2024.10.10
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スタッフ:神奈川県の男性の方。先生の本、読みました。モニカ・ルインスキ事件に関してサンデルはクリントンを擁護しているように思えましたが、大統領執務室でエッチなことをしたクリントンに正義があるんでしょうか?
ひ:モニカ・ルインスキって秘書にクリントン元大統領がアーカンソーの知事時代に手を出したっていう話ですね。で、それはどうなんだと。
小:正義という言葉は使わないと思うんですけど、あの場合のサンデルの擁護論というのは、ニクソン大統領のウォーターゲートの場合は、公職の権力を濫用して自分にとって不都合な真実を覆い隠そうとしたと。それに対して、モニカ・ルインスキ事件の場合はあくまでもプライベートな事柄だと。だから大統領を失職させるような深刻なモラルの問題あるいは不正義ではないとこういう議論ですね。
ひ:職権を濫用したのはニクソンだけど、その職権濫用をしてセクハラをしたわけでもない、お互い合意のうえやっていたわけだと。じゃあ仮にそのモニカ・ルインスキの事件をもみ消すために政治的な力を使ったとしたらダメ?
小:ダメですね。あくまでもあれはプライベートな事柄。それをパブリックな深刻な問題にすべきじゃないと、こういうわけですね。
ひ:政治権力の濫用をしなければ、どんなあほなことやっててもいんじゃねっていうのがサンデル?
小:モラルの観点からみたら、良くないけれど、政治的な大統領の失職とかね、あるいは政治家の団塊とかいう問題とは分けて考えるべきだと。
ひ:ホワイトハウスに全裸の女性を40人並べていっつもウハウハしています。いや、これは5時過ぎたんでプライベートな事柄って言ったら、世界中からアメリカやベーって思われちゃうじゃないですか。それもありってことですか?
小:まさにね、道徳的に望ましくないと思う人が多くなるから、その大統領が次に当選できないとか、その大統領の支持率が落ちてくわけですよね。それは当然のこと起こるけれど、それを根拠に大統領弾劾すべきかっていう問題ですよね。
ひ:クリントン二期目になったら絶対次にいけないから、弾劾裁判ってないじゃないですか。だからそしたら二期目受かった途端に、全裸教イエーってやりだしたとしても、サンデルは、まー、仕方ないよっていう感じなんですか?
小:おそらく民主党が許さないと思うけれど、でもサンデルはそれを原因に大統領弾劾すべきだという考えは少し分けて考えるべきかな、と。
ひ:たとえのひどさで好評な僕ですけど。次の質問お願いします。
スタッフ:ちょっと事実関係わかんないんですが、鹿児島県の男性の方。上半身裸で芝刈りをしてもよいという州法が通りましたが、ひろゆきさんの考えと同じような手法で通過したんでしょうか。
ひ:僕の考えって何? 別に上半身裸でも、人に迷惑かけてなくて自分ちだったら好きにすればいいと思いますけど。
小:リベラル、リバタリアンはそういう議論になりますね。
ひ:ダメっていう法律があったんですか?
小:上半身は大丈夫じゃないかなあ。私もよくわからない。
ひ:変なの。ダメな理由が分かれば話になると思うんですけど、ダメな理由がいまいちわからないから、リベラルです。
男性:埼玉県の男性の方。山路徹さんの不倫については正義論的にどう考えればいいんでしょうか。
ひ:麻木久仁子さんと、大桃なんとかさんでしたっけ? なんか熟女に手を出したっていうジャーナリストの方ですけど。
小:これはプライベートの事柄ではないんですか?
ひ:プライベートなんで別に好きにすればよいと。
小:パブリックとプライベート分けるっていう話では、これはパブリックな事柄として扱われるべきことじゃないという論理になりますね。ただし、これ正義かというより善かどうかということですよね。それは善じゃないという人はたくさんいると思いますね。
ひ:あくまでプライベートであれば、不倫のようなモラル的にはどうなのっていうことでも別にOK?
小:確かに不倫が法律違反だという点から見れば、正義か論じることは出来ますね。だからこの善と関わった正義の問題として論じて、不正義だというそういう議論が成り立つと思いますね。
ひ:つまりジャーナリストであるっていうプライベート、パブリックの問題とは別に、不倫をしたということに対する、その不倫が善か悪かという。
小:これは結婚制度をどう考えるか。それに反する行為を取った場合は不正義だ、という考えであれば不倫は不正義だということになりますね。
ひ:そうするとジャーナリストなんだから、清く正しくあれみたいなところはない?
小:少なくともジャーナリストから追放すべきかどうかということになると、クエスチョンかなと。
ひ:ジャーナリストとか芸人とか、おかしいやつの方が優秀ですからね。
小:それは知りません。
スタッフ:次の質問です。山梨県の男性の方。経済学者が社会を語るとき成長の話ばかりで哲学がありませんが、先生はどう思いますか?
小:確かに経済学において哲学はあまりない。そこで経済にも哲学が必要じゃないかという議論を政治哲学ないし経済哲学の方からは提起しています。
ひ:でも経済学自体は単なる数式をこねくり回すもので、そこに心の概念はなくて、出来た理論をどうやって使うかっていう政治の問題ですよね。
小:確かに現在の主流派経済学はそうなってるわけですね。ケインジアン経済学というのは有効需要をある意味精査監視調節することによって景気を回復させようとしますけど、そのお金をどう使うかという議論はないわけですね。だからこの意味ではサンデルも戦後均一経済学が処理したということがリベラリズムが処理したことの典型的な現れだという風に議論しています。
これに対してですね、バブル期の批判として、フロー所得の問題とか企業買収の問題とかそういったものがですね、経済的には許されているけれども、道徳的には良くなかったんじゃないか。あるいはそういうことを許してることが経済の破たんにつながったんじゃないかっていう議論もあるわけですね。
ひ:つまりホリエモンがフジテレビを買うなんてもってのほかであるっていうことなんですね?
小:そう議論すると今度は経済の中に稟議、道徳を持ち込んでいる、あるいは哲学を持ち込んでいることになるわけだから、経済哲学の場合にはそういう考え方が大事だ!とこういう主張がありますね。
ひ:日本はわりと経済にモラルを考慮してますよね。
小:もともと日本的経営という中に、伝統的儒教とかさまざまな道徳の影響をもって経営者はこうあるべきだという家訓なんかある場合がありますけど、これは今日の主流派経済学と違って、経済の中に倫理や精神性を求める考え方ですね。
ひ:トヨタが派遣切りをしたときも、あれは別に派遣契約なんていつだって切ってってなってんだから切ればいいじゃんって話なんですけど、なぜかよくないみたいな論争になってましたけど。
小:日本型経営の長所はある程度倫理や道徳を考えた経営をしてたから、発展したんだと。なぜならば信頼というのはとっても政治や経済に大事だからだと。こういう議論も非常に有力ですね。コミュニタリアンの議論はそちらの方に近いと思います。
ひ:じゃあわりと日本がそういうのを意識した経営をしてる確率が他の国より多いんじゃないかと。
小:典型的なアメリカ型経営よりいい面もあったかもしれないということになりますね。
スタッフ:ちょっともう時間もないので最後の質問です。最近国会で出てくる新しい公共とはどういう意味なのでしょうか。
小:これはですね、サンデルを始め、我々公共哲学という考え方の一番軸に関わる問題で、日本の公共哲学ではですね、公と公共を分けて考えるんですけど。
ひ:おおやけの公と公共は違うんですか?
小:そうなんです。というのは日本語ではしばしば同じ意味で使われることもあるけれど、公というのは昔おおやけから始まってご厚誼とか公家とかいう風に国家とか権力とか天皇制と関わることで使われているわけだから、官僚制や国家と密接な関係にあるのが公だと。これに対して、人々が水平的に連帯して意思決定をしていく、これがパブリック公共だと。
ひ:市民がみんなで集まって、1,000人で決めたんだから重要な意見ですよっていうのが公共。天皇が決めただけでーすっていうので、一人が決めたんですけどそれが正しいっていうのが公。
小:そうです。最近の日本の政治ではですね、古い公共と新しい公共というふうにその二つを言っているという風に思いますね。
ひ:新しい公共っていうのは?
小:国家や政府が決めるのではなく、人々が決めていく。さらに決めるだけでなくてNPO、NGOのように行動していくわけですね。だから国家に命令されてやってるわけではなくて、人々が自発的に行動してる団体のその行動が公共的な意味を持つと。それが新しい公共だと。
ひ:それは今わりと進んでいるんですか?
小:阪神淡路大震災以降ですね、ボランティア活動などが注目されて、NPOやNGOが大事だという話になってNPO方が出来ましたし、今寄付全盛の問題として新しい公共を活性化しようとしてるところですね。
ひ:でもそこは国がしっかりやってたら、NPO団体とか必要ないじゃないですか。
小:昔の福祉国家論の場合には国が福祉がやるという発想だったけれど、財政の問題もあって全部国に頼れないという状況になって、人々が自発的にすることによって公共を実現していくというそういう考え方が重要になってきたんですね。
ひ:福祉国家というか、福祉社会を作る上で、実は国自体はものすごく小さい政府にしても、民間の人たちがお金を持ってて民間の人たちが公共を賄えるのであれば、国家だからといってでかい国家にする必要は無いと。
小:おっきな国家のことを福祉国家と言うことが多いので、福祉社会と言ったりすることがありますけど、財政的な問題があってある程度以上国が大きくなれない、という時にはその分はやっぱり市民が補っていくべきだと。ただし理論としてはその論理をあまり徹底してしまうと、どんどんどんどん国が福祉をやらなくなって、みんな君たち自分たちでやりなさいとリバタリアンの考えに近づいていってしまうので、新しい公共というのはですね、必ずしも国家がすべきでないということは証しないんですが、国が出来ないところは市民がするっていう発想はありますね。
ひ:国家的には、市民がやってくれるから超ラクチンみたいな感じで国の人的には運営楽じゃないですか。ほっといたら文句言われるほど民間が勝手にやって問題を解決してくれるから超ありがたいみたいな。
小:それをするためには市民の方がそれができるようなエネルギーとか美徳とか、あるいはそれが出来る財政的根拠ですよね。これが必要になるので、国家もそれに配慮した政策をとっていくことが必要になってくる。
ひ:美徳が重要だとするとみんなわりと周りの人を助けましょうみたいな。笹川財団みたいな感じですね。
小:これはどういう行為でどういう風に助けましょうっていう問題にかかってきますけどね。助けましょうってこという点では確かにそういう点があります。
ひ:最近流行ってる伊達直人さんも。
小:あれは確かにコミュニタリアンの美徳や善のような考え方に近い心の状態が現れてると思いますね。
ひ:ということで、最後なんですか? 結局僕は自分で考えなくてもリベラルですっていってたらだいたいその通りに行けるっていうことが分かりました。いかがでした、先生。
小:とても面白い対談になったかなっていう感じがするんですけど、これをきっかけにサンデル自身の本とかテレビとか見てより深い内容を理解してくれればうれしいなと思います。
ひ:ちなみになんでサンデルさんそんなに好きになったんですか?
小:私は先ほど言ったような共和主義とかコミュニタリズムを研究していて、それが日本に導入されるべきだと思って、サンデルの本を翻訳したり、協力して思想を発展させようとしていたんですね。
ひ:日本に導入されるべきだと思ったんですね?
小:そうです。政治哲学がないところからして、政治哲学を導入しようと思いましたし、さらに権利や法律だけじゃなくて政治が大事だと思ってますので、その意味でやはりサンデル的なコミュニタリアンが大事だと思ったんですね。
ひ:コミュニタリアンが増えるようにするにはそういう教育で増やしていった方がいいやと。
小:その教育も上から押し付けたらいけないので、対話型の教育で自分で考えて善や道徳そういうものを意識しながら行動するっていう考え方が伸びていってほしいなと。
ひ:道を変えたら政治家にも出来ません?
小:政治家にもそういう原理を体得した、あるいはそれを訴える政治家が現れてほしいと思ってます。
ひ:ではわりと日本の社会を憂いている感じなんですね。
小:仰る通りだと思いますね。
ひ:学者ってなんか自分の好きな学問だけ研究してればいいやっていう人多いじゃないですか。
小:公共哲学の場合はですね、社会に意義のある、その意味で実践的な意味のある学問をこれから作っていって学問自体を変革していこうということを目的にしています。
ひ:そう考えると政治哲学という分野は他の学問とは変わったところがあるなあと。
小:その場は規範論といいますけど、こうあるべきだっていう議論をしっかり議論して、世界に訴えていきたいとそういう気持ちが強いんですね。
ひ:アンケート二ついきます。「ちなみに千葉大の学生って反応どうですか?」
小:やっぱりですね、この日本全体のサンデルブームと相まって非常に盛り上がってきてますよ。面白いと思ったのは、はじめ日本でああいう対話型講義ができるかっていうことがかなり論じられて、千葉大で前期やったところ、非常に活発に教室白熱したと。で、NHKが『白熱教室 in japan』として収録として来たら、カメラが来るとき途端に学生が減ってってですね、実は今テレビで出ている『白熱教室 in japan』の私の教室はすごく普段よりも少ないんですよ。で、カメラの収録が終わったらまたばっと増えて。120になる。
ひ:みんなそんなカメラの前出んの嫌なんですか?
小:初めはね、学生さん発言することが怖かった。で、だんだん議論して慣れてきて発言するようになった。カメラが入ると今度は日本中に放送されるから、これは嫌だってことで減ってしまった。で、いなくなるとまたわっと増えるっていう。
ひ:みんな仮面とかマスクとかつければいいのに。
小:そういう考え方もなかにはいました。そうすればよかったと。
ひ:やっぱり恥ずかしいんだ。
小:やはりそれはあるようですね。
ひ:逆に大学生じゃなくても出来るっちゃできるんですか?
小:私は一般の市民向けに『白熱教室』をやったことがあります。それもそれで盛り上がりますよ。
ひ:はい。「ウィキリークス海上保安庁の映像流出についてその行為は正義か否か」。これまた曖昧な。
小:これ実は今度の日曜日に放送される『白熱教室 in japan』で取り上げたテーマですね。
ひ:千葉大学の人たちも。結果を見てからちょっと。
小:議論しました。まさにウィキリークスの支持者は正義だと言っています。
ひ:(結果を見ながら)おお~! 8割が正義なんだ。
小:正義派多いですね。
ひ:千葉大学はどうだったんですか?
小:これはですね。正義派もかなり多かったけど、不正義の人もいたっていうそういう状況ですね。ちなみに先ほどの立場と関連させていくと、極端なアナーキズム国家いらないとかですね。リバタリアンの場合は、正義と考える可能性が高いかなと。それに対して、コミュニタリアンの場合はやっぱり一定のルールとかモラルとか必要だと考えるので正義と言わない可能性が高いかなと思いますね。サンデル自身も必ずしも正義とは言いません。
ひ:これ要はコミュニティというか、国をみんなで運営しようよねって言って、国としてこういうルールは守ろうね、こういう秘密は守ろうねって言ってるのを、知るかボケーってばらまいてるのと一緒ですよね。
小:そうです。
ひ:こう考えると、公共とか国が大事だよねって考える人から見ればあれは悪なわけですよね。
小:だからコミュニティのルールっていうのを重視する人はやっぱり不正義だと。それに対してリバタリアンの場合は国家を最小限にしよう、なるべく自由を尊重しようっていうから、あれをよしとする人が結構多いだろうと。でも、リバタリアンだって、国家の法律いらないっていうわけじゃないから、リバタリアンでも不正義っていう人はいると思うけど、アナーキストとなると、国家そのものが悪だと思ってるから、あれは正義、OKということになりますね。
ひ:千石さんが正義だからその反対が不正義っていう考え方もあるみたいですよね。
小:それはまた少し別の問題ですよね。
ひ:「2ちゃんねるは正義がどうか?」 これまためんどくさい質問来ましたね。これ別に千葉大でやった問題じゃないですよね。
小:これはやっていません。今日は改めて。でもウィキリークスの議論が今、世界的に議論されているので、考えたら哲学的に面白いかなと。
ひ:(結果を見ながら)分かれましたね~! ウィキリークスは8割だけど、2ちゃんねるとなると3割下がると。
小:これはわかるような気がします。
ひ:本質的には変わらないと思いますけどね。人は自由に情報をばらまいて。そうすると色んなトラブルが発生するよねっていうのと。逆にそのウィキリークスと2ちゃんねるの違いを何と捉えているのかっていうの気になりますけどね。
小:ひろゆきさんは正義?
ひ:僕ウィキリークスを正義と不正義で判断してないんですよね。あれは正義の情報と不正義の情報が混じる媒体であって、純粋にどっちかっていうのじゃないじゃないですか。と思ってるんですよ。
小:じゃあ2ちゃんねるは?
ひ:2ちゃんねるも同じで、役に立つものもあるし、役に立たないものもあるよねっていう話で、別になんかそれ自体をどうのっていうのは僕の中で答えを持ってなかったりするんですけど。
小:なるほどなるほど。
ひ:小林先生どうですか?
小:ウィキリークスに関しては、私はやはりリバータリアン的な発想が強いなと思うので、全面的に正義とは言えないなと。もちろんですね、内部告発で公共善のために告発するっていう行為は、法律違反でも正義の場合があると思ってます。だからウィキリークスの場合、たとえばアメリカのイラクにOKる不正行為を暴露するための、その部分については正義と言える部分もあると思うんだけど、全面的に何も考えずこう送ったとちょっとリバタリアン的で、私はリバタリアン的な正義は支持しないので、その点は支持しないかな。
ひ:じゃあ僕と一緒じゃないですか。
小:はい。だと思います。
ひ:というわけで長くお送りしてきましたけれども、おいらと「正義」の話をしよう。内容やっぱり政治哲学なんで、結構大変なところありますけど、読み終わると頭がよくなった気になります。サンデル先生の哲学、小林さんの書いた本なんで。『これからの「正義」の話をしよう』。940円。出版社が平凡社。これ書くのも結構時間かかりますよね。
小:もともと講義を書き終えてテープ起こしをしたものを、手を入れて本にしたので、非常に短い期間で本にしています。
ひ:じゃあなんか本のこういうところがいいです、とか読んでほしいです、みたいなのが最後にあれば。
小:白熱教室のファンから見ればですね、そのエッセンスを理解できるとともに、彼が語らない全体図が分かるという風に思っています。それから学問的な意味もあると思うので、是非買ってみて読んでみてください。
ひ:というわけで、お送りしました! ありがとうございました。
小:ありがとうございました。
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