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第5回「はじめてのラピュタ」(全4記事)

「バルス」とはなんなのか? ラピュタに込められた裏のメッセージを読み解く

『天空の城ラピュタ』のラストシーンでシータとパズーが唱える破滅の呪文「バルス」とは何を意味しているのか。漫画家・山田玲司氏は、あれは宮崎駿氏による引退宣言だと語ります。また「空を飛ぶ」をキーワードに『天空の城ラピュタ』から『紅の豚』『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』にどうつながっていったのかを考察していきます。

ラピュタの「バルス」とは何か?

山田玲司氏(以下、山田):じゃあ、バルスとは何か? 俺、バルス何も知らなかったよ。

おっくん:バルスね。これをなんで「バルス」と言うことにしたのかっていう問題はないですか?

山田:ほかにも何かあったんじゃなかったかって?

おっくん:俺、これ、スバルだと思うんですよ。

山田:マジですか(笑)。わかんないけど、言って。

おっくん:これやめよう。絶対つまんないから。

山田:さらば、すばるよ? まさかの谷村新司? お前いくつなんだよ(笑)。

おっくん:ラスト谷村新司にオファーしたんだけど、断られて。で、バルスって逆にしたんじゃない? 最初「すばる」だった。

山田:新説。マジで? 本当はそれで終わりたかった? ガンダムの映画的な感じ?

おっくん:お後がよろしいようで(笑)。

「バルス」は宮崎駿氏の引退宣言

おっくん:で、バルスって何ですか?

山田:「全部終わり」ってやつだよ。「全部消えちゃえ」みたいな。

おっくん:うんうん。滅びの呪文。

山田:だから成仏ってことですよ。終わって飛んでいくじゃん。天に。だから、成仏させたって話になってるんだけど。宮崎さんのバルスってなんだろうなって思った時に、引退宣言でしょう。「もうやらね」って言った時に、彼のうしろで「バルス、バルス」って言ってた。ジブリがラピュタになってたんじゃないですかって話なんだ、これは。

おっくん:ラピュタを作ってたんだ!?

山田:そう。一生かけて。

おっくん:三鷹で!?

山田:ずっと描きながら、「めんどくせー、めんどくせー、バルス、バルス」って言いながら、「シータいない」みたいな感じだったわけよ。

おっくん:シータいないですね。

山田:そんな感じじゃなかったんじゃないかなと思って。

おっくん:(コメントにて)鈴木敏夫の根が(笑)。

山田:コメントにウケすぎだよ。

おっくん:みんなうまいよな。

山田:頭いいね。そう思うんだよね。

おっくん:なるほどね。鈴木敏夫の根が最終的に潰れちゃったっていう話なんですね。ジブリ。

山田:そうだったの? わかんないけど。でも、鈴木さんと最初に組んだのがこれなんだよね。ラピュタから始まって。

おっくん:ここからはじまるジブリが『風たちぬ』で飛行機でまた終わると。

シータが語った「土」が表すもの

山田:さあ、そこでですよ。『風たちぬ』ですよ。

おっくん:『風たちぬ』行きますか?

山田:いや、違うんですよ。根が助けてくれた2人はどうなる? 飛行機に乗るんだよ。飛行機が助けてくれるんだよ。「ワイヤーを張れば大丈夫」って言って脱出するんだけど。

このクラッシクな感じの飛行機、そして女と飛んでいるんだけど。これが宮崎さんのある種のゴール地点というか、この時の夢だったんだろうなと思う。空を飛びたいと思ってる少年が空を飛ぶ。

「土が大事なのよ」というのはイコール「現実が大事なのよ(裏声)」ということなんだよ。

おっくん:なんで、そのしゃべり方に?(笑)。誰なの、今の?

山田:現実というのが土なんだよ。『風と共に去りぬ』の最後にスカーレット・オハラが「タラの土がある」って言い出す。要するに、土なんだよ。あれは実生活。地に足ついた暮らし。

それこそが正義だと思ってるんだけど、ラピュタでは飛んだまま終わるわけですよ。そして、そのまま旅が始まる。ジブリの旅が。

おっくん・しみちゃん:ああ〜。

山田:っていう話。ジブリの物語のスタートですよって話。だから、プロローグとしてナウシカがぶっ飛んでるんだけど、あそこでは少年は飛んでないので。だから、パズーが飛ぶことによって、宮崎少年が。これは明らかに宮崎少年なんだよ。ちょっとやりすぎなんだけど。

だから、分裂した2つの、ロボットの宮崎君とパズーが頑張った話で、ここからスタートするという話。

おっくん:なるほどね〜。

山田:納得した?

おっくん:いや、今日すごいガッテンガッテンガッテン(笑)。

山田:ただ、まだあるの。

おっくん:まだある?(笑)

山田:そこから『風立ちぬ』をもう1回見てほしいの。『ラピュタ』を見たあとに風立ちぬを見ると、何があるかというと、飛びたかった宮﨑駿が飛べないんです。目が悪くて。

ついに出ましたここで。現実を受け入れた駿。そして、最初からゴーグル萌えというのは、ラピュタの時点からガンガンゴーグルにいくわけよ。それは『風たちぬ』でもゴーグルにいくわけなんだけど、本人は飛べない。

そして、はい、『紅の豚』。つながるでしょう?

おっくん:「飛べない豚はただの豚だ」。

山田:そうなんです。あいだにそれがはさんである。そして、団塊世代のアイドルのシータが始まり。

おっくん:吉永小百合。

山田:そして、もう1人いた、裏アイドルとして、おときさんですよ。

おっくん:加藤登紀子さん?

山田:それが豚に寄り添ってるわけですね。

おっくん:ジーナさんね。

飛べなくても生きろ

山田:あんなふうにして1個1個荷物を下ろしていくという歴史が、宮﨑駿の作家性というか人物史になってるわけだよね。そして、ポニョってもっとも原始的なところまで降りるわけよ。いったん赤ちゃんになっちゃうわけ。老人が1回行くところなんだよ。ニーチェもそう言ってたじゃん。最後、赤子に返るというやつ。

おっくん:ああ、赤子に返りますね。

山田:そうそう。それでポニョになっちゃったんだよ。だけど、そこで気づいたんだよ。「このままじゃ終わらせられないな」と思ったわけ。だけど「もう何描いたらいいんだよ」って話になったわけ。

そのあいだずっと連載してたものをふっと見返すと、本当に描きたかったものがそこにあったじゃないかというのが、『風立ちぬ』漫画版なわけよ。それがああいうかたちで結実していくというかたちで。飛べないというね。だけど、頭の中で飛んでるでしょう?

おっくん:うんうん。

山田:そして、イタリアの飛行船。飛行機出てくるね? イタリア、全部つながるよね。だから、頭の中では飛んでたんだけど、パっつって地上にいるというのは、アニメーターやってて描いてる時は飛んでるんだよ。パって見ると、「俺、飛んでない」。これが受け入れらなかったおじいちゃんが、ついに受け入れるという話なの。

おっくん:土にようやく。

山田:そう土に着くという話。そして、シータは現れなかった。死んでしまう。みたいな感じになるんだけど。地上に降りた次郎さんの恋人が亡くなるわけじゃん。それが一言残すわけじゃん。これですよ。

「生きて。飛べなくても」。あれ、ダメ?

しみちゃん:いやいや。

おっくん:今ね、だいぶぐっと来ましたよ。

しみちゃん・おっくん・山田:駿! 駿! 駿!

山田:ありがとう。ダメかな?(笑)。そうなんだよ。だから、「飛べなくても生きろよ」という話がありましたさ、という話なんだよ。今後どう考えても、日本はダメなんだよ。これはどう考えても。いろんな問題が山積していて、未来は明るくないかも知れないけれども、「生きて、忘れる」ですよ。

おっくん:忘れるの!?(笑)

山田:そういうことは、震災も大変だったし、原発もあるし、政府は変わらないし、パッとしないことばっかりだよ。情報だってひどいしさ。ちゃんとした情報流れないし。

でも、辛くて死ぬんじゃなくて、生きて、そして時に忘れる。そして、好きなことをやったらいいじゃんよ。それってなんだいって言ったら、俺にとっては飛行機作ることだったんだよねって言って、「白い坂道が〜♪」ですよ。

おっくん:ユーミンが出てくる。

山田:『ひこうき雲』なわけですよ。綺麗すぎる。

おっくん:なるほど。いや本当になるほどなるほどですよ、今日は。

しみちゃん:うん。本当になるほどですよ。

山田:いや、宮崎さんいいよね。なんてつって(笑)。俺が最悪だな。そんな感じでしたよ、本当に。ありがとうございました。

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