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「フェチだから後ろめたいわけではない」 菊地成孔氏が語るフェティッシュと表現の現在

「水中ニーソ」で知られるデザイナー・映像作家の古賀学氏が中野・Bar Zingaroで毎月開催しているトークショー「月刊水中ニーソ」。2015年8月に開催されたイベントでは、古賀氏とは「水中フェチのオフ会」で出会ったという音楽家・文筆家・音楽講師の菊地成孔氏がゲストに登場。このパートでは、今後のフェティシズムの展開や、社会での需要のされ方について語られました。

アーティスト Mr.とのトークがやりたい

本橋康治氏(以下、本橋):……ではそろそろ。時間がまたオーバーしてしまいまして、申し訳ございません。

菊地成孔氏(以下、菊地):酷暑の中、こんなにお集まりいただき感謝します。

古賀学氏(以下、古賀):次回以降のトークゲストは未定です。未定というか、制作で僕が死んでるので。

本橋:今はそれどころではないということですよね。

古賀:でも、Mr.はやりたいですよね。海外で評価されているクリエイターと水中ニーソ。

本橋:シーズン3もありますし。

古賀:シーズン3もやります。明後日には僕は上海に高飛びするのですけど、同時に「ねこ休み」展が始まります。これ、僕在廊できないんですよね(笑)。帰ってきたら水中ニーソキューブの仕込みに入るので。

菊地:「設営」って書いてあるもんね。「帰国」「設営」って(笑)。

古賀:死ななきゃいいなぁって感じですね(笑)。『水中ニーソキューブ』は、さっき試写をやった写真集が出て、写真展もやります。普通のサイズの写真だけで150点超えで、おまけみたいな作品を入れると200点超えの展示になると思います。そっちはできるだけ在廊したいなと。

写真集も一部店舗とかAmazonですぐに買えるようになるんですけど、原宿に来ればどこよりも早く売っています。

地方の人はごめんなさいですけど、とりあえず原宿に来れる人は、Amazonとかにアップされるのを待つより、原宿に来ちゃったほうが早いよという感じです。

水中ニーソキューブ

本橋:あとはさっき言ってたシークエンス丸ごと泣く泣くカットした部分とかが見れたり、他にもいろいろあるかもしれないということですね。

古賀:それと、さっきのねこ写真集みたいな小さい写真集は作っていておもしろいので、本当に紙の「月刊水中ニーソ」になるのかな、みたいな(笑)。

本橋:お楽しみの部分もありつつ。

古賀:いろいろ未定です。未定というか、来週の展示が本当にできるのかと。

本橋:帰国から設営の間が2日しかないのがすごいですよね。

女性が能動的になってきている

古賀:上海でできるだけ疲れないようにって思うけど、これフェスでしょう? 上海ってめちゃくちゃ暑いらしいじゃないですか。東京どころじゃない。

菊地:らしいですね。空気もめちゃくちゃ悪いですよね。

古賀:なるべくあてられないようにして、帰ってきます。

菊地:絶対「中華人民共和国疲れ」すると思いますよ(笑)。

古賀:疲れないのはありえないですね。

菊地:中国に行って疲れないことは絶対ないですよ。今、銀座と新宿のデパートの店員が全員中国人疲れしてますからね(笑)。トイレの掃除と接客で。

マーケットがどうなるかは本当に興味はあります。ボーダーが切れて、女性がドンドンと入ってくるっていうことですよね。

本橋:去年のトークイベントから今までの間で、ずいぶん女性が能動的に参加するようになってきてますよね。

菊地:そうですね。自分でコスプレの衣装を作って自分で写真撮るのは当たり前のことだから、水っていうところだけが今は壁になっていて、選ばれた人たちだけになっているけど、水さえクリアできれば、どんどん入ってくるはずですよね。

古賀:あとは、Mr.みたいに自撮りすればね。

フェチだから後ろめたいということではない

菊地:そうそう。いや本当、52歳の感慨としては、マーケットが大きくなってほしいですけどね。

古賀:大きくなると良いと思うんですけど。

菊地:フェチは、大きくなりかけて潰れちゃうのばっかり、もう何十年も見てきたから。もうこの際、オーバーグラウンドになりすぎて俺が感じない世界まで行っちゃってもいいから、デカくなってくれという気持ちでいっぱいですね。

古賀:出発点がフェチだったというだけで。

菊地:そうですね。

本橋:それは今、他のフェチのジャンルにも起っていることかもしれないですよね。さっきのラバーフェティッシュなんかも、そうなりつつあるし。

古賀:緊縛とかも、今ポップになってますもんね。

菊地:緊縛はポップですよ。FKA twigsっていう、「ブラックビョーク」と言われるUKのブラックのシンガーで、一番先鋭的なアートとR&Bを混ぜている人のPVはフェチの塊です。全曲フェチですよね。ものすごい緊縛。

もともとバレリーナなんですけど、ものすごい緊縛のがありますよ。それこそ水中ですけど、タールみたいなもので沈んだり出たりしているのもあったりして。水銀みたいなやつ。あれもヤバい。

古賀:フェチの本質からずれてても、オーバーグラウンドのものがバンバン出てる。

菊地:あれはフェチの力を、完全にフェティッシュに利用しちゃってると思いますけど、音楽が素晴らしくて興奮するということと、映像の素晴らしさで興奮することで、フェチだから後ろめたいということではないんですよね。

ラバーのコスチュームは映画観の暗さに合わない

本橋:逆に、フェティッシュのコアな人たちだけのコミュニティーだけで成り立つ社会でもなくなっている? 開かれざるを得ないというか。

菊地:そうなの。後ろめたさがなくなっちゃったからですよね。

古賀:そっか。水中だけじゃなくて、全部そういう方向に向かっていくんでしょうね。

菊地:さすがに「SMクラブで女王様に鞭で打たれる」というのは、まだポップじゃないですよね。そのことを実践しているクリエイターがそれやろうとしたのが『R100』ですよね。まだ『R100』は全然途上の映画なんで。完成形じゃないですね。

本橋:完全なやつが来るかもしれないですね。

菊地:来るかもしれない。その前に『トパーズ』があって、これも全然完成してないどころかぶっ壊れてるみたいな映画なんですが、その20年後くらいに『R100』が出てきて、どうなるかと思ったけど、やっぱりダメでしたね。映画フィルムを映画館で見るのと、ラバーは合わないんですよ。暗さが。

古賀:映像じゃダメなんですか。

菊地:ダメ。死屍累々。『キューティーハニー』とか『キャッツアイ』とか、全部ダメ。だけどスパンデックスだったら合うんですよ。本当に時間もないのでスピンしちゃいけないですけど、松本人志さんはそのことをよくわかっていて、女王様のラバーのコスチュームが映画だと別に興奮しない、嫌な気分になるんだってことを知っての上で、不快感を表現しようと思って『R100』を撮ってるところがちょっとあって、そこはさすがだな、クレバーだなと思ったんだけど、それ以上はないですね。

今、SMは血液型や学歴と同じ

菊地:今SMは総論になっちゃって、他のものが各論になっちゃってる。SMは総論で、性別とか学歴と同じになっちゃってるんですよ。普通の人が居酒屋で「M?」「どっちかっていうとSかな」とか言っちゃって。

あんなもん、昔はド変態だったのに(笑)。知らない初対面の人にそんなこと聞けなかったんだけど、今は地上化して、SMはもう総論になった。

古賀:血液型と同じですね。

菊地:血液型と同じ。国籍とか、大学の専攻は何かとかという話と同じで、IDになっちゃった。そうすると後のものは全部各論化するわけで、『R100』は総論と各論が戦っていて、総論はもう興奮しないんだけど、各論の方は興奮する。

興奮するということはグロテスクと紙一重なんだという点は、古い世代だとまだ残ってる。松本人志さんって私と同い年ですけど。古賀さんが新しい世代なのは、グロテスクじゃないし、汚れてないから。

「汚れていないから女性が入ってくる」という言い方も性差別ですけど、とはいえ入ってきてるなと思いますよね。とにかく、なにはともあれ「頑張ってください」ということですよね。

(会場笑)

古賀:ありがとうございます。

水中ニーソキューブ

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