食べるとソイレントであるという。

宇野:ダイエット食品の進化を見ていると、「いかにこってりしたもので満足感を出しながらもカロリーを抑えるか」というゲームになっているんです。つまり自分の味覚が与える食欲の充足感と、実際に取るカロリーをいかに引き離すか、ということなんです。

吉田:なるほど、それと一緒ですね。

宇野:同じことが社会にも言えると思っていて、さっきの子供を隣に預ける社会って、一見心暖かくて良い社会なのかもしれないけど、それってマンションのママ友コミュニティーで結構いいポジションにいないと子どもがいじめられる社会ですよ。

吉田:なるほど(笑)。

宇野:そんなのね、最悪ですよ! いじめ社会を助長するだけです。そうじゃなくて、同じマンションに友達なんて一人もいないけど、一回友達とランチに行くのを我慢する値段で子供を預けられて、どこか旅行に行けるとかのほうが、全然良い社会だと僕は思うんです。クラウドソーシングをやるというのは、そういうことなんじゃないかと思うんです。

本当はほとんどの仕事って、誰がやっても同じなんですよ。実は僕らみたいな仕事もそうだと思う。本当の意味でその人じゃないとできない仕事って、ほぼないと思っているんですよね。それを会社共同体とかで、「お前がラインにいないとうちはダメなんだよ」とか、飲み屋トークでごまかしてやってきたわけですよね。

でもそういう承認の問題は承認の問題として引きはがすことが出来ると思う。もちろんいきなり完全に引きはがすのがつらいんだったら「ありがとうボタン」でいいと思うんですよ。

吉田:はいはい。

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