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The Tiny Fish That's Changing Modern Medicine(全1記事)

「ゼブラフィッシュ」がもたらす医療の進歩 ガン治療法や組織再生の研究にも活用

人間の小指よりも小さいゼブラフィッシュ。実は、いくつかの科学的大発見がこの小さなゼブラフィッシュによってもたらされています。ゼブラフィッシュは、脊椎動物の進化を研究するために1970年代から用いられている魚です。最近では、ガンの治療法や幹細胞移植の研究に活用されています。では、なぜゼブラフィッシュが人間の医療を進化させる可能性を秘めているのでしょうか。その秘密は遺伝子にあります。

ゼブラフィッシュで脊椎動物の進化を研究

マイケル・アランダ氏:ゼブラフィッシュという魚をご存知ですか? 人間の小指よりも小さい、かわいらしい魚です。

ところがこの魚、ただ者ではないのです。いくつかの科学的大発見がこの小さなゼブラフィッシュによってもたらされました。

ゼブラフィッシュは、脊椎動物の進化を研究するために1970年代から用いられている魚です。最近では、人間が抱えるさまざまな疾患とその治療法をさぐる研究に活用されています。

でもなぜゼブラフィッシュなのでしょう?

ほかの魚にも同じことがいえますが、ゼブラフィッシュのゲノムと人間のゲノムは似通っています。これはおそらく、人間と魚が元をたどれば同じ祖先に行きつくのが理由であると考えられます。

事実、ゼブラフィッシュがもつ26,000のタンパク質遺伝子の約70パーセントが、人間がもつ遺伝子と類似しています。

また人の体に疾患をひきおこす遺伝子の約80パーセントが、ゼブラフィッシュと類似した遺伝子を少なくとも1つ保有していることもわかっています。つまりこれらの遺伝子がゼブラフィッシュにどのような影響を及ぼしているか研究することで、科学者たちはそれらの遺伝子が人間に与える影響を探ることができるのです。

ゼブラフィッシュが研究者に好んで用いられる理由はほかにもあります。飼育コストが安く、メスは週に200個から300個もの卵を産卵するので、新しい研究にどんどん利用することが可能です。

もっとも魅力的なのは、ゼブラフィッシュの胚と幼生が無色透明で、急速に成長することです。

なかには、生涯を通じて無色透明な体を維持できるように人工的に開発された種も存在します。

体が透明であることによって、研究者たちはその体内でなにがおきているのか、例えばガンがどのように増殖していくのか、といった生物学的なプロセスを、手に取るように観察することができます。

メラノーマを引き起こす原因の研究にも活用

ところがこのすばらしい魚も、完璧な人間のモデルにはなりえません。例えば、ゼブラフィッシュは肺と乳腺を持ちません。そしてゲノムの大半が、遺伝子重複(本来は1つしかない遺伝子が複数コピーされて連なっている状態のこと)を起こしたゲノムで構成されています。

これらの重複遺伝子のなかには、突然変異が原因で、祖先は持っていなかったような特性を突然もつようになったものもあります。だとすると、このような遺伝子は人間の遺伝子と大きく異なってきてしまいます。

しかしこれらの欠点を考慮しても、ゼブラフィッシュがさまざまな疾患について研究するために、長年にわたって科学者たちを助けてきたことは明白な事実です。もっとも危険なタイプの皮膚ガン、メラノーマもそのひとつです。

ガンは、細胞の増殖と死滅に関与するある特定の細胞が、突然変異することによって発生します。メラノーマにみられるもっとも一般的な突然変異は、BRAFと呼ばれるタイプのものです。

これと同じタイプの突然変異をおこさせ、かつ腫瘍を抑制する遺伝子を持たないゼブラフィッシュは、メラノーマの研究をするうえで格好のモデルとなります。このゼブラフィッシュを観察することで、BRAF突然変異をきっかけに体内でガンがどのように増殖していくのか研究したり、治療法を実験したりできるからです。

そればかりか、ゼブラフィッシュは、メラノーマを引き起こすそのほかの遺伝子をみつける目的にも活用されています。というのも、BRAF突然変異のすべてがメラノーマになるわけではなく、なかには良性の腫瘍に終わるケースもあるのです。

これはつまり、BRAF突然変異は腫瘍形成の引き金にはなっても、ほかの遺伝子との組み合わせなしには、メラノーマは形成されないことを意味しています。

問題は、その遺伝子をどのようにして見つけ出すかという点でした。研究者たちは、人間のメラノーマのサンプルを用いて、ヒト染色体の特定部位にガンを形成する遺伝子を探しだしました。

この遺伝子のコピーは、次にBRAF突然変異をしたゼブラフィッシュのゲノムに注入されました。その結果、ゼブラフィッシュの体内でメラノーマの形成を促す遺伝子が1つ特定されたのです。この遺伝子はSETDB1と名付けられました。この発見は、SETDB1だけにターゲットを絞った新たなガン治療の研究につながるかもしれません。

ゼブラフィッシュの心臓は再生可能

またゼブラフィッシュは、幹細胞移植の研究にも貢献しています。これにはプロスタグランジンE2と呼ばれる合成物が関わってきます。

ある化学物質を用いて、プロスタグランジンE2の合成を活性化させる研究が行われたところ、それに伴ってゼブラフィッシュの造血幹細胞の量が増大したことがわかりました。

つまり余剰なプロスタグランジンE2は、これから造血幹細胞移植を受けようとしている人、例えば白血病の患者さんや、その他の血液および免疫システムに異常をかかえている患者さんを助けることができるかもしれないのです。これはすばらしいニュースです!

その後この発見をもとに、へその緒を用いた造血幹細胞移植の成果をあげる目的で、「ProHema」という薬が開発されました。この薬は、2014年から2015年にかけて、人間に投与してその効果がテストされる段階にまでこぎつけ、しかもそのテスト結果は確かなものでした。

ProHemaが投与された患者の体内では、そうしなかった患者に比べて、造血幹細胞移植がより速やかにおこったのです。まだまだ多くのテストが必要ですが、ProHemaが幹細胞移植の成果をあげる可能性は大いに期待できます。

まだあります。ゼブラフィッシュがもつある特性は、人体の組織を再生させる再生医学の研究も助けています。ゼブラフィッシュの心臓は、損傷を受けたとしても再生可能です。それどころか、たとえ心臓の一部が切り取られても、その傷口はふさがり、やがて新しい心臓の筋肉へと発達していきます。

しかし人間はこうはいきません。心臓発作などによって心臓が損傷を受けると、その部分は傷跡のような組織になるだけです。これは、心筋のような収縮力を持ちません。

もし健康な心筋を再生することができれば、もはや回復不可能なダメージを受けることはなくなります。

まだ研究は続いていますが、どうやらゼブラフィッシュの心筋は、損傷を受けるとそれが引き金となって心筋細胞が活性化され、心筋組織が再成長を始める仕組みを持っているようで、これがゼブラフィッシュと私たちの間に違いを生み出しているようです。

このメカニズムを完全に解明することによって、人体の組織再生という夢のようなアイディアは、より現実味を帯びてくるかもしれません。

このように、ゼブラフィッシュは小さくとも、人類の現代医学に大きく貢献しているのです。

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