2024.10.10
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バンコクのTLASとLow Fat Art Festivalのご紹介(全1記事)
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ワスラット・ウナプロム氏(以下、レオン):今日はお越しいただきありがとうございます。バンコクのThong Lor Art Spaceから来ましたレオンです。私たちのスペースはバンコクの中心部、スカイトレイン・トンロー駅の近くにあります。
お話しするのは、アートスペースの役割と私たちの目標について。『Low Fat Art Festival』について。そして最後に、企画しているアーティスト・イン・レジデンスプログラムについての3つになります。
まず、Thong Lor Art Spaceについて簡単にご説明させていただきます。Thong Lor Art Spaceは、スポンサーからの援助を受けて運営されている民間のスペースで、その入口は表通りからはとてもわかりづらい、非常に秘密めいた場所にあります。建物の裏口からスペースに入る必要があるんです。
裏口階段の2階からエントランスに入ると、アート・ライブラリー&カフェになっています。1階は、Thong Lor Playhouseです。高い天井と64平方メートルの面積を有しており、約80の観客席を設置できます。この映像は、ソリストとピアニストのパフォーマンス「Cocktails the Musical」です。
3階には、黒幕で囲われた天井の低いスタジオルームがあり、私たちはこの場所を「新しいパフォーミング・アーツのための実験室」と呼んでいます。また小さなホワイトキューブの部屋もあり、ギャラリーとしても、サイトスペシフィックなパフォーマンスにも使用できます。屋上もあるのですが、ここでは廃墟のような空間を好むアーティストに実験的なことを企画してもらっています。
私たちの活動は、コラボレーションに焦点を当てています。Thong Lor Art Spaceでは、1年間に少なくとも12の企画が進行しているので、毎月なにかしらのイベントが開催されています。また、年に2回はアート・フェスティバルを開催しています。2017年には、2回目となる『Bangkok Queer Theatre Festival』と、最初にご紹介した『Low Fat Art Festival』を開催する予定です。
2015年の『Low Fat Art Festival』では、日本から2組、韓国、ミャンマー、フィリピンから1組のアーティストたちを招へいしました。そしてタイのアーティストを紹介し、それぞれとコラボレーションしながら作品を制作してもらいました。
『Low Fat Art Festival』は、演劇、舞台芸術、ビジュアルアート、ショートフィルムにフォーカスした約1か月間の芸術祭で、異なる国や文化のアーティストがコラボレートして、オリジナルパフォーマンス作品を制作するためにはじまりました。巨大なものより、コンパクトな作品を作ることに焦点を当てています。そのコンパクトさは、コミュニケーションとしても効果的で、アーティストとアーティストだけでなく、アーティストと観客、文化と文化の距離を近づけるメリットがあると思っています。
2016年は11月に開催されます。まだ公募を受け付けていますので、企画案を送っていただければ、コラボレーションできるタイのアーティストについて提案させていただきます。また、バンコクのアートシーンを活性化するような作品を制作するアーティストも招聘しています。Thong Lor Art Spaceは、低予算の小さなスペースですが、バンコク滞在の際は宿泊施設と制作スペースを提供しています。バンコクは物価が安いので、滞在制作をしてもそれほどお金はかからないと思います。
最後に、私たちのレジデンスプログラムについてご紹介させていただきます。2015年の『Low Fat Art Festival』から、アーティストの滞在制作プログラムをはじめました。
レジデンスアーティスト用に、3つの大きなベッドルーム、リハーサルができる大きなリビングルームと、喫煙できる庭があります。日本からは、ミクニヤナイハラプロジェクトが『Caesar's Strategic Loneliness』の制作で、2015年のレジデンスプログラムに参加しました。また、フィリピンからは、Daloy Dance Companyも参加しました。Daloy Dance Companyは振付師のEa Torrado氏が主宰する、インディペンデントのコンテンポラリー・ダンス・カンパニーです。彼らは、ダンス、演劇、パフォーマンス、即興など、枠組みを超えた表現にチャレンジしています。
参加者:2016年の『Low Fat Art Festival』の参加アーティストはいつまで募集していますか?
レオン:公募は5月31日に終了します。2016年の『Low Fat Art Festival』では、4から6の企画をキュレーションする予定です。昨年日本から参加してくれた演出家の矢野靖人は7人ほどのグループで、別のグループは5人で来ました。私たちは技術的なサポートも提供できますので、テクニカルスタッフを連れてくる必要はありません。
参加者:アート・フェスティバル以外の年間プログラムは、どのような方針で企画しているのでしょうか?
レオン:毎年、コメディーやクラシックなど、幅広い客層に向けた公演を企画しています。2016年は、『Boeing Boeing』というフランスの喜劇を元にした『Fly with me, Free breakfast!』という作品を上演する予定です。その他は、マルグリット・デュラス(フランスの小説家、脚本家、映画監督)の喜劇を元にした『An Epilogue to the Malady of Death』などの実験的な作品を、小さなスペースで行います。
子ども向けの演劇作品も上演しています。2015年8月には、人形と役者で演じた『The Little Prince(星の王子さま)』が大きな成功を収めました。同作品を、『TPAM』(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)でもいつか上演できるといいなと思っています。今年は朗読劇『Tik Tok of Oz』を上演する予定です。また、1か月間にわたる家族向けプログラムやワークショップも開催しています。昨年は影絵のワークショップを行い、子どもたちに舞台で実際に観せるための影絵人形を作ってもらいました。
その他、実験的な作品や、観客にとって新しいインスピレーションとなる短編映画も随時上映しています。私たちのスペースで上映したい映像作品がありましたら、ぜひお知らせください。
音楽ライブも企画しています。次のイベントは、3月24日から4月4日まで『Suk Ka Sak Ka Raj』を上演します。タイで人気のあるYui Cello氏は、演奏する10曲のために、イラストレーター、ダンサー、劇作家など、さまざまなアーティストに参加を依頼しました。イベントで、Yui Cello氏は、自分のストーリーと音楽についても話します。
参加者:『Bangkok Queer Theatre Festival』についても教えていただけますか?
レオン:『Bangkok Queer Theatre Festival』は、SUN Dance Theatreのプロデュースで2014年にはじめて開催された、LGBTコミュニティとタイの現代社会の多様性を祝うフェスティバルです。次回は2017年5月頃の開催を予定しています。Thong Lor Art Spaceは共同主催として参加しています。
私たちは2017年の開催に向けて、作品の企画制作を支援することができますし、またスペースの提供に加え、チケットの売り上げから歩合でお支払いもさせていただきます。『Bangkok Queer Theatre Festival』でも海外のアーティストを招へいすることに重きを置いていて、ヨーロッパやアメリカのアーティストと東アジアのアーティストに、バンコクで共同制作をしてもらいたいと考えています。アーティストのコラボレーションやネットワークの形成は、私たちにとって大きな目標です。
バンコクでの滞在制作や公演を実現するために助成プログラムを検討されている場合は、申請に際して必要な書類のサポートも行なっています。私たちは誰もが参加できるコミュニティ作りを目指しているのです。
バンコクのアートシーンは非常に活発で、フィジカルシアターカンパニーである「B-Floor」は世界中で活動しています。『TPAM』後に上野ストアハウスで開催される『ストアハウスコレクション タイ週間』で公演する「Democrazy Theatre」や、影絵を専門とする「Crescent Moon Theatre」もあります。
海外のコミュニティと仕事をしたいと考えているアーティストはたくさんいます。私たちは、バンコクと海外との架け橋になりたいと考えていて、来ていただいた方にバンコクのアートシーンを紹介できることを嬉しく思います。
参加者:タイにおける、パフォーマンスと検閲についてお話しいただけますか? 作品の上演にあたり、制限はあるのでしょうか?
レオン:2015年の『Low Fat Art Festival』では、韓国の劇団momggolとタイの「B-Floor」のコラボレーションで『Something Missing』という作品を上演しました。momggolは、人生で忘れがたい経験や思い出などを題材に、身体表現を追求している劇団です。彼らによると、バンコクとソウルの共通点として、その検閲の厳しさや関係者の失踪があげられるそうです。なにかを言おうとすれば口を封じられ、それでも言いたいことを言えば、消されてしまう。『Something Missing』は、ダンスやパフォーマンスを通じて検閲という問題を取り上げました。アートのフィルターを通して表現することで、それはより知的なものになります。私は常に「政府がアートを理解することはない」と言っています。
Thong Lor Art Spaceで最初に行った公演は、Ornanong Thaisriwongというアーティストによる『Bang-La-Merd』で、天井から1000枚のカミソリをぶら下げて、その下で椅子に座った少女がパフォーマンスを行うというものでした。誰かが反政府的な内容であると当局に密告したため、タイ軍の将軍が話し合いにやってきましたが、私たちはそれが反政府的なものではなく、また言論の権利と自由があるということを訴えました。結局事なきを得ましたが、その後、iPadを持った監視員が毎晩観に来るようになりました。でも、彼らは内容を理解していなかったようで、その後は何も起こりませんでした。
私たちは検閲の問題について議論を深めながら、皆の認識を高める必要があります。タイ政府はこれから先、さらに私たちをコントロールしようとするでしょう。彼らは、Facebook、LINEといったSNSを監視し、また、ネット上の会話内容を閲覧するためにFirewallを立ち上げています。反政府的な発言をした人は逮捕されてしまうかもしれません。バンコクには検閲があります。しかし、どこの国でも程度の差はあれど、検閲はあると思います。
そんな事情もあるので、面倒を起こさないように直接的に触れることなく、検閲をテーマにした作品を制作しています。しかし、問題となる可能性があるのは、政府を取り扱った場合だけです。ヌードなどその他の懸念事項であれば、入場を18歳以上に制限すれば問題ありません。バンコクではまだある程度の自由は約束されていますし、外国人に対しては、政府もそれほどシビアに受け止めないと思います。
最後に、国際交流基金アジアセンターの招へいにより2015年の『TPAM』に参加させていただいたことが刺激になって、『Low Fat Art Festival』を立ち上げることになりました。とても感謝しています。今日は参加していただき、本当にありがとうございました。
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