2024.10.10
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中井圭氏(以下、中井):さあ、矢田部さん。
矢田部吉彦氏(以下、矢田部):はい、たくさんたくさん考えたんですが、ひねったりしたりせずに素直にベタになります。前にこの番組で言ったことあるかもしれないんですけども、『シェルブールの雨傘』です。やっぱり。
中井:いいですよ! うなずいてる方もいらっしゃいます!
矢田部:ここに帰ります。僕は、小学校4年生でした。初めてこれをテレビで観たんですよね。まず、「なんて辛い話だろう!」って思ったんですよね。小学校4年生ながら、最後の雪のガソリンスタンドのシーンに胸が締め付けられる思いをしてね。
中井:もう、君らね。小学校の精神年齢がおっさんになってますから(笑)。
矢田部:その時まで映画ってあんまり観てなかったんですよね。なんか、「恋愛ってなんて辛いものなんだろう」ってちょっとトラウマみたいになって。
その後、ちょっと大人になって見直して、なんて完璧で、独特で。たぶんほかにあんな映画2本とないし。美術から衣装から「壁紙と衣装がコーディネートされてるって、どういうことだ!?」っていう。だんだんそういうところから、僕はヌーヴェルヴァーグを知っていって、トリュフォー、ゴダールを観る前にジャック・ドゥミだったんですよね。
ドヌーブの美しさも映画史上1位だろうなって思ってるくらいですし、結局いつもなんだかんだ言ってシェルブールに戻りますね。今でもしょっちゅう、サントラずっと聴いてますし。
スタッフ:圭ちゃん、シンクルのほうでも『シェルブールの雨傘』好きすぎるって声がたくさんきてますよ。
中井:そうでしょうねえ。
中井:ドヌーブがねえ。
スタッフ:「人類はドヌーブの美しさを伝えていかなきゃいけない」だって。
矢田部:すばらしい、コグマンさん! 間違いない。
スタッフ:イメージがね、変わんないもん。比較したら歳とってんだけど、髪型とかもそんな変えないから、メイクとかもそんなに変えないから、そんなに変わった印象はないですよね。
スタッフ:姉妹の話、したくなりますよね(笑)。
中井:……ただの映画好きのおっさんたちが。
福永マリカ氏(以下、福永):声にならなくなってきた(笑)。
矢田部:議論になりますよね。ロシュフォール(の恋人たち)とシェルブールがどっちがいいかってね。
中井:ちなみにみなさん、アンナ・カリーナは?
松崎健夫氏(以下、松崎):女性に人気があるんですよね。(自分は)そうでもない……。
矢田部:僕も、そうでもない…。
中井:あ、そうなんです?
矢田部:あんまりこだわりはない。
中井:アンヌ・カリーナ派ではない?
松崎:女性がファッションを見て言ってるのはわかるけど、女性の好みの問題でしょ?
中井:そうなんです(笑)。好みの問題を放送してもしょうがないんですけど。
スタッフ:フランス映画で、ほかのアメリカ映画もそうだけど、女性の撮り方ってフランス映画独特なものってあるんですかね? 女性の美に迫る。
松崎:ロジェ・ヴァディムとか、ゴダールもトリュフォーもそうだけど、みんな自分が好きな女撮ってるよね。
中井:そうですね。あれ、なんなんですかね?
スタッフ:臆面もなくね。
矢田部:この伝統はね、ありますよね。
中井:セルジュ・ゲンズブールとかも、そうじゃないですか?
矢田部:そうですね。オリヴィエ・アサイヤスとか、クリステン・スチュワートをもう本当に美しく撮ってるんですよね。好きなんだろうな。
松崎:作家性がすごく尊重されるってことでしょう? だからさ、ほかの国の事情わかんないけど、「俺はこの女と撮りたい!」みたいなことが許されるってのがすごいよね。
それが結果的に画面に出てるってことじゃないですか。女優の側もそう撮られてるってわかってるんもんね。輝きますよね、やるほうも。そうか、女優も輝いてると。日本も松坂慶子さんがきれいに撮られてる映画ってなにかとか考えるとかね(笑)。
中井:いや、けっこうねこれはあるあるですよね。もう、これ放送されてるけど言いますけど、わりと映画撮ってる時に監督が女優に恋をしてる瞬間っていうのはあるなっていうのは。僕、とある監督に聞いたんですけど、恋をしてないと撮れないとまで言った人がいます!
松崎:自主映画観てると、「監督この子、好きなんだろうな」ってすぐわかる。
中井:そう、「出てんじゃん!」みたいな。不思議なもんだよね。
スタッフ:そこがね、フランス映画はてらいもなく堂々と「俺はこいつが好きだ!」と。
中井:どうですか、マリカちゃん。この話、聞いてて。
福永:でも観るほうも美しいもの見たいですから、その人の一番美しい状態で撮ってほしいですよね。私も美しい女の人見るの好きなので、嬉しいですよ。
中井:やっぱり?
福永:うん。健夫さん! ニコニコしてるけど(笑)。
松崎:(笑)。愛の国なので、映画もそういうところに表れるのかなって感じがしますね。
スタッフ:あと、フランス映画って年齢とか関係ないんですよ、恋愛に関して。ほかの国の映画ってね、ある一定の年齢の人が主人公で物語が進むことが多いでしょ? もちろん、例外もありますよ。
ただ、フランス映画ってね、何歳だから恋をしちゃいけないとか、そういうことないですよね。恋の描き方っていうとね。
松崎:最近だと本当に歳のいった人の恋愛映画ってわりと増えてきてるので。お客さんが高齢化して、メインターゲットが上がってきているからっていうのはもちろんあるんですけど、それでもそれにかなう演技なりがあるってことで。
中井:そうですね。さっき矢田部さん、言いかけて。
矢田部:いえいえ。中井さんがアンナ・カリーナの話をふられたんで、お好きなのかなあと。
中井:いや、そうでもないです。
松崎:(中井氏の服を指して)アンナ・カリーナ的な感じだ。
中井:やめてください、もう。すぐボーダーをいじろうとするところありますよね(笑)。確かにそうですよね、はい。
矢田部:ジーン・セバーグじゃないですか、ボーダーって。どっちかと言うと。
中井:新旧フランス映画あるわけですけども。今後、世界のなかでフランス映画ってどういう役割を果たしていくのかっていうのを最後に語っていきたいなと思うんですけども、いかがでしょう?
矢田部:すごく単純化したわかりやすい話でいくと、ハリウッド的なエンタメ作品に対抗馬、牙城としてのフランス映画っていうのはあるでしょうね。
その象徴的なものがカンヌでしょうし、作家主義みたいなものを立ち上げたというか、展開したのもフランス映画なので、映画監督の個性の強いアート系作品を牽引する存在としてのフランス映画というのは、これからますます重要視されると思います。
中井:フランス国内で、「映画を立ち上げた、映画を始めたのは俺たちだ」って気持ちってあるんですか?
矢田部:ああ、当然ありますね。「エジソン、誰?」みたいな(笑)。完全に、映画を発明したのはリュミエール兄弟。
中井:キネトスコープなんか、知らんと(笑)。なるほど。
矢田部:その自負は絶対大きいですね。
中井:そして、カンヌ映画祭も自分たちのところでやってるぞっていうのも非常に強く思っている。
矢田部:ただ、本当に映画の中心にいるという自負は、いい意味でとっても強いですよ。
中井:その誇りが今もね、すばらしい映画を作り出しているってことだと思いますしね。健夫さん、いかがですか?
松崎:海外の作品でハリウッド映画を一番観る機会が多いので思うんですけど、ハリウッドがやっているアカデミー賞って外国映画賞の部門があるんですが、カンヌで評価されたものはノミネートさえさせないっていう傾向があったんですね、長らく。
ところが最近、ちょっとそうでもないなと。今年の『サウルの息子』もそうですし、最近あの『愛・アムール』とか。
そうでもないなってなった時に、ハリウッドが意地とかそういうことじゃなくてすばらしいものは認めようとしているところに、フランス映画が入ってきているのを見てると、それはフランス映画が培ってきた自国に対する愛を作品としてアメリカが認めようとしてるっていうのもおもしろいかなと思っています。
中井:なるほど。マリカちゃん、今日どうだった?
福永:もう私、「フランス映画、絶対好きだよ」って言われて呼んでいただいて、知識はとても浅いんですけど、好きですよね(笑)。
(一同笑)
感覚に触れていいって言ってくれるのが、とても救われます。
中井:フランス映画って、映画の起源でもあるけれど、ある意味、中興の祖でもあるじゃないですか。ヌーヴェルヴァーグがあって、そこから劇的に変わっていくっていう。もう1回くらい大きな波がきたっておかしくないんじゃないかって、常々思わされるものがあるんですよね。
そういうものを僕は期待しているし、それこそ僕は最初に『汚れた血』を観た時にすごい衝撃を受けたわけなんですが、ああいうものがまたきてもおかしくないよなっていう可能性を感じさせるのが、フランス映画だなっていうのを思ったりもしました。
矢田部:僕は本当に嫌だなって思うのは、フランス映画って難しいんじゃないかとか、とっつきにくいんじゃないかとか、わかないんじゃないかとか、食わず嫌いというか遠ざけちゃってる人がいまだにいるみたいなんで。
福永:いますよね。
矢田部:いますよね、今でもね。それ、もったいないですよね。フランス映画にもいろんなものあるし。そこはぜひ、フランス映画祭みたいなので少し新しいものを知ってもらえたらって思いますね。
中井:これだけまとめてフランス映画、劇場で観れる機会ってなかなかないですから、このタイミングでババっと観ておくと、「フランス映画ってこういう感じなんだね」というイメージのなかのフランス映画と、実際に今繰り広げるられているフランス映画とたぶん違いがあると思うんで、そこを楽しみにしてほしいなと。
スタッフ:やっぱね、今回のフランス映画祭のラインナップもそうだし、フランス映画が苦手な人がどうフランス映画というものを楽しんで観れるかっていうのを考えたラインナップになってるのね。だから決してむちゃくちゃ難しいものもないし。
松崎:今回12本ある中で11本拝見したんですけど、全部おもしろかったです。
中井:ですよね。
矢田部:王道から変化球まで。
松崎:超変化球、いっぱいありましたもんね(笑)。
中井:ありましたねえ(笑)。
松崎:『エヴォリューション』(笑)。
中井:すごい落差のシンカーきた、みたいな(笑)。
スタッフ:この話でちょっと聞きたいのよ。ぜんぜん観てないんで。これ、どういう映画なんですか?
(一同笑)
中井:「最後にこれぶっこむか?」って話もありますけど(笑)。
矢田部:……SF?
松崎:SFかな? 男の子供と、女性の……なんだろな。20代、30代くらいの女性しかいない島があって、「なんでそうなのかな?」って話。「なんで、そんな人しかいない島の話なのかな?」という話。
矢田部:そうとしか言えない(笑)。
スタッフ:これ、ちょっと特別なイベントがあるみたいなんでちょっとフリップを。最後にお知らせする予定だったんだけど。
福永:私かな?
中井:うまいことつながっていったわけですね、結果的に。
福永:これかな? フランス映画祭、関連企画。
(注:すでに終了)
中井:晋也さん、いいですね。
矢田部:ぴったりですね、これ。
スタッフ:これ、まだまだね。公表されたばかりで、余裕がありそうだという話を聞いてますので。あ、『エコール』もやるんですか。これ、『エコール』っていずれ上映禁止になるって……。
中井:しかもこれね、塚本さんとの対談があるっていうのはけっこうすばらしいですね。
スタッフ:これ観て、次の日『エヴォリューション』観ていただくとよくわかる。塚本監督と、アザリロヴィック監督がお友達なんですよね。それでちょっと「来てみなさいよ」という話で。「おー、行く行く」って感じからスタートした話らしいですよ。
矢田部:アザリロヴィックの世界感って、「なんだろこれ?」っていう不気味さと、でもどっかでゴシックホラーのような様式美みたいなものが入ってきて。まあ薄気味悪いわ、きれいだわ。
松崎:きれいですね。自然もきれいに見せるみたいなとこが。
スタッフ:なんかね、圭ちゃんさ。わからない映画を観ると、つまんないって言う方って多いでしょ? 映画、観る方でね。
でもフランス映画ってそういう方に新しい回路を開いてくれるっていうか、「わからなくても別にいいかも」って思わせる説得力というか、美しさだったりとかのある作品って多いですよね。
だから今日、矢田部さんと健夫さんが「いやー、わかんないな!」みたいなのも笑顔で話してるのも(笑)。だから、おもしろいんですよね、きっとね。だからこそ、おもしろいっていう。だからやっぱりいろんな回路を開いてくれるのがフランス映画なのかなってやっぱり。
中井:たぶん、それこそほんとに、わかんないがつまんないんだったら、たぶんゴダールってこんなにブレイクしてないと思うんですよね。そもそも。
スタッフ:そうだよね。
中井:ゴダール、今もなおかつ尊敬されてなおかつ存在っていうのは、わかんないはおもしろいにつながった映画史のなかでも有数の人だと僕は思いますし、そういう意味では天の声さんおっしゃる通り、フランス映画のなかでわかんないもの含めおもしろいことが可能になっていくんじゃないかなと思いますので。
スタッフ:ニコ生でね、「わからないのは嫌だ」って書いてらっしゃる方がいるけど、「わからなくてもいい」と思い込んで観てみると、意外とおもしろく観れたりすることってあるなって思うと思いますよ。
福永:家でDVDより、映画館で浴びるのとまたね違いますよね。
スタッフ:消せるって選択があるのと、映画館で観るのと違いますよね。
福永:だからね、フランス映画祭。行ったらいいと思います。
中井:それでは、今日は長い時間ありがとうございました。さよなら。
(会場拍手)
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